ついに4K記録を実現したニコンDムービーを
ライバル機と比較してみる
Report◎丁 龍海(R&Y Factory)
▲デジタル一眼で4K記録に対応したモデルと直接比較した。具体的にはソニーα6300とパナソニックGH4。使用レンズは、D500はキットレンズのAF-SDX NIKKOR 16-80mm f/2.8-4E ED VR、α6300がVario-Tessar T* E 16-70mm F4 ZA OSS、GH4がLUMIX G X VARIO 12-35mm / F2.8 ASPH. / POWER O.I.S.
近年、多くの一眼カメラ(主にミラーレス)に4K動画機能が搭載され、ちょっとしたブームになっている。そんな中、ニコンがD5、D500と4K動画に対応したモデルを発表。ニコンユーザーには嬉しい知らせだろう。D5には手が届きにくいので、D500を使ってその実力を試してみた。
【操作感】
D500はGH4やαシリーズとは異なりミラーレスではない分、重さや大きさもどっしりとしていて持ちやすい。基本スチルカメラで動画機能を考慮した作りにはなっていないので、各ボタンのアサインがもう少し欲しいところではあるが、液晶画面とレンズの光軸が同じなので、ひじょうに撮りやすい(当然ファインダーでの動画撮影はできない)。
使ってみて便利に感じたのはボタンによるアイリスの電子制御。最近ではレンズに絞りリングがなく、カメラ側のダイヤルで操作するものや、レンズにリングがあっても段階的に動いてしまい、動画撮影での滑らかなアイリス変更は難しい。D500はカメラ前面(レンズ横)のPvボタンとFn1ボタンにアイリス機能を割り振ることによって、滑らかなワークができる。
また何かとピントに気を使う4K動画において、画面拡大が最大約11倍までできるのは嬉しい。
一方で動画使用ではメニュー構成が難しく感じた。設定として、写真と動画は切り分けられているが中には連動している設定もある。これは「慣れ」かもしれない。しかし、動画モードのライブビュー時に設定ができないメニューもあるので注意してほしい。
【AF機能】
ライブビューでの液晶パネルを利用した「タッチAF」は本当に便利な機能の一つ。ピントを合わせたい場所をタッチするだけ。指が太くてタッチが難しい人でも、 約11倍の画面拡大があれば大丈夫。ただ動画撮影時にAF性能を求めるのは難しいと感じた。スチルでは位相差検出方式を採用しているのでAF性能は高いと思われるが、動画は「ライブビュー」撮影であり、コントラストAFになる。レンズも動画向きのなめらかな動きに対応していないので、事前にAF、MFでフォーカスを合わせてからの撮影になる。
【手ブレ補正】
今回使用したレンズは「AF-S DX NIKKOR 16-80mm f/2.8-4E ED VR」。レンズに手ブレ補正も付いているが、本体にも「電子手振れ補正」が付いている。実際、80㎜側で撮ってみるとピタッと止まる。あまりにも止まりすぎるせいか、撮影する状況によっては動きに対してぎこちなさも出てきてしまう。言葉で言い表すのは難しいが、「ブレないように粘って、粘って、動く」という感じだ。動くものを追うような撮影には難しいが、インタビューなどの収録には重宝するであろう(「電子手振れ補正」はHD収録時のみ)。
【4K映像】
D500の比較対象として、センサーサイズの近い、GH4、α6300を使用してみた。設定はすべてデフォルト。レンズは各カメラの推奨レンズである。
並べるとよくわかるが、D500はコントラストがしっかりしてα6300はディテールがしっかりしている。全体的によく似ているように見える。
GH4は黒が沈みがちで、ダイナミックレンジが狭く感じられる。D500はデジタル的な後処理をしない感じで本来のカメラらしい画作りをしているように見える。細部まで見ていくとよくわかるのがセンサーの使い方。D500は4K収録時にはセンサーをトリミングし、必要領域だけを使用している(ドットバイドット)のに対して、α6300は多画素から4Kを作り出すオーバーサンプリングの効果で解像度は素晴らしい。それに加えてディテールをしっかり出す処理をしているのでより綺麗に見える。
しかし、これが仇になっているような部分がある。それは「ボケあし」の部分。オーバーサンプリング効果は良いのだが、それ以降の画作りにおいてディテールをつけすぎているせいか、「ボケ」にノイズ感を感じる。そういった面から、D500はナチュラルな感じを受けるのではないだろうか。
4Kでの解像度と階調の表現を見る
それぞれ4K/30pで撮影。画質モードはデフォルト(スタンダード)。絞りはF11、シャッターは1/160。印象としてはGH4の黒が沈みやすく感じ、D500は写真のような自然な画作りである一方、α6300はトーンに滑らかさがない感じである。1コマ書きだしたものを拡大して見るとセンサーの使い方がよくわかる。左の画面の中の青枠部分を拡大した。GH4は不明だが、D500は4Kの場合、センサーの一部(約16,2mm×9.1mm)の4Kエリアを使用するのに対し、α6300は、6000×3376からオーバーサンプリングする効果で細部まで表現できている。
D500(4K動画から1コマ切り出した画像/以下同)…クリックするとオリジナルサイズで開きます
D500(上の画像)の部分拡大…クリックするとさらに拡大サイズで開きます
α6300の部分拡大
GH4の部分拡大
アウトフォーカス部分の再現性を見る
手前の上部、木の葉にフォーカスを合わせて、絞りを同じにしてシャッターで明るさを揃えてみたところ、D500はF6.3でシャッター1/160、α6300はF6.3で1/200。GH4はF6.3で1/100になった。奥のフォーカスが外れた部分をよく見てみると、GH4に比べてD500が一番ボケあしが出ている(ボケが大きい)。α6300は画像処理のせいか、ぼけの部分にもディテールが強調されて、ノイズのようにも見えてしまっている。
D500(4K動画から1コマ切り出した画像/以下同)
▲右上の葉にフォーカスと露出を合わせている。当然奥はアウトフォーカスになる(以下同)。
D500(上の画像)の部分拡大
α6300の部分拡大
GH4の部分拡大
【HD映像】
各機種にはもちろん、HD収録のモードがある。α6300はやはり甘い感じを受けているユーザーは多い。残念ながらD500も甘い感じを受けた。しかしGH4はHDでもしっかりと描写しているので、HDと4Kの両対応で撮影ができる。
そしてD500で気になるのはHDと4Kの画角の違い。見比べたところ、HDのほうが画が広く(130%ほど)なっている。
D500 4K撮影
D500 HD撮影
D500で同じレンズ、同じ焦点距離で撮影。上が4K、下がHD。4Kだとこれくらい画角がテレ側にシフトにする。
【ISO感度】
ただでさえピントが合いにくいのにF値を開放に持っていくのはカメラマンにとっては厳しい状況。そんな時にISOの幅広さが重宝する。D500に関しては多少ノイズが出てくるが、ISO3200くらいまでは綺麗に表現してくれる。それ以上はカラーノイズは出るものの6400までなら実用レベルではないだろうか。ノイズ処理を行うのであれば、ISO10000までは行けそうだ。α7Sシリーズに次ぐ、感度の良いカメラではないだろうかと感じる。
驚いたのは、D500はISO1640000まで設定ができることだ。もっとも映像としては実用的ではないだろうと思う。
【色調整】
D500にはピクチャーコントロール内に「フラット」という項目がある。ログではないが、後で処理しやすいモードとしてニコンも推奨している。実際、GH4の「シネライクD」、D500の「フラット」、α6300の「PP6(Cine2)」で撮ってみたが、「フラット」と「PP6(Cine2)」はそこから色調整がしたくなるような映像が撮れた。「シネライクD」は若干コントラストが淡い感じにはなっているが、2つに比べると仕上がっているように感じる。D500は全体的にコントラストが低く設定されているので、好みに合わせて色の調整がしやすい。また調整していくと暗部の情報量が多いので、黒沈みもなく階調を豊かに表現できる。
D500のフラット(全体)
D500のフラット(部分拡大)
D500のフラットからグレーディング(部分拡大)
α6300のPP6(CINE2ガンマ)(全体)
α6300のPP6(CINE2ガンマ)(部分拡大)
α6300のPP6(CINE2ガンマ)からグレーディング(部分拡大)
【ローリングシャッター現象と液晶の遅延】
4K映像でやはり気になるのはローリングシャッター現象。近年このクラスのカメラで改善されているものは見当たらないのが現状。D500も大きく傾いてしまう。
今回の検証でそれ以上に気になったのが、液晶表示のディレイ。D500の液晶と実写を同時に撮影したところ、大きくずれているのがわかる。タイムライン上で同期させてみると6フレームのディレイがあった。他の機種でも3フレームほどのディレイはあるが、その倍となると少し違和感がある。
【HDMI出力】
液晶パネルがいくらきれいであっても、拡大ができても、あの小さな液晶でピントを合わせるのは難しい。今回は全モデルに外部モニターとしてSHOGUNを使用した。D500も他と同様に4K映像をスルーで出しているので収録も可能だ。収録することはないがメニューまで4K映像で出る。
D500は本体でRECしてHDMI出力しても、液晶画面が消えないのが素晴らしい。ここで、注意しなければならないのが、ライブビューの表示時間の設定を忘れないこと。ここを忘れてしまうと、時間で液晶が消えてしまう。
【総論】
今回はセンサーサイズの近い3台で検証したのだが、一眼ムービーとしてのD500の位置付けはひじょうに難しい。解像度、色合いなどとても良い表現をしているのだが、ムービーとしてのコストパフォーマンスは他の2モデルに譲る。それは「スチルカメラに4Kムービーがつきました」という本来のスタンスだからだ。D500を導入して満足できるユーザーは写真8割、動画2割といった使い方だろうか。
スチルユーザーからすれば動画は無駄な機能かもしれないが、本誌を読む人は期待を持っているに違いない。カリッとキレがあるニコンの画作りを好む人も多く、レンズを所有しているユーザーも多い。だからこそ今後、さらに一眼ムービーとしての機能、性能を充実させて欲しいと感じる。ニコンの技術力を持ってすれば、ムービーユーザーも満足できる日は近いだろう。