No.30「After Effectsで雨を降らせる(前編)」
作例・文●タイム涼介
映画も撮る漫画家・タイム涼介さんの連載「トリタイ映像研究所」。今回はAfterEffectsの標準搭載のエフェクトを使って、雨を降らせてみようという試み。前編はフラクタルノイズを使って曇り空を、後編はCC RainfallやCC Snowfallを使って雨や雪を降らせます。
今月の動画『晴れていたかと思ったら突如雨…』
撮影・編集:タイム涼介/助手ガール:松井琴乃
曇り空の作り方
【STEP1】黒い平面を作り、フラクタルノイズを適用する
➊「レイヤー」メニューから「新規」>「平面」を選択。
➋「平面設定」で黒の平面を作る。平面の色は何色で作っても問題ない。
➌平面に「エフェクト」から「ノイズ&グレイン」>「フラクタルノイズ」を適用する。下は黒平面に適用した状態。
フラクタルの種類を「曇り空」に設定する
➊エフェクトコントロールでフラクタルノイズの「フラクタルの種類」を「曇り空」に設定すると右のようになる。
➋ノイズの種類を「スプライン」に設定。
➌明るさを「ー20」に設定。
【STEP3】3Dレイヤーに設定して奥行感を演出
➊3DレイヤーのスイッチをONにすると、青枠のような表示が現れる。
➋レイヤーの▶を展開して「トランスフォーム」>「X回転」を黄枠のように設定すると、右のようになる。
➌次に「スケール」を500%に設定した。
【STEP4】雲に動きをつける
➊時間インジケーターを0秒に合わせて、エフェクトコントロールのフラクタルノイズ内になる「展開」のキーフレーム(黄色枠)をクリックする。
➋時間インジケーターを20秒地点に移動して、「展開」を180度にしてから、キーフレームを設定する。こうすることで雲のうねりを表現できる。
➌雲の動きをつけるための作業。0秒地点で「乱気流のオフセット」の黄枠部分をクリックしてキーフレームを設定。緑枠のマークをクリックすると、青枠のような十字の表示に変わる。ここが動きの開始点になる。
➍時間インジケーターを20秒地点に移動し、動きの終了点を設定する。➌の位置よりも上に配置するとキーフレームが打たれ、奥から手前に雲が流れる動きになる。
【STEP5】空とビルの素材を合成する
➊フラクタルノイズを適用した平面の上層にビル群の素材を配置する。
➋ペンツールを使って、ビル群の輪郭のマスクを切る。
➌ビル群の輪郭を囲んだ状態。描画モードを「加算」にすると、背面の曇り空が表示される。
➍できたマスクの「マスク拡張」を-1.0に設定し、マスクの範囲を狭めることで建物がシャープに見えるように調整した。
➎エフェクトコントロールでビル群の素材の露出を-2に設定して、曇り空と馴染ませる。
自主制作映画の監督は撮影日が近づくと天気予報ばかり見ている。野外撮影で雨が降ったら本当に大変だ。延期して再びスタッフのスケジュールを抑えれば、たちまち予算オーバー…。ではその逆はどうだろうか? 雨のシーンが欲しかったら。偶然雨の日を待つというのは無謀だし、かといって人工的に雨を降らすには高額な予算が必要だ。この場合は脚本から見直し、そんなシーンは初めからなかったことにする。急な夕立に見舞われ、雨宿りしながら時計を気にする。そんなベタなシーンは頭から消し去るのだ。しかし一度頭に浮かんだものは忘れがたく、そして実際に雨のシーンが1カットでもあれば物語にアクセントを付けられる。日にちの経過を表現するのにも便利だ。
After Effectsならそんな苦しみから解放してくれる。標準搭載のエフェクトに「CC Rainfall」がある。これは非常にシンプルな作りで初心者にもとっつきやすい。しかし単体で使っても演出効果は大きくない。晴れた空に雨を降らせてもそれらしくは見えてこない。雨を降らせるには雨雲が必要だがCC Rainfallは単純に上から下に降る雨を描画するだけものなので、今回は別のエフェクトを使って雨雲を作る方法を解説する。After Effectsに古くから標準搭載されている「フラクタルノイズ」というエフェクトがある。名前にノイズとある以上ノイズエフェクトのカテゴリーに入っているが、フラクタルもノイズも忘れてモヤモヤっとしたものを作るエフェクトだと考えて良い。
上級者にとっては汎用性が抜群で使い方次第でどんな形にでも変化すると言われるフラクタルノイズ。正直、私はまだ研究の序の口といったところだ。初期状態のモヤモヤとした形状から私が直接連相できるのは雲である。エフェクトコントロールで選択できるフラクタクルの種類の中にも「曇り空」というのがあるくらいなので、この使い方は素直だと思われる。
After Effectsでエフェクトを作ろうとした時、方法は一つではなく色々な方向からゴールを目指すことができる。そんなときはできるだけ素直で自然な方法を探して選ぶようすることでレンダリングにかかる時間やPCの負荷が軽減される。
雲の形状を思い通りに変えようとするなら色々なパラメーターを触って試す必要があるが、そうしている間に思わぬ形に変化したりして、そこから次のアイデアが生まれてくることもある 。まだまだ研究してみたいと思わせる魅力のあるエフェクトだ。
●この記事はビデオSALON2016年9月号より転載
http://www.genkosha.co.jp/vs/backnumber/1593.html