YOASOBIのライブと映像演出の変遷

2021年の初のオンライン配信ライブから始まり、屋外フェス、海外ツアーまで、4年間で数え切れないほどのライブが開催された。その映像演出は会場、コンセプト、楽曲によって多岐にわたるが、ここでは一部を紹介する。


YOASOBI 1st ONLINE LIVE “KEEP OUT THEATER”

新宿・ミラノ座跡地で行なった初の配信ワンマンライブ。工事現場のエレベーターや壁のないフロアから見える夜景が臨場感を伝える。




NICE TO MEET YOU

日本武道館で開催した初の有観客ライブ。コロナ禍で観客人数に制限があったこともあり、アリーナ床面全体を巨大なLEDとして使用した。




ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2022

各所に相談して自前の大型LEDを持ち込んだ。一段高くなったステージ側面にもLEDがあり、背後のLEDは両脇を動かして開閉できる。




YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火” 

2枚のLEDを頭上に吊り、曲に合わせて変形・移動させるという大がかりな装置を実現。ツアー中も更新して見やすさを改善していった。




YOASOBI ZEPP TOUR 2024 “POP OUT” SEVENTEEN

背後のLEDに曲に合わせて点滅する電飾風の映像を使用。オープニングで電飾の模様ができ上がり、黒を活かしながら光の輝きで演出する。




YOASOBI ZEPP TOUR 2024 “POP OUT” HEART BEAT

この曲は観客に一緒に歌ってもらいたいということで、シンプルな歌詞を表示した。読みやすさ優先で通常より文字を少し早く出している。







「アイドル」演出アップデートの裏側

数ある楽曲の中でも、アニメ『【推しの子】』の第1期 オープニング主題歌である「アイドル」は、2023年のいくつものライブを通して映像演出が少しずつアップデートされていった。どのような流れがあり、何が追加されていったのかを時系列に沿って見ていこう。


YOASOBI ARENA TOUR 2023 “電光石火”(2023年4月〜6月)



曲の前半では頭上と床側面のLEDにノイズやブロックで構成された抽象的なイメージを表示。



後半の盛り上がりに合わせて手描きアニメが加わる。




LEDの形状

頭上にボックス状のLEDが2枚吊るされ、上下したり傾いたりする。ステージの周囲もLEDで囲んである。




制作イメージ

初期段階ではサイリウムやハートなども連想したが、抽象的な画を照明のように使い、アンコール曲にふさわしい圧倒的な光のパワーを見せることに。




追加素材

ZECIN氏の手描きアニメ素材を曲の後半に入れ、弾けるような派手なフィナーレ感を演出した。




抽象的な映像を照明のように使う

平山 「アイドル」がライブで初演奏されたのは2023年の”電光石火”ツアーからですが、4月5日のツアー初日にはまだアニメ放送は始まっておらず、曲もリリースされていませんでした。なので、アニメのストーリーを感じさせる道具ではなく、あくまで電飾的に、ライブを盛り上げる補助的な役割として映像を作ることにしました。

江藤 このステージはLEDを傾けて頭上から演者を照らすような形にできるので、これを活かして照明として使ってはどうだろうと。それならばノイズやブロックのような、抽象的なイメージのほうが適していると考えました。



手描きアニメ素材で弾けるパワーを表現

江藤 また、制作の途中で手描きアニメ素材も追加しました。まだ『【推しの子】』というアニメのイメージが定着していない中で、アニメの画をそのまま出すのではない形で作品の世界観を伝えられないかと思ったんです。

平山 そこで、同ツアーのOPや『祝福』『セブンティーン』などのライブ映像を担当したZECINさんというクリエイターに相談し、光や星、何かが弾けるような感じの手描きアニメーションを描いてもらいました。

江藤 『【推しの子】』は登場人物の瞳に星が光る描写があるのですが、その物語のエッセンスを汲みつつ、アンコール曲にふさわしい躍動感と、アニメ・漫画らしい雰囲気を加えることができたと思っています。






Head In The Clouds Los Angeles(2023年8月)

©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会



LEDの形状

ステージの後ろに縦長のLEDが3枚連なっている。この3枚を1枚として大きく使ったり、1枚ずつ分けて別の映像を映したりと、使い分けを考えた。左右はステージを映すカメラ映像。




追加素材1

この時期にはもうアニメ『【推しの子】』が世界的に認知されていたため、これまでの映像にアニメの素材を追加することにした。アイが中心で、ルビーやアクアの絵は登場しない。

©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会




追加素材2

ZECIN氏による手描き素材とアニメーション素材をさらに追加。ルビーとアクアをイメージしたシーンが加わり、演出の調整と共に過去のライブではLEDがオフだった部分にも映像が追加され、完成形に近づいていった。




アニメのアイの絵を効果的に入れ込んだ

平山 次に「アイドル」を披露する舞台になったのが、同年の8月にアメリカのロサンゼルスで開催されたHead In The Cloudsという音楽フェスです。

ここのステージは後ろに3枚のLEDが連なっているのですが、これをどう使おうかと考えていた時に、Ayaseさんから「やっぱりアイの絵があった方がいいよね」という意見をもらったんです。海外の公演でもアニメの絵が使われたMVは観たことがあるお客さんが多いだろうと想定すると、アイのビジュアルを出したほうがアピールになるんじゃないかと。それですぐ許可をもらい、MVの完パケから切り出して追加することにしました。

ただ、MVの素材をそのまま見せるのではなく、ルビーとアクアは出さずにアイひとりをどれだけ印象的に見せられるかに注力し、後半の盛り上がりまではチラ見せ程度に抑えるなど、構成にも工夫を凝らしました。また、MVの歌詞もこれまでのライブ映像で使っていたリリックとミックスして使っています。あくまで元々あるものにプラスして使うという感じですね。

江藤 アニメの絵を使うということで、あまりノイズをかかけないようにとか、顔が見えにくくならないようになどの使用上の制約があるかと思っていたのですが、そういうことはあまりなく、僕たちが音楽的に良いと思うものを自由に作らせてもらえたのがすごく嬉しかったです。また、アニメの絵が持つ力も実感しました。サビの前にアイの顔が一瞬大きく映った瞬間、歓声が上がるんです。絵を使わせてもらえて良かったなと思いました。



昼なので照明を補完するイメージも追加

平山 ここでは手描き素材とアニメーション素材もさらに追加しています。”電光石火”ではブルーとピンクの照明でアクアとルビーのイメージを作っていたのですが、このフェスは照明がほぼ効かない昼間から夕方の屋外開催だったため、代わりにLEDの映像に瞳の中の星を思わせるアニメーションを追加することになりました。






高橋李依さん”歌ってみた”バージョン(2023年12月) ※公開は2024年2月

映像に入れ込むアニメ素材は、これまでのライブよりもアイ視点の物語を感じさせるように構成した。


制作イメージ

左右と背面、床の4面にLEDが常設されたスタジオでの撮影。全面にアニメの絵を出すのではなく、2面ずつ出す、後ろ1面だけ出す、壁を使っている時は床を使わないなど微妙なさじ加減を探った。

©赤坂アカ×横槍メンゴ/集英社・【推しの子】製作委員会




制作イメージ

撮影中、高橋さんから最後に「アイドル」のジャケットと同じ、後ろを向いて人差し指で上を指すポーズをやりたいと提案があり、彼女を囲むサイリウムの画を急遽現場で作成して撮影した。ラストを飾る印象的なカットに仕上がり、動画のサムネイルにも採用された。




「アイ本人が歌っている」映像に見せる

平山 アニメ『【推しの子】』でアイ役を担当する高橋李依さんが「アイドル」をカバーしたMVを作ることになり、その演出を僕がやることになったものです。せっかく自分でやるなら実際のライブで使われた演出を盛り込むと面白いのではと考えて企画を練りました。

基本的には、これまでのライブ用素材も入れてライブのイメージは引き継ぎつつ、アニメのOPや劇中の印象的なシーンをプラスして、印象には残したいけれど見せすぎない程度に、アニメのストーリーに沿うように再構成するという方針です。今回は高橋さんが歌うということで、アイ視点のストーリーを感じるような場面を抽出しました。

江藤 ライブと特に違うのは、ルビーとアクアの絵も出てきているところでしょうか。4面のLEDに囲まれた特殊なスタジオでの撮影でしたが、スタジオという空間でLEDをどう使い、どのように映像を演出するかもライブに通じる腕の見せどころだと思います。

平山 また、高橋さんの目指すイメージとして、「アイそのものが歌っている」という前提を崩さず、アニメファンの方に喜んでもらえるような映像にしたいという理想がありました。そのため、あえて高橋さんのお顔がはっきりと見えないような形で撮影する方法を選んでいます。

江藤 さらに、手前に紗幕を作ってそこに映像を投影し、背面のLEDと映像で挟み込むような形にすることで、歌い手の姿をぼかして見せるという演出もしています。

平山 動画に寄せられたコメントを見ると、アニメのファンの方々にもコンセプトを理解して評価していただけたのかなと感じています。

また、この年末にはNHK紅白歌合戦で多数のアイドルが参加するコラボステージが放送されることになり、そこで流す映像も制作しました。2023年は1年を通して様々な場所で「アイドル」が披露されましたが、その集大成となるようなステージになったと思います。






ライブ映像演出の展望と魅力

今後の鍵はカメラ演出の進化とXR表現

江藤 今後の展望というか、ライブ映像演出がどのように変わっていくだろうと考えると、まず挙げられるのは「カメラ演出の進化」だと思います。コロナ以降はオンライン配信ライブも増え、ただのサービス(会場でステージ横のスクリーンなどに表示される、ライブの模様をカメラで捉えた映像)としてのカメラ映像ではなく、ステージに溶け込み、より一体感を得られるようなカメラ演出が模索されるようになりました。最近ではカメラ映像にリアルタイムでエフェクトをかけるなど、あえてプリレンダー映像ではできない表現を選ぶことでライブならではの感動を引き出そうという方法もあります。どのようなカメラ演出の工夫でライブ感を出していくかが今後の課題ですね。

もうひとつ挙げられるのは「XR表現」です。初音ミクなどもそうですが、技術の進化によりキャラクターが現実世界に存在しているように見せる演出や表現が可能になりました。逆にカメラ映像にバーチャルステージを重ねて、実在するアーティストに様々な仮想の世界で歌わせることもできるようになります。こういったXR技術によってもライブ映像演出の幅はさらに広がっていくと思います。



ライブ映像演出の面白さとは

平山 ライブ映像を作っていて面白いのはやはり、お客さんの反応を現場でダイレクトに受け取れるところだと思います。あと、僕はステージを撮影して最終的にライブ収録映像として仕上げるところまでやっているので、映像演出に合わせてこのアングルで撮ろうとか、コンテンツの見せたい部分まで自分で考えながら見せられるのが楽しいですね。

江藤 僕は単純にYOASOBIの曲が好きなので、その映像を作れること自体がすごく楽しく幸せなことだと思っているんです。平山さんも言っていたように、ライブの一番の魅力は、自分が作った映像にお客さんが驚いたり歓声を上げてくれたりするところにあると感じています。目の前で直に反応を見られるというのは、他の映像では得られない経験です。だからスケジュールがタイトだったりしても、この感動を体験すると、またやりたいと思い、やめられなくなってしまう、そういう魅力的な仕事だと感じています。皆さんがライブを観ている時にも、そんなことを思い出してライブ映像演出に興味を持ってもらえたら嬉しいです。



YOASOBI 5th ANNIVERSARY DOME LIVE 2024 “超現実”

YOASOBI初のドームライブが10月、11月に東京と大阪で開催される。

2024年

10月26日(土)京セラドーム大阪

10月27日(日)京セラドーム大阪

11月9日(土)東京ドーム

11月10日(日)東京ドーム