1/3型3板式の業務用ハンディカメラと言えば激戦区だが、
そこにJVCが投入したGY-HM650/600は、その基本性能の高さだけでなく、
ファームアップで機能を改善し、さらに機能を追加しているところに注目が集まっている。
HMシリーズを以前から使用し、HM650/600の登場時点から高く評価してきた
カメラマン岡 英史氏がJVCケンウッド技術者に現状のHM650/600と
近い将来のファームアップについて訊く。
▲以前からJVCカメラのユーザーでもある岡氏(右)。HM650の実演デモを行なったJVCケンウッドの技術陣。
岡 HMシリーズはカメラの基本性能の高さに加えて、これまでにないファームアップで進化し続けるカメラというコンセプトが良くて、私も実際に業務で使用し、まわりのミドルレンジのユーザーにも奨めてきました。本誌でもすでにオートフォーカスの性能改善についてレポートしましたが、その後、どのような機能進化があるのでしょうか?
JVC技術者(以下JVC) 実はそのオートフォーカスもさらに改善しています。低照度でより合焦しやすくなったのに加え、ズームで素早く寄るときに速く合うようになりました。
岡 オートフォーカスについては終わりがないから大変ですね。
JVC もちろんこれからも進化させていくつもりです。HM650/600の共通のところでは、細かい部分で、誤操作防止のオペレーションロック機能を追加しました。また再生時にLCDやビューファインダーにピーキングを表示、変更できる機能も加えました。1・5倍拡大フォーカス機能では、一定時間経つ(約3秒)と元に戻るタイマー動作を可能にしました。
また、9分割グリッド表示機能も追加しています。カメラのレンズ下のボタンも、REC/ホワイトバランス/切から選択できるようにしました。
岡 いかにもカメラマンが指摘しそうな部分ですね。
JVC はい。ユーザーの皆様からいただいた声を反映しています。
JVC ネットワーク機能を持つ上位機のHM650では、5月のバージョン2で機能強化されています。HM650本体のUSB端子に挿した無線LANアダプターや3G/4Gモデムで、撮影現場からインターネット経由で映像ファイルを転送可能でしたが、バージョン2からは、ライブ映像の伝送ができるライブストリーミング機能が加わりました。受信側はTERADEK社製などのデコーダーを利用して映像信号に変換してテレビモニターで視聴したり、PCでの受信、視聴が可能です。
また当初からあったWebブラウザからのカメラ制御も、カメラ本体で操作できるものは、ほとんどタブレットで操作できるようになりました。
さらに、これは主に放送局の取材用途を想定していますが、FTPサーバーへアップする機能も改善しています。撮影した映像をトリミングしてファイルを生成して、それをアップロードできますし、アップロード中も別のカードであれば撮影することができます。アップロード中になにか事件が起きたらどうするの? という現場からの声があったので対応しました。
アップロードしたデータのメタデータの管理は、大量に映像素材が集まってくる放送局で今求められている機能ですが、バージョン2では日本語にも対応し、より検索性を高めました。
そのメタデータの入力方法には2つあります。あらかじめサーバーに用意したメタデータをFTPで取り込む方法と、情報端末のWebブラウザからカメラにアクセスして、ユーザーが直接入れる方法です。
岡 カメラマン側はメタデータの活用についてまだ完全に理解しているわけではないので、そのあたりをより省力化できるといいですね。
JVC はい。その方向でカメラマンには負担にならないような仕組みを考えています。
▲プランニングメタデータの入力画面。右側のカメラ制御画面ではカメラの機能のほとんどすべてを操作できる。
岡 メタデータの管理というと、放送局向けでミドルレンジの業務ユーザーには関係ないと思いがちなのですが、実はファイルベース時代になると、そうでもないんですね。イベントをマルチカメラで撮影するとしたら素材も増えますし。いかに効率よくファイルを管理して、検索性を高められるか。FTPだけでなくローカルサーバーでも単語で検索できると便利になりますよね。ぜひ具体的な使い方をわかりやすく提案して欲しいと思います。そうすると、放送局だけでなく、多くの人がメタデータを賢く活用できるようになると思います。
JVC いろいろアイデアも出てきますので、ご期待ください。
ストリーミング機能については、クラウドを使って、パケットロスがあっても映像の品質を確保しようということに取り組んでいます。ネットワークが不安定で映像が乱れるので何とかならないかという声があったためです。
実は欧州では2013年9月のIBCですでに実演しているのですが、クラウドのサーバーを使ったバッファリングによる補償やエラー訂正処理などをベンダーさんと組んで開発しています。
岡 どれくらい品質が改善されるものですか?
JVC 実際にデモでお見せします。HM650を2台用意しました。1台は現在のバージョン2。もう1台は現在開発中の次世代のファームを組み込んでいます。実際のネットストリーミング環境を想定して、デモシステムを用意しました。インターネット回線ではエラーが発生するものですが、たとえば1%エラーを起こす設定にしてみると、現行のバージョンでは、人が動くと動いた部分にブロックノイズが発生するのに対し、次世代バージョンでは、持ちこたえています。エラーがもう1%増えると、画像は大きく乱れ、場合によっては画がフリーズしてしまうこともあるのに対し、次世代バージョンは、動画として送り続けることができます。
▲パケットロスで映像が乱れているのが右側のモニター。同じシーンでも左側のモニターは乱れがない。
岡 これはすごいですね! 欧州での反応もひじょうに良かったのではないですか?
JVC おかげさまで大変高い評価を受けました。
ターゲットとしては、教育関係や企業のイベント、式典などを共有する用途に向いていると思っています。野外のイベントやブライダル関係でも使えると思います。
岡 観る環境としてはどんなものになりますか?
JVC 従来と同様、デコーダーを介してテレビで見たり、PCで観ることができます。また、Webブラウザでサーバーにアクセスして、フラッシュにトランスコードした映像を複数のユーザーで観ることも可能になります。
岡 このシステムをベースにしていろいろなアプリケーションが考えられそうですね。
これまでHM650のFTPアップロード機能やライブストリーミング機能はハイエンド向けのイメージが強いように感じていたのですが、このようなパケットロスを補って安定した配信が可能になれば、ミドルレンジのイベント収録の可能性が拡がります。また、この機能を待たなくても、後のファームアップで対応していただけるのは、ユーザーの立場からすれば、導入タイミングに悩まなくて済むので助かります。そうはいっても、この機能は画期的ですから、次世代バージョンのリリースをできるだけ早くお願いしたいですね。
▲JVCケンウッドの技術陣は左から古屋喜洋氏、木戸武氏、岡氏を挟み、宇田川智之氏、佐藤弘康氏。
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