あたかも昭和や平成初期に制作されたものであるかのような、古めかしい表現をあえて詰め込んだアナクロ映像。YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」は、そんなアナクロ映像の技法を追求しつつ、往年の価値観で「いま」を解釈・表現。ノスタルジーとユーモアに溢れる作品群は、令和を生きる人々の心を掴み続けている。ますます高まる人気の背後にあるのは、アナクロ映像制作への飽くなきこだわり。同チャンネルを主宰する西井紘輝(テレビ朝日映像所属)さんが、その舞台裏を明かす。
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講師 西井紘輝 Hiroki Nishii
映像クリエイター。1994年生まれ。YouTubeチャンネル「フィルムエストTV」主催。完成度の高いアナクロ映像で人気を博し、2025年12月時点でチャンネル登録者数は43万人を超える。
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「フィルムエストTV」のはじまり
おもしろみのある映像作りを模索
昭和時代など昔のものに心惹かれた少年時代
動画制作を始めたのは、僕がまだ9歳だった2003年のこと。我が家にデジタルカメラがやってきまして、それをきっかけに写真や動画を撮影するようになり、2004年からは動画編集も始めています。振り返ると当時から、今の作風に通ずるようなところがあり、全体的に昭和など昔のものをよく撮影していましたね。昭和らしいゼブラ板が付いている信号機や、色あせた選挙ポスター、手書きの案内板、おもしろみのある文字表現の看板などなど。思えば、これらの要素が混じってできているのが、今の「フィルムエストTV」なのかもしれません。


チャンネル開設当初はバラエティ番組の手法で出発
「フィルムエストTV」を開設したのは、2014年です。高校生の時には友達とバラエティ番組の真似事をしていたのですが、それをもっと多くの人に見てもらいたいなと思いまして。やはりバラエティ番組の手法にのっとってテレビ的な映像作りを目指していて、『1カ月でどれだけ痩せられるか!?』『O型は蚊に刺されやすいか?』『アイスしか食べない』など、無茶な企画もやっていましたね。編集歴はその時点で約10年あり、一般的なYouTuberよりは編集技術があったと思いますが、企画力がいまひとつでなかなかうまくいかず、全然見てもらえませんでしたね。ただ、大学2年か3年ぐらいの時に単位を落としてしまい、それを謝罪会見風の映像にしてみたところ、これが再生数50万回超の大ヒット。このテレビ的な編集を立たせたものがうちの得意分野であり、注目を集めるために必要なものなのかなと、この時すごく感じましたね。だからやっぱり、技術力だけではなく、パロディ的なことやおもしろみのあることを、追求していかなくてはいけないなと思ったのです。



たどり着いたアナクロ映像
「VHS風映像」の研究を開始
テロップからノイズ感までさまざまな技法を試行錯誤
そのように映像作りを模索するうちに、いよいよ昔風の映像を目指すようになりました。中高生の頃からそのような古びた映像をいろんな媒体で見ていて、自分でも作ってみたいなという思いはずっとありましたが、技術的にはなかなかうまくいかず、ようやく2016年ぐらいからその研究を開始したのです。まず作ってみたのは、昔のニュース映像を再現したもの。こだわったのはテロップの処理で、ノイズ感やゴースト感など、いま見ても結構うまいなと思うほどです。そのテロップの再現技術は割と早くできたんですが、完全ではありませんでした。青い背景にテロップだけをのせるとうまくいきますが、テロップの背景を実写の映像にすると途端に汚くなってしまうんですよ。そういった問題を解消する研究がずっと続きました。
2019年に入っても、まだ加工の雰囲気がいまとは違うんですね。RGBで色をちょっとずらすなどしていました。それはそれで味があり、MVとかには効果的かもしれません。ただ、自分が目指すテイストにはちょっと向いていないなと感じて、まだまだ研究を続けました。
背景映像とテロップのどちらもいい感じになじんでるかもしれないと思える技法を見つけたのは、2019年7月です。これをベースにして、2019年12月にこれは使えそうだという技法にたどり着きまして、ここでなんとかVHS風の映像というものを開発できたと自分では定義しています。
その技術で最初に作ったのは、『幻のたばこ「マリン」』という架空のテレビCM。神戸の海で撮影したのですが、たまたまウィンドサーフィンをしている人が背景にいて、80〜90年代っぽい感じが強調されて好都合でした。曲も80〜90年代風のものを入れています。ただ、残念ながら当時は全然再生されませんでした。制作のコンセプトなどを知らずに見てくださった人に、本当に古い映像だと勘違いされてしまったのかもしれません。
技法開発の過程
2016年12月

2019年4月

2019年7月

2019年12月 技法確立

2000年1月 幻のたばこ「マリン」

