3月11日、本誌も告知協力している学生映画祭AOMOYAMA FILMATE 2018が青山学院アスタジオで開催された。短編映画部門では、田中大貴監督の『FILAMENT』、ミュージックビデオ部門では、福田将也監督の『響く夜明けの君と僕』が大賞に選ばれた。
田中大貴監督の『FILAMENT』は昨年の大学(日芸)の卒業制作で、カナザワ映画祭2017、アジア学生映画祭2017、田辺・弁慶映画祭2017、那須国際短編映画祭2017、京都国際学生映画祭2017、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭2018などで入賞、受賞している。
大学にあるRED SCARLETで撮影した映像は学生映画を超えたクオリティで、学生のみならず審査員も驚かせた。
短編映画部門の大賞を受賞した「FILAMENT」の予告編。
その内容はこの予告編を見るだけではすこし誤解を生むかもしれない。これだけ見るといわゆる特撮、ヒーローものというジャンルに括られてしまう恐れがあるからだ。興味をもたれた方は、ぜひ30分の作品全体を見てほしいと思う。この映画をどうやって作っていったのか、そしてこれから何を目指しているのか、映画祭の後日、田中大貴監督に話を訊いた。
独学で突き進む急転直下映画人生
――『FILAMENT』は日芸(日本大学芸術学部)の卒業制作として作られたんですよね。卒業されたのが去年(2017年)でそれからいろいろな映画祭に出されていった感じなんですか?
この映画が完成したのが卒業間近の3月後半で、去年の青山フィルメイトの応募に間に合わなかったんです。なので今年応募させていただいたんです。卒業してからいくつかの映画祭で上映させていただく中で、他の映画祭の関係者さんから「是非うちにも応募してもらえませんか」と声をかけてもらい、結果としていろんなところで上映させていただくことができました。
――完成が3月ってことは卒業ギリギリまで作ってたってことですよね? 卒業制作上映会には間に合ったんですか?
提出は一番遅かったですが、卒業制作の審査にはなんとか間に合いました(笑)。
――大学に入る前から映像は作られていたんですか?
もともと映画はすごい好きだったんですけども、進学校に通っていたので勉強ですごい忙しくて。高校三年生の時に「どうしても映画を作りたい」という衝動でみんなに協力してもらって作ったんですけど、それがすごい楽しかったので、期限ギリギリで日芸に願書を提出しました。元々理系だったこともあり受かると思ってなかったんですけど、面接の時にその時作った映画を今の恩師の先生にみていただき、合格することができました。
――高校三年生の時に作ったっていうのは映研とかでですか?
いや、僕はサッカー部だったで有志を集めて(笑)。先生には「今はそういう時期じゃない」ってすごい言われたんですけど、やりたいとずっと言ってたら最後には協力してくれて。
――熱意で周りを動かしたんですね。その時のカメラや編集環境はどうしていたんですか?
カメラはハンディカムです。音は同録でやって。編集はPowerDirectorっていうWindowsのソフトがあるんですけど、それの体験版がヨドバシカメラあったのでそれを駆使してやってました(笑)。
――急転直下的に人生が変わっていったんですね。
ほんと高校三年生の最後で決めました。
――大学に入ってからは機材とかも充実してるんじゃないですか?
そうですね。でも基本的に実習以外は貸してもらえないので自主映画を作る時は市販の一眼カメラとかを使って作ってましたね。
――本格的な機材は卒業制作でやっと借りれると。
はい、『FILAMENT』に関してはREDのSCARLETというカメラを借りて撮りました。2カメで撮りたかったので、もう一つREDのWeaponを機材屋から借りて。たまたま撮影担当が機材屋でバイトしていて、「Weaponタダで借りれた!」みたいな(笑)。
――それはラッキーでしたね!
基本的にその二台体制で撮りました。夜のシーンはα7SにSHOGUNっていう外部レコーダーで撮影したしもしました。
――編集はどういう環境で?
編集はFinal CutとPremiereの両方を使って、Projectを移動させながらやっていた感じですね。特殊効果の部分は基本はAfter Effectsで、一応3Dのモデリングをしたカットが一箇所だけあるんですけど、それはBlenderという無料のソフトですね。
――撮ったのがREDっていうことはRAW素材ですよね?
REDのRAW素材をDaVinciでProResに落として、そこで全部編集して、最後は全部Avid出力になるので、プロジェクトのシーケンス内の素材を全部置き換えて、マスター素材を書き出すっていう流れです。Avidは学校にあるので、それまでの編集の過程は全部自分でやって、最後の置き換えとかを学校やるっていう感じですね。
――スタッフも全員学生なんですか?
そうですね。日芸の映画学科には撮影・録音コースっていう技術部のコースと監督コースと演技コースがあって、卒業制作は監督コースの全員が作品を作るんです。一人の監督に撮影・録音コースから撮影担当と録音担当をそれぞれ一人ずつ組んでチームになるので、4チームで一班になり、一つのチームが撮影をしているときは別のチームのメンバーがそれぞれの分野の助手としてサポートするって感じです。
――なるほど。田中さんは監督ですが、編集もやられたわけですね。
脚本も編集もやりました。ポスプロ専門の学科がないので、CGとかは全部独学で勉強するしかありませんでした。
――ちなみヒーロースーツなんかはどうしたんですか?
あれは僕が作りました。100円ショップとか東急ハンズで買ったスポンジとかを鉄に見えるように塗装して。あとは音で金属感をより出せるようにして、最終的にひあライティングで粗を隠してっていう感じです。
――目が光ってるのは中にLEDを入れて?
はい。市販LEDだとどうしても光量が足りなくて。照明に負けないぐらい明るくて、なおかつ小型のLEDを買ったりして。
特撮へのこだわり、映画への使命感
――撮影に関して具体的にどういうところに力をいれたんですか?
一番は撮影時でどれだけ作り込めるかです。結局ポスプロになるべく時間をかけずに、CGのところを一番手をかけたかったので。CGがいらないところはポスプロで何も手を加えないでいけるぐらいのところまで作り込んでおかないと時間がもったいないので、撮影の時はライティングとかスモークとかなるべく完璧に作り込んでました。
――確かにライティングへのこだわりを感じました。
卒業制作は30分以内と決まっていたので、そこに情報を詰め込んでいくしかありません。集中してみてもらえるようなライティングを作っていきました。
――そういうのは海外のテクニック本とかで勉強されてるんですか?
僕に知識がないと求めてるものにならないじゃないですか? だからそこも勉強しましたね。本とか教材もあるんですけど、どちらかというと自分たちで作っていく中でこういう角度にしたらこういう効果がでるんじゃないかってやっていきました。映画をみて、こういう絵にしたい、こういうふうなライティングがしたいっていうのを見つけて、それに近づけるためにはどういうライティングしたらいいのかっていうのを自分たちで試行錯誤しながら3年間やってきました。
――それが学生として正しい迫り方なのかもしれないですね。
監督コースの中には技術的なことに興味ない人や作家性を重視する方もいらっしゃるんですけど、自分は映画は総合芸術だと思ってるので、CGだったり音とかライティング、撮影の面でも知識があることに越したことがないというか、自分がやりたいことをしっかり伝えられるのかなって思ってます。
――効果音も含めて音にも気を配っていますよね。そこも研究の賜物ですか?
効果音は本当に重視していて。音の演出って学校でもあんまり勉強できてないみたいなんですが、絵に写ってるもの全てに音をつけたりするとのっぺりしちゃうんですよ。それを三年生の実習の時に気付いて、もうちょっと音の演出を勉強したいねって音響スタッフと話して。絵で写ってても音を消しちゃった方が効果的になったりすることを自分たちで見つけていったって感じですかね。
――実際拝見させていただいてすごいクオリティでした。
ありがとうございます。やっぱり今の学生映画の環境だと、ヒーローものとか特撮ものというのは、時間・予算的にも技術的にもチープに見えやすいから、先生からも「別の企画にしなさい」と言われることがあるんです。好きな学生はたくさんいるんですけど、学校内での評価を気にして作らないってことが多いんだと思います。
――確かに映画祭でも特殊なジャンルに見られてしまいがちですね。
でも海外の映画祭だと全然あったりして。日本はどちらかというと幅が狭いジャンルの映画をいっぱい上映してるのが寂しいなと。洋画のヒーロー映画が好きで、入学した当初から「ヒーロー映画を撮って卒業する」って言ってたんですけど、そのために尽力しましたね。
――全部独学っていうのがすごいですよね。
あと特撮や怪獣、戦隊モノはどうしてもコメディに寄ってたり、身内ネタばっかりの作品になってしまっていて、逃げた演出が多いと感じていて。
――『FILAMENT』は非常にメッセージ性の強い作品だと思います。一つ一つのシーンが強烈でした。
やっぱり30分しかないのでそれぞれのシーンや内容を印象付けないといけないので、描写をわかりやすく過激にしてみたりしました。あとは正義と悪、二つの対立構造をしっかり描きたいなと。最近の特撮モノは悪の表現が逃げに走っていて、それだと映画を観る価値がなくなってくるというか、ワイドショー的でテレビとの差がなくなってくると思うんですよ。だからそこはしっかりやろうと思ってたんですけど「もっと血を出せ」って怒られました(笑)。「全然足りない!」って。
ホラー映画が作られてるのはその国が平和だっていう証拠だっていうのがあって。その国が平和じゃないとホラー映画作っても不謹慎だって話になるじゃないですか? そういう作品が少なくなってくると悪意とかがどんどん現実にはみ出してきちゃんですよね。だからそういう表現から逃げずにやっていきたいっていうのが映画監督として思ってます。
――今後もヒーロー映画を撮っていきたい?
はい。いろんな映画祭で上映させていただくとヒーローモノを好きな方から「僕らが見たい映画は今の日本には存在しないから、ぜひそういうものを作って欲しい」という声をたくさんいただいたので。
浮き彫りになる「ルック」の差
――今は機材も良くなってるから、イメージがあればたどり着きやすいですよね。田中さん自身は撮影もするんですか?
します。やっぱり自分でやってみないと分からないと思うんです。例えば映画で演出に集中したときはカメラマンさんがいたほうが絶対いたほうがいいと思うんですけど、撮ったりするのも好きなんです。もともと理系で電子工学科に進もうと思ってくらい機材系は好きなので。だからビデオサロンさんを読んでて「こんなセンサー出たんだ」とか見るとテンション上がっちゃいます(笑)。やっぱり機材が進歩すれば表現の幅が広がって、映画もすごい恩恵を受けてると思うんです。
――そうですよね。
技術の進歩でできることが変わってくるじゃないですか? そうなると予算管理とかも変わってくると思うんですよね。やっぱり安く作らないといけない場合、安くていい機材をお借りして、それでスタッフの時間とか労力をさけるならそっちを使った方がいいと思うし、今の自主制作映画や学生映画ってそういうところをもっと考えていかないといけないのかなっていうのはあります。
――今日本映画の監督で注目してる人っていますか?
『アイアムアヒーロー』『いぬやしき』の佐藤信介監督です。日本では珍しくSFをしっかりやろうとしてる監督で。『いぬやしき』とかは予告編を見る限りではすごいなって。やっぱり自分が好きなジャンルっていうのもあるので注目してますね。
――そういう監督がどういうカメラを使ってるとか、ワークフローどうやってるのか、どのくらいの規模でやってるのかって興味はありますよね。
日本映画のチームはこういうことをやってる、こういう機材を使ってるって知りたいなと思います。海外のサイトだとこういう機材が使われてるとか、どういう装備で、どういうポスプロ作業の工程まで全部ワークフロー書いてくれていて、勉強になるんですが、ただ、ハリウッド情報だと自分たちの手に届く範囲ではなくて(笑)。
――日本映画のワークフローの記事はWEBでもほとんど見かけないですね。我々のようなメディアがやったほうがいいですか?
映画作りはクオリティを大事にしないといけないじゃないですか? いかに劣化を防いで、いかにいいクオリティで最後まで仕上げられるかっていうのに特化した作り方だと思うんですよ。それって機材が持てるパワーというか、可能性を殺さずにやる一番繊細な作業だと思っていて。ワークフローを勉強してないと持ってる可能性を消しちゃってるような作品になってしまうんです。機材が良くなった分、そんなに力を入れなくて綺麗な感じで残せる状態にはなってると思うんですけど、ただせっかく機材がよくなってるんだからもっといいクオリオティのものを作ればいいのになってたまに思ったりするので。
実際に海外の映画祭に出て、いろんな作品を見る機会があるんですが、日本の学生映画・自主制作映画のクオリティが海外との差が結構激しくて。
内容云々は別にして、一個の映像作品としての質が違うなと感じています。使ってる機材は変わらないと思うんですけど、その持ってるポテンシャルを最大限にいかせてないんだろうなっていうのがあるんですよ。それは撮影時のライティングとかもあると思うんですけど。そういう面でも理解とか興味が日本では薄いのかなって思います。
――同じ道具を与えられててもルックについて考え始めるのが数年遅いのかもしれないって気がしますね。
今はDaVinciも無料で使えるし全然可能なんですけどね。
――でもやっぱり若い世代の方がその辺は早いですよ。青山フィルメイトも長年見てきましたが、結構変遷が激しくて、始まった頃は一眼ムービーで撮れるっていうだけのレベルだったのが、3〜4年前からDaVinciが無料になった瞬間にグレーディングするようになって、映像のクオリティが変わったんですよ。学生は適応が早いなと思いました。今回の青山フィルメイトみたいに大学間での交流というのはあったんですか?
作ってる人がいるっていうのはもちろん知ってましたが、学生の頃は自分たちで精一杯で。今年いろんな映画祭にいかせてもらって初めてこういう大学の人がこういう作品を作ってるんだっていう発見があって、それはすごく視野が狭かったなって実感してますし、交流の場があればもっと刺激になると思います。
――現在はどのような活動をしているのですか?
現在はフリーのクリエイターとしてお仕事を探しつつ、次の映画を作るためにお金を貯めているところです。お仕事のご依頼は常にお待ちしております!本当にお願いします!(笑)。
――これからの活躍を期待しています。今日はありがとうございました。
◉田中大貴監督プロフィール
たなか・だいき=映画監督・映像作家。2017年日芸映画監督コース卒業。卒業制作である『FILAMENT』が様々な映画祭で話題に。映画・ヒーロー・機材への愛に溢れている。Twitter:@Daiki_0515_
【青山フィルメイト2018上映作品】
〈短編映画部門〉
1.『ふゆとゆき』監督:ちばひなこ
2.『またあの場所で』監督:小林聖
3.『練馬ゾンビナイト』監督:高良嶺
4.『FILAMENT』監督:田中大貴★
5.『御都合主義者たち』監督:矢倉明莉
6.『ひとひら』監督:吉田奈津美・町田梨華
7.『ふっかつのじゅもん』監督:白井太郎
〈ミュージックビデオ部門〉
1.『ファンタジア』監督:高良嶺
2.『GIVE IT 2』監督:原大貴
3.『君という雨』監督:西村浩司
4.『GRAPES』監督:中村俊介
5.『響く夜明けの君と僕』監督:福田将也★
6.『SHIODOKI STATION』監督:矢冨百夏
※大賞の副賞として、田中大貴監督には、ビデオサロン編集部で制作している書籍「ハリウッド映画の実例に学ぶ映画制作論 BETWEEN THE SCENES」、福田将也監督には、「DaVinci Resolve カラーグレーディングBOOK」が贈られた。