米国アカデミー賞公認、アジア最大級の短編映画祭「ショートショート・フィルム・フェスティバル&アジア」(SSFF & ASIA 2010)の関連イベントとして、キヤノンが主催する「キヤノンフル HDムービー ワークショップ」が6月12日と14日、表参道ヒルズ「スペース オー」と横浜「ブリリア ショートショート シアター」にてそれぞれ開催された。
「ビデオサロン」編集部が企画協力。キヤノンのデジタル一眼レフカメラEOSシリーズを使用した「EOS MOVIE」作品の上映&制作話や、EOSと最新の業務用カメラ「Xシリーズ」によるフルHDムービーのワークショップなど、盛りだくさんの内容。このうち、6月14日のイベントの模様をお伝えする。
スクリーンサイズで見てもきれい
第1部は、SSFF & ASIA 2010のために特別製作されたEOS MOVIEによる作品2本の上映と、それぞれの制作者にお話を聞くトークセッション。司会進行はビデオサロン・一柳編集長。
まずは、「ミュージックShortクリエイティブ部門」特別作品「ゆっきーな」を上映。タレントの木下優樹菜が主演、大黒摩季「あなただけを見つめてる」を楽曲に使用した約11分の作品。妻を亡くした大物政治家のもとに、彼女の友達と名乗る「ギャル」が訪ねて来る。渡されたビデオ映像には妻の意外な姿が。そこから過去がフラッシュバックする。
この作品を監督した渡邊世紀監督と撮影監督であるカメラマン・百瀬修司氏が登壇。「ギャルが政治家の妻になる、単純に言ってしまえばそれだけ」という渡邊監督の説明とはうらはらに、短い時間の中で過去と現在が複雑に絡み合うひじょうに凝った構成の作品。それだけに絵コンテが重要で、渡邊監督の手による絵コンテには役者の表情まで細かく描き込まれていた。アップのカットが多用されており、人物の表情が大切な要素になっているわけだ。
渡邊監督も撮影監督の百瀬氏もEOS MOVIEで撮るのは初めてで、EOS 7Dを2台使用。「正直、スチル用の一眼カメラで本当にちゃんと撮れるのかと不安でしたが、仕上がりを見て驚いた。今日、このでっかいサイズで見てこんなにきれいなのかと改めてびっくりしました」(渡邊監督)
Final Cut Proで編集。色味はノーマルで撮影して、Final Cut Studioの「Color」というソフトで調整している。通常とは逆で、回想シーンを鮮やかに、現在のシーンの色を少し落としているのがミソだ。完パケはHDカム/24フレームで、24pで撮影して、全て24コマで作業を進めている。
島民も交えた撮影で機動力を発揮
続いて、「旅シヨーット!プロジェクト」の特別作品「青春マンダラー!」を上映。柏原収史、知念里奈主演で、舞台となった沖縄県・竹富島の長寿祝いの祭りを題材とした作品。おばあのマンダラー祝いで島に戻り、久しぶりに再会した二人。しかし、祝いの直前におばあはあっけなくこの世を去ってしまう。遺された日記から、密かにおばあが再会を心待ちにしていた人がいたことを二人は知る。
この作品の監督である田嶌直子氏が登壇。この作品はEOS 5D Mark Ⅱで撮影を行った。まず、機材が小さいこと、それと現地には機材屋が1件しかないため、現地でも用意にパーツ類が揃えられることがポイントとなった。また、この作品では住民わずか350人の島から、150人もの人が役者やスタッフとして参加している。カメラ慣れしていない出演者も多いので、そういった人たちにとって威圧感が少なくて済むメリットもあったという。
そして、なんと言っても機動性の高さだ。「おじいちゃんやおばあちゃんが多いので、あまり待たせられないんです(笑)。5D Mark Ⅱはすばやく撮れるので助かりました」。主役の二人と違って、コンテ通りに演出するのは困難で、アドリブ的な撮影スタイルでどんどん撮っていかなければならなかった。そうした場面で強みを発揮した。一般客もいるフェリー内の撮影でもセットアップが簡単。また、今回はハンガードリーという40cmほどの超小型の移動撮影台車を使用、これが大いに役立ったそうだ。他には私物のビューファインダーを持参、光が強い土地なのでこれも重宝した。
光はポスプロでいじれるようノーマル設定で、外の強い光の下ではハイを抑え気味に撮った。薄暗い室内では、照明は1基のHM1ライトのみで、あとは電球の光を少し強くしただけで臨んだが、暗いのにしっかり撮れていることに感心したそうだ。35mmでCMを撮る機会が多い田嶌監督は、「自然光の中では35mmと同等の画質」と評価し、CM業界でも5D Mark Ⅱに注目している人がたくさんいると語った。
1部の締めくくりとして、再び渡邊監督と百瀬氏が登壇し、田嶌監督と3人でEOS MOVIEで撮ることの意義について語り合った。「スチルのような画質でムービーが撮れてしまうのはすごいこと」(渡邊監督)、「スピードの速い動きでパラつくなどの課題はありますが、画はきれいだし、大きな可能性を感ます」(田嶌監督)、「ローリングシャッター現象など解決してほしい問題はあるが、映画でもEOS MOVIEはどんどん使われ始めている。すでに持っている人も多いし、ハマッている人もいる。導入を検討している人もいて、自分もまさにそうです」(百瀬氏)
左から田嶌直子監督、渡邊世紀監督、カメラマン百瀬修司氏
XF305とEOS 5D Mark Ⅱで作るPVワークフロー
第2部は電報児の田村隆匡氏が、6月に発売されるキヤノンの最新業務用カメラXF305/300をメインに、EOS 5D Mark Ⅱをサブで使用して制作したミュージックビデオのメイキングとワークフローを解説した。アーティストを主にブルーバック撮影し、CGをメインとした背景と合成するもので、編集には最新のAdobe After Effects CS5を使用している。制作日数は4日。
このブルーバック撮影では、なんとカメラを横に傾けてセットアップ、縦位置で人物の全身を撮影している。横位置のまま人物を撮ると無駄が多くなるためで、画素を有効に活かすためでもある。当然、After Effects上で90度傾けて背景と合成している。XF305はMPEG2の4:2:2という高ビットレート記録を実現しており、HDVと比較して色深度が2倍程度深く、合成作業で大きな差となって現れるという。
5Dでは、スチルでバラの花を撮影、CGで作った背景に、「キーライト」で抜き出した人物を重ね、さらにその手前に花を重ねている。花は「パペットピンツール」で揺らして、動きをつけている。
ハウススタジオを使った撮影では、XF305をクレーンに取り付けて使用。電動雲台で動きをコントロールし、フォーカスを含めフルオートで撮影している。5D Mark Ⅱのほうは85mmのポートレート用のレンズを使い、近距離から撮影しボケ味を活かした。レンズが明るいので、照明は控えめにして間接光を活かすようにした。1920×1080のフルHDサイズで撮って、キーフレーム内で移動させてブレたような味付けを行い、CGと合成、色補正して仕上げている。
ここで問題となるのはXF305と5D Mark Ⅱの色味の違い。前者が「ビデオカメラ的」な色合いを示すのに対し、後者はスチル用ということでやや濃い色合いを示す。若干の違いがあるので、レベル補正で両者を合わせているとのことだ。
XF305はEOS 5D Mark Ⅱと同様に、記録メディアにCFカードを使用する。上下2段に差し込めるようになっており、撮影後はすぐCFカードリーダーでMacにバックアップし、そのままAfter Effectsに取り込む。その所要時間は約3分。交互にバックアップすることで、2枚のカードで使い回しが利くという。