映画制作から経歴をスタートし、ビデオグラファー的なスタイルも経験しながら、2023年、社会課題に関する映画作品を製作/運用するNPO法人ブラックスターレーベルを立ち上げ、映画『Dance with the Issue:電力とわたしたちのダイアローグ』を公開した、株式会社イグジットフィルム(EXIT FILM)代表の田村祥宏さんに、映像作品は今後、社会の中でどのように活用できるのか、我々映像クリエイターにとって、サステナブルな映像制作活動をしていくためにヒントになるお話を語っていただく。

講師 田村祥宏 Yasuhiro Tamura

株式会社イグジットフィルム:代表取締役 / ディレクター。特定非営利活動法人ブラックスターレーベル:代表理事。映画的な演出と、個人としての作家性を大切にした、ハイレベルなヴィジュアルストーリーテリングを得意とする。映画制作、ブランディングや広告、コンテンツマーケティングを中心に、幅広い演出の作品を手掛けている。また社会課題に関する映画作品を制作/運用する映画レーベルをNPOとして立ち上げ、複雑で解決困難な社会課題に対し、ロジックとアートを両立した新しい映像作品の活用を提案すると共に、対話の場作りや課題解決に向けたワークショップや教育プログラムの開発/提供などを行なっている。国内外のアワードを多数受賞。ForbesJapan「NEXT100 100通りの世界を救う希望」に選出。






サステナブルな映像制作を追い求めて

映画・映像が好きでその可能性を信じたい 

わたしはイグジットフィルム(以下EXIT FILM)という会社の代表取締役であり、映像ディレクターで、映画レーベルNPO法人「ブラックスターレーベル」の代表理事を務めています。キャリアの始まりは22歳の時で当時流行っていた単館の劇映画を監督しました。アップリングで上映をしたのですが、続編となる2作目で限界を感じ、その後は自分の実力が足りなかったと反省して、ドキュメンタリーの修行をしていました。29歳のときに独立してフリーランスとして映像制作を始めました。2014年には株式会社化してから約10年になります。2023年にNPO法人ブラックスターレーベルを立ち上げました。

社会課題を取り扱う作品を作り続けているので、世間的には社会課題に携わってる制作会社というイメージが強いと思います。社会課題に関する映画を制作するだけなく、関連したワークショップをファシリテートしたり、教育プログラムを開発したりなど、様々なことをやっているのですが、自分としては映画、映像を愛していて、その可能性を信じていますし、これからも継続して映像を作り続けたいと思っています。サステナブルな映像製作はどうしたら実現できるのか、それを考え続けてきました。



EXIT FILMのこれまで手がけてきた仕事についてはWEBサイトから見ることができる。ブランドムービー、コンセプトムービーが多い。




EXIT FILMのサイト







EXIT FILMとは どんな映像制作会社なのか?

社会的価値があることをやっていきたい

EXIT FILMとは、「映像の可能性を信じ、質の高いクリエイティブと、社会的価値の両側面を持つコンテンツを提供するビジュアルストーリーテリング・プロダクション」と定義づけています。2015年に会社を立ち上げたときからすでに「社会的価値」という言葉が入っていましたが、そこが大きな特徴になっています。

2011年くらいにフリーランスとして始めたときは、ディレクターとして「自分ならワンストップで解決できますよ」といろいろなプロジェクトに関わらせてもらっていました。クリエイティブの目線から提案をしていくうちに、映像制作を請け負う業者ではなく、クリエイティブパートナーのようなかたちで参加することも増えてきました。 

社会的なタイミングもありました。ちょうどその頃、東日本大震災があり、自分は何のために仕事をしているのかを考え直す人がすごく増えたんです。企業にしても、自分たちは営利目的で業務を行なっているけれども、もっと社会に対して投資をしたり、それをアピールする活動をしようという機運が起きてきました。

でも、そういったところは従来の彼らのビジネスではなく新規事業だったりするので、それほどバジェットがないんです。となると、わたしのようなミニマルなスタイルでクオリティの高い映像制作ができるというタイプがすごく重宝されるわけです。当時から、わたしはソーシャルイノベーションとかCSR、新規事業、ソーシャルインパクトといった界隈の人たちとお付き合いがあったので、そういう方々の影響もあって、自分自身でも社会的価値のあることをやっていきたいと思うようになりました。

社会課題についてのインディペンデント作品だったりとか、プロジェクトを立ち上げていると、周りにそういう人たちが増えていくし、そういうプロジェクトを依頼されるようになるんです。



ある程度の尺を使って行動変容を促す作品を

EXIT FILMのリールを見ていただければ分かるのですが、自分はディレクションができるので、台本を作って、表現としては実写ありアニメーションありで様々です。シネマティックな作品を作るのが得意だと思っていす。シネマティックというのはボケ感とかルックという話ではなく、シークエンスの作り方や間の取り方といった時間感覚のことです。映画っぽい組み立て方をしています。

ですから、ある程度長いものが得意ですし、そういった依頼が来ます。今、世の中ではショート動画が力を持っていますが、強い行動変更を促したいのであれば、ある程度の尺があったほうが映像の効果を発揮できます。予算にしても撮影日数が変わらないのであれば、5分でも10分でもそれほど大きな違いはないわけですから。

ショート動画を否定するつもりはなくて、自分の特性として長いものをやっていきたいということです。そういった映像を作る技術は古来から磨かれてきたものがあるわけですし、ある程度の尺がないと描けないものがあると思っているからです。

商品をアピールするのとは違い、社会課題をはじめ複雑性のあるものを扱う場合は、ある程度の尺が必要になります。課題において、もし一方の意見が正しいのであれば、それはもう解決に向かっているはずです。そうでない場合に一方の意見のみを伝えるのはであればプロパガンダとしては成立させられますが、それでは本質的には解決しない課題のほうが多く、それこそ分断を広げてしまいます。

そうではなく、そこから対話を生み出し、みんなで解決していこう、その落とし所はどこだろうという問いを生みださなくてはならない。

後で紹介する映画で取り扱った気候変動やエネルギー課題についても、当然二項対立がありますが、その間には、白と黒だけではなく、いろいろなグレーがあるんです。

両者に対してそれを描くには、ある程度の尺が必要となります。



EXIT FILMのValue

「映像技術」と「社会の潮流」の両軸に身を置くことで、本質的かつ高水準の映像作品を制作する、新しい形のフィルムプロダクション。賛同する多くのハイエンドな映像技師たちと共に意義と意味のあるエンターテインメント、つまり多くの人々の心を動かし、行動変容に繋がる映像作品を制作していく。





EXIT FILMのPurpose

課題に対する情報の非対称性や無関心を解消し、複雑な社会課題を解決する。





映像技術を駆使して分かりやすくすること

複雑な課題を長い尺で見せるとなると、見るほうも体力というか、解釈する力が必要になります。そこを解りやすくするために、さまざまな映像技術を駆使して、ある種、楽しく受け取ってもらうことが、とても重要になってきます。そこが映像で伝える良さなんです。EXIT FILMのミッションとして、「伝わりづらいことを伝え、対話や行動のスタートラインに立ってもらう」というのはそういうことです。そして、映像から課題解決へのムーブメントを醸成するということがミッションになります。このあたりは、後で紹介するブラックスターレーベルの活動に通じています。

この「ムーブメントを醸成する」というのが非常に重要だと思っています。社会問題を解決するのに、ひとりを変えてもあまり意味がないですよね。ひとりを変えるのであればそれこそ会食してプレゼンすればいいわけですから。映像の良さは、たくさんの人に見せて、気持ちを動かせること。社会が変わっていくムーブメントを醸成できることです。危機感を煽るだけでなく、必要だなと共感させて、新たな対話やアクションやコラボレーションを生み出したり。その旗をわたしたちは持っているし、作ることができます。