Report◎ふるいちやすし
SHOGUNを導入するとα7Sで4K収録できるようになるだけでなく、
微妙なトーンを追い込める優れたモニターが手に入るのがいい。
今後はSHOGUNを中心に収録システムを組みたいと思っている。
テストは2014年12月に出荷されたモデルで行なった。現時点ではアップルProResの再生機能、アビッドDNxHDでの記録、再生機能が未装備だが、無償アップデートにより、実現可能になる。(現状のファームは1月末時点で6.11。本体で記録した4KのProResファイルの再生が可能になった)
アトモス SHOGUN
●外形寸法:幅196x高さ110x奥行47mm ●質量:約460g(本体のみ)、約645g(バッテリー&HDD含む)●モニター:7.1型1920×1200画素 ●入力:HDMI、SDI、XLRオーディオ(2ch)、ゲンロック、LANC ●出力:HDMI、SDI、オーディオ(2ch) ●記録:4K UHD=アップルProRes、フルHD=アップルProRes、アビッドDNxHD ●記録メディア:2.5型 HDD/SSD/CFast(オプションのアダプターにて) ●価格:税込279,000円(2月2日以降変更されました)
▲フィールドモニターとしても大変優秀で、フルサイズ一眼、4Kという最もシビアなフォーカスを求められる時にも高い解像度でしっかり見える。ただしディスプレイの表面は艶ありなので、特に屋外ではサンフードが必需品だ。
昨年11月に開催されたインターBEEについて、「盛り上がりに欠けた」「予想通りだった」との声がよく聞かれるが、それはおそらく“4Kの実用化、8Kの将来性“といった観点から来た印象なのだろうと思う。確かにその観点は最もタイムリーで素直な見方なのだろうが、もっと根元的な映像制作、撮影スタイルを基本に見てみると、ひじょうに魅力的でワクワクさせられるモノがたくさん出てきていたように思う。
そんな中で個人的に最も発売を待ち望んでいたのが、アトモスのSHOGUN(ショーグン)。その実機が年末ギリギリになってやっと手元に届いたので早速撮影に出掛けた。
「え? SHOGUNって4Kが撮れるようになったレコーダーでしょ?」と思った方、その通りです。もちろんそれがこのレコーダーの最大の“売り“で、ほとんどの方々、特にソニーα7Sで映像を撮っている方はそのままの豊かな表現力と解像度で撮れる手頃なレコーダーとして待ち望んでいたと思う。
だがSHOGUNの魅力はそれだけではない。そもそも映画を撮っている私にとっては4Kというのは現時点であまり興味をそそられるモノではなく、むしろ厄介なモノでもある。各社が4Kの素晴らしさをアピールするために提供している映像はどれも一様に硬質で、遠くのビルの窓まではっきり写っていたり、拡大した時でも綺麗だったりと、普段オールドレンズを使ってまで柔らかさと雰囲気を追い求めている私にとっては真逆の方向性だったりする。これはハイビジョンになった時にも感じていたことなのだが、よりテレビ的な高精細画像をどう表現に結びつければいいのか、いささか気が重いのだ。
▲今回のテストはソニーα7Sと組み合わせて4K収録を行なった。HDMIケーブルで繋ぐだけでフルサイズセンサー4Kカメラになる。三脚に載せたフィックスショットから、直感的にハンディに切り替えることの多い私にはCOMODO orbit(*1)のような手軽なジンバルを付けっぱなしにしておくのがお気に入り。それでもこれだけコンパクトにまとまってしまう。
とは言ってもここで4Kを避けるというのではあまりに的が外れてしまうのでソニーα7Sとの組み合わせで4K収録(30pまで)をすることにしたが、あくまで自分のトーンにこだわり、レンズは1950年代のカールツァイス・イエナという低解像度のクラシックレンズを使い、やわらかなトーンの中で4Kがどう作用するのかを試してみることにした。写真を見てもらっても分かるように、同じく年末に手元に届いたCOMODO orbit(コモド オービット/*1)という魅力的なジンバルと組み合わせてもひじょうにコンパクトな「レンズ交換式」「大判センサー」「手ブレ補正付き」4Kカメラシステムが完成した。これは素晴らしい。
α7SではHDMIから4K出力をしている時には本体での同時収録はできないので、デュアルレコーディングというわけにはいかなかったが、デジタル一眼に関してはこうしてレコーダー部分を外部にすることが放熱を考えても現時点では理想的なのかもしれない。
(http://www.takeinc.co.jp/takeinc/cinema/limelite/orbit.html)
α7SのHDMI設定
▲α7S側の設定はSHOGUNと接続し電源の入った状態で行う。撮影モードも動画モードで。4K出力を設定した時点で他のHDMI設定は自動的にキャンセルされ、α7S側のメディア記録もできなくなる。
表現のほうはというと、思った通り、いろいろ写りすぎていわゆる“うるさい画“になりがちで、被写界深度を浅くしてぼかしたり、あえて感度を上げて粒子を粗くしたりして、質感を出すといったことを試してみたが、驚いたのは、コーティングの悪いクラシックレンズをあえて逆光に向けて、色もコントラストもすっ飛んだ状態でも、解像感、存在感が残る。これはうまく使えば新しい映像表現に繋がるかもしれない。いずれにしても光学とデジタル、それぞれの解像感、ボケや粒子、その組み合わせを考えて理想の質感を追求してゆく、とても刺激的な撮影になった。
業務用モニターとしても充分に使える性能と機能を持つ
▲モニター機能は充実。波形やベクトル、フォールスカラー(輝度レベルに合わせて色を変えて表示)、ゼブラなど。表示位置やサイズ、波形などの透明度も変更可。タッチパネルなので素早く操作できる。
▲HD映像を確実にドットバイドットで確認できるだけでなく、拡大表示も可能。タッチ操作で拡大位置の変更もできる。ピーキング表示で確実にフォーカスを合わせられる。ピーキング量も調整可能。
4K以外の魅力という意味では、まずはモニターとしてのスペックが素晴らしい。7.1型という大きさに対して1920×1200(322dpi)という充分過ぎる高解像度でしかもキャリブレーションが可能なIPS液晶を搭載している。輝度、色域、視野角ともにずば抜けており、波形モニター、ベクタースコープ、フォーカスピーキング、ゼブラ表示等といった、フィールドモニターとして必要な機能のすべてを搭載している。今回の撮影で微妙なトーンのコントロールが可能になったのも、この優れたモニターがあればこそだったし、撮影時にトーンを決める私のスタイルにはなくてはならないものだと感じた。
ただ表面は艶ありなので、今回は間に合わなかったのだが、シェードは必需品だろう。
バッテリーや記録メディアは汎用品を使用できる
▲左側面にHDMI入出力とヘッドホン端子。HDMIとSDIの信号変換にも対応。SDI/HDMIのレックトリガーに対応。
▲右側は、DC入力とオーディオ(XLR入出力は付属ケーブルで対応)と記録メディアのスロット。アナログオーディオはSDI/HDMI上のオーディオとは別のチャンネル(トラック)に記録される。
▲裏面にはSDIの入出力とゲンロック入力。HDMIとSDIの双方向コンバート機能もあるので、たとえばHDMI入力をSDIからスルー出力することが可能。バッテリーはソニーLバッテリー互換タイプが付属(*2)。DC入力との連続使用も可能だ。
▲付属品はACアダプター、HDD/SSD用のマスターキャディー2(5個分)、バッテリー(ソニーLバッテリー互換)、バッテリーチャージャー、XLRオーディオケーブル、ドッキングステーション(キャディー内のストレージ接続用)、車用シガーソケットアダプター、D-Tapアダプター、HPRC製カスタムキャリーケースなど。記録用ストレージは別途購入する。検証情報がアトモス社のWeb上で。その他、ファームアップなどアトモスの最新情報は、フェイスブックページをチェック。
https://www.facebook.com/AtomosJapan
そして収録をフルHDまで落とすとさらに魅力的なレコーダーとなる。ここからはソニーFS700でのテストだが、60pでの記録はもちろんのこと、FS700ならではのスーパースロー(HDMIからの出力は60p)の記録もカメラ側のSDカードと同時にでき、カメラのRECボタンと同期して録画を開始・停止も可能で、タイムコードを同期記録させることも可能だ。
すべてのカメラで試したわけではないが、デジタル一眼での撮影もSHOGUNのプロレズ422、カメラ側のAVCHD等のデュアルレックが可能になり、センサーやレンズの品質をより活かした高画質を得られ、バックアップの面でも安心だ。
たとえば「モニターは別に用意しているから必要ない」という人もいるだろう。だがこれだけいろいろな機材が発売されている今、自分の撮影スタイルに当てはめるだけではなく、その機材があるからこそ可能になる新しいスタイルを考えて変えてみるのもいいのではないだろうか。こうしてレコーダー部がカメラではなくモニター側にあり、魅力的なスライダーやジンバルがあり、だけど現場での設定や動きを大袈裟にはしたくないし、人手もかけたくない。何より被写体への集中力を失いたくない。そのためにはどんな機材をどうセッティングし、自分がどう動くか、私自身、少し混乱をしているが、きっと理想のスタイルができるとワクワクしながら試行錯誤を繰り返している。そしてその中心にこのSHOGUNを置くことはもう決めている。
「高雄咲×ふるいちやすし」~ソニーα7SとアトモスSHOGUNで4K撮影(アップはHD)
▲クラシックレンズを使おうが、逆光であろうが、夜であろうが、ソフト系のフィルターをかけようが、どこかにしっかり残る解像感。このソフトとハードのバランスをうまくとって奥行きを出すのが4Kの新たなアプローチかもしれない。ちなみにピクチャープロファイルは自分で作ったオリジナルで、シネガンマをベースに彩度とディテールは落としている。テレビっぽくなってしまったカットはソフト系のエフェクトもかけている。
女優:高雄 咲(SPARK所属 http://spark-real.com/)