最初に手に入れたiPhoneは確かiPhone 4Sでした。当時は背面とフロントの2カメというだけでも随分贅沢に感じられた記憶があります。それから幾星霜。2025年の最新版iPhone 17 Proは果たしてどのような進化を遂げているのでしょうか? シネマトグラファーの視点で動画性能を検証してみました。

レポート●湯越慶太
東北新社OND°所属のシネマトグラファー。福岡出身。CM 制作部に在籍中から撮影が好きで、撮影部に転向。カッチリした建築ムービー、お話しもののショートフィルム、手持ちでドキュメンタリー、食べ物シズルなど、得意科目はいろいろあります。エモくてカッコいい映像をたくさん撮りたいです。

撮影の性能はいかほど?レンズ性能を俯瞰

私は現在個人的にiPhone 15 Proを所有しており、日常のちょっとした写真撮影や2歳になる娘の成長記録になくてはならないデバイスとして活躍しています。iPhone 15Proのカメラは13mm超広角、24mm広角(iPhoneではこれが実質的な標準となるわけです)、77mmの中望遠という3つのレンズ構成となっており、これはひとつ前の機種であるiPhone 16 Proも同様です。

今回のiPhone 17 Proのレンズ構成を見ると、13mm(F2.2)の超広角、24mm(F1.78)の広角という構成は変わらず、そこに100mm(F2.8)の望遠が加わっています。77mmはまだ標準域に近い感覚がありましたが、100mmという焦点距離はさらに望遠寄りとなっており、また光学ズームによってクロップを使えば200mm相当にも対応。カメラの使い方として中距離の人物撮影から明確に長距離望遠に舵を切ったと言える構成と言えると思います。これにより、13mmの超ワイドから200mmクラスの望遠までをシームレスに繋げることができ、カメラとしての汎用性がより高まったと言えます。公開されている情報によれば、3つのカメラユニット全てが48Mの解像度を持っています。また望遠ユニットについてはiPhone 16 Proと比べてセンサーサイズが56%大きくなっているという情報もあります。

この3つのカメラ全てで解像度と映像の品質を可能な限り揃えるというアプローチは明確に他社スマホと異なると感じる部分で、メインカメラに1インチ等の巨大なユニットを搭載して画質をアピールする機種などもある中、常に一定のクオリティで撮影できることを優先するという考え方は非常にプロっぽいというか、現場を重視した思想を感じます。メインカメラが24mmであることで、一般的に標準とされる40~50mmの焦点域はメインカメラのクロップとなります。今回望遠が100mmとなったことでさらにメインカメラとの差が開いてしまったので、毎回思うことなのですがどうにか50mm近辺でクロップなしで撮れたら嬉しいのですが、これ以上カメラユニットを増やすわけにもいきませんし悩ましい部分と感じます。

ハイライトを飛ばさないくらいで撮影し、後処理で暗部を持ち上げた。非常にクリアでノイズが少ない。

注目の新機能「Apple RAW」とは?

iPhoneシリーズが「映画撮影にも使える本格動画機能」を本格的にアピールし始めたのは、2023年のBlackmagic Cameraアプリのリリース前後だった記憶があります。それ以前にもハリウッド映画でiPhoneを撮影に投入したり、GoPro 等のアクションカムの代わりにiPhoneを使ったりという例はありましたが、標準のカメラアプリではできることが限られていました。細かな映像のカスタムができるアプリは当時からいくつかありましたが、その決定版とも言えるインパクトで登場したのがBlackmagic Cameraでした。fps、シャッター、ホワイトバランス等の細かなカスタムに加え、LUTによる多彩な色表現も可能となり、一気にiPhoneを使った映像制作が現実味を帯びたものになりました。今回も同様にBlackmagic Cameraや、それに加えてAppleからリリースされたFinal Cut Cameraを使用することで、標準のカメラアプリでは引き出せないポテンシャルを引き出せるようになっています。

Blackmagic Cameraを使うとミリ数を確認できる。

それに加えて今回ブラックマジックデザイン社からiPhone 専用のユニット「Blackmagic Camera ProDock」が発表されました。これはiPhone 17 Pro及びPro Maxを接続することでゲンロック、タイムコード、映像外部出力、電源供給、外部SSD収録といった撮影現場に欠かせないサポート機能を供給できるユニットで、一個のUSB-C端子と背面Mag Safeから電源とモニタリングを取るだけで精一杯だったiPhoneでの映像制作がこれによって本格的なワークフローにも対応できるようになっています。iPhone17 Proで本格動画を撮影する際の有力な選択肢として、発表と同時にAppleからリリースされたFinal Cut Cameraがありますが、今回はBlackmagic Cameraをメインに使用して、動画性能を深掘りしてみました。ちなみに簡単に両アプリを比較してみた限りでは、カメラの設定で操作できる項目はBlackmagic Cameraのほうが多いものの、FinalCut Cameraはシンプルながら必要最小限に機能を絞り込んである印象で、サッと出して撮るならこちらも充分優秀だと感じました。Blackmagic Cameraを使用することで、カメラ性能のかなり専門的な部分にもアクセスすることができ、また保存する領域やプロキシの有無なども細かく選択できるため、本格的に動画を制作する際には欠かせないアプリだと言えます。無料というのも素晴らしい。

今回動画機能において最も注目すべきなのは、AppleProRes RAWに対応したことではないでしょうか。つまりiPhoneでRAWの動画が撮影可能になったといことです。これについてちょっと驚かされたのが、Blackmagic Cameraで(Blackmagic RAWではなく)ProRes RAWが収録できるという点と、それに伴ってDaVinci ResolveがProRes RAWのサポートに対応したという点です。Davinci Resolve を使った方ならご存知と思われますが、長年DaVinci Resolve はProRes RAWをサポートしておらず、動画制作者にとってのちょっとした悩みのタネでした。今回iPhone 17 Pro がProRes RAW収録に対応し、DaVinci Resolve がアップデートによりProRes RAWのサポートに対応したことで、動画RAW界隈の大きな壁が崩れたのです。

注意!RAW撮影時は外部ストレージが必須

注意点として、ProRes RAW以上の動画を撮影したい場合は本体のUSB-C 端子からSSD 等の外部ストレージに記録することが必須となります。内部ストレージが潤沢とは限らないことや、RAWを内部に収録する際の発熱等を考えてのことかもと思いましたが、今回ちょっとした実験をしてみました。それは「充分に高速なメディアならカードリーダー経由で収録できるのでは?」というもの。実験にはProGradeのカードリーダーおよびAngelBird 製のCFexpress Type Bを使用。アプリから保存先に指定したところ、全く問題なく収録することができました。ただし、カードに他のデータが入ったままだったりするとフリーズすることがあるため、使用の際には必ずCFexpressをiPhone純正の「ファイル」アプリでフォーマットを行うのが良いでしょう。

SSDと同様にカードリーダーとCFexpressで問題なく動作した。

ProRes RAWを触ってみて

さて、実際に撮影したデータを見てみます。DaVinci Resolveで問題なく読み込めるのは感動。ただし、自分が扱ったver 20.02ではホワイトバランス等、RAWの設定をカスタムすることはできないようでした。また、Apple Log 2からRec.709等への変換LUTは公式なものはまだ提供されていないようでした。私はエフェクトのカラースペース変換を使用して、Apple Log 2からRec.709 への色変換を行いました。ProRes RAWを触ってみた感想としては、とにかくクリーンでクリア。暗部の階調が非常に豊かかつハイライトも粘ります。テスト撮影では日没寸前の夕焼けとビルの影という非常に明暗さの大きなシチュエーションでしたが、白飛び、黒つぶれなく撮影できているので驚かされました。搭載された3本のレンズも非常に優秀で、クリアでシャープです。このクリアさがiPhoneらしい絵作りとも感じられ、他のカメラと組み合わせて広角のみiPhone 17 Proを使う、みたいにミックスさせようとしてもiPhone 17 Proの画が「強すぎる」のではないかと思いました。あくまでiPhoneの画としてそれだけで完結するほうが良いような気がしています。

DaVinci Resolveのエフェクトからカラースペース変換を使用。

シネマチックな撮影体験を求めて

今回iPhone 17 Proの動画機能、それもProRes RAWについて深掘りしてみましたが、そもそものiPhone 17 Pro に搭載されたセンサーのポテンシャルの高さに驚かされました。その上であえて、より「シネマティックな」撮影体験にするにはどうすれば良いか? という観点から、ふたつ要望を出すとするならば、

① 超低感度、あるいは「擬似NDフィルター」の搭載

iPhone で撮影した動画にありがちな残念な点として早すぎるシャッタースピードによるパラパラ動画があると感じています。特に信号や屋外の液晶などを撮影した際にはほぼ間違いなくフリッカーが発生し、映像のチープさにつながってしまうことが多いと感じます。外部NDフィルターを使えばこの問題は解決するのですが、例えばセンサーの時点で極端な低感度が設定できたり、あるいは内蔵NDを搭載するなどで、昼間にシャッタースピードを1/50 ~ 1/100 ほどに設定できたら、よりシネマティックな動画になると思いました。

② 画像フィルターで「グレイン」や「ハイライトにじみ系フィルター」の実装はできないか?

iPhone 17 Pro で撮影してみて感じるのは、レンズのシャープさ。これは単体としては非常に優秀なのですが、動画の撮影としてはややシャープすぎると感じます。Blackmagic Camera にはLUTで色をカスタムする機能はありますが、もう一歩踏み込んでリアルタイムにグレインエフェクトを追加したり、あるいはプロミスト系フィルターをエミュレートした、ハイライトのにじみを実装させられたらカメラ単体での表現力がグッと増すと感じました。もちろんこういった処理にはマシンスペックが必要なわけですが、iPhone 17 Pro のA19Proチップならできるはず。

Blackmagic Camera のLUT 機能「Cinema Teal」を適用したもの。
Blackmagic Camera のLUT 機能。「Day Night」を適用したもの。

逆に言えば、もはやこのような重箱の隅をつつくくらいしか不満はないのではと感じます。iPhone 17 Pro は動画制作者が普段使いするスマートフォンとして、充分以上に魅力的でメイン機材としても戦える、「シネマスマートフォン」だと感じました。