写真とカメラの展示イベント「CP+」(シーピープラス/2月9日~12日)に合わせて、横浜・みなとみらいの「ブリリア ショートショート シアター」で2月11日・12日の2日にわたり開催されたキヤノンの「EOS MOVIE スペシャルセミナー」の模様をレポートする。
大型センサーがもたらす美しいボケ味、レンズ交換による表現力、機材が小型で低コスト、かつ機動力が高い等のメリットを持ち、登場以来、映像制作業界において大きな注目を集めてきたEOS MOVIE。映画、テレビCM、ミュージックビデオなど、その活用事例を紹介しながら制作者に話を聞いていく。会場の「ブリリア ショートショート シアター」はショートフィルム専用の映画館で、本格的なスクリーン上映により、EOS MOVIEの魅力を充分に味わえる。
左から2番目が佐藤啓(ひらく)氏、その右隣が犬童一心氏、右端が宮本敬文氏。左端は司会のコマーシャル・フォト小川編集部員。
スペシャルセミナー第1弾は「映像と音楽のコラボレーション作品『にほんのうたフィルム』におけるEOS MOVIEの活用事例」として、ADKアーツ取締役 CM・映像本部 チーフプロデューサーの佐藤啓氏、映画監督/CM・映像ディレクター犬童一心氏、フォトグラファー/ムービーキャメラマン宮本敬文氏の3名を迎えて、トークを展開した。
まずは、「にほんのうた」プロジェクトについて紹介していこう。ゆとり教育による音楽授業の削減等の影響で、古くからの唱歌・童謡が歌われる機会がどんどん減っている。そのことを憂慮した音楽家・坂本龍一氏の呼びかけで、古くからの唱歌・童謡を歌い継いでいこうと、多くの音楽家・アーティストが参加してこのプロジェクトが立ち上がった。全部で44曲が取り上げられ、春夏秋冬でまとめた第一~第四集の4枚のCDに収録され、坂本氏が主宰するcommmonsよりリリースされている。
それらの楽曲とのコラボレーションで、18人の映像作家がオリジナルショートムービー「にほんのうたフィルム」を制作。そのうち10本はEOS MOVIEで撮影している。「曲を聴いてこれは素晴らしいと思い、これでショートムービーを作りたいと思ったのがきっかけでした」と佐藤氏。18人の監督が制作しているが、あちこちに声をかけていくうちにたまたまそうなった。どの楽曲を映像にするかは、それぞれの監督に「どの曲だったら(映像を)作りたいか」と聞いて選んでもらったという。
佐藤啓氏
ADKアーツ 取締役 CM・映像本部 チーフプロデューサー
「にほんのうた」実行委員長を務める
ストーリーをつけずに歌に寄り添うための振付
「にほんのうたフイルム」の中から、EOS MOVIEで撮影された作品のうち5本を上映。そのうち2本は、このセッションの登壇者である犬童一心氏と宮本敬文氏の作品だ。
犬童一心氏
映画監督/CM・映像ディレクター
高校生の頃から自主映画の製作を開始。朝日プロモーション(現ADKアーツ)でCMディレクターとして多数のテレビCMを手がけ、映画監督として1993年長編デビュー。
主な監督作品『ジョゼと虎と魚たち』『メゾン・ド・ヒミコ』『眉山-びざん‐』[『グーグーも猫である』『ゼロの焦点』
犬童監督が取り上げたのは、北原白秋作詞「この道」(唄・大貫妙子)。実は犬童監督が手がけた「ゼロの焦点」の中でもこの歌を取り上げていて、出演者に歌ってもらう際に、大貫さんが歌ったものを参考にしていたという。
この作品は5箇所でロケを行っているが、それぞれの出演者が振付に合わせて踊る。これについて犬童監督は、「(人が)歩いているとこの曲のイメージが湧くが、そこに振付がつくのはあまりなかった。心の中にある気持ちがパーッと出てくる感じを表現したかったのと、映像にストーリーをつけたくなかったというのがある」と説明。余計なストーリーをつけずにあくまで白秋の詞の世界に寄り添う形を目指した。
振付を担当したのは香瑠鼓(かおるこ)氏。以前にも犬童監督とは仕事をしており、「彼女の振付にはどこかおかしなユーモアのようなものがある。踊るには不向きな歌だけど、彼女ならできると思いました」。一緒に組むと決めたらなるべくその人に任せて自分の意見は出さないと言い、ロケ地も香瑠鼓氏にセレクトしてもらっている。唯一、ミツバチの着ぐるみだけは、「一つぐらい“人以外”のものがあったほうがいい」との監督の判断で登場させている。
撮影にはEOS 5D MarkⅡを使用。EOS MOVIEは初めてだったというが、使ってみて「何かが崩れた」感じがしたという。「(映画の撮影においては)ムービーカメラの大きさと形があることが重要な意味を持っていた。それは儀式的でもあるけれど、それが(小さな5D MarkⅡになって)肩透かしを喰らったような感じ。でもそれがよかった」。機材が小型になり仰々しさが消えたことで、現場がリラックスした雰囲気になった。それをこの作品では積極的に活かした。
全編同じレンズを使用して引きのカット。テスト撮影ではアップがすごくいい感じだったが、歌に寄り添うというコンセプトに合わせて表情には寄らない考えで通した。
1回撮りで「ドキュメント」していく
宮本敬文氏が取り上げたのは「荒城の月」(唄・曽我部恵一)。作中では、主人公の男性の父親が生前歌ってくれた曲という設定だが、これは宮本氏本人の体験がそのまま下敷きになっている。自分がまだ幼い頃に若くして亡くなった父。その父が遺したメッセージ、今の自分が子どもにしてあげられること。「子どもにとって親というのは、ものすごく“偉い”存在。でも、決して偉くないただの一人の人間であって、いつかは死ぬ。そういったことを込めました」。
宮本敬文氏
フォトグラファー/ムービーキャメラマン
SMAPドキュメンタリー・フォトブック「Snap」、中田英寿写真集「戦いの前の素顔」「Amore Pace」などを手がけ、雑誌や TV-CF、CDジャケット、広告写真などでも注目される。
宮本氏は基本はキャメラマンであり、演出まで手がけるのは今回が初めて。「演出は難しかった」と振り返るが、なるべくシンプルな言葉で出演者に意図を伝え、基本的に各シーン1回しか撮らないという手法をとった。「本番一発で、それをドキュメントしていくような感じ」
父の回想シーンなどの「過去」はモノクロ、現在のシーンはカラーという風に分けているが、カラーの中でも編集で色を上げたり下げたりして、トーンの違いで時間軸を表現したという。
EOSはいろいろ使っているが、ムービーカメラとしてのEOSは、まさに自分が求めていた「大きさ」だと宮本氏。「ムービーの仕事はいろいろな人が関わっていて、コミュニケーションがとれなくて、自分には大きすぎた。僕は基本的に何でも自分でやりたいほうの人間なので、撮影だけでなく編集も自分でやり、色も作れて音も自分で入れられる。スチルカメラマンが勉強して、あとはアイデアさえあれば入っていける、そんな大きさのものがやっと出てくれたという気持ちです」
「にほんのうたフイルム」は「青盤」「赤盤」の2枚のDVDに9曲ずつが収録され発売中。キャラバンによる上映会も積極的に行っている。昨年は30箇所を回り、会場から大合唱が起こるなどひじょうに良い反応があったという。今年も全国の学校などから問い合わせが来ているほか、多くの日系人が住むブラジルでの上映会も決定している。「次は緑盤、黄盤を作りたい」というのが佐藤氏の希望だ。
にほんのうた実行委員会サイト http://www.nihonnouta-caravan.com/