イベントレポート「Video Power-フォトグラファーのためのFinal Cut Studio」


アップルが主催するイベント「Video Power-フォトグラファーのためのFinal Cut Studio」が、2010年3月23日、アップルストア銀座で開催された。前半はアップルストアスタッフの保坂氏によるFinal Cut Studioの概要の説明とデモ、そしてFinal Cut Pro(FCP)向けのキヤノンのプラグインの紹介。後半は「ビデオサロン」編集部の企画協力で、ビデオディレクターのBluesniffこと丸山もえるさんによる、EOS MOVIEで撮影しFCPで編集した作品の紹介と解説、併せてEOS 5D MarkⅡのファームアップをテストした結果も報告された。
短期間の告知にもかかわらず、開場からすぐ満席となり開演前から立ち見が出る状態。最終的に立ち見のお客さんが50人を超える盛況ぶりで、途中退席する人も少なく、最後まで熱心に話を聞いている人が多かったのが印象的だった。(ご来場ありがとうございました)


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フォトグラファー向けと銘打ったイベントだが、会場に問いかけてみるとフォトグラファーの人は全体の2割ほど。中心は映像関係者のようだ。EOSシリーズでムービーを撮っている人、という問いかけには半分ほどの手が挙がった。それ以外のデジタル一眼を使っている人も会場の1/4ほどいた。
まずはFinal Cut Studio(FCS)の解説とデモ。現行の製品は統合ソフトとしては3世代めのバージョンで、映像編集ソフト「Final Cut Pro 7」を中心に、DVDオーサリングソフト「DVD Studio Pro」(Blu-rayディスクも焼ける)、音楽制作や音編集を行う「Soundtrack Pro」、モーショングラフィックを作成する「Motion」、ビデオやオーディオのファイル変換を行える「Compressor」、画像の色補正やシーンごとの色の作りこみを行う「Color」などが主要なアプリケーション。
パッケージの説明に続いて、特徴とメリットの説明。FCPは静止画と動画、異なるファイルサイズと、画像素材の混在もOKで、ビデオカメラからの素材と混ぜて使っても問題はない。
3.23_apple%2009.jpgFCPならワンクリックで作業開始
次にFCPの最大の特徴であるコーデック「Pro Res」の解説。今バージョンからPro Resは5種類になり、用途に応じた使い分けが可能になっている。最高画質での映像合成編集用のProRes4444(フォーバイフォー)、ポストプロダクションのワークフロー向けのProRes422(HQ)、標準画質のProRes422、主に報道やスポーツ中継など放送用画質に最適なProRes422(LT)、そしてファイルサイズが最も小さくオフライン編集に向くProRes422(Proxy)。ProResは各社が採用するほどすべてのファイル形式に対応しており、そのままでは扱いが難しいファイルも簡単に扱えるようになる。また、一見ファイルサイズが軽いデータでも大きな圧縮がかかっているとFCP上では重たい場合がある。こんな場合でもProRes変換することで快適な操作が約束される。
ここからデモに入る。変換前の非圧縮の映像データを5種類のProResに変換してみる。作業はメニューから「切り出しと転送」を選び、環境設定(歯車のアイコンをクリック)からProResのどれかを選択するだけ。読み込みにかかる時間は実時間の3倍が目安で、5秒のクリップで15秒ほど。
あらかじめ変換した画像を比較してみると、最もサイズの小さいProRes422(Ploxy)でも非圧縮データと見た目はほとんど変わらず、拡大した画面に近寄ってようやくノイズが分かる程度の差しかない。画像合成や「Color」などを使った本格的な色補正を行うと違いは明らかになるそうだが、単純な編集だけ行う範囲においてはProRes422(Ploxy)でも画質の崩れはなく、WEBでの公開などには充分なクオリティを持っている。
次に、キヤノンEOSシリーズで撮影した映像をスムーズに取り込める「EOS MOVIE Plugin E-1 For Final Cut Pro」の紹介。3月下旬公開予定で、これまでFCP上では重たく扱いが大変だったEOSのH.264コーデックの画像が簡単にProResに変換しながら取り込めてサクサク動かせるようになる。説明に続いてデモ。読み込みの対象となるメモリーカードをクリックすると、作業画面の右上にカード内の映像クリップが表示され、取り込むクリップをドラッグしてその下のスペースにドロップすれば読み込み開始。いちいち設定する必要がない。あらかじめイン点とアウト点を指定して必要な箇所だけ読み込むことも可能だ。このプラグインを入れることで、自動転送も可能になる。「自動転送」をチェックしてオンにしておくと、接続と同時に読み込みを開始、読み込みの途中でも編集作業が行なえるのも特徴だ。
このプラグインは動画内で静止画を扱う際にも便利だ。従来はApatureやiPhotoから取り込むのが基本だったが、FCPでドラッグ&ドロップするだけでタイムライン上に静止画像が並ぶ。しかも、従来は静止画の切り替えはデフォルトでは1分間隔だが、あらかじめ10秒、5秒、1秒と細かく設定できる。
デモはこのあと、「Color」を使った色補正へ。Colorでの色調整はある程度編集作業が進んでから行うのが基本。Colorには立体座標で色の分布を見られる「3Dスコープ」があり、トーンカーブも使うことができる。ハイライト、シャドウ、ミッドトーンの3つを調整するが、パラメーターがきめ細かく白とびや黒つぶれが起こりにくい。いい具合に調整できたら、「SAVE」をクリックすることでプリセットになり、その設定が使い回せるようになる。その際もドラッグ&ドロップでOK。色変換した画像は一度レンダリングしてFCPに戻す必要があるが、作業そのものはPhotoshopで静止画を補正するのとほぼ変わらない。
最後に、ブルーレイディスクを作成する手順(外部BDドライブが必要)や、Safariなどブラウザソフトを使わず、FCPから直接YouTubeに映像をアップする方法を紹介。いずれも細かな設定は不要で、ワンクリックで行うことができる。
.3.23_apple%2008.jpg家庭用テレビで色をチェック!?
FCPのデモに続いて、ミューズテクスの吉田氏が登場。同社が扱っているマトロックス社のコンバータを紹介した。
映像の色チェックをどうやって行うか? ビデオ・放送業界では業務用のマスターモニターが使用されるが、普段はスチルの仕事が多いフォトグラファーにとって、わざわざ高価なマスターモニターを使うのは現実的ではない。そこで民生用のハイビジョンテレビ、すなわちブラビアやビエラ、アクオス、レグザといった家庭用テレビをモニターとして使い色チェックする方法を紹介。色チェックに使うにはモニターのキャリブレーションが不可欠だが、ふつうの家庭用テレビにはブルーオンリーのカラーバーを微調整してキャリブレーションをとる機能はない。しかし、HDMI端子さえあれば、マトロックスのMXO2 miniを咬ませてやることでキャリブレーションが可能になる。
このほか、Mac Book ProやiMacに接続して使うMXOも紹介。こちらはDVI出力につないで、SDI信号を出すことができる。Express34バスつきのMac Proにはそのまま使えるし、ノート用またはiMac用のカードを使えば、1つのコンバータを数台で使い回すことも可能。購入時にノート用かデスクトップ用のカードのいずれかが付いてくる(好きなほうを選択)ので、もう1枚カードを追加購入(13,800円)すればよい。
MXOには、Blu-rayへのエンコードを大幅に高速化するアクセラレーター「MAX回路」を内蔵したシリーズもラインナップされている。FCSのCompressorだけを使用した場合(Single-passとMalti-pass)との比較では、所要時間は半分から1/3以下と歴然とした結果が出ている。
3.23_apple%2004.jpgEOS MOVIEはワンカットが長くもつ
後半は「ビデオサロン」編集部の企画で、EOS 5D MarkⅡとFCPで制作している丸山もえるさんの作品を紹介しながら話を伺った。司会進行はビデオサロン・一柳編集長が担当。
丸山さんの本業はカメラマンではなく、映像のディレクションの仕事が中心。教育関係の仕事も多く、実写以外にアニメーションなども手がける。仕事以外に「bluesniff」の作家名で、デジタル一眼カメラで撮影したオリジナル映像を制作し、YouTubeやvimeoといったサイトで発表している。
最近は小規模・低コストで映像を作らなければならない仕事が多くなっている。そんななかで丸山さんはデジタル一眼ムービーに関心を持ち、最初に手にしたデジタル一眼はパナソニックのGH1。コンパクトでとっつきやすく、最初からかなりいい画像が撮れたという。
続いてEOS 5D MarkⅡも入手したが、こちらは当初は思うようなクオリティのものは撮れなかった。キットのレンズだけではなかなかいい画にならず、いろいろ試したり調べたりするうちに、レンズを選ばないとダメだということが分かってきた。ネットなどで調べて、これはというレンズを少しずつ買い足していったそうで、これまでに制作したオリジナル作品の半分は5D MarkⅡで撮影している。
デジタル一眼ムービーを始めてまだ1年経っていないが、昨年の夏以降は仕事の映像もほとんどがEOS 5D MarkⅡでの撮影になっている。その1本を上映。美容室のプロモーション映像で、カメラマンは依頼せず自身と他のスタッフで撮影を進めた。カメラをあまり動かさない静止画的なカットの積み重ねだが、小型ドリーを使ってカメラをゆっくり移動させることで高級感のある映像を作り出している。ちなみに、1日5,000円ほどで借りられるEOS MOVIEにぴったりの超小型ドリーがあって、まだあまり注目されてないためか、借りやすいそうだ。パンやチルトで動きを作ろうという人は多いが、これはねらい目かもしれない。
高級感のある画のおかけでワンカットが長く使える、と丸山さん。通常のビデオだとよくワンカットは3秒までと言われるが、EOS MOVIEはそれよりはるかに「もつ」のだという。実際、bluesniff名義のオリジナル作品でも、静止画的なカットを長めに使うことで、静寂で凛とした空気感を醸し出すことに成功している。
bluesniff流色調整術
bluesniff作品は独特のトーンを持ったものが多く、色の調整も大切な要素だ。千葉の干潟で撮影したという作品は、やや青みがかった色調で、その調整には「Color」を使用している。「まだ初歩的な使い方しかしていませんけど、Colorを使うと飛ばず、つぶれず、上品な感じに仕上がると思います」
Colorを使いたいという人は多いが、ある程度編集してからColorで作業してまたFCPに戻るというところが、ややハードルが高いと感じるところかもしれない。丸山さん自身もそうしたColorの手順に慣れていないところもあり、「FCPだけでどこまでできるか」にもあえて挑戦している。EOSの画像は「青が強すぎると感じることが時々ある」と言い、「色のせ」で淡いグリーンを上からのせることでそれを和らげると同時に、独自のトーンを作り出している。
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FCPで色調整を行った作業画面を説明。「色のせ」で淡いグリーンを重ねている。
テレビドキュメンタリーでも充分に使える
ここからEOS 5D MarkⅡのファームウェアアップデートの話に移行。丸山さんはいち早くファームアップデータをテストし、そのレポートは「ビデオサロン」4月号に掲載されている。
アップデートによる変更点は①フレームレートに24(23.976)fpsと25fpsを追加し、30fpsは実フレームレート29.97fpsに変更 ②シャッター優先AEと絞り優先AEでの動画撮影が可能に ③録音レベルのマニュアル調整機能を追加 ④サンプリング周波数を44.1kHzから48kHzに変更 ⑤マニュアル露出撮影時にヒストグラム表示が可能に の5点。①は放送規格に合わせた変更で、微妙なコマのズレが起こらなくなる。音を別録りした場合は特に効果は大きい。⑤はフォトグラファーにはなじみの深い部分だが、ビデオ系の人はあまりヒストグラムは見ない。むしろゼブラ表示があれば便利という話も出た。
今回のテストではステディカム・マリーンを組み合わせた街の歩き撮りに挑戦。丸山さんはステディカムは不慣れで、ネットで調べてもこれが正解という使い方が今ひとつ分からないという。失敗もあったというが、上映したサンプル画像はテレビのドキュメンタリーで充分使える仕上がり。通常のステディカム撮影はスタッフ数人が必要なのに対し、一人でこなせておまけに小さいので、警戒する人も少なく自然な街の様子が撮れるメリットもあった。日中に撮影したものは絞り優先AE、夜に撮影したものはシャッター優先で1/50秒に設定。これは蛍光灯などのフリッカー対策で、おかげで画面のチラつきはない。光量の急な変化に対しても穏やかで自然な反応なので、急に画面が変わってしまうことはなかった。
音声は外付けステレオマイク(オーディオテクニカのAT9941)をシューに取り付けてマニュアルレベル設定で収録したが、SNも良く臨場感も充分なレベル。街の中など音量変化の激しい場所では、マニュアルレベル調整は有効だ。ただし、5D MarkⅡにはヘッドホン端子がない点が不満で、丸山さんは「音声がモニターができるようになれば」と注文をつけた。
別に行なった音声レベルのマニュアル調整の実験では、周囲の雑音が多い中で太鼓を叩き、オートでは太鼓の音が大きくなると上が抑えられ感じがして不自然になり、さらに周囲の音も小さくなるのに対し、マニュアルでは常に周囲の環境音が一定であることを確認。テストは内蔵マイク(モノラル)で行なったが意外に良好な印象だった。
.3.23_apple%2006.jpgキヤノンの業務用ビデオカメラの新フォーマット発表
最後に、キヤノンマーケティングジャパンの田中氏より、キヤノンが現在開発中の業務用ビデオの新フォーマットの説明があった。MPEG2の4:2:2で色に関しては従来の2倍のデータ量を持ち、トータルの転送レートも従来のHDVの約2倍の50Mbps。色解像度が上がることで、カラーコレクションに有利になる。
FCPでの対応を準備中で、特別に開発段階のプラグインを使って「切り出し転送」で読み込むデモも行われた。フォーマット自体にまだ名前はないが、プラグインには「CANON XF Plugin」という名称が表示されていた。ここではProResではなくネイティブでの読み込みを行なったが(圧縮をしないため速い)、もちろんProRes変換の選択も可能だ。
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会場の後ろにはMacに接続されたマトロックスのMXOシリーズの実機が置かれていて、終了後は簡単な説明も行われ、人気だった。
レポート/ビデオサロン編集部・本吉