DZOFILMから発売されたシネレンズシリーズArlesPrime。コンパクトながら、T1.4の大口径で16枚の絞り羽根を搭載している話題のシネレンズを、撮影監督の尾道幸治さんに実際に試してもらった。

テスト・文● 尾道 幸治
撮影監督。「好きだ、」(2006年/石川寛監督)、「BANDAGE バンデイジ」(2010年/小林武史監督)、「ヴァンパイア」(2012年/岩井俊二監督)など多数の作品で撮影を担当している。

画期的なシネレンズの登場

近年、様々なメーカーから特徴あるシネレンズが多数リリースされるようになった。特に中華製品の進歩は目まぐるしく、興味ある機材を次々にリリースしている。シネマトグラファーにとってレンズの選択肢が増えることはルックの表現が広がり、個性的な画づくりを担うひとつとなった。その中でもDZOFILMから発表になったArlesPrime(アルルプライム)を紹介したい。

DZOFILMですぐに思い出されるのは、軽量でハンドヘルド撮影に便利なVespidPrimeで、 筆者もDJIのRS 4に載せて撮影する時に何度も使用しているレンズのひとつであり、そのVespidPrimeをさらに進化させたレンズがArlesPrimeとなる。今回、DZOFILM・ブラックマジックデザイン・サムスン協力のもとでArlesPrimeの検証を行った。レンズのミリ数ラインナップは(14mm / 21mm / 25mm / 35mm / 40mm / 50mm / 75mm / 100mm / 135mm / 180mm)の計10本(※1)、現在はリリースされていて、ミリ数の間隔も十分なラインナップである。

※1

レンズの持つポテンシャル

手にとってみて最初に感じるのは、レンズの剛性が優れているのに見た目のイメージよりも軽いと感じる。重量は1.4kg〜1.9kgに収まっていて、見た目同様コンパクトな設計になっているように思われる。50mmは各社重量に差はないが、180mmになるとArlesPrimeが1.675kgに対してZeiss Supreme Primeは2.87kgと約1.7倍の重さとなっていて、ジンバルを使用しての撮影が多くなっている昨今、Ronin2などに積載する時、レンズが重いと前重になってカウンターウェイトを後部に噛ませて結局、結構な総重量になってしまう。また最近はカメラボディが軽くて小さくなってきているので、ボディ重量とのバランスが合ったレンズを選びたくなる。そのような事からデーター的にはArlesPrimeだと軽いカメラを選べばギリギリDJI RS4Proに乗りそうなので、今度試してみたいと思っている。

先ほど少し触れたが、レンズ外観は美しく無駄のないデザイン。本体の剛性も素晴らしく、フォーカスリングと絞りリングのヘリコイドもとても滑らかな動作をする。フォーカスの回転角は270度になっており、ピント幅も広く設計されているので、シビアなピントの追従しやすくシネレンズとして十分な精度がある。

新製品のレンズで私が興味あるのはレンズのコーティングで、このコーティングの個性によってレンズのフレアの出方やLookが変わってくる。一般的な効果としては、レンズ内の乱反射などによる、ゴーストやハレーションを軽減する効果がある。このArlesはDZOFILM独自のブルーコーティングを採用しており、その効果はブルーコーティング特有の青味がかったフレアを作り出すことができる(※2)。フレアは映像表現として重要に捉えており、構図の中に光源を入れることが多いので、フレアがどのようにでるのか? はとても重要なレンズのチェック要素のひとつだと考えている。

※2 印象的な青みがかかったフレアを出すことができるDZOFILM独自のブルーコーティング

レンズ前面直径は95Φで統一されており、マットボックスをクリップオンで使用するときに便利なサイズである。14mm以外のレンズはレンズ前面86mmでネジ切りされていて、スチール用の丸型フィルターも装着可能になっている。レンズのフォーカスギアと絞りギアは広く採用されている0.8MODで両ギアの位置関係は全て統一されているので、レンズ交換時はフォローフォーカスやワイヤレスフォーカスギアなどを位置調整しなくてもいいのでとてもスムーズな交換ができる設計となっている。

では、DZOFILM社とブラックマジックデザイン社とサムスンのご好意でレンズとカメラとSSDをお借りできたので、実際にテストレポートを紹介する。今回、カメラボディはブラックマジックデザイン社のPYXIS 6Kをお借りできた。このカメラはセンサーサイズが36mm x 24mmのフルフレームでArles Primeのイメージサークルは余裕でカバーしている。フルフレームのイメージサークルは43.5mmΦなのでArles PrimeはVistaVisonのイメージサークル(46.5mmΦ)までカバーしているので余裕がある(※3)。

※3

まずレンズのポテンシャルを見てみたく絞りは開放で撮影を試み、レンズごとに被写体までの距離で人物の画面占拠率を合わせ、背景のボケ感を確認してみた。印象として、人物のエッジは柔らかく、背景のボケ感と人物との溶け込み具合はシネレンズ特有の自然な描写で表現されている。VespidPrimeではもう少しエッジがキレていて、被写体が強調され気味の印象だったのが、この ArlesPrimeではそのあたり調整されていて、美しく表現されている。カメラマンの好みもあると思われるが、私は被写体のエッジが強調され背景から浮き上がっているように見えるレンズはちょっと苦手でビデオっぽい印象を感じてしまう。

また、フレアの描写も良くこのレンズ特有の青味がかったフレアを感じとることができ、このあたりは新設計のブルーコーティングの特性かと思われる。背景のボケ感は絞りバネが16枚で設計(※4)されているので自然な球体のボケ感が描写されている。(100mm、180mm参照)

※4
上が100mm、下が180mmで撮影したもの。自然な球体のボケ感が表現されている。

ブリージングとディストーション

シネレンズの特徴として、動く被写体にフォーカスを合わせるという行為が必要となる。そのピントを手前から奥に送った時に画角が変わってしまうのをブリージングと言うのだが、シネレンズはピントを送っている途中も表現として使用されるので、スチルレンズと違いこのブリージングは極力起こらないように補正されている。そのブリージングをレンズごとに確認してみた。カメラと被写体まで3mほどの距離感でピントを人物から背景(INF)まで送って画角の比較を試みた。結果は写真の通りで、14mmから100mmまで(21mmはスケジュール合わず)ほぼブリージングは感じない結果となった。

50mmでの撮影。フォーカスを送ってもほとんどブリージングを感じない。

あと、レンズ性能として気になるのはディストーションかと思われ、各レンズをテストしてみた。基本的にディストーションはレンズを通して見られる歪んだ映像のことで(歪曲収差)、広角系のレンズは樽型の収差(中心から膨らんだ状態)がおこりやすく、望遠系のレンズは糸巻き型の収差(中心が窄まった状態)おこりやすい特徴があり、ArlesPrimeの広角から望遠まで収録した映像を見てみるとかなり驚かされた。書き出したものを見てもらえばわかると思うが、ほぼディストーションは感じなかった。書き出した画に水平方向にラインを引いてみたが、建物の水平と比べてもほぼディストーションは感じない。私的に驚いたのは14mmでディストーションを感じないのはどのようなレンズ設計を施しているのか気になるところで、合わせてここまでの広角であれば色収差を感じるはずだが、ほぼ気にならない。

14mmでの撮影。水平線からほとんど外れていない。

マグネットで装着できるKOOPフィルターは?

今回のテストで、いま各レンズメーカーが採用している、レンズエンド部に装着するフィルター、KOOPフィルターをお借りできたのでレポートする。このフィルターはマットボックスを使用せずレンズエンドに直接装着するフィルターで、フィルターバリエーションもNDフィルター・ミスト・ブルーストリークの現在は3種類あり、エンド部分にマグネットで装着可能になっている。KOOPフィルターを使用できるのはPLマウントのみでEFマウントでは使用できないので注意が必要だ。ただレンズ前面にマットボックスを使用してフィルターを装着するのとは少し違った効果を得ることができるので、その辺りも楽しみで試してみた。

使用するにあたり少し事前に準備が必要となっていて、リアエンドにKOOP用のマグネットリングをレンズごとに付け替えしなければいけない。付け替えには専用の工具が必要で工具は同梱されている(※5-1、5-2)。もうひとつ、使用するフィルターによってフランジバックが変わってしまうので、同梱されているシムを使用してフランジバックの調整が必要になっている(※5-3)。

※5-1、5-2(左上、右上)、※5-3(下)

今回50mmと35mmに1/4ミストを使用してテストを行った。結果は写真の通りで効果的に光が拡散されてミスト描写になっている。使用感としては、ミストの濃さが1/4しかなく効果の度合いを調整できないのは難点で、しかももし付け替えるたびにレンズをカメラボディから外さなくてはならないのも少し面倒。現場では雨や埃の混入などの危険性からもなるべくレンズを外す行為は避けたいところ。さらに一番の欠点は使用するフィルターによってフランジ調整を行わなくてはならないのは、現場での取り回しに大きく負担になるので、このあたり総合的に見ても、レンズの前径が同じなのだからマットボックスの付け替えの方が現場では対応しやすいかと思われる。

35mmでの撮影。左がミストなし、右がミストあり
55mmでの撮影。左がミストなし、右がミストあり

広角レンズのパース感

最後に広角レンズを使用して奥行きある場所でのパース感を14mm / 25mm / 35mmのレンズを試してみたところ、通常14mmほどの広角になるとパースが強調される傾向にあるが、Arlesの14mmは嫌なパース感はなく自然な奥行きが描写されているかと思われる。これは光学的非球面レンズが優秀なのか、廊下の奥から手前まで人物が歩いてきても変なもどかしさがなくとても自然である。

広角レンズ14mmでの撮影。嫌なパース感は感じられない。

撮影を終えて

今回テストしたArlesPrimeはオールドレンズのようなトーンで、柔らかさの中に独特のキレがあり逆光での描写もとても美しく、シネレンズとして程よい綺麗さを感じた。レンズの焦点距離バリエーションもプライムレンズとしては十分なバリエーションとなっている。基本レンズマウントはPLマウントで、追加でEFマウント・LPLマウントが購入可能となっていて、マウントは個人で換装可能となっている。

Arles Primeの価格は個人購入でも手が届きやすい価格帯で、Primeなのでセット購入が基本だと思うが、DZOFILMはAセットとBセットが用意されていて、レンズ単体で購入するよりも、少し割引になっている。セットレンズのラインナップはAセットが(25mm / 35mm / 50mm / 75mm / 100mm)で9,699ドル(¥1,525,000相当)、Bセットが(14mm / 21mm / 40mm / 135mm / 180mm)、11,699ドル(¥1,839,000相当 2025年時為替)となっていて、どちらのセットもハードケース付きとなっている。一度に全セットを購入するのもいいが、まずはAセット(※6)を購入して徐々にほかのミリ数を購入していくのもいいかと思われる。ちなみに購入時の注意点として、レンズ購入時にフォーカススケールの表示をメートル表示かインチ表示かを選択しなければならない。購入後も切替はできるそうだが、専用の工具が必要でメーカー送りになってしまう為で注意が必要である。

※6 25mm / 35mm / 50mm / 75mm / 100mmが入ったAセット

以前から様々なメーカーのレンズをテストしてきたが、今回ArlesPrimeをテストする機会をいただき、大変興味深い結果を知ることができた。数あるミリ数の中でも特に14mmのレンズの美しさと描写力の高さには驚かされた。CMやMusicVideoなどで使用するのはもちろんのこと、ルックが映画的な表現力だと思われ、また価格帯的にも自主映画などで使用することが可能だと思われるので、読者の方々もぜひ撮影で使用していただければと思う。

今回の使用機材

レンズ:DZOFILM ArlesPrime、カメラ:ブラックマジックデザイン Blackmagic PYXIS 6K、SSD:サムスン T9(2TB)、フィルター:DZOFILM KOOPリアフィルター アーティスティック セット

DZOFILM ArlesPrime
https://dzofilm.com/jp/products/arles-prime

ブラックマジックデザイン Blackmagic PYXIS 6K
https://www.blackmagicdesign.com/jp/products/blackmagicpyxis

サムスン T9
https://semiconductor.samsung.com/jp/consumer-storage/portable-ssd/t9/

DZOFILM KOOPリアフィルター
https://dzofilm.com/jp/accessories/koop-filter