今回のテーマ◉アップルMacBook Proの新ポート問題

斎賀和彦

数年ぶりにMacBook Pro(以下MBP)がフルモデルチェンジ。わたしは即日予約したけれど今回、不満を漏らすひとが多い印象。その筆頭が一新されたポート。従来のMBPが持っていた豊富な外部インターフェイスが4つのUSB-Cに集約され、従来型デバイスは変換アダプタが必要になってしまったことへの不満です(表1)。

旧MBPに対し、薄く200gの軽量化を果たした新MBPですが、持ち運ぶ変換アダプタが増えてメリットがないとの厳しい声も。1カ月、徹底的に使い込んだなかでの新MBPのポート問題が今回のテーマです。

新MBPにあるのは、Thunderbolt 3(TB3)、Macが採用してきたTB2の後継規格なのですが端子形状が変わり、なんと「USB-C」と同じ形になりました。1年前に出たMacBookもUSB-Cでしたが、あれはCタイプコネクタのUSB3.1 Gen1ポート。新MBPのものはTB3であり、USB3.1 Gen2であるマルチポートです。

この辺がややこしく感じられるところですが、USB-CのCは端子形状のこと(一般的な平べったいものがタイプAです)。それと転送速度といった性能は別の話で、USB2.0は最大 480 Mbps、3.0で最大 5 Gbps、新MBPは3.1 Gen2の最大10 Gbpsの転送速度を持っています。さらに最大 40 GbpsのTB3でもあり、そのうえ、充電可能なUSB-PDでもあります。もう、わけ分かりませんよね(表2)。

乱暴に言えば新MBPのポートは、USBケーブルを挿せばUSBとして、TBケーブルを挿せばTBとして自動的に認識され、それぞれの機器の最高速度でデータ転送できる、ってこと。

このデータにはビデオ信号も含まれるのでディスプレイにもUSB-Cケーブルで繋ぐことができます。そして前述のようにUSB-PD対応なのでデータのやり取りしつつ充電も可能。例えば対応ディスプレイならUSB1本繋ぐだけで高解像度のセカンドディスプレイを使いつつ、MBP本体の充電もできるって世界。しかもどのポートも同じことができるので、どこをTBに、どこを電源に使うのも自由自在。机の関係で電源コードを右側に繋ぎたいのになあと思ったことのあるユーザーは多いはず。新MBPはそのへんの自由度がひじょうに高いのが特徴です。冒頭の変換コネクタについてもUSB-Cで繋ぐだけでUSB3.0(A)×3にHDMI、Ethernetポートにカードリーダーまで搭載するドックがすでに登場しており、新MBPの機動力を活かしたまま多彩な任務に対応するシステムが急速に整いつつあります。

さて、ここまでは意外と簡単で便利、という話ですが性能としてはどうでしょう? (普通の)USBメモリを使うのにわざわざUSB-C to A変換アダプタが必要になる面倒くささはその通りです。CタイプのUSBメモリも出始めてはいますが、まだ一般的とは言い難いし、USBメモリだと実効速度でのメリットもありません。

しかし最近増えつつあるモバイル型SSDだと状況が異なるようです。普及型(最大540MB/s)とプロ向け(最大850MB/s)のポータブルSSDを試してみました。

両方とも旧MBPやMac Proでは350〜400MB/sの性能ですが、新MBPに繋ぐと前者でも500MB/s、後者に至っては800〜900MB/sの転送速度を叩き出します。これはついこの間まで何十万円もするRAID機器でないと出せなかった性能です。映像編集を筆頭とした重い作業に必要なのは(CPUやGPUといった)パワーと(高速なストレージを運用できる)足回りなのです(表3)。

ただしちょっとした落とし穴もあります。先ほど書いたようにUSB-Cケーブルは充電もデータ転送にも使うマルチなケーブルですが、転送速度についてはUSBのバージョン、電力供給についてはUSB-PDのバージョンに規定されます。例えば新MBPに付属するアップルの充電ケーブルは充電能力こそトップクラスの5A100Wですが、データ転送能力はUSB2.0の480 Mbpsしかありません。このケーブルでハードディスクやSSDを繋ぐこともできますが、データ転送は桁違いに遅くなります。もっとも1本のケーブルが緊急時にはデータ転送にも充電にも使える、というのはとても大きなメリットではありますが。

新MBPの新しいポートはそれに相応しい足回りをもった高速マシンと言えるでしょう。もっとも公道でスポーツカーが全開走行できないように、普通にWebや書類作成をしているだけだと新MBPのポテンシャルを実感できないかも知れません。その場合は、羊の皮を被った狼を使っているんだという精神的満足感を優先させましょうか。