AX700で「ユルログ」! 日常のなかにある、ふとした瞬間の雰囲気が伝わるような映像をこれで撮りたい。
映像作家 / TAKAKURA DAISUKE (高倉大輔)
地形やその土地の雰囲気などを生かし、ポップで親しみのある映像やダイナミックで臨場感のある映像を得意とする若手映像作家。フィリピン政府観光省・ドイツ観光局・ユニバーサルミュージック・OAKLEYなど企業や政府の映像、写真を制作。現役のモデルとしても活動中で、大手飲料メーカー・飲食店・紳士服専門店のTVCMに出演。出演する側と撮影する側、両方の視点を生かし、シームレスでミニマムな制作を心がけている。
https://www.takakuradaisuke.com/
https://www.instagram.com/takakuradaisuke/
協力:ソニーマーケティング株式会社
●映像作品の制作では主にデジタル一眼カメラα(アルファ)を使用しているTAKAKURAさんですが、今回はデジタルビデオカメラのフラグシップモデルであるFDR-AX700(以下、AX700)を使ってもらいました。
普段の映像制作ではα7SII、α7R IIを使うことが多く、最近のVLOG撮影ではコンパクトデジタルカメラ サイバーショットを利用することも多いです。
実はビデオカメラは今回初めて使いました。僕の先入観もあるのですが、ビデオカメラは誰でも使えるカメラという印象でした。だから今回の撮影では、スタッフに持たせて僕が撮られたり、出演者の人に自撮りしてもらったりという使い方をしてみました。
結果できあがった映像は、自分がディレクションしているところや、女の子のメイクシーンなどを盛り込んだプライベート感のある、ビハインド・ザ・シーンぽい内容になっています。
●プライベート感がある、というとVLOGのような感じですか?
ちょっと違うイメージですね。僕の中でのVLOGはもう少し作品っぽくも淡白なイメージがあるのですが、今回AX700で撮ったものは、少し長回しのシーンもあったりするので…。既存のジャンルに当てはまらないのではないかな?と思っています。そのため今回はオリジナルで「ユルログ」という言葉を作ってしまおうかと思っています。
●「ユルログ」ですか。新しいですね。その「ユルログ」にAX700が向いていると思った理由は?
まず、バッテリーのスタミナですね。今回最大容量のもの(NP-FV100A)を装着して撮影を行なったのですが、朝の10時から回し始めて、夜の7時まで撮影しても、まだ30%もバッテリーが残っていました。これには驚きましたね。
あとAX700の機能というよりも、ビデオカメラを使った撮影をしてみての発見ですが、デジタル一眼カメラだと、カメラを向けられた人は、少しかしこまった感じになってしまいがちですが、今回AX700を回していると、みんながバンバン写り込んできます(笑)。なぜですかね? もしかしたらビデオカメラって昔から見慣れているフォルムなので、撮られる側にも親近感があって、皆あまりカメラを意識しないのかもしれません。
だからプラベート感を押し出した「ユルログ」というコンセプトにぴったりだと思いました。
●今回は手持ちで撮影されたのですか?
そうですね。ほぼ手持ちで撮影しました。
手持ちで歩きながらの撮影をする際などは、液晶モニターを開くだけで電源が入り、すぐに撮影できるというのは撮り逃したくない場面ではとても便利でした。また、大半は液晶モニターで確認しながら撮影していましたが、晴天で液晶画面が見にくいときは、ビューファインダーを活用しました。これもファインダーを引っ張り出すだけで電源が入るというのも使いやすかったです。
ボタンの配置も好感が持てました。右手でグリップを握ったときに親指をちょっと動かすだけの位置に録画ボタンがあるのはとても楽で、ここぞという場面でもすぐにボタンが押せて、撮り逃しを防げました。
あと個人的にこのズームの感覚が好きですね。一眼カメラのズームレンズを回転させて“シュッ”と寄る感じも好きですが、ビデオカメラはレバーを動かすと“にゅっ”と寄っていく感じ。このビデオカメラのズームの感覚っていうのは、人が「二度見」するときに近い感じがしました。一回見たけど、すぐもう一度目を凝らして見てしまう、そういうときの感覚に似ているような気がして。なんとなくですが人間の目に近い感じですね。
ズーム範囲にしてももう少しワイドやテレが欲しいと思うことはなく、1.0型センサーのボケの感じも背景がボケすぎないので、ちょうど良い感じでした。
結論としてAX700は使っていて気になる部分がないカメラだと思いました。大半の操作が片手でできるので、左手で細かい操作をサポートする必要がないのがとても良い印象です。
手ブレ補正は「アクティブ」にしましたが手ブレを抑えすぎて気持ち悪い感じでもない。走って撮影したシーンではちょうど良い感じのブレが残りました。
フォーカスは完全にAFに任せていました。カメラ側で「AF乗り移り感度設定」や「AF駆動速度設定」など細かに設定ができるのですが、今回の撮影はデフォルト設定のままでも、ほとんど気になるところがなかったです。それだけ全てをカメラに任せてしまってもいいということだと思います。
撮影は4K/24p で100MbpsのXAVC S。SDカードは2枚入れられるというのはありがたいですね。安心して撮影に臨めます。
カメラのセッティングですが、シャッタースピードは1/50か1/60程度で色温度は3200K。F値はズーム位置によって違ってきますが、できるだけ開放に近いところ。ISOもできるだけ低めにして、露出がオーバーしそうなら、NDフィルターを入れました。AX700はこのNDフィルター内蔵というのが心強いなあと思いました。濃度が3段階あり、これで足りないシチュエーションはまずないです。今回は撮影している途中にNDフィルターの濃さをチェンジするくらいのことまでトライしてみました。
●AX700はS-Logも利用できるのですが、今回は?
ガンマはピクチャープロファイルでCine-4にしています。僕はαでもそうなのですが、ピクチャープロファイルを追い込んで自分のパラメーターを作っています。それとまったく同じものをAX700でも設定しました。
●その設定内容を具体的に教えてもらえますか?
PP7(S-Log2)のプリセットをベースに変更していきます。まずガンマはS-Log2ではなくCine4にしています。Logにすると最低ISO感度が上がってしまうのですが、Cine4であればISO200から使えます。ブラックガンマは高、ブラックレベルはMAXの7、カラーモードはS-Gamut3 .Cine 3200、彩度は-7でディテールは-7のまま。
実はここからが他のカメラにない設定なのですが、「色の深さ」という項目があって、Rを-3 、Gを+2か3、Bは+4、Cも+4、Mは-2、Yは-3というように、ブルーとグリーンを少し足してスキントーンを落としておき、撮影後の編集作業で戻すということをしています。全体としては、癖のある感じではなく、わりとナチュラルなトーンにしています。
●かなり追い込んでいますね。ここまでピクチャープロファイルを追究している人は多くないのではないでしょうか?
このピクチャープロファイルの設定と、ここからのグレーディングについては、とにかくいじってみて、ようやく自分好みの設定に辿り着きました(笑)。これがないと始まらないです。特にAX700は「色の深み」をいじれるというのがポイントです。
●それに対して編集ソフトウェアのDaVinci ResolveでLUTを当ててグレーディングしているのですね。
そうです。このセット用のLUTも自分で作っていて、最後にLUTをあてています。一本の映像としてまとめる際、あらかじめ設定したテーマに近づけられるように撮影の段階で余地を残しておきたい。手間は少しかかるかもしれないけど、そのほうがいいかな、と思っています。実際5分程度でできることなので。
AX700でオリジナルチュー二ングしたピクチャープロファイルでの撮影状態
そこからLUTを当ててグレーディングしたもの
●名前は「ユルログ」だけど、映像のルックはしっかりこだわりたいということですね。
カメラの機能は、あればあったで使いたくなります。AX700はビデオカメラなのにピクチャープロファイルがきちんと入っているのがすごいですね。見た目はオーセンティックなファミリーカメラのようなイメージですが、中身については良い意味で「モンスター」だなあと思います。しっかり本気の作品も撮れるけど、見た目のスタイルから日常も撮りたくなる。日常のなかにある、ふとした瞬間の雰囲気が伝わるような映像を撮りたいと思いました。
●TAKAKURAさんはフリーランスとして映像の仕事を始めてまだ2年ちょっとということですが、とんとん拍子で良い仕事が増えている感じですか?
映像を始めたのは二十歳くらいで、それこそ友人のバースデイムービーを作ったりしたのがきっかけでした。大学4年生のときに映像の勉強しながら、セミナーなどでFinal Cut Pro Xのレクチャーをするようになりました。その頃徐々に、これが仕事になるのではないかと思うようになりました。
今の時代だからこそ可能になってきた部分もあると思っていて、YouTubeで様々な映像を見ながらカメラやドローン、編集ソフトをいじってきました。集中的に勉強することで、自分の中で知識としてまとまってきたところがあります。
YouTubeなどで大量に知識を吸収することができ、自分が参考にしてきた映像と同レベルの映像を作り出すことができるようになる。さらにSNSなど活用すれば、良い作品を通じて自分の個性を発信することができます。そこに共感してくれる人がいれば、仕事につながっていく時代だと思います。
●若くても活躍されている人は増えてきました。映像のレベルは上がっていますが、その中でTAKAKURAさんの個性というのはどんなところだと、ご自身では分析されていますか?
今、僕の個性というと「親しみのあるわかりやすい映像」でしょうか。自身でも自分の得意分野だと思っています。
●そうだとすると、このAX700のようなビデオカメラって親しみやすさを表現しやすい機材ですね?
そうですね! このAX700は僕にぴったりだと思いました。親しみやすいカメラの極みだ、というのが僕の感想です。
僕自身、格好つけ過ぎた映像ってあんまり好きではなく、作り込まれた作品っぽい映像というよりも、一般の人でも作れそうな雰囲気の映像を制作したいと思っています。
撮影している僕自身もユーチューバーという人たちとは少し違うと思っています。ユーチューバーの企画的な動画と、映画っぽい作品の中間というか。親しみやユーモアがある、でもテロップはあまり使わないタイプの作品が好きですね。だから、AX700は自分にぴったりだと思いました。それは今回使ってみて実感しました。
●AX700は2年前に発売されたカメラですが、実はこれから求められるようなカメラなのかもしれませんね。
そう思いますよ。最近テレビなどで共同生活の様子を映し出すリアリティ番組が放送されていますが、あのような感じで、長回ししながら人の生活や本音をじっくり見るような映像作品がこれから増えていくのではないかと思っています。
映画っぽい作り込まれた作品ではなく、色味など多少の工夫はしますが、内容はより登場人物やシチュエーションにリアリティのある映像。ひと言でいうと人間っぽい温かみのある映像でしょうか。AX700を使ってみて、そういう発見というか予感が自分の中で生まれました。なので、これからもAX700を使って「ユルログ」を撮っていきたいと思いました。
ソニーFDR-AX700の製品情報はこちら