マイクロフォーサーズマウントを採用した業務用のAVCHDカメラ、パナソニックのAG-AF105は、先日のInterBEE会場でも大人気でした。
ビデオサロン12月号用に取材した、パナソニック担当者のインタビューを再録します。
商品企画の上野雅司さん(写真左)とプロモーション担当の並川実さんのお二人です。
ちなみにこの記事は、本誌12月号でも読むことができます。
ではどうぞ。
DVX100からの出発
――上野さんは、DVX100の開発にずっと関わっていらっしゃって、今回のAF100も奇しくも同じ100番ですね
上野 まさにそのイメージはあるんです。DVX100の本当の後継という意味を込めました。
――ただ当時は、DVX100のシネライクガンマや24p(プログレッシブ)について業界では反対意見もありましたよね。
上野 そうですね。今までビデオのガンマでやってきて、それを崩すようなものですから。テレビの業界からは反対意見はありました。
――それからすると隔世の感があります。そんなこといっている間に、今回はスチル系のレンズマウントを使うというところまで来てしまいました。
上野 DVX100で24コマとプログレッシブとシネライクガンマはやりましたが、撮像素子とレンズの部分はビデオのものでしたから、そのなかでいかに新しいクリエイティブな映像を作るかという挑戦でした。ただ当時から交換レンズの活用というのは、キヤノンさんが出されていたこともあって、社内で議論していました。ただ1/3インチだとそれほど劇的なことはできない。結果的には1/3インチでもっとも性能を出せるレンズを固定で装備することになりました。
ところがDSLR(デジタル一眼レフ)で動画が撮れるようになってくると、スチル用のたくさんあるレンズを使って動画が撮れる。そういう世界になったときに、それを利用して新たな映像表現ができるカメラを作りたいという気持ちが起きてきました。
撮像素子が大きくなっているので、それによりボケ味の効果。そして手持ちの多岐多様なレンズを活用できるので、そこがポイントですね。
並川 お客さんからの要望が大きくなってきたこともあります。幸いにパナソニック社内にデジタル一眼の技術がありますから、それを取り込んでやっていくことができます。
動画用のカメラはどうあるべきか?
――企画のスタートは?
上野 一昨年くらいですか。ルミックスGH1が出たあたりです。こういったものが動画の世界でどれくらい活用できるかということを模索しながら、それをいかに本格的に動画を撮れるものに持って行けるかを検証し始めました。と同時に世界各地でユーザーの声を聞いて回りました。そうすると、スチルのボケ味が得られる動画を低価格で得たいという声がかなり多かったんです。そのヒアリングの集大成ともいえるカメラがAG-AF105です。
今はスチルのタイプで撮っている方が多いと思うのですが、動画メインで使うには一歩足りないところが多いと思うんです。こういう機能も欲しいという声も数多くいただきました。そのあたりを一つ一つ導入できるものを検討し、商品化まで持ってきました。
――動画用の最大のポイントとは?
上野 まず一番大きなポイントは、実は画質にあるんです。スチルのレンズは解像度がひじょうに高いんです。ところが動画の場合は最終的にはフルHDの207万画素相当ですから、スチルのレンズの解像度をそのまま持ってくると画素差が出てきます。たとえば1000万画素用のレンズを207万画素にもってきたときに差が大きすぎて問題もおきてくる。207万画素に最適化したほうが最終の結果がいいんです。
具体的には光学のフィルターを入れて、フルHDとして必要な画素分だけを通すようにことをやっています。あまり高画素で取り込んでしまうと、必要のないドットがあるので、折り返し歪み、エリアシングというものですが、そういった弊害が出てきます。AF105ではフルHD動画として最適化しています。
――なるほど、光学的な解像度が高ければ高いほうがいいというわけではないと。一眼ムービーではシーンによってモアレが問題になりますが、そういったものですか。
上野 そうです。それはまさにエリアシングによる弊害ですね。
レンズもいろいろなタイプがあり、レンズで対策をとるわけにはいかないので、撮像素子に入る手前のところで動画に必要な帯域に制限することで、トータルでの動画画質をアップしています。
――当然、それはルミックスのGH2とは違う部分ですね。
上野 ルミックスの場合は、スチルがメインですから、そういうわけにはいきません。逆に、AF105は静止画撮影機能がないんです。
――え、そうなんですか? CMOSは1000万画素以上のものを使っているんだけど、いわゆる静止画撮影機能はないと。
並川 220万画素相当のものをキャプチャするかたちでは可能ですけどね。
上野 商品としてどちらの性能に重きをおくかということです。どちらがいい悪いではなく、それぞれ狙っているポジショニングはあるので、それに合わせた設計をしていく。我々はこのAF105を動画専用として作り込んでいます。
――ただしCMOS自体は1000万画素以上のものですから、そこからフルHD画素を作り出す部分にも難しさがありますね。
上野 そこは解像度を出しながら輪郭もうまく見せていくことで、各社ノウハウがありますね。そのあたりは詳しくことは言えないのですが。
もうひとつ、これはCMOSの問題でもあるのですが、ローリングシャッター歪みですね。これもセンサーが60p読み出しをすることで解消することができました。24pネイティブ記録でも、センサー読み出しは60pで行なっているので歪みは少ないんです。
――デジタル一眼ムービーではビデオとガンマが違うことが評価されていますが、そのあたりのチューニングはどうなんでしょうか?
上野 そこは我々はシネライクガンマを採用したときから、検討を重ねているのですが、現在はシネライクではDとVという2種類のガンマがありまして、Dはフィルムに近いもの、Vは比較的ビデオに近いもの。そこは踏襲しています。そうしておかないと、後でフィルムに落とすというときのことまで考えると整合性がとれない。我々としてはこちらのほうがベストかなと判断しました。現在の一眼ムービーのガンマにあわせるのではなく、後のワークフローを優先した結果です。
また一眼ムービーの場合は、ビデオでいうニーのような処理はしていないんですね。そこは使い勝手含めて、我々がやってきたものがいいのではないかと思っています。
――1/3インチの撮像素子とは違う部分はあるんですか。
上野 いや、そこは同じ考え方をしています。最終的なトーンの出方としては、これまでのDVXやHVXなどと合わせこんでいます。
1080でのスローを実現
――話題としては、バリアブルフレームレート(VFR)の範囲が拡大していることですね。
上野 そうなんですよ。これまでは720pまでしか対応していませんでしたが、今回は1080でもVFRに対応し、フレームレートの上限を60pにしています。ということで、1080のフルHDで24p基準ですと、2・5倍のスローまで対応しています。これが二つ目の大きな特徴です。
並川 これはスペックだけでいうと、バリカムを超えていますね。このあたりも期待されています。
――その映像を見ていないのですが、実際に見た印象も違いますか?
上野 違いますね(きっぱり)。解像度だけではないんですが、ポテンシャルは高くなったと思います。あとはどういう表現をしてもらうかです。
最初は720pで考えていたのですが、センサーが1080の60pで動くものなので、それを何とか活用したいなということで、急遽、技術担当に途中でお願いして盛り込みました。
シャッターを外してNDを入れる
――NDフィルターがついてるというのもポイントですよね。よくここに入りましたね。
上野 これをつけるのが大変でした。静止画を棄てて動画に特化したポイントのひとつです。マイクロフォーサーズのフランジバックの中に入れないといけないので、スペースとしてはぎりぎりでした。
――そもそもマイクロフォーサーズの規格を作ったときにここにNDを入れるという発想はなかったですよね。
上野 そうですね。最初からNDを入れることを考えていたら、このフランジバックにはならなかったでしょうね。これもあって静止画の機能が入らないんですよ。
――というのは?
上野 メカニカルなシャッターです。
――あ、そうか! なるほど。でも動画では必要ないですものね。
上野 両立させるわけにはいかないんですよ。動画優先というコンセプトで最初に決めた部分ですね。
もう一つはデジタル一眼では出力をきちんと見ながら撮るということをそもそも想定していないと思いますが、このモデルは、HDMIもSDIの出力もあり、両方同時に出ます。液晶モニターがあるとはいえ、カメラマンももう少し大きいモニターで見たいと言う声もありましたから、そこは同時出しできるようにしています。
並川 もちろんこのクラスとしては優秀なビューファインダーと液晶モニターを搭載していますけどね。
――記録メディアはSDカードで2スロットあります。同時記録はできるんですか?
上野 それはできないんですが、スロットをまたいでリレー録画したり、必要なクリップだけをコピーするといった使い方を想定しています。最近はカード容量が大きくなっているので、記録時間は気にされないですね。64GBになると6時間とれる。この使い方するともう充分すぎるくらいです。ドキュメンタリーで長尺回しということもできます。いろいろ伺っていると小さい容量で分けて使いたいという声もあります。価格面もあるし、リスク回避という面もあります。
並川 たとえば4GBとか8GBを使ってロール感覚で、そのまま置いておくという使い方もありますね。
上野 そういう使い方であれば、とりあえずリレー録画さえできればいいので、2スロットは便利ですね。
――音声はリニアPCMですか?
上野 このモデルからリニアPCMを採用しました。パナソニックのAVCCAMシリーズとしては初めてですね。
着脱式だが手持ちでもいける
――あとはスタイルですが、全部つけるとビデオカメラ的ですが、ハンドルやグリップを着脱できるのがおもしろいですね。
上野 もともとの発想はREDなどからヒントを得た部分もありますが、拡張性を持たせられるボディがいいだろうと。そこでハンドルやグリップは外して、そこにいろいろなものをつけられる余地を残しました。ただビデオカメラとしてのスタイルで撮りたいということもありました。というのも小型になっているので、三脚につけるだけでなく、ローアングルから撮るなどアングルをかえて撮るケースも多いでしょう。いろいろ対応できると機動力もあがるということで、あえて着脱式のグリップを設けました。
並川 サードパーティで違うものを開発していただてもいいですし。
上野 そのためにネジの穴をたくさん開けています。
並川 マイクホルダーも2カ所取り付けられるようになっています。
上野 XLR端子も前だと邪魔になることもあるだろうということで、ボディ後部にしました。
いずれにしても、レンズの選択も含めて我々の想像を超えた部分でいろいろ使っていただけるのはないかと思っています。たぶん我々よりもお客さんのほうがアイデアがあるような気がしています。
また細かいところですが、撮像素子の位置に、フックを設けました。ここにメジャーを引っかけて被写体までの距離を測れるようにということです。今までは印だけだったのですが、今回はフックをつけました。
――これは映画用のフィルムカメラにはついているんですか。
上野 大体ついていますね。
――リモート関係は?
上野 これは今までのDVXとHVXのリモート端子を踏襲しています。
――どういうレンズで使えるのですか?
上野 今使えるのはマイクロフォーサーズとフォーサーズのレンズです。ただしできないのはズームですね。それ以外のフォーカス、アイリス、スタート、ストップはリモコンで可能です。今までDVX等で使っていただいているリモコンがそのまま使えます。
――他社のレンズもOKですか?
上野 電気的にはつながっているのですが、動きがレンズによって違うので、パナソニック製は確認しています。オリンパスさんのものもフォーサーズの14-35mmは確認しました。
レンズ選びはどうしたらいい?
――レンズの推奨はあるのですか?
上野 標準としては、GH2などと組み合わせている、HD動画用の14―140㎜を考えていますが、ユーザーとするといろいろな選択肢があり得ると思います。
並川 電気的にやりとりしないのであれば、マウントアダプターを利用していろいろなレンズが付きます。ただマウント部分は1kgくらいまでしか耐えられないので、必ずサポートはつけるようにお願いしたいですね。コンパクトプライムレンズでも2kgくらいあるのでロッドのサポートは必要です。
――たとえば映画用のPLマウントへの変換アダプターはパナソニックさんが用意するんですか?
並川 いや、それは出しません。HotRod社のものがありますし、他からも出てくるのを期待したいです。
――今後、パナソニックさんでレンズを用意するということはありますか?
並川 今のところはないですね。この製品の開発が、「世の中にたくさんあるレンズを活用したい、そのためのボディを用意する」というコンセプトから始まっていますから。
上野 やっぱり画作りにこだわる人はレンズにもお金をかけたくなると思うんです。まずレンズありきという世界かもしれません。だからこのボディに400万円のレンズが付くのもありかなと思っています。最初はマイクロフォーサーズ用でやっていただいて、アダプターでいろいろなレンズを試していただきたいですね。ここはチョイスができる世界ですね。
ビデオ制作とムービー制作
――今後ビデオカメラはどうなっていくのでしょううか?
上野 みんながレンズ交換してクリエイティブに撮るかというとそうではない。ビデオ的にオート重視で撮るシーンもある。一体型で小型で簡単に撮れるビデオカメラは必要です。
とするとオート重視のものとマニュアルで画を作っていくものの二極化するのではないでしょうか。我々としては、ビデオ制作とムービー制作という分け方をしています。二つの世界は目的や使い方が違う。求められるカメラも違うのではないかと思います。AF105はクリエイティブな映像を作りたいという要望に応えられるカメラだと思っています。
――本日はありがとうございました。
インタビューを終えて
上野さんには、DVX100の頃から何度かお話を訊いてきた。
個人的にDVX100を絶賛し、支持してきた私としては、AF100(日本の型番が105)が
DVX100の後継であるというところでもう、嬉しくなってしまった。
ビデオカメラの商品企画をビデオとムービーで完全に二つに分けて考えるというお話も納得できる。すべてがこういったレンズ交換式になっていくとは思えないからだ。
ちなみにこの取材後、発表会場で1080でのスローの映像を見たが、720とは別物のスローであった。
次号では、AF105の実機をテストレポートする予定。
GH2との引きでの解像度の違い、トーンの違い、ローリングシャッター現象の違い
なども検証できる・・・はず(これからです)。
(一柳)