ビジュアル系のロックバンド、D.I.D.のミュージッククリップ『the Point of No Return 』は全編、Blackmagic Cinema Camera EFで撮影されている。この作品の撮影、ディレクション、編集を手がけた田巻源太さん(インターセプター)にお話を訊いた。
インターセプターは、制作会社でありながら、社内にポストプロダクション機能を持ち、MAまで一貫した作業が可能になっているのが特徴。現在は、映画の編集、カラコレの仕事が多いが、田巻さんはミュージッククリップなどではディレクション、撮影も行うという。
「D.I.Dのミュージッククリップは今年2月に撮影しました。撮影はすべて白ホリのスタジオで、照明は途中で変えています。撮影自体はシンプルでカメラの性能がひじょうに分かりやすい事例になっていると思います。撮ってグレーディングしただけの状態に近いのですがが、トーンはひじょうにきれいに出ており、黒も完全にしまっています。手持ちのショットもかなりあり、カメラの性能を見るには、実は見どころの多いミュージッククリップと言えるかもしれません」
レンズはトキナーのAT-X 165 PRO DX、M42マウントのオールドレンズ、単焦点29mm、50mmの3本。Blackmagic Cinema Camera EFでは、焦点距離が約2.3倍相当テレ側にシフトするが、これでほぼカバーできるという。
記録は2.5K RAWで行なった。RAW記録の場合、現場での映像確認をどうするかという問題があるが、スタジオにMacBook Proを持ち込み、ブラックマジックデザインのHD Linkを介してポムフォートのLiveGradeというLUT管理・プレビューツールで確認している。ここで適切なLUT(Look Up Table)を当ててやれば、現場である程度を仕上がりを確認しながらモニターすることができる。ノートPCでも充分運用できるので、スタジオ内だけでなく、屋外ロケでも使用可能だという。
「ここ最近のミュージッククリップ制作は、EOS 5D Mark IIやMark III、7Dなどのデジタル一眼ムービーが使われることが多いのですが、Blackmagic Cinema Camera はその置き換えに最適ではないかと思っています。こういったミュージッククリップの場合、被写界深度のコントロールは求められますから、どうしてもレンズ交換式の大判センサーカメラを使用したいところです。とはいえ、予算がないのが実状です。Blackmagic Cinema Cameraであれば、ボディだけでも30万円程度で、さらにレンズはEOSを使っていたところであれば、手持ちのものを流用できます。尺が短いので、撮影が2日あったとしても、1、2時間程度しか回さないでしょうから、2.5K RAWで撮ったとしても1TBくらいでしょう。別にハンドリングには困らないと思います」
これまでのビデオ制作になれている人にとって、RAW収録やデジタルネガの調子というのは分かりにくく、とっつきにくそうに思えるが、そんなに難しく考えることはないと田巻さんはいう。
「よくご一緒する映画の撮影部の方は、フィルムの経験があるので、Blackmagic Cinema Cameraにあまり抵抗がないようです。わりとすんなり使いこなしています。逆にビデオの経験しかない人は難しく思うかもしれませんが、ビデオの人からするとVEの処理を後回しにしているだけと考えればいいんです」
「VEの仕事がイメージセンサーで受けたものをREC.709に押し込めることであるとすれば、それをDaVinci Resolveで後処理をするわけです。しかもDaVinci Resolveは実はデフォルトで最初からREC.709のLUTがあたっているので、それで済ませてしまってもそんなに問題にはならない。ワンカットワンカット丁寧にやるわけではないので、みんな一括で処理できるLUTを使って、まずは全部適用してみればいいんです」
「収録段階では、LiveGradeを活用することで、現場でLUTを当てて確認し、場合によっては同時に、その場でDaVinci Resolveで色を作って共有しています。本編集でもそのLUTや作業データを流用することで、効率はかなりよくなります」
また Blackmagic Cinema Cameraは2.5KというフルHDよりも一回り大きいサイズのRAWデータを収録できるが、そのメリットも大きいという。
「ミュージッククリップも映画も2.5K RAWで収録しています。フィルムのときは撮ったあとにトリミングすることも結構あるんです。そもそもフィルム全体をいっぱいまで使うわけではありません。2.5Kは最終的にはフルHDで仕上げるにしても、トリミングするマージンとして使うことができます。そのあたりはフィルムカメラとビデオカメラの文化の違いかもしれませんが、フィルムカメラはそもそもファインダーも撮像面積以上のものが見えていますが、ビデオカメラは100%です。本当はビデオカメラも視野角110%くらいは欲しいのですが、 Blackmagic Cinema Cameraの2.5Kはフィルムカメラの感覚で使うことができます。あとでトリミングができるとなれば、撮影時間も短縮できるはずです」
と同時にProRes422 HQでも撮影できるというところにもメリットがある。本体のみでProRes記録できるカメラと言えば、この価格帯ではBlackmagic Cinema Cameraしか見当たらない。
「ProResであってもフィルムモードで撮っておけば、いわば10bit 4;2:2 Logの状態ですから、後処理でいじれる余地がかなりあります。AVCHDなどはネイティブ編集のほうがメリットがあるという意見もありますが、長尺ものになると、ネイティブで作業する人はいないでしょう。かならずProResなどの編集用のコーデックに変換しているはずです。したがって最初からProResで撮れるメリットは大きいんです」
運用面では、今までのビデオカメラに慣れている人は使いにくいと思うかもしれないが、そこは発想の転換が必要だ。
「Blackmagic Cinema Camera は、センサーと記録モジュールだけのカメラと思ったほうがいいんです。あのまま使うのではなく、これをベースに自分の好きなカメラを作りましょうというカメラです。ちなみにわたしはプロショップでセミナーを受け持つことも多いのですが、わたしの組み合わせ事例を紹介すると、みなさんすごく興味津々ですね。
でも、このあたりは自分で好きなように組めばいいんだと思います。弊社でもBlackmagic Cinema Cameraをレンタルとして貸し出しするときは、レンズを始め、ViewFactorのリグ、CineroidのEVF、特注したVマウントバッテリーから電源供給できるアダプター、ショルダー撮影用のマンフロットのSYMPLAなどをセットにしていますが、ただ、そうやっていろいろ組み合わせてもそれほどの価格にならないんです。システム化を前提としたとしても、お手頃価格でシステムを組めるのがいいところだと思います」
「DaVinci Resolveにしてもカメラに付属しているソフトなわけで、もっと気軽に使えばいいいと思います。ファイナルカットの「切り出しと転送」のかわりにダヴィンチを使うという感覚でいいんです。そんなに難しいワークフローではない。今やカラリストが使うツールではなく、誰もがいろいろな立場で使うツールだと思います。ただポスプロで部屋が独立しているようなところではなくて、PCベースで編集もふくめて一括してやっているような人には特に向いていると思います」
◉D.I.D.『the Point of No Return』