Report◎渡辺知憲(マリモレコーズ)
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ブラックマジック
HyperDeck Shuttle
29,980円(本体のみ/SSD別売)


ファイルベース時代に外部収録機器が注目される理由


 部収録機器を使った撮影スタイルが現場で支持され始めている。その理由は大きく分けて2つある。
 まずひとつ目は、映像記録をリアルタイムでバックアップしておきたいという理由だ。収録の運用がファイルベースになり、「データ消失」という想像もしたくないようなアクシデントの可能性が付きまとうようになった。もちろんそのような事態は今でこそあまり耳にすることは少なくなったものの、100%安全・堅牢とはいえないデータ収録において、一瞬にしてすべてのデータが飛ぶことは有り得ないことではない。
同時に2回線で収録できれば安心と安全のレベルが一気に増すため、外部収録は大きな保険になる。
 もう一つはカメラ内蔵の記録よりも高画質の映像を手にしたいときだ。特に最近のカメラコーデックはPCでの運用を効率的に行えるように設計されているため、映像のビットレートは20Mbps~50Mbpsである。もし高精度なCG制作を行うための素材を記録したい場合はさらに高いビットレートを求める人も多いだろう。
 もちろん純粋に「高画質」にこだわるプロジェクトの場合などは、内蔵記録をバックアップとして捉えて外部収録を本線として運用することも可能だ。予算規模やプロジェクト自体が大きくなるとこういった外部収録のスタイルはよく目にしたものだったが、手ごろな外部収録機器がいくつか発売になり、今では誰でも簡単に扱える時代になってきた。

HyperDeck ShuttleはSDIとHDMIに対応


そんな中、今回ブラックマジックデザイン社から発売になった10ビット非圧縮映像の外部収録器であるHyperDeck Shuttle(ハイパーデックシャトル)は驚きのコストパフォーマンスを実現した。
なんとその価格は29,980円。もちろんモニターは別だし記録用のSSDも別ではあるものの、この価格は「外部収録」というハードルを一気に下げることになるだろう。
さらに素晴らしいのは、インターフェイスにHD-SDIとHDMIの2つを入出力ともに採用していることで、家庭用ビデオカメラからハイエンドのカメラまでをカバーできるためその可能性は大きい。
シンプルでわかりやすい設計に加え、その大きさは約11cm×15.5cm、厚みも2.8㎝とコンパクトさを極めている。
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▲Mini Din SDIと19ピンのHDMI入出力が備わっている。USBコネクタは今後のファームウェアアップデートのためのものと思われる。AC電源駆動させることもできるが、リチウムポリマーバッテリーを内蔵している。
汎用的な2.5インチSSDを記録媒体に採用することで、その運用も簡単だ。ブラックマジックデザイン社が6月の時点で動作保障しているディスクはOCZ Vertex3 (240GB)、KingStone V+(64GB)、Crucial C300(256GB)、Crucial M4(256GB)の4台で、今後の対応も含めて確認をしておく必要があるだろう。
まるでVTRのように、使うメディアを抜き差しする「カセットスタイル」はスタイルに応じて容量を決められるだけでなくSSDを収録テープのように扱うことが可能だ。衝撃や振動に強い高速なSSDを採用することで、10ビット非圧縮という超高画質な映像をいろいろなシーンでワークフローに取り入れられ、まさに次世代の外部収録の形を垣間見た気がした。
そしてもうひとつ特筆すべき点は、バッテリー駆動できるということだ。フィールドレコーダーとして使用できるということは、ロケなどで大変重宝されることになるだろう。

AVCHD記録でなく非圧縮


今回使用したカメラはパナソニックのAG-AF105だ。このカメラはフォーサーズサイズのCMOSを搭載する注目のカメラで、ポストシネマカメラとしての位置づけで多くのクリエーターに支持されるカメラ。ただし収録がAVCHDであるために、せっかくのカメラスペックを充分に反映しきれていないという声もある。
このカメラこそHD-SDIを通じて外部収録することで、大判CMOSが捉えるフィルムライクな美しい映像をさらに活かすことができるだろう。10ビット非圧縮で記録できるHyperDeck Shuttleとの相性はそういった意味で抜群だ。
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▲パナソニックAG-AF105との組み合わせ。AF105はSDカードによるAVCHD方式。HD-SDI OUTからカメラスルーの映像をHyperDeck ShuttleにHD非圧縮で記録できる。

使い勝手はどうなのか?


 
まず初めに、HyperDeck Shuttleで使用するSSDはHFS+でフォーマットする必要があるので、別途SATAのインターフェースを用意してMacでフォーマットするか、PCの場合はMac Driveなどのシェアウェアをインストールしてフォーマットしなければならない。今回使用したSSDは動作保障されているKingStone V+ 64GB、そしてもう一枚BUFFALOのSSD-N64S/MC400 64GBが正常に動作するか検証を兼ねて撮影を行なったが、2台とも動作に問題はなかった。
HyperDeck Shuttleとカメラを繋ぐにはMini Din SDI-BNCの変換ケーブルが必要である。今回は推奨のカナレ電気の「D3FBC05E-/D-SB」を使い、AF105のHD-SDI出力からHyperDeck ShuttleのSDI入力にケーブルを繋いだ。さらにもう一本同じケーブルで、HyperDeck ShuttleのSDI出力からモニターのSDI入力に繋げばスルーアウトでモニタリングができ、プレイバックも簡単に行える。
当然音声もエンベデッドで出力される。感心したのは一番左のRECボタンを押すと、瞬時にRECが始まることだ。SSDの恩恵は防振ということだけでなく、駆動部がないためとにかく反応が早いことだろう。また使用している際には、常時ボタンのインジケーターが点灯するようになっていて、昼間の屋外でも充分な視認性があり使い勝手はひじょうに良かった。
内蔵のリチウムポリマーバッテリーは連続約1時間の録画が可能なのでHDなら512GBのSSDをちょうど使い切る感じだ(再生モードは連続約1.5時間)。もちろんAC電源駆動も可能である。
編集のワークフローとしてSSDのデータをPCにコピーしてから編集を行うのではなく、SSDの中に直接編集データを作成しプロジェクトを展開することが可能だ。膨大な容量を持つHD非圧縮ファイルをコピーせずに直接編集できるというのがSSDの最大の魅力である(再生するにはBlackmagicコーデックをサイトからダウンロードしインストールする必要がある)。
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▲HyperDeck Shuttleで外部収録するのと同時にAG-AF105本体でバックアップとしてSDカードにAVCHD記録。内蔵バッテリーによりフィールドで使いやすい。カメラとの結線は一本だけ。さらにSSDならではのレスポンスが機動性をアップさせる。これ以上コストパフォーマンスを発揮するフィールドレコーダーは他にない。

非圧縮のメリットはどこにあるのか?


カメラの内蔵記録であるAVCHDは、人間の目にはほとんどわからない範囲でうまく圧縮をかけ、なかなかきれいな解像力を見せている印象がある。
しかし我々が水面を記録した際に、24Mbps(平均21Mbps)のAVHCDであっても細かく動く部分などはビットレートが追いつかずよく見ればブロックノイズが出てしまっていることがわかった。
一方で約1300Mbpsもの情報量がある10ビットHD非圧縮の映像はさすがに「完璧」である。実際の映像を拡大して見比べてみるとその差は明らかであり、非圧縮映像は水面のさざなみもブロックノイズが出ることなく余裕を感じさせる解像力である。
そして何といっても非圧縮映像が威力を発揮するのはVFXなどのグリーンバック合成作業においてであろう。髪の毛や細かいレース生地は明らかに抜けの精度が異なるため、マッチムーブなどの精度も格段に向上するに違いない。またカラーサンプリングが4:2:2、色精度も10ビットなので、カラコレでカーブをかけてもカラーノイズやバンディングノイズは極めて出にくいといえる。カメラやレンズの光学性能はどんどん上がってきているので、その性能を損なうことなく記録できる非圧縮映像はこれから需要が高まるかもしれない。
ちなみに今回は60iと24pの二種類をテストしてみたが、HyperDeck Shuttleはフレームレートが混在しても問題なく連動することがわかった(ただしAF105はSDI出力の設定を変更しなければならないので要注意)。また補足として、HDMI入出力にも対応しているため幅広いカメラ機種においてユーザーニーズに応えることができる。
●AF105本体でのAVCHD記録とHyperDeck Shuttleでの非圧縮映像記録の違い
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▲AVCHD記録(画像をクリックすると原寸大の画像が開きます)
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▲HyperDeck Shuttleでの非圧縮映像の一コマ(画像をクリックすると原寸大の画像が開きます)
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▲AVCHDの部分拡大
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▲非圧縮の部分拡大
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▲AVCHDの部分
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▲非圧縮の部分

総括~個人的に買いの一台


 HyperDeck ShuttleのHD非圧縮映像は、HDCAM-SRよりも3倍以上高いビットレートを持ちながら、汎用SSDを使うことで圧倒的なコストパフォーマンスを発揮する。課題としては、SSDは奥まで差し込むだけで特にロックがかかるようにもなっていないので若干心もとない感じがするのと、SSDなので振動や衝撃には強いだろうが、防塵対策はしなくていいのだろうかと思う点だ。
 あとは現場で本体をどこに固定させるかという問題があり、カメラか三脚かモニターに養生ケースごとマウントできると快適性が増し防塵対策にもなるだろう。今後サードパーティ製などのサポート機器などに期待したいところだ。しかし必要に応じて相応のSSDとモニターやケーブルなどを用意する必要があるものの、最低限のユニットで購入できる魅力は個人的には大きいと感じた。SSDの値段がもう少しお手ごろになれば、さらにHyperDeck Shuttleの活躍する場面は増えるに違いないだろう。間違いなく「買い」の一台である。
マリモレコーズのホームページ
http://www.cybermarimo.com/
HyperDeck Shuttleのメーカーの情報ページ
http://www.blackmagic-design.com/jp/products/hyperdeckshuttle/