ここ2年ほどで、2.4GHz帯の小型無線マイクの進化が目覚ましい。多くのメーカーが参入する中、異彩を放つのがHollyland社だろう。その最新機種LARK A1を映画録音技師の目線でレビューしたい。
レポート◉桜風 涼
USB-C or Lightning接続に特化した小指の先サイズの高音質無線マイク
2.4GHz帯の無線マイクが各メーカーともに花盛りなのだが、各社ともそれぞれ特徴を持った製品が出てきている。今回紹介するHollyland社は、2.4GHz帯マイクの中では最も小さなマイクを作っている。その中でもLARK Mシリーズは衣服のボタンサイズの送信機で、映画業界でもかなりの評判を呼んだ。事実、筆者自身、映画の現場で使うことも多く、サイズの小ささ、付け外しの迅速さなど、軽量コンパクトさはプロの現場でも威力を発揮している。
今回登場したLARK A1は、Mシリーズ同様に小さく軽いコンセプトはそのままに、もっとカジュアルな活用シーンに特化しているように思う。まず、サイズだが、送信機は大人の小指の第一関節程度だ。送信機は30×16.3×8.8mm、重さ約8g、バッテリー容量65mAh(ノイズリダクションオフで9時間、オンで6.5時間)で、LARK M2やM2sと同等。薄手のTシャツなどに取り付けても衣装の乱れが最小限度に抑えられる。
これだけなら、これまでのMシリーズで良いのではないかと思えるのだが、Mシリーズに比べるとかなり進化している。詳細は後述するが、Mシリーズがカメラ接続を前提にしているのに対して、A1はスマホ接続や、対応していればアクションカムへの接続に特化していると分類できるだろう。


製品の構成だが、前述のように超小型化されている送信機と、USB-C or Lightning接続のバッテリーレス受信機、そして送信機を充電するチャージングケースである。これまでのMシリーズのチャージングケースよりもかなり小さく軽くなっており、送受信機全てを入れた状態で100gを切っている(90g程度)。
パッケージは数種類あり、全部入りのCOMBO(実勢価格9900円税込:USB-C or Lightning受信機を両方搭載)、DUO(6600円税込:受信機がどちらか一方)を基本として、送信機だけ、受信機だけ、ケースだけというような柔軟なラインナップになっている。ちなみに送信機1個は3000円程度と非常にリーズナブルだ。
小さく軽い8gの送信機はプロ仕様のウインドジャマーも付属

実際の使い勝手の解説に移ろう。まず、衣服への取り付けはマグネットだけとなっている。かなり強力なマグネットを採用しており、スポーツで大暴れでもしない限りは、使用中に外れることはないだろう。ただ、付けているのを忘れて衣服を脱ぎ着した場合には紛失の可能性はなくもない。ただ、これはクリップ式でも同様なので欠点とまでは言えまい。ちなみに、冬の厚手のコート生地であっても、強力なマグネットのホールド力は充分にあり、問題ないと判断している。

風対策としてのウインドジャマーも、もちろん付属している、送信機本体に比べてかなり大きく毛足の長いジャマーで、送信機のマイク部分(上端)にゴム性のマウントで被せる。見た目にはかなり大きくなるのだが、これはプロ用のラベリアマイクに被せるジャマーに匹敵する高性能なもので、風速7m(髪の毛が乱れる程度)でもノイズレスで使えた。このあたりにメーカーの音質へのこだわりやノイズ対策の重要性がわかっていることが読み取れる。
プロが必要としているノイズリダクションの適応量調整が可能だ

特筆すべきは、柔軟なノイズリダクションシステムが搭載されていることだろう。これまでのLARM Mシリーズにもノイズリダクションは搭載されていたのだが、オン・オフしか選べず、プロの立場から言えば「自動車の走行中のインタビューでは使いたいが、それ以外はオフ」という感じだった。
今回のA1に搭載されているノイズリダクションは、ノイズの除去量を3段階に変えられる優れものだ。余談になるが、ノイズリダクションというのは背景ノイズを除去する量を増やした分だけ人の声の劣化が生じる。つまり、強くノイズを消せば消すほど、人の声が悪くなるのだ。一方で、背景ノイズはその時々で違うし、マイクのセッティング位置によっても相対的なノイズ量が変わる。詳細な説明は省くが、最適なノイズ除去というのは、人の声が劣化しないぎりぎりの適応量で使うのがプロのやり方だ。
そういう意味では、このA1は3段階ではあるが、プロの現場で必要とされるノイズリダクションシステムを搭載していると言える。ただし、この機能を使うにはスマホアプリからの設定変更が必須となる。難しい書き方をしているが、実際には、人の声の音質がおかしいと思えばノイズ除去量を小さくすれば良い、という話だ。
イコライザーやリバーブ(エコー)を搭載音の演出機能が搭載されている

さらに興味深いのは、音質調整のイコライザーとエコーが搭載されていることだろう。単に声を録るということだけでなく、心地よい声を作り出すことができる。イコライザーとは、もともと、異なるマイクを使う場合に、それぞれのマイクの特性を補正して、全てを同じ音にするフィルターのことで、音質を「同じにする」=「イコールにする」機器ということでイコライザーという。マルチカメラで複数のマイクの色味を揃えるのと同じ理屈だ。今回搭載されているイコライザーは、各マイクに別々に使うことはできないので、どちらかというとVlogなどで出演者の声を魅力的な音質にするお化粧のためと思うといいだろう。例えば高音を持ち上げて女性の声を澄んだイメージにするとか、男性の声を低音で魅力的にするということだ。
さらに、カラオケでは必須のエコーも搭載されている。Vlogも単に綺麗な声で伝えるという時代から、声を演出して動画をグレードアップする時代に突入したということだろう。『歌ってみた』というようなコンテンツも人気があり、そういった配信者にはうってつけの機能だろう。
プロの要求する音響性能高音質を確保する技術が進化
A1の魅力はまだまだある。音響性能としては48kHz・24bitのデジタル処理に加え、DSPによる高度なリミッターやレンジ調整機能を搭載している。突然の大音量でも割れることなく(ただし、マイクの物理的最大音量以内)、聞きやすい音量に収めるダイナミック処理を行っている。わかりやすく言えば、出演者がどんな喋り方をしても、聞きやすい音量に整えてくれるということだ。
一方、周波数レンジは20Hz~20kHzと広い。特に低音にも強いということは特筆しておこう。S/N比は67dBと、人の声を美しく収録するには必要充分だと言える。まぁ、一般的な有線コンデンサーマイクのS/N比も同程度なので、有線マイクに匹敵するノイズの低さだということだ。
いずれにせよ、スペック上の性能を100%引き出すには、実はゲイン調整(マイクボリューム調整)が必須となるのだが、A1には6段階のゲイン調整機能が搭載されている。特に撮って出しで配信したいインフルエンサーにはありがたい機能でもある。
多彩な情報インジケーター送信機を色分けできる

さらに、A1のインジケーター(LEDライト)が洗練されている。筆者が最もありがたいと思ったのは、2つの送信機のインジケーターの色を変えられる機能だ。その色は受信機のLEDと同期する。複数のマイクを使う場合、どちらのマイクをメイン使うかを決めて、編集時に効率よく切り分けたい。2つのマイクを使う場合、ステレオ収録モードにしてそれぞれのマイクをステレオのLRに切り分ける(編集時に声を別々に扱える)。ところが、最初の撮影場所ではメインの演者がこちらのマイクだったのに、次の現場では反対のマイクになってしまったというように、マイクの取り間違えが生じやすいのだ。特に忙しい現場でヘッドホンなどできちんと聞き分けられない現場で、こうしたミスが起きる。ところがA1なら色でマイクを選べるので、そうしたミスが回避できる。
もちろん、送信機のインジケーターは目立つのでオフにしたいこともある。もちろんそれも可能だし、ノイズリダクションのオンオフをインジケーターで見分けることも可能だ。
まとめ
今回紹介したA1は、スマホ接続(一部のアクションカム)への接続に特化したモデルではあるが、スマホでVlogや動画チャンネルを運営しているユーザーには、安くて高性能な無線マイクとして、自信を持ってお勧めしたい。カメラを使うユーザーには、今後出てくるLARK MAX 2があるので、こちらについては追ってレポートしたい。