写真家・映像作家の志津野さんは作品制作にとどまらず、野外映画館の運営や音楽、食、アートなど幅広い分野で自然や環境を守る活動を続けている。今回、志津野さんが狩猟と生き物の命をテーマにしたドキュメンタリー作品を撮るということで、EOS R5 Mark IIと24mm、35mm、50mmのRF F1.4 L単焦点シリーズのレンズだけで撮影していただいた。実際に現場で運用してみたインプレッションは?
取材・文●山崎ヒロト/構成●編集部 萩原/協力●キヤノンマーケティングジャパン株式会社
志津野 雷
写真家/映像作家。1975年生まれ鎌倉育ち。カメラマンとして世界中を撮影しつつ、地元・逗子をベースにした活動にも力を注ぐ。雑誌、広告撮影の他、アーティストとのコラボレーション制作も手掛けている。逗子海岸映画祭を立ち上げ、移動式野外映画館プロジェクトCINEMA CARAVAN主宰するなど、その活動は多岐に渡る。
キヤノン EOS R5 Mark II
オープン価格(実売654,500円)
ボディのみ
EOS R5 Mark IIで撮影したドキュメンタリー作品
作品の公開は12月19日を予定しています。
『AINU アイヌ民族の血を受け継ぐ者』
北海道道東にある浜中町で、狩猟家として活動する岩松邦英さんの狩猟・解体に同行した5日の記録。エゾシカ漁師である岩松さんの日常と生き物の命との向き合う姿を追った作品。
ブレや揺れも含めたリアルな画で“命のやりとり”の瞬間を捉える
——まずは自己紹介をお願いします。
写真家/映像作家の活動と並行して、2009年から逗子でCINEMA AMIGOという映画館を運営しています。いろいろと試行錯誤したんですが、周囲に表現者が多かったので、映画館なら写真、アート、音楽、食…と、みんなが集まって表現ができる場所になりえると考えてCINEMA AMIGOという形になりました。
そもそも僕は“移動式野外映画館”として旅先で自分の作品を発表してきました。それは写真の先にある出会いまで大切にしたいという思いがあふれてきたのがきっかけです。野外映画館という体感型の場があれば、自分が撮った写真や映像を通して出会った人たちをつなげられる…それが移動式野外映画館というアイデアになり、現在はCINEMA CARAVANというプロジェクトになっています。
イベンターとして映画祭を企画しているんじゃなくて、僕自身が作品を作っているというのがポイントなのかもしれません。旅をしながら出会った人たちを撮って、その小さな物語を断続的な短編として作品にする、それを移動式映画館で発表する…というサイクルが生まれているんです。この“エンディングなきロードムービー”が僕のライフワークになっています。
志津野さんのこれまでの主な活動
志津野さんは2009年、地元逗子にカルチャー発信型の映画館CINEMA AMIGOを創業。現在は映画だけでなく音楽、食、アート、宿泊などの事業を展開する。2010年から逗子海岸映画祭を開催し、毎年約20,000人の観客を集める。映画祭発足メンバーとともに移動式映画プロジェクトCINEMA CARAVANを立ち上げ、2022年5年に一度ドイツで開催されるアートのオリンピック『documenta 15』等、国内外の野外上映や空間デザインのプロデュースを手掛けている。
——映像はいつ頃から作るようになりましたか?
EOS 5D Mark IIが発売されたあたりからですね。僕は写真で決めたフレームの中で動き出すような映像が好きなんです。「このアングルが好き」「この光が好き」という構図で写真を撮って、そこに動きもあったら面白いというシーンだけ動画を撮る。せっかく動画も撮れるし、撮っておくか…という感じでしょうか。
僕はあまりカメラ自体にこだわりがなくて、カメラは記録する媒体である、という考え方が自分には性に合っているんです。カメラがあれば言葉が通じなくてもコミニュケーションできるし、カメラを持っているだけで自分が変身できるような感覚があって、どこでも突っ込んで行けちゃう、という部分に惹かれているのかもしれません。
——今回アイヌと狩猟をテーマにした作品を撮った理由を教えてください。
コミュニティや人の本質ってなんだろう、自分にとって何が大切で何が美しいんだろう、と最近考え直すようになったんです。“エンディングなきロードムービー”の一部にどうしても狩猟のシーンが必要になり、そんななかでアイヌと関係を築けないか模索していました。アイヌの精神世界や文化、生き方の中で、彼らが自然とどう向き合っているのか、命のやり取りをどのようにしているのか、それを撮りたかったんです。
3年前に出会いがあって、道東の屈斜路湖で毎年行われる鎮魂祭に参加することができました。この鎮魂祭は人間によって絶滅させられた野生動物を供養しようというものであり、これからの社会をどう良くしていくかを話し合う場でもあります。そこで熊料理が出てくるんですけど、今年の鎮魂祭でその熊を撃った岩松邦英さんという狩猟家に出会ったんです。すかさず「狩猟にずっと興味があったので撮影させてもらえませんか?」と声をかけました。
——どのように撮影を進めていきましたか?
岩松さんと息子・竜世くんの狩猟に同行したのは5日間でした。岩松さんは2代目なんですけど、生きていくための食事として鴨や野兎を捕る狩猟をしてきたわけです。そんな岩松さんは大きな食物連鎖の中で命のやり取りをしているようでした。
狩猟をしているときに岩松さんが狙うのは首より上、胴体よりも下は狙わないんです。動物たちは殺されたことも分からないぐらいにストレスを与えない殺し方をしたうえで、その場ですぐに血を抜いて、自然に感謝を捧げる…。命を殺して、加工して、食べるまでの小さな物語、だけど人が生きるための循環としてはすごく大きな物語をこの5日間で撮らせてもらった感覚です。
狩猟は本当にあっという間です。狩猟をする岩松さんがどういう動きをするか分からず、そこに鹿が現れたら3秒以内にはもう撃っているという状況でした。しだいに鹿の目がグレーになり、シュッと命がなくなる…。この命の境目というのはなかなか言葉にできないです。現地で映像をたくさん撮ってきましたけど、その境目がどこまで映っているか…撮るのが難しくて手こずりましたね。
——RF F1.4 L単焦点シリーズ(24、35、50mm)をどう使い分けましたか?
僕はもともとズームレンズをあまり使わないので、単焦点のみというのが逆に良かったです。いつも35mmと50mmばかりなので、特に24mmは画的に新鮮でたくさん使っちゃいましたね。広角で被写体が遠ければ身体ごと近くに寄ればいい、というだけです。狩猟シーンの距離感が未知数でなかなか難しかったですけど、24mmならいつもの感覚より1〜2歩ほど突っ込む感覚でした。RF F1.4単焦点の24mmは広角ですがあまり歪むこともなく、狭い車の中で撮るシーンもあったので、今回の撮影にはすごく相性が良かったです。
あと、僕は昔から開放F値が低いほど大好きで、絞りF1.2やF1.4でずっと撮ってきたんです。そういう絞りで人物の顔を撮ると、鼻にピントが合っていても目には合わないじゃないですか。しかも瞬間を切り取るドキュメンタリーの場合、なかなかピントが合わない。でも、ピントが合ったときのバシッとくる感じ、さらにボケ感も相まっていいんですよね。今回もほとんど開放のF1.4で撮りました。
撮影のスタイルとしては手持ちで基本的にマニュアルフォーカス。ブレや揺れも含めたリアルな画こそ今回の自分がやりたいことだったので、それでダメならしょうがないという覚悟で臨みました。ドキュメンタリーを撮るときの濃縮した集中力のなかで、個人的にピントが完璧に合うことは必要としていなくて…。自分がフォーカスしたい部分、見せたい部分さえ映っていればいいかな、という思いがあります。狩猟と一緒でドキュメンタリーのカメラマンもハンターみたいなものじゃないですか。予測不能な被写体を追いかけて、その一瞬をどう撮影するか、です。
——RF F1.4 L単焦点シリーズとEOS R5 Mark IIの組み合わせはいかがでしたか?
道具は軽くてシンプルなほうが好みです。RF F1.4単焦点シリーズとEOS R5 Mark IIの組み合わせには、すごく軽くて助けられました。あと、軽いわりに“体幹”が効いているのも良かったです。RF F1.4 L単焦点シリーズは重量や重心のバランスが揃えられているそうですけど、どれも軽いんだけど芯がある感じがして、イヤな軽さじゃないというか、撮っていて楽しかったです。もちろんキヤノンのレンズとボディなので描写力というのは言わずもがなです。キヤノンからお借りして今回撮影したんですけど、「返して」と言われるまでずっと持っていたいですね(笑)。
今回の撮影で使用したRF F1.4 L単焦点シリーズ
キヤノン
RF24mm F1.4 L VCM オープン価格(実売253,000円)
RF35mm F1.4 L VCM オープン価格(実売253,000円)
RF50mm F1.4 L VCM オープン価格(実売236,500円)