映像作品の印象を裏付ける大きな要素として欠かせないモーショングラフィックス。本記事では、SNSに投稿する作品が人気を集める映像講師のヤマダイさんを招き、数々のハイクオリティなモーショングラフィックス作品を作例に、文字を動かす前に知りたい基礎知識や、After Effectsを使ってどのように文字を動かしていくのかなど、実践で使えるテクニックを解説してもらった。

講師 ヤマダイ Yamadai

アドビ・コミュニティ・エヴァンジェリスト。映像講師。After Effectsユーザーグループ管理人。After Effectsをイチから学べる「Ae塾」を開講。日々SNSで発表しているモーショングラフィックスが人気を集める。今年2月に翔泳社より書籍「After Effects イメージで覚える動きの基本」を上梓。






動画にした際に読ませることを優先するのかデザインの動きとして見せたいのか

映像講師のヤマダイと申します。今回の記事では動きと文字の関係を主題に、After Effectsを使ってどのように文字を動かしていくのかを解説していきます。本記事で作例とするのは、仮想の広告をイメージし、一旦グラフィックとしてレイアウトした文字に動きをつけたもので、どのように動きをつければ止まっているものに時間軸が与えられるかという実験をした際に作ったものになります。今回はAfter Effectsでレイアウトまですべてを組んでいますが、Illustratorでレイアウトを組む場合はそれをAfter Effectsなどの動画系ソフトに持ち込んで作業していく形になります。



基本の文字と動きの予備知識

フォントの選び方

明朝体とゴシック体

明朝体やゴシック体などのフォントを使われる方は多いと思いますが、止まっているときに感じる文字の印象と、動画での文字が与える印象は大きく変わってきます。明朝系は少しあしらいがついており、瞬間的な動きをパッと見たときに塊に見えてしまい、可読性が落ちてしまうことが状況によって生じます。ゴシック系はテレビなどでも昔から使われていますが、情報として伝える力が強いため可読性が高いです。ただ、装飾に秀でているものではないため、動きがあったとしても情緒を伝える力に関しては落ちてしまいます。このように、動画にした際に読ませることを優先するのか、デザインの動きとして見せたいのかなど、文字に動きをつけるときは何を重視するのかを意識して作ることが大事です。


デザイン性は高いが瞬間的な動きに弱い明朝体と、可読性は高いが情緒を伝える力に弱いゴシック体。状況に応じて使い分ける必要がある。




和文と欧文

日本語のフォントで英語を使うと、横のカーニングが崩れてしまい見栄えや収まりが良くない場合があるので、できるだけ日本語は和文、英語は欧文のフォントを使うようにしましょう。





ウェイト

ウェイトとは、フォントにおける文字の太さの指標です。ウェイトの種類が多いフォントのみを使うことで、ニュアンスを変えながらも全体のトーンに対して統一感を出すことができます。中でも、おすすめなのは今年追加されたAdobe Fontsの「百千鳥」というフォントで、多種多様なウェイトを自在に操ることができます。今回紹介する作例の多くは百千鳥をメインに使用しています。





動きのパターン

通常のアニメーションと同様に文字の前後に何があるかを考えて動きをつける

文字に動きをつけるということは時間軸を与えることになるため、その分可読性が減ってしまうというデメリットも生じます。なので、最初の段階である程度動きの設計をし、通常のアニメーションと同様に文字の前後には何があるのかを考えて動きをつけるといいかと思います。つまり可読性を高めるために単語ごとに動かすなど、場面に応じたモーション設計が必要になってきます。

文字の動き方にはパターンがいろいろとあります。例えば、レイヤーという塊自体をそのまま動かせば読みやすいですが動きに制限が出るし、パーツ単位でパラパラと動かせば文字は派手ですが、読むまでに時間がかかります。文字単位で動かせばデザイン性のある動きにはなりますが意味のない動きになってしまったり、デザイン的に効果をつけて動かせば感情を表現しやすい代わりに手間とスキルが求められます。このようにメリット・デメリットがあるため、状況によって使い分ける必要があります。









文字の速度による可読性

状況に合わせて加速・減速を使い分けることで動きにメリハリが出る

文字の動きの速度によっても可読性は変わります。例えば、左から右に入ってくる文字の動きに中央部分でブレーキをかけ減速させると速度は遅くなり、その文字を視認する時間が増え、理解しやすいアニメーションになります。その後アクセルをかけて加速し、その文字が画面外へ逃げていったとしても、すでに読んだ後なので、ここで何かを理解する必要はありません。このように可読性をある程度担保した上で、状況に合わせて加速・減速を使い分けると動きにメリハリが出ていいかと思います。


After Effectsの速度グラフ例。最も山の高い部分が最も速い箇所になり、ブレーキがかかる場合は山が左に寄る。アクセルがかかる場合は山が右に寄り、速度が段々と上がっていくのが分かる。