実践 1:第107回全国高校野球選手権大会CM&グラフィック
メンバーが役職を兼任・横断・サポート
ハイブリッドなのはshuntaroさんだけでなく、照明と写真撮影と制作を兼ねたbird and insectメンバーも。また、野球のユニフォームや各小道具をbird and insectの美術・衣装のチームが担当しているが、バックオフィス業務のメンバーも参加したという。



キャッチコピー「心をひとつに 夢の先まで!」をビジュアル化
ビジュアルはアートディレクター・伊東友紀さん(110inc.)と組んで仕上げた。ピッチャーとバッターのポーズはあらかじめ決めておく必要があり、テスト撮影の結果と資料(下画像)を伊東さんとシェアしながら詰めていったという。本番では躍動感を出すために実際の投球やスイングの動作をストロボで止めて切り取っている。


「これが撮りたい」の一枚画から発想を膨らまして映像にする
企画が通った後に映像のほうはコンテから着手しました。フォトグラファー出身のディレクターならではのやり方かもしれませんが、印象的な画から考えることが起点になります。今回で言えば、両チームのメンバーが集まってくるカット。異空間みたいにライティングされた球場で、ピッチャーとバッターが熱くラップしていて、そこに仲間たちが集まってくる…この画を撮りたいというのが最初の段階からありました。
写真ができる人の最大の武器は、“素敵な一枚画を作れること”です。ハイブリッドシューター的には、そこは最大限に活かすべき。ただ、自分の眼のレベルを上げておかないと“印象的ないい画”は作れません。なので、日々のインプットが重要で、PinterestやInstagramを見まくったり、映像作品を見て鍛錬する必要があります。
まずはこの眼のレベルを上げることからスタートすることは個人的におすすめです。いろんな機材のノウハウや編集のテクニックもありますが、まずは“印象的ないい画”に対しての解像度を上げていかないと、写真ができることの強みが活かせないのかな、と思います。『インプット・ルーティン 天才はいない。天才になる習慣があるだけだ。』(著・菅付雅信)という素晴らしい本もありますが、アウトプットの質と量はインプットの質と量が決める、ということですね。
そんなキーとなるカットを起点にして、前半の物語をどうするか、映像の締めをどうするか、と考えていきました。映像と写真の最大の違いは“時間を繋いでいくこと”だと思います。この感覚を養っていくこともとても大切。起承転結や三幕構成といった考え方もありますが、最初のうちは、一枚画の前後をだんだん拡張していく、という意識で良いと思います。
絵コンテが完成したら既存の素材を切り貼りしてVコンを作りました。映像全体のトーンも伝わるように工夫しながら、この初期Vコンで時間軸や前後関係が成立しているかをチェックします。その後、ロケハン時のアングルチェック素材に差し替えて最終Vコンを作りました。ここでは実際の撮影における技術的な部分を担保できるのかを念入りにチェックして、本番の撮影を迎えました。
映像のディレクションの起点は印象的な画から
shuntaroさんの映像作品では「これが撮りたい」というカットが起点になっている。言い換えるならば、サムネイルになるような勝負のワンカットから作っていく、ということ。絵コンテの時点でライティングやルックまで具体的に想定していたため、最終的な本編映像と比べても誤差が少ないことが分かる。フォトグラファー的な発想で映像を作る上で、大切なプロセスだとshuntaroさんは言う。



ロケハン時のアングルチェック素材を使った最終Vコンと本編の比較
ロケハン時に本番で使用するカメラと一部のレンズで撮影した素材で最終Vコンを作成。技術的に無理なシーンがないかチェックした。当日の現場の都合で多少アングルを変えたカットもあったそうだが、比較するとほぼ最終Vコンに近い形で本編が完成している。


フォトグラファーからディレクターへの変遷
ディレクターへのターニンングポイントとなった出来事
上はshuntaroさんがレタッチャーとして車の広告を作っていた時代の写真。個人制作として建築に関連するスナップ(真ん中)も撮影していた。下はbird and insect初期の仕事。



フォトグラファーが映像を作ることの難しさ
フォトグラファーから映像ディレクションに入っていくときに、shuntaroさんが一番大きな違いを感じたのが“提案”の部分。クライアントの意向をしっかりとヒアリングしながら、映像としてどのような仕上がりになるのかをイメージできる提案が初期の頃にはうまくできていなかったそうだ。この失敗からshuntaroさんの現在のスタイルが確立されている。
色づくりという武器を活かしながらも映像の撮影・照明を知ることは必須
写真的な色づくりを映像にも応用することが初期bird and insectの特徴だった。グレーディングへのこだわりは現在もbird and insectのひとつの武器になっている。そんななかで並行してshuntaroさんは個人制作の場で映像の撮影や照明についての知識を増やしていった。写真はドローンから照明を当てて撮影した作品。照明など外部のスタッフにも参加してもらうことで、機材の知識の幅も人脈も広がったという。

実践 2:中野製薬 60周年イベントオープニングムービー&ブランドブックフォト
ディレクションで「これがいい」を決めるときにカギとなるのが広義の“スタイリング”
ディレクションの基本は「これがいい」と決めることだとshuntaroさんは言う。映像では同時に「これがいい」を提案することも求められる。この提案の中にはロケ場所やチームづくりも含まれ、広い意味でのスタイリングが映像の良し悪しを左右するそうだ。


提案することの大切さを知る…過去の失敗を経て現在のスタイルに
僕のいまの考え方には、フォトグラファーからディレクターになる際のいろんなターニングポイントが影響していると思います。もともと大学で建築を学んでいたんですが、卒業後に制作会社のレタッチャーになり、その後フリーランスのフォトグラファーとして活動をスタートしました。数年後に一度イギリスの大学で写真を学んで、bird and insectを結成して動画を始めて…と、自分は変わったキャリアを歩んでいると思います。
bird and insectの初期にスチルと映像を両方撮る仕事がありました。映像ディレクターは別の方にやってもらい、僕は撮影担当として参加しましたが、全然うまくいかなかったんです。写真から映像に入っていくときにありがちなことなんですけど、映像では提案をきちんとしておかないと、クライアントさんにとってイメージがつきづらいじゃないですか。そのステップを踏まずに撮影してしまったので、結局作ったものがNGになってしまった、と。
bird and insectで映像の仕事が増えてきたときに再確認したのが、色づくりはフォトグラファー出身ディレクターの武器であるということです。当時のビデオグラファー界隈では色づくりをしっかりできることが、同業との差別化になりました。この武器を活かすために、アドビのLightroomで写真的にLUTを作って、それを映像に当てるということもやっていましたね。
同時に、映像の撮影・照明について知ることは必須だと思いました。みなさんも最初は写真の機材から映像をスタートすると思うんですけど、やはり映像用機材の特性を知っておかないと困るケースが出てきます。勝手の違う映像の機材の使い方や設定は、僕も当時かなり勉強した記憶があります。
実践 3:A.D.S.R. 2025 1st Collection “PRIMARY COLORS” Movie&Photo
shuntaroさんが映像ディレクションをしつつ、イメージを共有。写真はbird and insectの本田龍介さん(モデル撮影)と山田陽平さん(プロダクト撮影)が担当した。
ディレクターか、シネマトグラファーか…結局はキャリアをどう作っていくかの話
弱点を補強するよりも向いていることを伸ばしていくべきだというのがshuntaroさんの考え方。ディレクターの根幹は企画と演出であり、A.D.S.R.の案件ではそこに特化。自分以外の個性を活かすためにも別のフォトグラファーを使ったという。



実践 4:凛として時雨『狐独の才望』MV&アーティストフォト
shuntaroさんがMV&アーティストフォトを担当した案件。アニメ『陰陽師』の主題歌でもあったため、MVはアニメをリスペクトしつつ「現代」と「陰陽師のイメージ」を融合した実写という形で再構築した。
大好きな世界観を大事にしていく
自分の“好き”に写真や映像で関わっていくことも大切。もともと好きだった凛として時雨の楽曲に対して、shuntaroさんが好きな“ゴシックホラー”的な世界観を重ねて提案した。
実践 5:private work『Gloaming』シリーズ Movie&Photo
shuntaroさんの作品撮りシリーズ『Gloaming』には、自分の大好きな世界観や“やりたいこと”がより凝縮されている。上の画像は第3弾の「-haze-」より。毎回別のカメラマンと組むようにするなどの実際の仕事へフィードバックできる工夫も。また、このシリーズを見た関係者からオファーをもらって仕事に繋がったこともあるそうだ。
はみ出していくことを恐れない—チャレンジし続けて自分の個性を見せる
ディレクションの基本は「これがいい」と決めることだと思います。これは写真と映像に共通する要素ですね。ただ、「これがいい」を企画・提案することも求められるのが映像のディレクションならではです。
そんなときに僕が意識してきたのは、「何を伝えたいのか」を起点に企画やビジュアルを提案すること。クライアントさんはいろんな伝えたいことを持っているものですが、それをちゃんと理解したうえで、そのブランドや作品のためにどんな企画・ビジュアルにすべきかを提案する…この意識はとても大事です。
映像のディレクションをやるようになって、仕事を重ねて案件の規模が大きくなっていくと、どうしてもひとつのことに特化するような業界の構造があります。そこで訪れるのがディレクターかシネマトグラファー、どちらの道をいくかの分岐点です。いまの僕はどちらかと言えば「ディレクター」の道を選んでいるんですが、その理由は画を発想することが好きだから。そして、見た人がどう感じるのかも含めてより広く全体に関わっていきたいからです。もちろんフォトグラファーに撮ってもらう写真をディレクションをするという形もアリですし、写真のライトは別の方にお願いするという形もアリですね。
改めて「フォトグラファー発想のディレクション術」を考えると、キービジュアル的な一枚画を起点にするということが根底にあると思いました。一枚画を思いつくこと、その世界観を良いスタイリングで仕上げること、極力良いチームで作品づくりに取り組むこと…端的に言うと、それが答えだと思っています。
では、現在〜未来のAI時代になると何が変わるのか。僕は代替不可能な「“リアル”な存在としての“個性”」の価値が上がってくると思います。この作品は誰が作ったのか、企画やビジュアルを誰が提案したのか、無数の選択の中から誰がスタイリングしたのか…。無個性な映像が代替されていくなかで、“誰が”というポイントが必要になるはずです。
自分の個性はいろんなチャレンジをして見せていくしかありません。最初は個人制作でも良いと思うので、「フォトグラファー」「ディレクター」「ビデオグラファー」という枠組みからはみ出していくことを恐れず、自分なりの挑戦を続けることが今後より大切になってくると思います。