長編映画化への道 part 1 ─シナリオ開発

短編で得た知見をできるだけ長編にも活かす

応募後のことですが、第1回のため、どれくらい作品が集まるのか、そのクオリティも見当がつきませんでしたが、僕としては100万円の予算をかけてプロのクオリティに仕上げることができたという自負があったので、何らかの賞には入るだろうと思っていました。無事、大賞に選んでいただくことができて本当に嬉しかったです。

新作の長編映画は応募作品のリメイクではなく、新たに企画してもOKでした。ですが、短編を制作したときの知見を活かすという意味でも応募作の長編映画化に決めていました。映画化の権利をいただくことはできましたが、新人のため予算が限られていたことも理由のひとつでした。新たに企画した場合、ロケハンからやり直すことになるため、その分だけ費用が増えてしまう。そこで短編で使用したロケ地の一部を長編でもひき続き利用することにしました。役者さんについてもヒロインを演じた古川琴音さん、その幼なじみ役の松大航也さん、そして祖父役の有福正志さん以外は、ほとんどを九州地方で活動されている方々で固めることで移動のコストを抑えることもできました。また短編で祖母役を演じていただいた犬山良子さんには長編でも同じ役で出演していただいたほか、短編でヒロインを演じてくれた原 愛音さんにも長編のラストシーンでカメオ出演していただきました。



劇場長編の場面写真。いくつかのシーンが、短編と同じロケーションや構図で撮影することによって、原作の核となる要素が継承された。







ハリウッドの脚本術を取り入れる

シナリオ開発に先立ち、脚本の解説本を片っ端から読んでみました。一番参考になったのが『SAVE THE CATの法則』(フィルムアート社刊)でした。「世界で一番読まれている脚本の教科書」という謳い文句の通り、商業映画デビューしてからさまざまな監督さん、プロデューサーさんに会っていますが、みなさん本書を読まれています。

僕が特に感銘を受けたのは「脚本を書く上で必要不可欠なのは文学の才能ではなく、脚本の法則を理解すること」という点です。下表は、本書で解説されている脚本術のひとつ「ビートシート」という、脚本の設計図みたいなものです。左から右へ向けて時間経過に沿って、ポイントとなる出来事を書き出してあります。

『みなに幸あれ』は、89分の作品になりますが、完成した脚本はビートシートに基づいて書かれています。

ハリウッド映画の脚本は三幕構成で描かれていると様々な場で語られていますが、「アーク(弧)」と呼ばれる感情曲線に沿って展開しています。アークは、ポジティブ、フラット、ネガティブの3種類に大別されています。





図中のPは「プロット・ポイント」。MPは「ミッド・ポイント」の略記。『みなに幸あれ』の場合、例えば「テーマ提示」は、序盤の東京で暮らすヒロインが横断歩道で一緒になった老婆の発言が該当する。「きっかけ」は、祖父母の家に着いたヒロインが2階から聞こえる物音に気づくシーン。そして「MP」は、幼なじみと協力して2階で囚われていた生贄を外へと送り出すシーンが当てはまる。



長編映画化への道 part 2 ─撮影時の工夫

画に不気味さを込めるには日常を丁寧に描くことが大切

予算などとの兼ね合いから撮影は8日間で終える必要がありました。総尺89分なので、1日あたり12〜13分のシーンを撮らなければいけません。移動や役者さんのメイク・衣装の時間も必要になるため、効率良く進めることが大前提でした。そこで全てのシーンで「写真コンテ」(後述)を作成して、全カットの構図とカット割りを明確に決めておきました。また、通常は演出部と制作部が連携してロケハンを行いますが、できるだけコストを抑えるために、プロデューサーの了承を得た上で古賀と僕のふたりで田川フィルムコミッションさんの協力を得ながら、ロケハンを行い、ロケ地を決めていくようにしました。

撮影では、日常に“異物”が入り込むことで観客が恐怖を感じるようにしました。生贄など目立つ異物に意識が向きがちですが、日常描写をリアルに描くことによって、わずかな不自然さが際立つようにしました。役者さんへの演技指導については、いかにも台詞を発してますという印象にならないよう、声量、スピード、相手が発した言葉とのかぶせ具合など、普段と同じ感じで話してもらうようにお願いしました。そして食事シーンなどでは、目線を合わせずに会話をしてもらうようにしました。皆さんも家族や親しい友人と食事をするときは基本的に目線を合わせていないと思います。そして、祖父母や生贄など、異物の役回りも担っていただく役者さんには、「できるだけ瞬きをしない(感情を込めない)」「ゆっくりとした動作」を心がけてもらうようにお願いしました。


制作部が作成した香盤の例。1日で10数シーンを撮るという、かなりタイトなスケジュールで一連の撮影が行われた。







写真コンテの例。TVCMなど広告案件の現場で作られる演出コンテを応用して、本番撮影に先立ちスタッフをモデルに全カットの撮り方と、カット割りを明確化。これにより、ハイペースかつスムーズな撮影が可能となった。




撮影前に全シーン、全カットを写真コンテで構図と割りを明示する

できるだけ効率良く撮影を進めるための工夫として「写真コンテ」を作りました。これは撮影の数日前に、ロケ地でスタッフに役を演じてもらってアングルを探り、全カットの写真を撮影。その写真を使って、全シーンのカット割りと演出指示を書き込んだものです。CMの現場では、クライアントへの説明を兼ねて必ず演出コンテを作りますが、その手法を応用したものです。映画の場合、コンテによって明示してしまうことで役者さんの演技の幅を狭めてしまうのではという意見も出ましたが、役者さんには決められた画角の中で自由に演じてもらうようにしました。一般的に映画の撮影では、段取りを決めていく中でカメラワークやアングルを決めていくと思うので、一連の芝居を切り取っていく感覚だと思いますが、僕の場合は、その逆のアプローチを採った感じです。


田川郡赤村で撮影した屋外ロケの様子



後半に登場する山奥で暮らすヒロインの叔母とのシーンの撮影模様







長編映画化への道 part 3 ─ポストプロダクション

独りよがりになっていないか観客の視点からもチェックする

ポスプロ工程は、通常の映画制作フローに沿って行いました。ただ、予算が限られていたのでオフライン編集は僕自身でPremiere Proを使ってやりました(東宝スタジオ ポストプロダクションセンター内のオフライン編集ルームで実施)。カット割りは、写真コンテによってあらかじめ決めていたのでオフライン編集は特に迷わずに進めることができました。一番意識したのは、観客の視点で観たときに意図したものが効果的に伝えられているか確認することです。また、オフライン編集作業の合間にラッシュ試写を数回行いました。

ピクチャーロック後、劇伴、CG、音効の制作を各スタッフにお願いしていきます。ホラー作品の場合、特に重要なのが音効だと思います。ただ気をつけたいのは、ポスプロに入ってから、音効頼みで怖さを強調しようとするのでは手遅れだと思います。やはりシナリオ段階からしっかりと設計することがホラー表現では大切だと実感しました。

最後にMA作業と本編集を同時並行で進めていきました。MA作業は、まずは多めに音を付けて、過剰に感じるものを削っていくという要領で行いました。音周りは自主制作と商業映画の大きな差だと思います。そしてルックについては、クランクイン前に撮影の岩渕隆斗さんと基本的な色味を決めていたので、本編集の段階ではシーンごとに明るさを調整する程度でした。


MA作業の様子。ポスプロ工程は、映像に関しては東宝スタジオ、音周りは東映デジタルセンターで行われた。




ホラー映画は、海外進出への近道?

独自の感性を磨くのと同時により丁寧に感情を紡いでいくことを目指す

ホラー映画にチャレンジして良かったことのひとつが、海外マーケットにつながっていることです。言葉がわからなくても映像から感じ取れる情報が多いことが大きいからかもしれません。本作は、KADOKAWAさんの判断でポスプロ作業中に8つの海外の映画祭へ出品することが決まりました。本当にありがたいです。僕も韓国のプチョン、スペインのシッチェス、ドイツのスラッシュ フィルムフェスティバルの3つに参加しました。プチョンでは、なんと「最優秀アジア映画賞」を受賞することができました。余談ですが、『みなに幸あれ』はシュールなブラックコメディの要素も含まれていますが、中盤で生贄が踊り出すシーンでゲラゲラと笑っている観客が多くいたのが印象的でした。日本では声を出して笑うことを躊躇する人が多い印象なので、文化の違いを感じましたね。

無事に商業映画デビュー作を完成させて、劇場公開することができました。海外の映画祭では受賞することもできましたが、国内では否定的な意見のほうが多いなど課題も残りました(苦笑)。実は現在、監督第2作を制作中です。次回もホラーものになりますが、国内、そして海外でより多くの人に面白いと思ってもらえる映画に仕上げるべく努力を重ねていきます。


プチョンでは、最優秀アジア映画賞に輝いた。記念ブースに立つ下津監督と盟友の古賀氏。長編版では、スーパーバイザーとBカメを務めた。



世界三大ファンタスティック映画祭のひとつ、第56回「シッチェス・カタロニア国際映画祭」の様子。




映画祭の主な実績

第27回「プチョン国際 ファンタスティック映画祭」

最優秀アジア映画賞



第23回「TOホラー ファンタスティック・ フィルムフェスティバル」

審査員特別賞



第24回「モンスターズ タラント・ ホラー・フィルムフェスティバル」

最優秀監督賞



2026年 全国公開

津優太監督の次回作 映画『NEW GROUP』




主演:山田杏奈/原案・脚本・監督:下津優太

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