ビジュアルコミュニケーション
3DCGで映像をつくるときの初動を大切に
最速でビジュアルを提案することで周りの人間を圧倒するしかないと考えた
TAKUTO 僕たちが仕事を進めるときは、とにかく初動を大切にしています。というのも、3DCG映像って段階を踏まなければ画が出てこないんですよ。実写であれば演者やロケ地を決めるだけでも大体のイメージがつきますよね。一方、3DCGの場合は割となんでもできてしまうので、クライアントだけでなく、スタッフやプロデューサーでさえイメージがわからない部分があるんです。また、3DCGを作る側としてはやりたいトーンや作りたい映像があるんですが、僕らにはそれを作った実績もなければ、口がうまいわけでもありませんでした。
では、どのように作りたいものを作ればいいかというと、とにかく手を動かして最速でビジュアルを提案し、周りの人間を圧倒するしかないと考えました。例えば、企画書段階からイラストを描いて差し込む、合意が取れる前に先んじて3DCGでモデリングしてルックを作る、Vコンを早めに作るなど、やれることはいろいろとあります。
Vaundyさんの楽曲『replica』のMVは、Vaundyさん本人の小説を映像化する企画でした。全編3DCGで制作する必要があったので、キャラクターの3DCGイメージを企画書の段階で入れました。この時点でのキャラクターのルックは完パケ時とかなり変わっていますが、「主人公はこういう見た目にしたい」というモデルを先に作って提案をすることでクライアントにも信頼されるし、「3Dでこういうことがしたいんだ」というのも伝わりますよね。「ここまで考えているんだったら」と、ノーを言われることも少なくなります。
このように、企画の段階でイラストやルックがあれば全員がイメージしやすくなり、信頼と主導権がもらえます。また、僕らだけで全てのモデリングやシーンを必ずしも作るわけではなく、予算があるときは他の人と一緒にやることもあります。そういうとき、僕らのやりたいことが明確に見えることで、全スタッフと意思疎通が取れるようになります。
Vaundy『replica』MVの企画書の一部
Vaundyの楽曲『replica』のMVにて、企画書段階で提案したキャラクターの3DCGイメージとビジュアルイメージイラスト。


『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』OP映像のラフ絵
️⇨OP映像に登場するまひろのコントローラー銃(左)と、ちさとのコントローラー銃(右)のラフイラスト。クライアントにイメージを伝えるため、KANAさんが描いたもの。


Anonymouz『あらいざらい feat. 春野』MVの企画書の一部
企画書段階から、3DCGで作った部屋に2Dキャラクターが乗っているビジュアルイメージを提案。さらに、クライアント側から「取り調べ室のような部屋を入れたい」という要望があり、最終的に3つの部屋のルックを作って提案し、採用された。


パソコン音楽クラブ『Fine Line』トレーラーのラフ絵と完成したCG
パソコン音楽クラブのアルバム『Fine Line』のトレーラーは、NIOを含む様々な映像作家やディレクターが曲ごとのトレーラーを担当。ラフ(左)を総監督に見せ、OKをもらってから3DCGを制作(右)した。


Nulbarich『Lucky』ライブ背景映像の制作過程
制作時間の都合上、ラフは描かずに3DCGから制作する場合もある。KANAさんがBlenderでモデリングし、SubstancePainterでテクスチャを作成したものを、TAKUTOさんがCinema4Dで組み上げ、Redshiftでレンダリングした。


目指すビジュアルを作るためのスタッフィング
カラースクリプトをきっかけとした世界観構築
担当領域だけでなくビジュアルに関する全てに対しての道しるべを作ってもらった
TAKUTO 『replica』のMVは、物語を描くためにショートフィルムとして成立させたいという想いがあり、カラースクリプトをきっかけとした世界観構築をしたいと考えていました。本作でお声がけしたのがトンコハウスの橋爪陽平さんという方で、以前から橋爪さんのコンセプトアートとカラースクリプトの素晴らしさに感銘を受けており、チームにジョインしていただきました。
橋爪さんには、当初カラースクリプトだけをお願いしていたんですが、最終的にコンセプトアートを描いてもらったり、CGレンダリングの具合を見てのペイントオーバーを提案していただいたりなど、担当領域だけでなくビジュアルに関する全てに対しての道しるべを作っていただき、橋爪さんとディスカッションをしながら進めていきました。


実写のスタイリストとの衣装デザイン
メインキャラクターのスタイリングは、yoshiiiさんが担当。実際の衣装をデフォルメしながらモデリングを行なった。パッチワークも自作している。「そのままスキャンして使うのではなく、リファレンスのひとつとして取り入れ、デフォルメしたものに仕上げています。リファレンスがあることによって、スタイリングとして可愛く、格好いいものになったのかなと思いますね」とTAKUTOさん。


スタッフとのやりとりの流れ
案件によってその時々に合わせた座組をしっかりと考える
TAKUTO スタッフとのやりとりの流れは案件によって異なります。ベイビーわるきゅーれのときは、クライアント、監修、プロデューサーがいて、その下にNIOがいました。そこで、監督・コンテ・Vコンなどの作業を僕らが担い、アニメーターに発注をします。その後、上がってきたものをNIOで一気に編集し、コンポジットをして納品という流れです。そうすることで、わざわざ制作進行を通すことなく、僕らがその場で即座に確認できるような座組を組んでいました。
Nulbarichのときは、クライアントとプロデューサーを経て、KANAがモデリングをし、僕がシーンを組み上げて納品という流れでした。NIOでは案件によってその時々に合わせた座組をしっかりと考えることを心がけています。
『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』OP映像の場合

Nulbarich『Lucky』ライブ背景映像の場合

NIOの考える作家性とは?
作家性 = 自分の好きなもの × 自分の手癖
CG工程における作家性はモデルやテクスチャに宿ると考えた
KANA 私たちの考える作家性とは、自分の好きなものと自分の手癖が掛け合わさったものかなと思っています。なので、自分たちが好きなものは何かを理解するために、いいなと思ったものを保存したり、ピックするようにしています。また、それをふたりで共有することも大事で、「これはTAKUTOが好きそう」といった客観性を挟むことも重要だなと考えています。
掛け合わせる手癖についてですが、今の世の中には3Dアセットが溢れており、それらを使ってシーンを構築できる人も多いです。そうなると、ライティングや使い方である程度見え方を変えられたとしても、画に決定的な差が出にくく絶対的に自分の作品だと言い張れない感覚がありました。では、作家性とは何に宿るのかを考えたとき、CGの工程で言うモデルやテクスチャがそれにあたると考えました。手癖をスカルプトで練り込むような感覚で、できる限り自分たちでモデルを作ることで、NIOの作家性をより強めることを意識しています。
TAKUTO 案件中は自分たちも必死なのであまり俯瞰して捉えてはいなかったのですが、リールを作ったときに自分たちの作品を改めて並べてみるとなんだか統一感があったりして、これがNIOの作家性と呼べるものなのかなと感じました。
「現時点での」生成AIの使い方
Anonymouz 『あらいざらい feat. 春野』MVでの生成AI活用例



真面目にリファレンス収集をしてくれるメンターを手に入れた感覚で使っている
TAKUTO ビジュアルやCG、映像を作る上で切っても切り離せない存在の生成AIですが、現時点では主にリファレンス生成ソフトとして考えています。現状の生成AIは、法的な部分だけでなく、勝手にいろんな絵を学習するなど倫理的な側面も含めて様々な問題点を抱えています。
ただ、人間も既存の作品をリファレンスとして吸収し、新しい作品を作ってきた確固たる歴史がありますよね。なので、その派生として、AIに対しては、人間の代わりに真面目にリファレンス収集をしてくれるメンターを手に入れた感覚で使っています。
もちろんうまくいかないときもありますが、新しい技術を取り入れていく意味でも付き合っていくべきなのかなと現状では考えています。
CG業界を目指す人に向けて
「居場所を見つけられる」と自分を信じることが何よりも大切
KANA この業界に飛び込むにあたっては、自分の好きなものを知ることも、好きではないものを知ることも大事だと思います。また、そのルーツがどこにあるのかを考えるとすごく味のある広がり方をするので興味の矛先と、その発展の仕方をを探っていくといいんじゃないかなと。
TAKUTO 本当にその通りだと思います。ツールは日々進化しているので、そのうち追うことがしんどくなると思うんですよ。テクニカルデザイナーやテクニカルアーティストであれば新しい機能に食いついていくことも大事ですが、 「ビジュアルを作って世に出したい」という人たちは、本当に好きなものに対して作りたいものを作れるツールを探して使うことが大切だと思います。
やっていてつまらないから全く違うソフトを触ったとしても、そのキャリアは決して無駄にはならないんです。例えば、全く関係のない職業から3DCGアーティストになったとしてもその経験は必ず活かせるので、その人生において無駄なことはないんですよ。そうやって着実に歩んでさえいけば、何の問題もなく作って暮らせるようになるのかなと僕は考えています。
KANA 私がZBrushというツールに出会って感じたときのように、何かにフィットする瞬間が絶対にあると思うんです。自分の居場所は探せば見つかるからこそ、毎回の機会に対してしっかりと考えて対峙し、「きっと居場所は見つけられる」と自分を信じることが何よりも大切なんじゃないかなと思いますね。
TAKUTO 最後に、僕らは少し前に「株式会社VINIO」を立ち上げました。MVやCMなどこれまでに制作してきたジャンルはもちろん、その上でオリジナル作品を現在作っており、パイロットフィルムも制作予定です。VINIOでは、お仕事や作品を一緒に制作してくれる方を探しています。主にはCGアーティスト、コンテライター、コンセプトアーティスト、2Dアニメーターなどを募集しており、使用ツールは基本的に問わず、個人でも企業でも構いません。作りたいものを作れるかどうかが最優先事項なので、ワークフローはその都度考えながらやっていければと思っています。もし興味のある方がいらっしゃいましたら、ぜひNIOまでご連絡をいただければうれしいです。
NIOの制作環境
TAKUTOさん、KANAさんいずれも自作PCを組んでいる。机を並べて作業しており、都度コミュニケーションを取りながら制作している。

TAKUTOさんの作業環境
PCメーカー/型番 | 自作PC |
CPU | インテルCore i9-12900K |
GPU | NVIDIA GeForce RTX4090 |
メモリ | 128GB DDR5 |
ストレージ | 2TB SSD×2 |
電源 | CORSAIR HX 1200W |
モニター | EIZO FlexScan EV2760 |
その他周辺機器 | ー |
KANAさんの作業環境
PCメーカー/型番 | 自作PC |
CPU | インテルCore i7-13700 |
GPU | NVIDIA GeForce RTX3090 |
メモリ | 64GB DDR5 |
ストレージ | 2TB SSD |
電源 | Cooler Master V850 GOLD |
モニター | Wacom Cintiq Pro 22(液タブ) |
その他周辺機器 | ー |