広告系プランナー / プロデューサーからシネマトグラファーへと転身を遂げた髙橋 遼さん。しかも独学で映像制作スキルを習得。さらには個人で中古のARRI ALEXAを購入。一見、トリッキーに思うかもしれないが、その根底にあるのは、論理的な思考と確かな根拠。そんな髙橋さんが、これからの映像制作に重要なのは「文脈」だという。その真意は?
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講師 髙橋 遼 Ryo Takahashi
ディレクター / シネマトグラファー 1988年生まれ。2011年に独立、広告プロデューサー/プランナーとして最先端技術からアナログ技術を結ぶクリエイティブを提案。もっと手ざわりのあるものを作りたいという思いから、ディレクター/シネマトグラファーに転身。現在では、多数のCM・WEB CM・VPなどの商業映像を手がける。シネマティックな世界観での映像表現を追求し、海外のフィルムフェスティバルでの受賞など、映像作家としても活動。撮影・照明をわかりやすく伝えるYouTubeチャンネル「Cine Frame」を運営(登録者1.72万人※2024年12月時点)。日本映画撮影監督協会(JSC)正会員。
YouTube:http://www.youtube.com/@cineframejp
口だけではなく、自らの手も動かしたかった
将来性を見据えて、シネマカメラを選択
高橋 遼です。フリーランスでディレクター、シネマトグラファーとして活動しています。ブランディングやプロモーション系の映像が中心で、WEBで公開されるものが多いです。それと並行して、「Cine Frame(シネフレーム)」という、自分が独学で習得してきた映像ノウハウなどを話すYouTubeチャンネルも運営しています。僕は今35歳(キャリア8年目)ですが、映像制作を仕事にしたいと思ったときに直面した課題や、「こんな情報がわかりやすく解説されていたら、助かったな」といった情報を発信しています。
映像クリエイターになる前は、広告系のプランナー/プロデューサーとして活動していました。有名企業などの大きな案件も手がけるなど、朝から夜遅くまで働きづめでした。当時の目標は、カンヌライオンズという世界的な広告映像祭で賞を獲ることで、実際に受賞することができました。ですが、その直後に燃え尽き症候群に……。そのとき思ったのが、「手ざわりのあることがしたい」ということでした。まずは、自分がどうやって映像クリエイターになったのかお話しします。
目標の達成から燃え尽き症候群に

ARRI認定の中古サービスを利用


● インタビュー動画を見る
独学で道を切り拓くも、壁に直面
あえて映像業界から距離を取ったわけ
僕はディレクターとシネマトグラファーを兼務することが多いです。シネマトグラファーとは、撮影だけでなく、照明も含めて、どんな映像にするのかを設計、監修するという映像の監督です。撮影監督(DP)とも呼ばれます。
僕は自分でカメラを回すことも多いです。海外には、このスタイルのクリエイターが多く存在していますが、日本では撮影と照明を別々の人が担当することが一般的なため、頼る人がいませんでした。また、自分が映像クリエイターを志したときに「お前にできるわけがない」などと、否定する人もいました。そこで、あえて日本の映像業界から離れて、海外のクリエイターのYouTubeやVimeoで映像制作を独学することにしました。そして前職時代の経験から、これからの時代、シネマカメラを扱えるクリエイターが求められていくはずだと思い、実行することにしたのです。

学んだ知識を模倣して習得する
プロの映像クリエイターを志した当初にYouTubeにアップした動画(※現在は非公開)。使用したカメラ、レンズ、編集ソフトの情報を明記するという海外クリエイターのスタイルを踏襲。
ひとりで何でもできて、しかもシネマルック、を武器にする
駆け出し時代に手がけた撮影現場のスナップ。イベント動画や発電所など、専門性の高い企業の案件を中心に実績を重ねていった。


体系化することに、光明を見出す
照明は「入力」、撮影は「出力」
独学の過程でIMDb(Internet Movie Database)などで、自分が好きな映像を撮っているシネマトグラファーを調べてリスト化していきました。すると何度も出てくる名前が見つかります。そうした人たちが撮る映像を何度も見返しながら、自分がどんな色合いや構図が好きなのか、具体化していきました。その次に、自分が好きな映像を、YouTubeなどの動画で学んだ手法を使って再現してみることに挑戦しました。さらに、どうしてもわからないことなどは海外の有料オンラインコースも利用しました。
調べて、学び、真似をする。そして実際の案件で試して身に付けるというサイクルをひたすらくり返していると、あるとき壁にぶつかりました。自分が出せるクオリティに限界を感じ、撮影や照明について、その原理から学び直していきました。
映像とは何だろう? 「入力」と「出力」に分解して考え直してみました。「入力=光、ライティング」「出力=カメラ、レンズ」とすると、「レンズは、インクや紙。そしてカメラは、プリンター」と解釈したら道が開けました。そこからさらに、照明については言語化&体系化が必要と考え、これまで海外の動画コンテンツを見よう見まねするという、上辺だけの知識になっていた部分を、彼らの英語自体を正しく理解するために英語の勉強にも本気で取り組みました。
一方の撮影については、カメラをプリンター的なものと捉えると、ARRIのカメラに内蔵されたセンサーで撮られた画が正解とされているという結論に達しました。そこでARRI認定の中古製品販売サービスを利用して、ARRI ALEXA Classic EVを手に入れました。
光と影を散りばめる 「Checkerboard Lighting Effect」
「チェッカーボードエフェクト」とは、構図の中でハイライトとシャドウの部分を複数共存させる照明技法である。3Dソフトによる実践例。






シネマトグラフィーを上達させるための手順
髙橋さんが実践・提唱するシネマトグラフィー習得の流れ。「学ぶは、真似ることから」と言われるが、映像制作にも有効だ。

シネマトグラフィー分析キット
海外のソースを髙橋さん独自のルールで分析・体系化していくにあたり、考案した分析キット。例えば「変更不可マーカー」は、撮影場所の天井など、照明・撮影プランを考える上で変更できない要素にマーキングする際に使用するもの。

学び直しによって、会得した技能
髙橋さんは、海外の映像制作現場で確立されている照明や撮影テクニックを独自のルールで体系化したことで3つのスキルを会得した(上図)。これにより、クライアントに対して本当の意味での「提案」が行えるようになったという。