プロモーションでありながら映像作品としてもSNS上で高い評価を得ている今村茶園のInstagramリール。本記事では、今村茶園の企画・販売戦略・デザイン・PRなど、総合プロデュースを務める島津義弘さんを講師として招き、リール制作に至った背景から映像制作のワークフロー、タイムライン全体の構成についてなど、島津さんが手掛けたリール動画を作例にしながら詳しく解説してもらった。
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講師 島津義弘 Yoshihiro Shimazu
2012年、映像制作会社を起業。以降、大手メーカーのCMや官公庁のPR動画をはじめ、多岐にわたる映像作品をプロデュースし、クリエイティブ業界で活動。2023年より、鹿児島県霧島市の茶農園「今村茶園」の総合プロデュースに本格的に着手。ブランド価値の向上と次世代に愛される茶作りを目指し、企画・販売戦略からデザイン・PRに至るまで幅広くサポート。現在は、お茶農家の魅力を新しい視点で引き出し、その価値を広く届ける取り組みに注力している。
今村茶園とは?
今村茶園は、鹿児島県霧島市の豊かな自然に広がる茶園。「霧島の余韻をいつまでも。」というブランドコンセプトを掲げ、二代目である今村広嗣氏が苦労を乗り越えながら、自然の恵みと向き合い、最高の一杯を求めて挑戦を続けている。
今村茶園のInstagram
今村茶園のInstagramに投稿されるリールは島津さんが制作しており、縦構図を活かしたショートムービーをメインコンテンツとして展開中。茶園のSNSながら映像美に魅了されたファンも多く、様々な層から高い評価を得ている。
今村茶園との出会い
プロデュースすることになった経緯
企画・販売戦略・デザイン・PRなどを含む今村茶園の総合プロデュースを2023年より開始
2012年に地元の鹿児島県で映像制作会社を起業し、当初はブライダル関係の写真や映像をメインでやっていました。その後、大手メーカーのCMや、官公庁の地域PRビデオなどをはじめ、さまざまなプロデュース・撮影・編集などを行なってきました。
元々は、ネイチャー寄りの写真撮影をメインとしていたんですが、動画のほうが伝わる量が多いこと、クライアントからの動画依頼が増えたことをきっかけに、自身のフィールドも写真から動画へと切り替わっていきました。その当時は、仕事の関係で鹿児島から関東へと毎月通っていたんですが、3年前に結婚して子どもができたタイミングで東京に拠点を移しました。
そして、鹿児島の地域プロモーションを行う際に今村茶園を経営する今村広嗣さんとたまたま出会い、2023年以降から今村茶園に関する企画・販売戦略・デザイン・PRなどを含む総合プロデュースを本格的に始めることになりました。
本記事では、私が制作している今村茶園のInstagramリールを作例に、リール制作の背景や動画のプロモーション戦略、リールならではの映像テクニックなどについて、詳しく解説していきます。
リール制作に至るまで
どうすれば今村茶園を選んでもらえるのか
当たり前のことを伝えるのではなく伝えたいことにフォーカスを当てるべき
今村さんは、「商品であるお茶がなかなか売れない」「どのように自分たちで発信していけばいいのかが分からない」という悩みを抱えていました。今村茶園のお茶自体は本当にいいものなんですが、他のお茶とパッケージを見比べたとき、どれが今村茶園のお茶なのかも分からないような状態だったのです。なので、総合プロデュースをするにあたって、まずはこういったデザインの部分から見直す必要があるというところからのスタートでした。
また、日本ではお茶を飲む文化が成熟しきっており、日本国内だけでお茶屋さんは約2万軒あると言われています。そんな中、今村茶園がどのように闘っていけば数多くあるお茶の中から選んでもらえるのかを考えたとき、お茶自体の美味しさや品質がいいものはすでにたくさんあるため、そこで闘っても難しいと思ったんです。では、どうすればいいのかというと、当たり前のことを伝えるのではなく、「どんな場所で、どんな人たちが、どんな想いでこのお茶を作っているのか」という今村茶園の伝えたいことにフォーカスを当てるべきだと考えました。というのも、私が実際にお茶造りの現場を見学させてもらった際、お茶を真剣に造る姿や、お茶がだんだんとできあがっていく工程を目の当たりにして、自分の心が非常に動いた瞬間があったからです。
そういったことを踏まえ、まずはお茶のパッケージを若年層からお年寄りまで誰でも手に取りやすい、どこにでも馴染みやすいミニマムかつシンプルなデザインや色にリニューアルしました。そうして商品のプロダクトができたところで、ようやくスタートラインに立てました。


課題:お茶を飲む文化が成熟している日本で、どのようにアピールすればいいのか?


ブランドコンセプトの決定
映像とお茶の共通点から今村茶園のコンセプトが決まった
今村茶園のことを調べていくうちに、お茶造りとクリエイティブには意外な共通点があることに気づいたんです。お茶は苗を植えて、自分たちが実際に口にするまでの間に最低5年くらいの歳月がかかります。また、春の新茶を迎えるために、前年から土作りをしたり、収穫してからも製造や加工といった様々な作業を積み重ね、ようやく最高のお茶ができあがります。これって、クリエイティブと非常に共通しているなと感じたんです。例えば、映像であれば「どんなカメラやレンズを使おうか」「どういう音楽を使って、どういう色にしようか」など、いろいろなことを考えますよね。お茶の場合は、色彩や味覚、嗅覚などでそういった部分を表現していると思うんです。
さらに、お茶はビンテージであると考えています。お茶自体、何百年、何千年というとても古い歴史がある中で現代に伝わっているものであり、どちらかというとデジタルではなくアナログ寄りで、フィルムやカセットテープ、レコードが好きという感覚に似ていると個人的に思うんです。また、お茶を飲んだ後の余韻にはなんとも言えない幸福感に包まれる感覚があり、映画を見た後に「いい映画だった」と感じるような余韻とも共通していると感じました。そういったさまざまな共通点から、「霧島の余韻をいつまでも。」という今村茶園のリールの最後に必ず入れているブランドコンセプトが決まりました。
お茶造りとクリエイティブの意外な共通点

霧島茶の素晴らしさと豊かな自然の魅力を映像で伝えることが自分の役割なんじゃないか
では、「余韻」とはなんなのか。これは、霧島に訪れた際の思い出や、鹿児島の風、人のあたたかさ、もしくは故郷を思い出して家族や大切な人を想ったり、誰かに想いを伝えたかったりといった感覚のことです。そういった余韻に浸りたくなったとき、今村茶園のお茶を飲んだ後のなんとも言えない時間が止まったような感覚や、喉から胸のあたりに来る幸福感を通じて、その余韻を感じてもらいたいと考えました。それを実現するにあたり、霧島茶の素晴らしさと豊かな自然の魅力を映像のコンテンツで伝えることが私の役割なんじゃないかと考えたことが、リールの制作に至った背景になります。
クライアントとの信頼関係の築き方
長い時間をかけて話をしていくことで本当の信頼関係が生まれてくる
私の場合は、まず今村さんたちのことを自分が理解しなければいけないと考えました。この人たちが伝えたい想いや、やりたいことを自分自身が理解しなければいけないなと。なので、撮影している時間より話している時間のほうが長いくらいでした。そうしていくうちにお互いのやりたいことやお互いの人間性が分かってくるし、長い時間をかけて話をしていくことで本当の信頼関係が生まれてくるんだと思います。
信頼して総合プロデュースを任せていただいた結果、今村茶園のInstagramは100名ほどのフォロワー数から1万人近くまで伸び、ECサイトの売り上げも徐々に伸びてきています。ただ、今はまだ売る段階ではなく、今村茶園をより多くの人の知ってもらうためのフェーズなので、現状では売り上げにはそこまで大きく影響していないと考えています。それでも、映像を見てお茶が気になって購入してくださる方や、鹿児島空港から飛行機の待ち時間にInstagramを見て、茶園にわざわざ遊びに来てくれる方などもいます。リール映像を通じて、今村茶園のファンを増やすことができたと思うとうれしい限りです。