Report:株式会社プロ機材ドットコム 森下千津子

1.セミナー配信現場での活用事例レポート

これまでもHollyland製品は、Mars300やMars400シリーズの安価な映像伝送システムが業界でもそこそこ支持されており、ケーブルを引き回せない現場や、返しモニター出し等で重宝されていた。そして今回、今年9月に発表されたばかりの映像伝送の送受信機とモニターが一体型になったMars M1という機種をInterBEE国際放送機器展の展示ブースで目にし、これはかなり使えると直感で感じた。

すぐに購入を決めて発注したが、一足早く現場で使用させていただく機会をいただいた。またさらに、最近個人的に購入したばかりのワイヤレスインカムシステムSolidcom C1-4Sも、購入後現場で初投入してみたのでその感想をレポートしたい。

 

【使用したHollyland製品】
①Solidcom C1-4S 同時通話ワイヤレスインターカムヘッドセットシステム(4人用)
②ワイヤレス映像伝送モニター Mars M1

 

【当日の配信システム】

 

今回の配信現場は、都内某団体でのハイブリッドセミナー配信。演者2名を3台のカメラが捉える。講師PCPowerPoint資料あり、動画資料あり。配信に出す映像は、講師の寄りカメラ、会場全体の引きカメラ、資料と講師の小画面を合成したものを適宜切り替えながら送出。会場ステージスクリーンと客席モニター、講師への返しモニターは講師PC資料を出すことになっていたが、こういう時に厄介なのは、急遽プログラムアウト(実際の配信に送出する映像)の映像を出してほしいと言われることだ。講師がリクエストすることもあるし、関係者がリクエストすることもある。

また音響チームや照明チームが別の会社だったりすると、そこからリクエストされることもある。なので返しモニターが増えるということは珍しくないが、そのたびに分配器を入れて映像を分岐して出したり、ケーブルを新たに引いたり、決して楽ではない。(事前に言われていないことはできません、と断ることもできるが、クライアントの偉い方や講師に言われては断りづらいというのが常である。)

そんな時にあると便利だなと思っていたのが、こういったワイヤレス映像伝送システムだ。既に映像の送受信がワイヤレスでできるMars300Proを購入して使用してはいたが、モニターにその機能が内蔵されたというのはめちゃめちゃ欲しかった機能の製品化であった。こういうワイヤレス映像伝送システムを使用するのは、主に2パターンの使い方がある。

カメラの映像をオペレーション卓までケーブルを引いて送るのが難しい状況(めちゃめちゃ距離があるが設営の時間がない、カメラが会場中を複雑に動き回る等)で配信オペレーション卓スイッチャーにカメラ映像を入れるために使用するか、スイッチャーから送出される映像をカメラマンや演者、関係者に返して見せたい場合に使う。前者の場合では、カメラマンがオンカメラで使える外部モニターとして映像の確認にも使うことができるし、後者では必ずモニターと一緒に使う必要があるところを、一体型になっているというのは機器接続や別モニターを用意する手間が省けて、本当に便利だ。

私は、特に返しモニターとして使用する場合に、モニター一体型の受信機を熱望していた。すでに中国ではこの手のモニターは製造されていたが、日本では技適認証の通っていないものが多く、安心して使用できる製品がなかったのだが、今回Hollylandのから日本向けにも技適認証を受けて発売されたこの製品は、InterBEEでのプロクリエーターの方々の反応を見ても、かなり待望されていたのだと思う。実際HollylandブースでもMars M1は最も人気のあった製品のひとつだという。

今回のセミナー配信では、講師側や関係者にプログラムアウトを出すというリクエストはなかったが、セミナー中の大半を占める資料と講師の合成映像を作る際に、カメラマンにプログラムアウトを見てもらいながら、ワイプ中の講師がフレームアウトしないように、カメラアングルを調整してもらうために使用した。今回は3台のカメラを一人のカメラマンが管理するので、カメラマンはあちらこちらと動いている。なのでケーブルレスで小型モニターにプログラムアウト映像が出るのは、本当にありがたかった。セミナー以外の現場でも、小規模な現場ではタリーやカメラマン用マルチビュー返しモニターも用意されないことが多いので、どのカメラがテイクされているのかが簡易的な返しでもわかるのは、カメラマンにとっても便利だと思う。


▲カメラマンがプログラムアウトの映像を確認するのに使用。特に、PinP合成映像を作るときは、ワイプ中の演者の位置を確認しながらアングルの調整をしてもらうのに役立つ。

 

従来品では、返しモニターとして使うためには受信機をモニターに接続する必要があった。もしくは、スマートホンをネットワーク接続してアプリ経由で映像を見る方法もよく活用されている。この方式も何もないよりかは良いが、スマホをWi-Fi接続してしまって映像受信が途切れたり、電話がかかってきてしまったり、何かと不便な点もあった。やはりモニター一体型というのは本当に簡単で楽だった。そして何よりこのモニターの液晶ディスプレイ品質が素晴らしい。色の再現性もATOMOS製品やBlackmagicDesign社のVideoAssistと遜色なく、必要に応じてLUTをあてることもできる。



▲メニュー操作はタッチパネルで非常にわかりやすい。チャンネルのところにあるSCANという項目をタッチすると各チャンネルごとの周波数帯の混雑状況を表すグラフが表示される。基本的に自動でチャンネルスキャンは行ってくれるが、混雑状況が目視で確認できるのはとてもありがたい。

 

今回は返しモニターは1台で済んだが、Mars M1の送信機1台に対して2台のMars M1で受信することができる。スマホアプリなら4台のスマホまで受信することができる。もしくは1台のMars M1+スマホ2台など、現場のニーズに応じて臨機応変に返しモニターを増やすことも可能だ。そして従来品のMars 300 ProMars 400S Pro、新製品のMars 4Kと組み合わせて使用することができるというのもありがたい。

Mars M1は受信機にも送信機にも設定で変えることができるので、2台セットで購入して1台を受信機、1台を送信機として普通に使うこともできるが、例えば手持ちのMars 400S Proの送信機から送出した映像を2台のMars M1で受信するといったように、既存の製品と組み合わせて使うこともできる。(Mars 300 Proでは1台のみ受信可能だそう。)

実は今回は、既に所有しているMars 300 Proを持ち込んでおり、そちらからMars M1で映像受信をしようと考えていたが、うまくペアリングができなかった。後日メーカーの人に聞いたところ、まずMars M1を両方とも受信機に設定した上ですべての機器を再起動し、新たにペアリング設定を行うということだった。やってみたら簡単にペアリングできた。Mars M1は設定で受信機にも送信機にもなるのが良いところの一つではあるが、ペアリングを行う際は送受信機設定を再度確認するなど注意が必要である。

▲Video Assist(録画機)とLive U Solo(エンコーダー)の間にMars M1を挟んでプログラムアウトの映像をもらう。HDMIとSDIの入力の他、HDMIの出力もあるのでエンコーダーへのスルーアウトができるのも便利。

 

さて今回使用したもう一つのHollyland製品が、4人用のワイヤレスインターカムヘッドセットシステムSolidcom C1-4Sである。スタッフは現場ディレクター、カメラマン、スイッチャー、音声、カメラアシスタントの5名。そんなに大きな会場ではないし、このぐらいの規模感の現場でこれまでインカムを使うということはなかったように思う。それがこのぐらいの規模感でも気軽に使えるようにした製品がこのSolidcom C1-4Sだ。

これまでのインカムといえば、非常に高価でとても自社では買えない、レンタルでも1日数万円はするものだった。ワイヤレスインカムなら大きなステーションがあったり、有線ならインカム用のSDIケーブルを引きまわしたりと、使用するにも大がかりな製品であった。私もアーティストのコンサート配信等の大きな現場でしか使ったことがない。

だがこの製品はステーション不要でヘッドセットだけで繋がり、現場にも気軽に持っていける。そしてお値段も、購入しても10万円台という驚異的な価格で、本当にカジュアルに投入しやすくなった。トランシーバー等と違い、同時に双方向通話できてコミュニケーションも取りやすい。また、圧倒的な聞き取りやすさで小さなささやき声でもちゃんと伝わる。オペレーション卓の隣同士であっても、わざわざ耳元で囁くよりインカム通して話した方がずっとクリアに伝わる。今回の現場チームメンバーは、私以外は初めてこの製品を使用するメンバーばかりだったが、これはあると本当に便利!とメンバーからの評価がかなり高かった。

 

2.北陸Hollylandフェアレポート

2022127日、富山県富山市にある映像機器販売・ライブ配信事業をを行う神成株式会社にて、北陸Hollylandフェアが開催された。日本未発売の新製品を含め、すべて今年発売の新製品7機種を展示。映像制作会社、イベント制作会社、フォトグラファー、YouTuber、アナウンサー等、映像機器に興味がある多くの方が来場し、新製品の実機を手にしてにぎわった。

▲日本未発売の新製品を含め、すべて今年発売の新製品7機種を展示。
Lark M1/Lark C1/Syscom 421S/Mars 4K/Mars M1/Arocam C2/Solidcom C1

 

▲日本担当営業のErikaさんによる新製品レクチャー

 

Mars M1

▲会場でも欲しいという要望が最も多かったMars M1は、1台の単体バージョンと2台にケースが付属したキットバージョンがある。この製品は1台で送信機にも受信機にもなり、設定で簡単に切り替えることができるので、いろいろな応用ができる2台セットが断然人気。Mars M1 Kit販売価格は税込154,000円。

▲2022年10月14日に公開された最新ファームV2.1.0.3では、液晶画面上に赤いボタンが現れ、タッチすると3分間の録画ができる。

 

Syscom 421S

受信機1台に対して送信機4台まで受信できる。販売価格は税込792,000円。海外ではスポーツ中継などによく使われているという(日本では電波法認可の関係で屋内使用のみ可能)。屋内で行われる大型イベント配信等で、ケーブルの引き回しが不要になれば準備時間や持って行く機材をかなり削減できる。人が多い場所での電波の送受信状態が気にはなるが、今回のイベント中、朝から夕方まで映像を送り続けていたが、乱れたり途切れたりすることなく送受信できていた。

 

 

Lark M1/C1 Duo

かわいらしいコンパクトなケースに入った小型ワイヤレスマイク。受信機1台に対して送信機2台が使えるタイプは充電ができるケース付き。まるでワイヤレスイヤホンを連想させるが、このマイクの特徴であるノイズキャンセル機能もノイズキャンセルイヤホンの技術を転用している。

人の声を拾うマイクと周囲の環境音を拾うマイクと2つのマイクカプセルが入っており、環境ノイズに対して逆の位相の音波を発生させて打ち消すという処理を行っている。ローカットのように特定の周波数帯をカットする方式ではないので、人の声が歪んだりせず、とってもクリアに収録できる。ノイズキャンセル有効無効をワンボタンで切り替えできるのも便利。


▲今回、皆がひとつは持っていたいと最も注文が多かった商品。Lark M1 Duo税込23,100円。Lark C1 Duo税込27,500円。

 

 

Arocam C2 HDライブストリームカメラ(日本未発売製品)

ライブコマース等のライブ配信のために作られたPTZカメラ。2022年8月14日にグローバルで発売開始。日本での販売については現在市場調査中で、これから決まる。特徴的なのは縦長画角にのみ対応で、16:9の横長画角撮影はできない。レーザー測距オートフォーカスを採用しており、暗所でもオートフォーカスがめちゃめちゃ速い。光学12倍ズームで商品ディテールの描写も微細に可能で、ライブコマースに向いている。映像出力端子はHDMIの他にUSB3.0 タイプCの端子も備えており、ウェブカメラとしても使用が可能。

来場者の反応は、「縦動画ができるのは嬉しいし興味があるけど、横もできれば良いのに」という声が多かった。

 

窓から4mほどは離れた部屋の内側から窓の外を撮影。窓ガラス越しでも風に揺れる紅葉や雨の降る様子が鮮やかに映し出されている。うっすらと陽に当たる紅葉の透明感や後ろの緑の葉のボケ感の描写も素晴らしい。