数々のUSTREAM配信をこなしてきたJUNS
今や、様々なイベント中継で使われるようになったUSTREAM。映像制作機器とPC&ネット環境の両方の分野にまたがるために、今まで撮影から送出までの機材選びにおいて試行錯誤がなされてきた。その黎明期から今まで、積極的に機材の実験を繰り返し、実際に数々の大規模なUSTREAM放送に関わってきたのがJUNS(ジュンズ)だ。
▲今回取材したJUNS UST-DON HDの開発に関わったメンバー。右からJUNSの須藤香氏、山中潤氏、StreamCowboysの三鍋真弓氏。
きっかけは、昨年2月、ソラノート企画田原総一郎氏の第1回「朝までダダ漏れ討論会」に関わったこと。このときは、JUNSが用意したVenus MobileというDAW PCをUSTREAM用にモディファイしたものを使用したという。入力はi.LINK→コンポジット変換で、ローランドのアナログスイッチャーを使用した。
その後USTREAMのために機能強化したJUNS Mobile Casterを開発。このモデルは、HD-SDI入力を装備するBlackmagic Design(ブラックマジックデザイン)社のDeckLink Studioを使用することで、業務用のHDカメラを利用でき、かつHDでの配信も可能になった。このモデルでは、昨年5月の「孫正義×佐々木俊尚 『光の道』対談」、同じく6月の「向谷実×中西圭三プロジェクト~向谷倶楽部・公開レコーディング」、今年1月の「第8回『ヘンデル・フェスティバル・ジャパン』浜離宮朝日ホールからのクラシック生中継」、2月から配信されている「鹿児島テレビによる新燃岳噴火ライブ動画配信」、2月の「TOKYO No.1 SOUL SET+Ladies『全て光』ALBUM RELEASE PARTY」などで使われた。
●それぞれの導入事例はこちらから
http://www.mediapc.jp/jirei
このMobile Casterをより小型化し、カメラからの入力として、最近の家庭用から業務用カメラにすべて搭載されているHDMIを入力として想定したモデルが、新製品のUST-DON HD(愛称:UST丼)だ。これは、持ち運びがしやすいコンパクトなPCケースに、約3GHzの高速な4コアCPUとGPGPU/CUDAに対応した高速グラフィックを搭載したハイパフォーマンスモデル。ソフトやアプリケーションの起動速度に優れたSSDをシステムにし、データ保存用としては2TBのHDDを採用。USTを強く意識した信頼性の高いマシンとなっている。
▲UST-DON HDはひじょうにコンパクト。接続しているカメラはキヤノンの家庭用AVCHDカメラ(HDMI接続)とロジクールのWEBカメラ(USB接続)。
入力は前述したようにHDMIの入力を持つ、ブラックマジックデザインの入出力ボード、Intensity Proを採用。ボード自体、奥行きが短いので、コンパクトなPCケースに無理なく収めることができる。
▲ Intensity Proのボードはひじょうに短い設計。向かって右側がHDMIの入出力。アナログ入力は付属のマルチケーブル(左側の専用端子に接続)を利用する。
▲Usteam Producer Proのプロパティを開くと、Intensity Proが挿さっていれば、HD入力を選択することができる。8bit 4:2:2 YUVを選択。
入力はi.LINKではなくHDMI
HDMIであればカメラ選びに困らない
これまでHDでのUSTというと、i.LINK端子を利用したHDVがメインだったり、SD解像度であっても、同じくi.LINK端子を持つDVカメラを使うということが多かった。しかし、現在のビデオカメラはDV/HDVカメラは入手しにくくなっており、今からUSTを始めたいという人にとっては、カメラの選択肢という意味では、HDV/DVカメラはやや不自然であった。
HDMIであれば、現在のビデオカメラのほぼすべてで採用されており、しかも1本で接続することができる。HDMIの場合は、長いケーブルがないのだが、リピーターを利用すれば延長することもできる。たとえSD解像度であっても、特にプログレッシブ出力が可能なHDMI搭載カメラからの入力であれば、コンポジットビデオ→DV変換→DV入力という経路よりも圧倒的に高画質になる。
UST-DON HDでは、Intensity Proの機能として、アナログコンポーネントやコンポジット、音声の入力も付属のマルチケーブルを利用して可能。このコンパクトなボードを挿すだけで、PCが高機能な入力ボックスになるわけだ。
スイッチャーやオーディオインターフェイスなどの周辺機材を増やさずに、このUST-DON HDとカメラ、モニターだけですぐに配信できるのがこのモデルのコンセプト。したがってHDMIに接続できるカメラは1台だけ。もう一台カメラが欲しい場合は、USB接続のWEBカメラを利用すればよい。
このUST-DON HDは、UST配信用のソフト、Usteam Producer Proが最初からインストールされているだけでなく、ハイビジョン編集ソフト、VEGAS Movie Studio HD Platinumが入っているので、単なる配信用PCではなく、編集用PCとして使うことができる。たとえば事前にライブなどを録画し編集した後で、UST-DON HD内に保存しておけば、放送中にはそれを「VTR」的に流すことが簡単にできるし、配信を記録した録画を編集することもできる.
▲Intensity Proの付属ソフトMedia Expressのキャプチャーファイルフォーマットの設定部分。
Intensity Proは付属のMedia Expressというソフトを利用すれば、HDMIからの入力をMotion JPEGに変換してHDDに記録できるので、それを編集素材として使えばよい(非圧縮でも取り込みは可能だが、編集することを考えると非現実的)。またVEGAS Movie Studio HD Platinumは著作権フリーBGMの自動作成ソフトが付属しているので、別に音源を用意する必要がないのもメリットだ。
さらにUST用のソフトを、WirecastでもHDMI入力をHD解像度で扱うことができる。Wirecastは従来のバージョンでは、Intensityしか対応していなかったが、最新版では、DeckLink SDIにも対応しているという。実際にUST-DON HDの上位モデルとしてUST-DON SDIもあり、コンパクトなモデルでSDI搭載のカメラを利用することができる。
▲Wirecastの設定画面
現状では、PCはトラブルが怖くて、使えないと思っている人もいるだろう。しかしUSTの場合、配信ではどうしてもPCを使うことになる。であれば、できるだけ信頼性の高いマシンを使い、機能をなるべく統合して、機材をコンパクトにするという方向性はあるだろう。
PC分野の進化は専用のハードウェアタイプの映像機器の進化よりも早い。今はUSTはHD解像度ではなく、SDでの配信ということが多いが、すぐにHD化の要求が出てきるだろう。少なくとも720pが欲しいということになるはずだ。
圧倒的なコストパフォーマンスの良さで
PCが映像制作システムの核になっていく時代
JUNSでは、PCがビデオやオーディオなどあらゆるジャンルを飲み込み、すべてのシステムの核になっていくという。それがもっともフレキシブルで、コストパフォーマンスが高いからだ。たしかにこのUST-DON HDは、HDMIとアナログ入力のある録画デッキであり、HDスイッチャーであり、HDテロッパーであり、そして配信機である。ここの機能を高め、信頼性を高めていき、業務でも使えるシステムにしていくことが、もっとも求められる。
そのためにはまず映像機器とのインターフェイスが重要になってくるが、その部分をバックアップするのがブラックマジックデザインのボード類だ。JUNSは、おそらく実験のためにコンバーターも含めてブラックマジックデザインの製品を日本で一番購入しているのではないかというくらいに買っては検証しているという。その結果として選ばれたのがブラックマジックデザインで、実際にUST用PCのインターフェイス部分は、UST-DON HDはIntensity Pro、その上位のUST-DON HDはDeckLink SDI、Mobile CasterはDeckLink Studioと、すべてブラックマジックデザイン製。目立たないところだが、JUNSのUST用PCをしっかりと支えているのだ。
▲JUNSのUST用スタジオにあったブラックマジックデザインのコンバーター各種。
JUNSのホームページ
http://www.juns.jp/
ブラックマジックデザイン(Blackmagic Design)のホームページ
http://www.blackmagic-design.com/jp/