【Special Interview】ファイルベース、低予算制作時代の映像制作


ハードではなく才能に投資しなければ
この業界は先細るだけ。
新しい映像制作のワークフローを模索すべき


株式会社 バニラインク(VANILLA INC.)の代表取締役・中村友彦さんに
低予算、ファイルベース時代の制作現場のあり方を伺った。


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予算に合った制作スタイルの必要性


 長引く映像業界の不況のひとつの要因は、テレビやWebなど、広告費の使われ方が細分化されたため。予算が減った以上、従来と同じような仕事の仕方をしていたのでは、業界そのものが成り立つはずもない。高い機材を揃えた編集スタジオを使って制作したワークフローから、個人レベルで制作可能なPCベースのスタイルに変えていかなければ、先細りするだけだと中村さんは警告する。
 取り込みからカラーコレクション、編集、合成、そしてMAに至るまでを個人レベルで完結できるようにする。Mac Proが1台あって、Adobe Creative Suite 5 Production Premiumをはじめとする編集ツールさえあれば充分。ハードへの投資はわずかでも、映像のクオリティを維持しながら、フレキシブルでスピーディな制作にも対応可能。それは、中村さんの30年以上にわたる映像制作のキャリアからしても、間違いなく言えることだそうだ。

仕事の規模が変わっても、同じワークフローでクオリティを維持


 これからは機材(ハード)への投資ではなく、才能(ソフト)に投資して、様々な制作パターンに対応していける柔軟性を身に付けることが重要になってくる。それこそ、XDCAM HDやREDを使えるような比較的予算のある映像の制作から、業務レベルのXDCAM EXやP2、さらにはEOS MOVIEや家庭用規格のAVCHDまで、幅広く対応していく必要に迫られる。しかし、制作予算に応じて制作スタイルを変えて品質管理をするようでは、逆に非効率。どんな受注に対しても、常に同じワークフローの中で一定以上のクオリティを実現していくべきだという。
 それには、アドビCS5などのアプリケーションを使いこなした上で経験を積み、クライアントの要望に対し、的確に応えられる能力こそがこれから大切になってくる。ただし、すべての工程を一人でこなすことは絶対条件ではない。たとえば、CG映像を使うにしても波の表現なら誰それ、MAするなら誰に頼むといったように、特異な能力を持つ仲間を持つことも忘れてはならない。自分の能力と外部の能力を総合的に活かせるようになればよいのである。

今後はますますAfter Effectsの重要度が増してくる


 これからこの業界に入ってくる若者には、After Effects+CGソフト+Premiere ProあるいはFinal Cut Proといった編集ソフトが三種の神器になってくると中村さんは言う。その中でも特にAfter Effectsの習得は欠かせないそうだ。中村さんの会社「バニラインク」では、毎年新人を採用するようにしているというが、After Effectsを個人で所有して使いこなしているという人はまだまだ少ないと嘆く。
 中村さんの経験によれば、もはや合成やカラーコレクションにおいて、After Effectsほど、その品質や処理速度、そして自由度という点で右に出るものはないという。インフェルノやフレームを使った合成システムに決して引けをとることはない。唯一気にすることがあるとすれば、クライアントに対し、編集スタジオで編集結果をブレゼンするといった、外見上の見栄がない点くらい。速さで言えば、もはやAfter Effectsを利用しない理由はないと言い切る。

人を育てることでデジタルパワーを増強させる


 デジタルパワーは草の根的に育てていく…それが中村さんの主張である。それは、これからこの業界に入ってくる若者だけでなく、これまで映像業界に携わってきた人も含めての話だ。若手に関しては、ワード、エクセルを覚えるようにAfter Effectsを使えるようになってほしいし、ベテランに関しては、これまで培ってきたものだけにこだわるのではなく、新しいことに挑戦し、勉強してほしいという。今後はファイル収録が当たり前になり、編集から、場合によっては完パケまでこなすことが必要なってくる時代になる。その時になってから慌てるのでは遅すぎる。

アプリケーションの機能を知り、能力を活かさないと損


 PCベースの編集に慣れた人でも、慣れ親しんだ機能しか使わない人が多い点は、実にもったいないという。例えばアドビのProduction Premiumを使いながら、Premiere ProとAfter Effectsをシームレスに連携できる「ダイナミックリンク」を未だに活用していない人がいる。これは、別ソフト間でのファイルのやり取りには、必ずファイル出力しないといけないという既成概念がそうさせている。また、Photoshopデータを活用する場合でも、今や調整レイヤーごとAfter Effectsに直接展開できるにもかかわらず、わざわざ結合してしまう人もいるそうだ。

撮影した素材をそのまま編集できる能力を生かす


 アプリケーションについても、いろいろ使って、適材適所で利用できるようになることが理想だという。中村さん自身、アドビ製品に関しては、バージョンアップごとに必ず乗り換えて、新機能は何かを知るようにしているそうだ。そうかと言って、Final Cut Studioを使わないわけではない。それぞれ一長一短があり、仕事に応じて使い分けるノウハウを積んでいる。
 例えば、カラーコレクションが重要な仕事の場合は、ネイティブ編集が可能なアドビのProduction Premiumのワークフローのほうが品質管理がし易い。特に色や階調を大切にしながらの作業となると欠かせないという。

限られた時間をクリエイティブな時間に向ける


 クオリティを重視する編集に欠かせないネイティブ編集だが、それだけではない。ファイルベースで撮影された編集素材を変換なしにそのまま編集できるため、「時間の省略」が可能になる。Premiere ProやAfter Effectsでは、主要なテープレスフォーマット(キヤノンやニコンのデジタル一眼、AVCHD、P2 DVCPRO HD/AVC-Intra、XDCAM EX/HD/HD422、RED、キヤノンXF、JVC QT)を変換なしで編集できる。
 せっかくファイルベース時代になって取り込み時のストレスが軽減されたのにもかかわらず、取り込み時に別形式に変換していたのでは、長めのカットが大量にあるような作品の場合は特に、テープからのキャプチャ作業以上に時間がかかることもある。
 時間の省略という面ではもう一つ、64ビット環境にネイティブ対応したAfter Effectsの作業能力は格別だ。6コアのXeonプロセッサーを2つに、24GBのメモリーを積んだMac Proで運用すると、レンダリング速度があまりに速く、コーヒーを飲む暇もないのだという。クライアントを前にしてプレビューを見せる場合でも、修正が入ってから再度プレビューするまでの待ち時間があまりに短いために、一様に驚くそうだ。

「Switch!」キャンペーンの活用で仕事の幅を広げる


 中村さんの会社では、アドビが実施しているSwitch!キャンペーンを利用して、Adobe Creative Suite 5 Production Premiumを追加で導入した。「Switch!」という言葉から、乗り換える前のソフトが使えなくなるような印象があるかもしれないが、決してそんなことはなく、従来の環境にCS5の編集能力をアドオンできるところが魅力だという。キャンペーンは2011年の2月25日までであるが、Final Cut Studio(v1/v2/v3)、アビッド Media Composer(v2.x/v3.x/v4.x)、Xpress Pro v5.x、トムソン・カノープスEDIUS(v3/v4/v5)の正規ユーザーなら、これを利用しない手はない。249,000円(税別)のCS5 Production Premium ダウンロード版(Mac版もしくはWin版)が、半額近い138,000円で購入できるのだから。
【参考ページ】
Mac映像制作ワークフローをSwitch!
Switch!キャンペーン第二弾
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▲最近手がけた「KDDI/Android au」(2010)のCMはAfter Effectsを使用して作られた。完動品がない時期に制作されたため、携帯本体に表示画面、そして操作する手など、すべて個別の素材を組み合わせて編集された。
◆中村友彦さんプロフィール
1961年生まれ。82年に東京映像芸術学院卒業後、ビデオアート集団「Miss MOTION」に参加。87年に映像作家、中野裕之氏の「タイレルコーポレーション」と合併。93年、ザ・セカンド設立。97年にはMUSIC VIDEO AWARDSにてベスト・ニューアーチスト・クリップ賞(中村一義「永遠なるもの」)を受賞。02年に㈱バニラインクを設立し、現在代表取締役。Music ClipやCM等、手掛けた作品は多数。