ワイヤレスマイクとして、Vloggerからプロの映像制作者まで幅広いユーザー層に使用されているDJI Micシリーズ。最新モデルのDJI Mic 3は前モデルから大幅に小型化されたトランスミッターや音割れリスクを軽減するスマート機能などさまざまな進化を遂げている。日頃からクライアントワーク、Vlog制作に取り組む河原崎さんに、実際に使っていただき使用感をレポートしてもらった。
Vlogや動画配信がより身近になった今、映像だけでなく“音”のクオリティにも注目が高まっています。昨今はSNSでも、インタビューなど音声が重要なコンテンツも頻繁に見かけるようになりました。カメラやスマートフォンの内蔵マイクも年々性能が上がっていますが、クリアで聞き取りやすい音声を収録するなら、やはり外部マイクは必須アイテムです。
中でも、手軽さと高音質を両立したワイヤレスマイクとして人気のDJI Micシリーズで、人気の後押しとなった「DJI Mic 2」のプロ向け機能と高音質、そして「DJI Mic Mini」の驚異的なコンパクトさ。その両方の“良いとこ”を併せ持ち、さらに進化した最新モデル「DJI Mic 3」が登場しました。筆者は5年ほど前に購入した他社製のワイヤレスマイクを使用してきましたが、「DJI Mic 3」は本当に小さく、かつ高性能で驚きました。
今回は、そんな最新モデルを実際に使いながら、その実力をレビューしていきます。Vloggerからプロの映像制作者まで、音にこだわりたいすべてのクリエイター注目の製品です。記事の後半には、過去モデルとのスペック比較表もまとめましたので、ぜひ最後までご覧ください。

とにかく軽くて小さい!アクセサリーも全部入る充電ケースが優秀
まずは外観から見ていきましょう。今回私が使ったDJI Mic 3は、ふたつのトランスミッター(マイク本体、以下TX)、ひとつのレシーバー(受信機、以下RX)、そしてそれらをまとめて充電・収納できる充電ケースがセットになっていました。

まず驚くのが、TXの軽さと小ささです。「DJI Mic Mini」(10g)に迫るわずか16gという軽さを実現しながら、プロ向けの「DJI Mic 2」(28g)を凌駕する機能を詰め込んでいます。実際に手に取ってみると「え、これだけ?」と思ってしまうほど軽く、サイズも500円玉程度でとても小さいです。

TXはクリップで服に挟み装着できますが、付属のマグネット板を使えば、装着位置を選ばずに簡単に着脱可能です。


一点気になった点として、Mic 2のマイク部分にあった外部ラベリアマイク用の端子がMic 3では非搭載になったので、マイクを完全に隠したいなどで、ラベリアマイクの使用を想定している方は注意が必要です。小さくなった分、ここはトレードオフな点でしょうか。

個人的にお気に入りなのが充電ケース。TX、RX本体はもちろん、ウィンドスクリーン(風防)、マグネット板、マグネットクリップ、USB-Cとライトニングの変換アダプター、3.5mmロック式オーディオ変換ケーブルといったアクセサリー類をすべて収納できるようになっています。特にMic2では実現できなかったウィンドスクリーンを付けたままの収納は、地味ながら大きな利便性の向上です。
これらをケースひとつにまとめることで、撮影現場での紛失リスクを減らしたり、探す手間がなくなります。
DJIの他製品にも共通して言えることですが、製品本体だけでなく、充電ケースを含めたパッケージング全体の完成度が非常に高く、利便性とガジェット好きの所有欲を満たしてくれるプロダクトデザインはさすがの一言です。

音割れのリスクを減らす「スマート機能」で、誰でも手軽にプロ並の音質に
映像制作のビギナーにとっての悩みの一つは「音量の調整」ではないでしょうか。声が小さすぎて聞き取れなかったり、逆に大きすぎて音が割れてしまったり。音声に関する専門知識や細かい設定は苦手、という方も多いと思います。
DJI Mic 3は、そんな音声収録の難しい部分をまるっと解決してくれる、スマート機能を搭載しました。これらの機能により、音の設定の知識が少ない方でも失敗のリスクをより減らせるようになり、安心してプロレベルの音質を目指せる、非常にありがたい進化を遂げました。
アダプティブゲインコントロールで音量を自動調整
新搭載の「アダプティブゲインコントロール」は、マイクが音量を自動で調整してくれる機能です。この機能には2つのモードがあり、シーンに応じて使い分けることで、初心者でも簡単に適切な音声収録が可能になります。
自動モード
とにかく音割れを防ぎたい時に最適です。例えば、静かな室内から急に騒がしい屋外に出たり、登壇者が急に大きな声を出したりするような、音量が激しく変動する環境でも、マイクが自動で音量を抑えて音割れを効果的に防いでくれます。
ダイナミックモード
複数の話者がいるような、より繊細な音量調整が求められる場面で活躍します。例えば、室内で2人の人物が1つのマイクに向かって話すような対談シーンで、双方の声の大きさが自然に聞こえるように全体の音量バランスを最適化してくれます。録音スタジオのような静かな環境での使用に適しています。
これまで手動でのゲイン調整に不安のあるユーザーに、とても助かる機能です。

3つの音声トーンプリセットで好みの音色に
さらに、声の特性に合わせて選べる3つの音声トーンプリセット(レギュラー/ブライト/リッチ)も搭載。自分の声に合ったプリセットを選ぶだけで、より魅力的な音声収録が可能になります。
レギュラー:自然でクリアな標準的な音声
ブライト:高音域を強調し、声の輪郭をはっきりさせる
リッチ:低音域をブーストし、深みと厚みのある音声
2段階のノイズキャンセリングで雑音をカット
周囲の雑音を低減するアクティブノイズキャンセリング機能も健在です。DJI Mic 3では「ベーシック」と「ストロング」の2段階で調整が可能で、カフェでの会話や街中のVlog撮影、夏場のセミの鳴き声など、環境に応じてノイズ除去のレベルを選べるのは非常に便利です。
レシーバーで設定を操作できますが、トランスミッター側でも電源ボタンを素早く2回押すと、ONとOFFを切り替えられます。
※トランスミッター側でノイズキャンセリングを操作する場合、電源ボタンを「1回」押すだけだと、後述に紹介する「内部収録」の操作になるので注意しましょう。
下記は、アダプティブゲインコントロールを「自動モード」、トーンプリセットを「レギュラー」にした上で、室内の洗濯機のすぐ近くでノイズキャンセリングのテストをした音声動画です。音質を損なうこと無く、洗濯機の騒音が低減されました。
プロの現場での重要機能「32bitフロート録音」と「タイムコード同期」
DJI Mic 3が「プロ向け」と言われる所以が、このふたつの機能です。少し専門的な話になりますが、映像制作の効率を上げる重要なポイントなので、分かりやすく解説します。
失敗しない音声収録「32bitフロート内部収録」
DJI mic2から搭載された「32bitフロート」は、音を記録する際の細かさの単位のようなもので、映像に詳しい方なら、画質の8bitと10bitの色深度の違いをイメージすると分かりやすいかもしれません。8bit映像でハイキーで白飛び気味に撮影した部分は後から修正が難しいのですが、より多くの色情報を持つ10bit映像なら、ある程度の白飛びは復元できるように、32bitフロート録音は、従来の24bit録音では音割れとして記録されてしまったような大きな音も、そのディテールを失わずに記録してくれます。

さらに、トランスミッター本体はデュアルファイル内部収録に対応。前モデルの4倍となる32GBのストレージを内蔵しており、長時間のバックアップ録音も可能です。絶対に失敗できないインタビューやライブ収録などで、計り知れない安心感をもたらしてくれます。ループ撮影の設定を有効にすれば、内部ストレージのスペースがいっぱいになっても、最も古いデータを自動的に上書きして収録が可能です。


これらと先に紹介したスマート機能を合わせて使うことで、現場での収録ミスのリスクがより軽減されることでしょう。
映像と音声を一瞬で同期「タイムコード機能」
複数のカメラを使って撮影する際に、それぞれの映像と音声を後から合わせる作業(同期)は非常に手間がかかります。DJI Mic 3は、この同期作業を劇的に楽にする「タイムコード同期機能」を新たに搭載しました。
レシーバーをカメラに接続するだけで、録音された音声ファイルに映像と全く同じ時間情報(タイムコード)が記録されます。これにより、編集ソフトに取り込んだ際に、映像と音声が自動的にピッタリと合わせることができます。マルチカメラでの対談やライブイベントの撮影を行う現場にとって、重要な機能です。
複数人・複数カメラの収録が変わる!最大4TX+8RXのグループ収録が可能
DJI Mic 3がプロの現場にもたらす最も大きな進化の一つが、この「グループ収録機能」です。
これは、最大4台のトランスミッター(マイク)の音声を、1台のレシーバーで同時に受信・コントロールできる機能です。これにより、複数人が同時に話すインタビューや座談会、パネルディスカッションといったコンテンツ制作が、これまでになくシンプルになります。
さらに、最大8台のレシーバーをグループ化できるように。例えば、4人の演者がいるトーク番組を3台のカメラで撮影する際、各カメラにレシーバーを設置すれば、すべてのカメラで4人分の音声を同時に収録できます。これにより、編集時にカメラごとの音声素材を探したり、同期させたりする手間が不要になります。
レシーバー不要の接続も! あらゆるデバイスとのスマート連携
DJI Mic 3の大きな魅力のひとつが、その柔軟な接続方法です。レシーバーを使う方法はもちろん、カメラに直接Bluetooth接続する方法まで、シーンに応じて最適な選択ができます。
DJIカメラとの連携:「DJI OsmoAudio」で、よりミニマル装備へ
Osmo Action 5 ProやOsmo Pocket 3、Osmo 360といったDJI OsmoAudioに対応するカメラなら、レシーバーを使わずに、トランスミッターを直接カメラにBluetooth接続できます。これにより、カメラにレシーバーを取り付ける手間やケーブルが一切なくなり、機材はカメラと手のひらサイズのトランスミッターだけ。Vlog撮影や散歩動画、スポーツシーンなど、とにかく身軽に、思い立った瞬間に高音質な撮影を始めたいというシーンで、この上ないメリットを発揮します。

スマートフォンとの連携:Bluetooth直接接続とレシーバーを使った接続
DJI Mic 3はスマートフォンにも接続可能で、動画撮影や簡単な打ち合わせでボイスメモを使用する際に便利です。またレシーバーでの接続の他に、Bluetoothでの無線接続も可能です。ただしスマートフォンでのBluetooth接続方法は、音質や一部機能が制限される場合があるので、SNSへの即時投稿や機動力が求められる場面での利用がおすすめです。


各社カメラとの連携:専用アダプターと有線接続部
DJI製以外のミラーレスカメラやシネマカメラとの連携も万全です。別売りの「カメラアダプター」を使えば、対応しているソニー製カメラのホットシューに直接接続でき、オーディオケーブルなしでデジタル音声の伝送が可能です。カメラからの給電にも対応し、よりスマートなカメラリグを構築できます。もちろん、ソニー以外のカメラでも、製品に付属の3.5mm TRSケーブルで接続すれば問題なく使用可能です。
またレシーバーにはモニタリング用のイヤフォンジャックが搭載され、3.5mmプラグ付きのイヤフォンやヘッドフォンを使って、インタビュー収録等の際にリアルタイムで音声チェックができます。


接続性もバッテリーも進化!ストレスフリーな撮影体験
ワイヤレスマイクで気になるのが、電波の安定性とバッテリー持ち。DJI Mic 3は、この点でも抜かりありません。
デュアルバンド干渉防止
2.4GHzと5GHzのふたつの周波数帯を使い、自動で最適な電波に切り替えてくれるため、電波が混み合うイベント会場などでも安定した接続を維持します。
最大伝送距離400m
遮蔽物のない環境であれば、最大400m先まで音声伝送が可能。超望遠カメラでの撮影など、被写体と離れた場所からの収録にも対応できます。
最大28時間の長時間駆動
TX単体で最大8時間、充電ケースを併用すれば最大28時間というバッテリー持ちを実現。丸一日の撮影でもバッテリー切れの心配はほとんどありません。さらに、5分の急速充電で約2時間使用できるのも嬉しいポイントです。
新旧モデル比較!DJI Mic 3はどれだけ進化した?
ここで、新モデルの「DJI Mic 3」と、旧モデルの「DJI Mic 2」「DJI Mic Mini」のスペックを比較してみましょう。
DJI Mic 3 | DJI Mic 2 | DJI Mic Mini | |
トランスミッター重量 | 16g | 28g | 10g |
ノイズキャンセリング | 2段階アクティブ | アクティブ | 2段階アクティブ |
アダプティブゲインコントロール | 対応(自動/ダイナミック) | 非対応 | 自動リミッティング |
音声トーンプリセット | 3つの音声トーンプリセット | なし | なし |
タイムコード同期 | 対応 | 非対応 | 非対応 |
内部収録 | 32GB (32bitフロート対応) | 8GB (32bitフロート対応) | 非対応 |
レシーバーチャンネルモード | モノラル/ステレオ/クアドラフォニック | モノラル/ステレオ/セーフティトラック | モノラル/ステレオ/セーフティトラック |
接続性能 | 4TX + 8RX | 2TX + 1RX | 2TX + 1RX |
最大伝送距離 | 400m | 250m | 400m |
動作時間 | TX: 8h, RX: 10h, ケース: 28h | TX: 6h, RX: 6h, ケース: 18h | TX: 11.5h, RX: 10.5h, ケース: 48h |
充電時間 | TX/RX: 1h, ケース: 2h | TX/RX: 1h 10m, ケース: 2h 40m | TX: 1h 30m, RX: 1h 40m, ケース: 2h |
レシーバー操作 | 1.1インチ タッチ画面 + ダイヤル | 1.1インチ タッチ画面 + ダイヤル | ダイヤル + ボタン |
OsmoAudio™直接接続 | 対応 | 対応 | 対応 |
対応するアクセサリー | DJI Micシリーズ カメラアダプター | DJI Mic 2 カメラアダプター, DJI ラベリアマイク | DJI Micシリーズ カメラアダプター |
こうして見ると、DJI Mic 3はただのマイナーアップデートではないことが分かります。特にタイムコード同期、4TX+8RX対応といった新機能は、プロのニーズに応える大きな進化点です。一方で、軽量化やスマート機能の充実は、初心者やVloggerにとっても非常に魅力的です。
ただし過去モデルにも優れた点はあり、例えばとにかく軽さを追求するならシリーズ最軽量の「DJI Mic Mini」、専用の「DJI ラベリアマイク」を使った運用なら「DJI Mic 2」も依然として選択肢で、用途や価格を考慮しながら、最適な一台を選ぶのも良いでしょう。
まとめ
DJI Mic 3を実際に使ってみて感じたのは、「誰でも、どんなシーンでも、最適な音を手軽に録れる」という安心感です。特に、今回搭載されたアダプティブゲインコントロールといったスマート機能により、音の設定に関する専門知識が少ない方でも、収録の失敗リスクをぐっと減らせるようになったのは大きなポイントです。その上で、ユーザーごとにおすすめのポイントをまとめてみました。
これからVlogを始めたい初心者の方
難しい設定はすべてマイクにおまかせ。「アダプティブゲインコントロール」を使えば、初心者でも音量調整の失敗リスクを抑えられます。軽量・コンパクトで手軽に扱え、スマホやカメラに繋ぐだけで高音質が手に入ります。
音質にこだわりたい中級者・Vloggerの方
Vloggerの方:3つの音声トーンプリセットや2段階のノイズキャンセリングを駆使して、自分の作品に最適な音声環境を追求できます。32bitフロート内部収録は、万が一の時の保険として心強い機能です。
プロの映像制作者・複数人での収録が多い方
タイムコード同期機能や4TX+8RXのグループ収録機能は、編集作業の時間を劇的に短縮してくれます。インタビューや対談、座談会といったコンテンツ制作の幅を大きく広げてくれそうです。
手軽さとプロ機能のふたつを高いレベルで両立させたDJI Mic 3は非常に完成度が高く、動画のクオリティをもう一段階引き上げたいすべてのクリエイターにとって、心強いパートナーになってくれます。

●DJI Mic 3の製品情報