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廣瀬清志(ひろせ きよし)
株式会社エディッツ代表取締役。
「ダンダダン」「ルックバック」「ジョジョの奇妙な冒険シリーズ」「BLUE GIANT」など数多くのアニメ作品において編集を担当している。

――まずはアニメの編集と、実写の編集の違いについて教えてください。

制作工程の中で、 シナリオが一番最初に登場し、その後に絵コンテが作られます。 これは実写でも結構作られる方も多いと思いますが、アニメの絵コンテは書いてあることが全てです。このセリフをここで言いますとなったら、もうそのアングルで書かれてきますし、考え方としては、 一度オフラインの編集が組まれたような形になるんです。

――オフラインの編集が紙ベースのイメージですね。

そうです。編集担当に来るときには、カメラのアングル、セリフはこれですというのが基本的に決まっています。実写だとカメラがいくつもあって、どのショットをどのタイミングで選ぶかは編集に委ねられている部分がありますが、アニメの場合はそれよりもやることが限られています。最初にほぼ設計はしたけど、しっかり流してみるとこう感じるよねといった時に、全体の映像のリズム感とかテンポ感を見やすくしたりにするような作業が主になりますね。

――どの工程から本格的な編集が始まるんでしょうか?

作品によって違いますが、僕は多くの作品でコンテが上がったら編集のタイミングを決めましょうという提案をさせてもらうことが多いです。絵が出来上がった後にタイミングの調整をするのは難しいんですよ。まずは僕が台本を見てセリフを読み、タイミングを計ります。その後に役者さんが実際の声を入れてくださり、そうすると自分たちが想定していたより長かったり短かったりみたいなものもあるので、それを絵が良くなった段階で整理し直し、テレビシリーズであればオンエアのフォーマットに載せられる状態まで持って行きます。その後、僕らだと「ダビング」と言いますが、効果音を入れたり、音楽を入れるMAを行います。そうすると基本的に尺は決まっていくので、そこからは素材を差し替えしていく作業になります。

廣瀬さんが編集を担当し2024年に公開された劇場アニメ「ルックバック」。「チェンソーマン」などの藤本タツキの同名コミックの映画化で、小学4年生の藤野と、同校に在籍する不登校の京本の、漫画を描く少女2人の人生が描かれる。Ⓒ藤本タツキ/集英社 Ⓒ2024「ルックバック」製作委員会

DaVinci Resolveでの制作プロセス

――なぜDaVinci Resolveをアニメの制作プロセスに使い始めたんですか?

僕がこのDaVinci Resolveを使い始めた最初の理由は、 自分にも使えるんだと思ったところでまず興味を持ちました。そして、アニメは編集がオンラインとオフラインで分かれているのですが、結局僕らは完成素材を扱っていますし、圧縮された軽い素材で仮組みをしてるわけでもないです。なのでそのマスタリングの手前までの工程は、普通に一貫して作業ができると考えていました。そうなった際に信頼できるソフトウェアを探しました。中でもDaVinci Resolveは色や素材、コンポジットなどの全体の統一がやりやすかったんです。

――いつ頃からDaVinci Resolveを使い始められたんでしょうか?

「弊社はこれで行きます」と言ったのは 2022年です。その前から興味はあって、エディットページが更新される度に使ってみるといったことはしていたんですが、もうちょっと使いやすくなったらなみたいな感じがあり、それが2022年のタイミングでした。

「ルックバック」の編集もDaVinci Resolveを使用されて行われた。編集工程の全てをひとつのソフトウェアで完結することができるメリットがあるという。

――それまでは廣瀬さんは何を使用されていたんですか?

一番最初はAvid DS、その流れでAvid Media Composer、Final Cut Pro 7、Adobe Premiere Proでした。中でもDaVinci Resolveはひとつのソフトウェアに統合されているというのが大きなメリットですね。

――DaVinci Resolveは全社で導入されているんでしょうか?

弊社のスタッフは全員使っています。僕が会社の中で受けているタイトル全ての作品で使っていますね。

――一番DaVinci Resolveで使われる機能は?

基本的にエフェクトやノードよりも通常の編集作業が圧倒的に多いです。素材の差し替えがとにかく多く発生するんです。あらかじめスクリプトを作っておき、DaVinci Resolveのテイクセレクターの中に素材が自動で入ってくるようにしています。なので強いて言うとテイクセレクターをかなり使っていますね。

「ルックバック」編集の際のDaVinci Resolveでのタイムライン

美容師から映像エディターへの転身

――廣瀬さんはもともと美容師だったんでしたよね?

美容の専門学校に通い、美容師をやってるうちにクラブに行くようになったんです。それでクラブが楽しくなって、美容師は髪を切る前に3年で辞めました(笑)。そのあと今度は自分たちでクラブイベントをやろうとなって、その際にVJという職種に興味を持ったんです。だから未経験でもパソコンを買って映像を仕事にしようと思い、仕事を探し始め、会社にひたすら電話をかけ、履歴書を送っていました。それを2、3か月続けていたら、たまたまGonzoというアニメの会社に受かって、最初は編集アシスタントで入りました。

――そこでAvid DSを?

そうですね。その後、ミュージックビデオをやりたいと思い、会社に掛け合いました。インディーズバンドのビデオを自分達で受注してきて、「自分たちの今の仕事は全部やるから、空いた時間で機材を使わせて下さい」とお願いしました。そうしているうちにPerfumeの演出をやられている関(和亮)さんと知り合ったんです。関さんに一緒にやろうよと言っていただき、PerfumeのMVやライブ映像を編集している時期がありました。

――Gonzoでやっていたんですか?

そうです。アニメの会社なんですが、僕らだけ実写をやっていた時期がありましたね。そういう意味では少しだけその実写の業界の雰囲気とか仕事の感じに触れていました。そのあと、その会社に10年〜12年くらいいて、後にサンジゲンという会社に参加しました。同社内の編集チームを作り、チームが独立して運営出来るような形まで成長したのでそのまま独立したような流れですね。

Blackmagic Cloudの登場が時間の節約に

――Blackmagic Cloudはどういったところで使われるんでしょうか?

まず会社の中のプロジェクトが全てBlackmagic Cloudの中にあります。そして僕らの編集作業を外部の制作会社さんでやってくれないかって言われることがあるんですよね。その際には先方にDaVinci Resolveを入れてもらい、お互い同じプロジェクトを使って編集しています。両拠点でデータのディレクトリの管理をしておけば、どこからでもプロジェクトにアクセスできるので、実際に足で外部の制作会社に行き、編集する時間が圧倒的に減ったので素晴らしいと思いました。

――Blackmagic Cloudはいつから使い始められたんでしょうか?

最初は社内にプロジェクトサーバーを立てて、プロジェクト管理をしていたんですが、Blackmagic Cloudを勧めていただいてBlackmagic Cloudに変えました。それが2年くらい前ですね。

――ちなみにデスクにATEM Miniも置かれていますが、こちらは何に使用されているんですか?

基本的には、Blackmagic Cloudで作業をしているのですが、遠隔地にいるBlackmagic Cloudの環境が整っていないクライアントさんなどに、タイムラインの画面をZoomでお見せして、こういう感じでやりますよといった話をしながら編集する時に使っています。いわばリモート編集用ですね。ビデオカメラが1チャンネルに入力、2チャンネルがタイムラインのアウトプットになっています。こちらも使っていて本当に楽ですよ。

――最後にBlackmagic Cloudの今後に期待されることなどあれば教えてください。

制作チームとタイムラインを共有できたらと思っています。Blackmagic Cloudで招待すれば、制作チームも同じタイムラインが見れるじゃないですか。差し替えのスクリプトを共有すれば、いつでも誰でも素材の更新ができますし、画音が同期している状態で確認できます。

その際に、ユーザーごとに権限を選択できるようにしてほしいと思います。例えば、制作チームがデリバーページに行けないようにしてほしいです。タイムラインはコピーしたものを共有しているので、他の人が触っていいんですが、何が起きるか分からないということもあるので、そういった選択ができればありがたいなと思いますね。