レールの上を走る列車は、通過するときの様子が想像しやすい被写体です。それだけに、事前のアングル設定や露出の決定などを事前に決めることが、良い映像を撮影する基本になります。


◆列車通過時のサイズを予測する
 撮影ポイントに着いたとき、まず列車の通過時のサイズを想像してみてください。背景を基準にしたほぼ同じ焦点距離で、作例1のように線路に近づけば列車は大きくなり、作例2のように離れれば車両は小さく写ります。この時点で背景など全体のバランスを考えて立ち位置を決定します。
作例1
PH72%E5%86%99%E7%9C%9F%EF%BC%91.jpg
▲カメラ位置が線路に近づくと、映像としては車両中心のバランスになる。
作例2
PH72%E5%86%99%E7%9C%9F2.jpg
▲カメラが線路から離れると、映像としては風景的な印象になる。
 現地で列車が来る前に車両のサイズを想定する方法ですが、電化されている区間で撮影する場合は架線が目標物になります。場所や車両によって多少の差はありますが、新幹線を除く在来線の場合、架線までの高さが約5メートル、車両の高さが4メートル弱(線路から屋根までは3.7メートルくらい)、真横から見た場合、架線までの7~8割の位置に列車が来ると考えてください。
問題なのが、ディーゼルカーの走る非電化区間です。在来線の場合、線路の幅が約1メートル、列車の幅が約3メートル、高さが4メートル弱なので、線路幅の3倍の幅と4倍の高さです。ただ、線路に対して斜めにアングルを決めることが多い鉄道映像では、この比較を使うことが出来ないケースもあるので、枕木の間隔や、信号機などを目安に予測して、撮影した映像でチェックするのを繰り返して、経験的に予想できるようにしましょう。
◆走ってくる列車の色を知る
 第2回にも書いたように、タイトに列車を撮影する場合は、ヘッドライトや車両の色に影響されないように固定露出にするのが基本です。この時、走って来る車両によっては補正値を変える必要があります。
 撮影に行く前に、鉄道雑誌などで車両の色や形などを確認しておき、撮影する前にアングルと併せて、何色の車両が通過するか、想定して露出を決めます。比較的明るめの車両や、複数色のカラーリングをされた車両では、背景を基準とした露出で撮影します。
 新幹線など真っ白な車両(作例3)の場合は、背景の緑などに露出を併せると、全体が白飛びを起こして立体感がなくなってしまいます。近くに標識やコンクリートなど白いものがあれば、それを基準に露出をアンダーに補正します。
逆にSLなど真っ黒な車両(作例4)の場合、通常の露出ではSLが真っ黒につぶれて、ディテールが分からない映像になってしまいます。このような場合は、森にある針葉樹や黒い岩など暗いものを基準にオーバーに補正します。ただし状況によって極端に補正してしまうと、背景の絵が不自然になってしまうケースがあります。このような場合、多少の白飛び、黒つぶれは目をつぶって、ぎりぎり背景の色合いが保てる補正が良いでしょう。
作例3
PH72%E5%86%99%E7%9C%9F3.jpg
▲白い車両を撮影するときは露出をアンダー補正しておく。
作例4
PH72%E5%86%99%E7%9C%9F4.jpg
▲逆に黒い車両を撮影するときは露出をオーバー補正する。
 撮影地に着いてから列車が来るまでの間に、どれだけ想像が出来るかで、完成した映像は変わってきます。これも走ってくる時間や場所がはっきりしている鉄道映像ならではの楽しみです。
【今月のムービー】特急ワイドビューしなの

 名古屋から長野方面に向かう中央西線を走る特急ワイドビューしなのです。新緑の築堤を走ってくる列車を撮影するのに架線の高さを基準にして立ち位置と焦点距離を決めました。露出は列車先頭が白いことと、サイド部分がステンレスで出来ているのを考えて3分の2絞りくらいアンダーに補正、背景の山がまだ新緑だったため、黒っぽくつぶれず初夏の山の様子が出てくれました。
【今月のお奨め路線】肥薩線 SL人吉

 熊本県と鹿児島県を結ぶ肥薩線は元々の鹿児島本線、その後、本線が海沿いに敷かれてローカル線になった路線です。そのため、100年前に作られた駅や鉄橋、トンネルなどが点在する昔なつかしい雰囲気に包まれています。昨年からは冬を除く休日を中心にSL人吉が一日一往復走り始めました。この機関車も大正生まれの機関車、肥薩線によく似合います。一番の撮影ポイントは鎌瀬駅近くの鉄橋(写真は午後の上り列車)で(※)、いろいろなアングルを選ぶことが出来る楽しいポイントです。ゴールデンウイーク頃は新緑が美しくなります。夏になって山が深い緑になると、SLが背景につぶれて見えにくくなるので、新緑の季節が特にお薦めです。
※現在、荒瀬ダムの放水により水位が下がっています。
【筆者プロフィール】佐々倉 実
tetsu_02.jpg
鉄道映像作家。小学生の頃から鉄道写真を始め、大学生の頃、当時鉄道員をしていた今井洋氏と出会って以来、製作活動をともにする。現在は、佐々倉氏が撮影、今井氏が編集を担当し、雑誌やDVDパッケージを中心に鉄道ビデオを製作している。DVDに『魅惑の蒸気機関車 四季SL紀行』、『日本の鉄道 新幹線・特急編/蒸気機関車ローカル線編』などがある。2010年7月に『感動の美景鉄道』(MAXAM)が発売予定。
鉄道写真どっとネット(http://www.tetudousyasin.net)を運営。
鉄道ムービーコーナーに戻る