今秋に公開される電通クリエイティブピクチャーズ製作の短編映画『......overcome with あふれた..』。本作では、「ラージフォーマットの研究」という大きなテーマを掲げ、富士フイルム初の動画専用機となるFUJIFILM GFX ETERNA 55にて撮影された。本作の制作に携わった電通クリエイティブピクチャーズのプロデューサーである岡本拓自さん、シネマトグラファーの有馬 蒼さんにFUJIFILM GFX ETERNA 55を使用した撮影について詳しく語ってもらった。 

協力◎電通クリエイティブピクチャーズ 取材◎編集部 岡部 撮影◎モリマ・ヤカタ 文◎永渕雄一郎(midinco studio


岡本拓自  Takuji Okamoto
プロデューサー
2001年 電通テック(現 電通クリエイティブピクチャーズ)入社。プロダクションマネージャーを経て2007年よりプロデューサー。CM/映像を軸にさまざまなコンテンツのプロデュースを行う。

有馬 蒼  So Arima
シネマトグラファー
1993年生まれ。長野県松本市出身。2016年 立命館大学 映像学部 卒業後、ピクト(現 電通クリエイティブピクチャーズ)入社。2022年 シネマトグラファーとして活動開始。




FUJIFILM GFX ETERNA 55

製品概要
富士フイルム初の動画専用機となる映像制作用カメラ。横43.8mm x 縦32.9mmと映像制作用カメラとして世界で最も縦方向に長いラージフォーマットセンサー「GFX 102MP CMOS II HS」と高速画像処理エンジン「X- Processor 5」を採用し、対角55mmラージフォーマットセンサーをフルに活かした4:3オープンゲート撮影ができる「GF」フォーマットや、「Premista」「35mm」「アナモフィック(35mm)」「Super35」の全5種のフォーマットで撮影が可能。また、富士フイルムがこれまで培ってきたさまざまな色調表現ができる独自の「フィルムシミュレーション」を搭載している。


映画『......overcome with あふれた..』 

作品概要
脚本・監督・編集を務める加納美帆の幼少期の経験が構想のきっかけとなった電通クリエイティブピクチャーズ製作の短編映画。さくらは、クリーニング屋で働くシングルマザー。しかし、周囲の人々と言葉を交わさないまま日々を過ごしている。彼女はなぜ沈黙しているのか。その真実は物語のクライマックス、彼女が綴った「一通の手紙」により明かされる…。主人公のさくらを芋生 悠が演じるほか、さとうほなみ、豊原功補が出演。2026年秋頃にミニシアターを中心とする劇場公開が予定されている。

製作総指揮・安部英彦さん コメント
本作は、2026年に当社が注力する「ラージフォーマット撮影」において、映像表現の可能性を探るため、2025年に先行的に取り組み、社内における研究・検証を目的として制作、社内限定で公開してきました。
当社は、さまざまな“体験”を創造することで多くの人々の心を動かし、社会に良い影響を届けることをミッションに掲げており、本作の作品性と映像表現の完成度に加え、他者を見つめる眼差しをより優しく変えるきっかけになると判断し、2026年に国内外映画祭への出品および劇場公開する運びとなりました。
自己表現が得意ではない世界中の人々に観てもらい、一歩を踏み出すきっかけになってほしいと願っています。


ラージフォーマット特有の画角やパース感とコンパクトサイズを両立した「FUJIFILM GFX ETERNA 55」 

−今回撮影に、FUJIFILM GFX ETERNA 55を撮影機材として使用した経緯を聞かせてください。

岡本 当社では映像制作のスキル向上のためにいろいろなR&D(研究開発)をしており、その一環で今回の映画制作には「ラージフォーマットの研究」というひとつの大きなテーマを掲げていました。ご存じの通り、日本の映像業界においてラージフォーマットはまだまだ運用途上であり、機材も満足に借りられないような状況です。しかし、近年ではカメラマンの重盛豊太郎さんがARRI ALEXA 65を海外から借りてきて映画『フロントライン』の撮影をしたり、ALEXA 265が今後レンタルできるようになるなど、我々としてもラージフォーマットの研究に取り組まければならないなと考えていました。

そんな中、富士フイルムさんからラージフォーマットセンサーを搭載した新たな映像制作用カメラが出ると耳にし、展示会を拝見しに行ったんです。そこで改めてラージフォーマットならではの高い解像度やパース感に魅力を感じ、富士フイルムさん協力のもと、今回の作品において「FUJIFILM GFX ETERNA 55」を撮影カメラとして使用することになりました。

−実際にGFX ETERNA 55を撮影で使用してみて、いかがでしたか?

有馬 あれだけ大きなセンサーに対してカメラのサイズがかなりコンパクトなため、同等クラスのラージセンサーを持つARRI ALEXA 65などでしか撮れない画角やパース感を、このサイズ感で得られるのはとてもいいなと感じました。

ただ、今回の撮影に使用したレンズが重かったため、手持ちした際には重量感がありましたね。それも相まって重心が安定し、手ブレをコントロールしやすかったです。GFX100 IIにつけるような富士フイルム純正のレンズなどをつければ本体自体も軽くなるので、例えばワンオペでのドキュメンタリー長回しなどの場面でもかなり手軽に回せるんじゃないかと思います。


−ラージフォーマット特有の写りや被写界深度について、感じたことはありますか?

有馬 本作では、最も大きいセンサーの情報を取り入れるということで「GF 4:3 オープンゲート」のフォーマットを選択して撮影しました。ラージフォーマット対応のシネマレンズをつけてテストした際にまず思ったのが、背景の大きさと奥行きをものすごく感じるなと。スーパー35mmなどのセンサーで撮影した被写体と同じサイズになるように中判(ラージフォーマット)センサーで撮影をすると、背景がかなり広く映り、それは中判センサーならではの魅力に感じました。その分背景のフォーカスが合っていない範囲が増え、画全体がねむくなりやすかったため、今回はF5.6以下の絞り値を避け、ボケのバランスをコントロールしました。

−何の記録方式で撮影されたんでしょうか?

有馬 F-Log2C(ProRes 422 HQ)で撮影しました。RAWとLogどちらで撮るほうがいいかといった話になった際、富士フイルムさんから「Logの場合、フィルム時代から培ってきた富士フイルムのカラーサイエンスを通るので情報としても残るため、ぜひLogを使ってほしい」と自信を持って伝えていただいたこともあり、本作ではF-Log2Cを選びました。

F-Log2Cはハイライト側の粘りのようなものが強い印象を受けました。例えば、逆光のシーンでは直射がそのまま光源として画に入っていき、さらにフレアも入って人物が黒く落ちているカットがあるんですが、ハイライトが粘ってくれる分、最も強い光源のハイライトから少し中間にかけて、人物の顔までの階調が滑らかに繋がってくれるような印象がありました。使用したレンズの特徴的なフレアも相まって、逆光の画がとても綺麗に撮れました。


中判センサーならではの奥行き感や背景の大きさを活かした画作りを

−撮影において特にこだわった点はありますか?

有馬 どのカットに対しても奥に窓の抜けがあったり、部屋の向こうにもうひとつ部屋があったりと、とにかく抜けのあるカットになるよう意識しました。例えば、夜の食卓シーンでは、部屋の手前に暖かな光を置き、抜けには間接照明を置いた暗い部屋があり、その部屋の奥にある窓から夜景が見えている、といった奥行きを感じさせるような画作りにこだわりました。

−ラージフォーマットセンサーを特に活かせたと感じたシーンはありますか?

有馬 夜景のシーンで主人公が橋を歩いていく背中のショットがあるんですが、そこは中判センサーを良く活かせたなと感じました。大都会のビルの真ん中を歩くような画を撮りたくてその撮影場所にしたんですが、中判センサーならではの奥行き感や背景の大きさを活かせたカットになったなと。

人物がしっかりと立っていつつ、周りの背景の大きさや、奥まで続くビルと横を通る電車が、人物と対照的になるようなアングルを狙ったショットで、パース感が強調されていて、夜景の美しさや抜けにあるビルのハイライトがF-Log2Cの粘りと相まって、非常に綺麗なカットが撮れたなと思いましたね。

−本体内蔵のラージフォーマットセンサーに対応した電子式可変NDフィルターの使用感はいかがでしたか?

有馬 普通は0.3、0.6、0.9といった刻みの内蔵NDが多いですが、GFX ETERNA 55の電子式可変NDフィルターはNDの数値の刻みが通常より細かいんです。

中判のセンサーということもあり、ボカし過ぎず、かといって全てにピントが合っていると画としておいしくないなど、絶妙な背景のボケ具合を狙って撮るカットが多かったため、その調整を可変NDフィルターによって細かく行えたのは良かったです。ロケで天気が目まぐるしく変わる際など、マットボックスをいちいち外してNDフィルターを入れて…という段階を踏まず、ダイヤルを回すだけでちょっとした天候の変化にも細かく対応できるのが便利でした。


−撮影に使用したレンズについて、教えていただけますか?

有馬 今回は4:3オープンゲートフォーマットで撮りたかったので、普通のセンサーよりも縦の情報が多かったんです。それを16:9で撮ってしまうと上下を切ることによって失われてしまう情報が非常に多いのがもったいないし、そこも余すことなく使えたらということで中判対応のアナモフィックレンズを探していました。

ただ、スチル用の中判レンズは結構存在しているんですが、さらに映像用のアナモフィックレンズとなるとシネマ用になってしまうので、元々中判対応のものが作られていなかったり、海外のものだととてつもない金額になってしまうんですよね。それで日本にいいものがないか探していたら、Ancient Opticsというリハウジング専門メーカーと提携を最近始めたCAPSULE.RENTALSが貸し出していた「Statera」というアナモフィックレンズを見つけたんです。

オールドレンズのアナモフィックレンズを中判用にリハウジングして付けられるようにしたもので、これならGFX ETERNA 55のセンサーを余すことなく使えるんじゃないかと思ったのと、フレアの形が特徴的で、オールドレンズ特有の描写の柔らかさやハイライトの玉ボケが涙のような形になるところも気に入ったので、このレンズを採用しました。

ただ、4:3の画角のまま使ったカットや、出勤・退勤中に街を歩く主人公の画を撮ったラッシュシーンに関しては、歪みを出したくなかったのでアナモフィックレンズではなく、同じくAncient Opticsから出ている中判対応のSeries 65というレンズを別で借りて使用しています。このレンズもものすごく綺麗で、歪みも少なく、オールドレンズの柔らかさもあり、良かったですね。

次のカットの撮り方について現場で確認をする有馬さんと加納美帆監督。


現場での利便性を追求しカメラマン・助手側両方に配置された操作パネル

−GFX ETERNA 55の操作性についてはどのように感じましたか?

有馬 これは僕だけではなく助手の意見も入っているんですが、カメラの左右両面に操作パネルがあり、カメラマン側と助手側両方でパネルを触れるのが良かったですね。助手がわざわざカメラマン側に回って設定をいじらなくても良い点は操作性として優れていると思いました。また、ファンクションボタンが多くあり、割り当てられる項目も多いため、時間のない撮影やメニューの深い階層に入らなければならない操作をファンクションボタンひとつで変更できるのはいい点だなと。

−今後のラージフォーマットでの撮影についてどのようなお考えをお持ちですか?

有馬 全編4:3オープンゲートのままの画角で撮れるような作品があれば、またGFX ETERNA 55を選択すると思います。センサーの大きさこそがこのカメラ一番の武器だと思いますし、ラージフォーマットならではの背景の大きさを最も活かせるのは、やはり4:3のオープンゲートによるパース感だと思うので。ただ完成が16:9であっても、ラージフォーマットで撮影することによる利点は大きく、条件が合えばぜひまたGFX ETERNA 55で撮影してみたいですね。