REPORT◉井上卓郎

ライカ。その名は、写真愛好家なら誰もが一度は憧れる、伝説的なカメラブランドだ。中でも人気なのがレンジファインダーカメラの代名詞とも言えるMシリーズ。最近色々な場所で話題になっている。しかし、写真だけでなく映像撮影にも本格的に取り組みたいなら、ライカが誇るもう一つのフラッグシップ、SLシリーズになる。

今回は、2024年3月16日に発売されたばかりの最新機種、ライカSL3を徹底レビューしていく。ライカSL3は6030万画素という高画素機で映像に関してはC8K(8192 x 4320)の解像度まで撮影が可能だ。この高画素を活かした映像、そしていわゆるライカの色(雰囲気)というものを映像でも撮影できるのか気になるところだ。

最近のカメラは軒並み高性能で、どれを選んでも満足のいく写真や映像が撮れる時代になった。そんな中、ライカSL3はいったいどんな魅力を持っているのだろうか? 伝統と革新が融合した、このカメラの真髄に迫る。

ライカSL3 基本スペック

センサー :35mmフルサイズ裏面照射型CMOSイメージセンサー
画素数: 6030万画素(有効)
画像処理エンジン: Maestro IV(マエストロ・フォー)
オートフォーカス方式 :位相差検出AF / コントラストAF / ハイブリッドAF
モニター :チルト式: 3.2型タッチパネルモニター
ビューファインダー: 576万画素、最大120fps
記録媒体: CFexpress カード type B + SDカード
レンズマウント: ライカLマウント
手ブレ補正: 5軸手ブレ補正機能
マイク: ステレオ内部+マイク入力 3.5 mmステレオジャック
記録画素数(静止画):9520 x 6336画素(6030万画素)
記録画素数(動画):
C8K (17:9) 8192 x 4320
8K (16:9) 7680 x 4320
C4K (17:9) 4096 x 2160
4K (16:9) 3840 x 2160
Full HD (16:9) 1920 x 1080
寸法(WxHxD): 141.2 x 108 x 84.6 mm
質量: 約769 g(バッテリー、SDカード、ボディキャップ含まず)
価格 110万円(税込)

ライカを持つということ

何も足さず、何も引かない。見ていて疲れない画が生まれる。

SNS映えを狙うような派手さはない。ライカを持つ事で何かを撮れるのではなく、ライカを持っている時、そこに存在する風景や人物をありのままに、忠実に記録していくカメラだ。

シャッターを切るたびに、その瞬間の記憶が一枚一枚、鮮やかに刻まれていく。これがライカを手に取るということなのかもしれない。Mシリーズは、さらにこの感覚が顕著なのだろうか? 触れたことがないため断言はできないが、いつかその魅力を肌で感じてみたい。

感覚的な部分は人それぞれ異なるため、今回は、SL3をあくまで機材として、できるだけ偏りのない視点で検証していきたい。なお今回の作例写真、映像は極力色には手を加えず、露出調整など必要最低限の処理にとどめている。

ドイツらしい堅牢なボディ

手に持った瞬間に感じる堅牢性と、直線と曲線を巧みに組み合わせたデザインは、いかにもドイツらしさを感じさせる。エルゴノミクスを多用した日本のカメラとは一線を画し、「お、何か違うぞ」という期待を抱かせてくれる。IP54認証に準拠した防滴性・防塵性は私のように過酷な環境下で撮影する際も心強い。しかし、その価格の高さから尻込みしてしまい、無茶な環境では取り出せない小市民だ。冗談はさておきフルメタルのボディーはボタンの1つ1つまでこだわりを感じ、手触りにも上質さを感じる。これだけでも、このカメラの価値を十分に感じることができる。

往年のMマウントレンズも興味があったのだが、この画素数を活かすには最新のSLマウントレンズを使用するのが良いと考え「APO-SUMMICRON-SL 50mm F2 ASPH. 」「SUPER-VARIO-ELMAR-SL 16-35mm f/3.5-4.5 ASPH. 」の2本のレンズをお借りした。

操作性

他のこのサイズのカメラと比べるとボタンの数は少ない。これはライカの哲学が反映されているのであろうが、慣れるまでは毎回メニューに潜らないといけないので多少面倒に感じる。

写真用と映像用に最大6つまでプロファイルを保存できる。よく使うセッティングはプロファイルに登録しておくことをおすすめする。また、6つのボタンは長押しでカスタマイズが可能なので、ある程度自分が使う機能が絞れてきたら、各ボタンにアサインすると素早く設定を変更することができる。

自分に合うようにカスタマイズをしておけば、シンプルなのが逆にメリットになる。設定変更に費やす時間を減らすことができ、撮影に集中ができる。手に馴染むプリセットが出来上がってからが、このカメラは本領を発揮し、唯一無二の相棒になる。

静止画性能

SL3は6030万画素という高画素機だ。ピクセル数でいうと9520 x 6336ピクセルとみるからに高画素機なのを感じる。そこまで高画素が必要ない場合は7404×4928画素(3650万画素)/5288×3518画素(1860万画素)と撮影時の画素数を3段階で選べる。

実際に撮影を試みると、ライカのカメラが暗部の階調に優れているという評判は確かだった。色の表現力もさることながら、特に暗部の階調や、Lightroomでシャドウの明るさを調整した際の色の分離性が非常に良好であった。このカメラは15ストップのダイナミックレンジと14ビットの色深度をフルに活用し、非常に豊かな階調を実現している。

河岸に生えている木々の明るい黄緑の発色も素晴らしいが、その上に生えている木々の暗い部分に豊かな階調を感じた。
暗部に階調がしっかりと残っており水面の黒の表現が美しい。

LEICA LOOKで表現するライカの色

Leica FOTOSアプリは、スマートフォンを使用してLeicaカメラを遠隔操作し、写真を転送および管理することができるアプリケーションだ。このアプリの特徴の一つに「LEICA LOOK」がある。LEICA LOOKは、スマートフォンからカメラにプリセットを転送し、ライカの伝統的な色調や階調を模倣した色を再現できる。


最大C8Kで撮影ができる動画性能

静止画の性能は目を見張るものがあったがVIDEO SALON的にはここからが本番。では、動画性能はどうか?ライカらしい色を再現できるのでか?

その前に動画機能の基本スペックを見ていこう。

記録方式

下記の多彩なフォーマットで記録ができる。と言いたいところなのだが、録画設定の組み合わせが複雑で、可能な組み合わせと不可能な組み合わせが存在する。ただしプロファイルを5つまで登録可能なので、よく使うプロファイルは事前に登録しておくことが必須だ。ちなみにProResで記録できるのは残念ながらFHD解像度のみに限られている。

解像度

C8K(8192 x 4320)、8K (7680 x 4320)、C4K (4096 x 2160)、4K (3840 x 2160)、Full HD(1920 x 1080)と一通り主要な解像度で撮影をできる。1点留意すべき点はFull HD以外はセンサークロップされる。


コーデック

H.264 / H.265 / ProRes422HQ

各解像度の最高フレームレート

8K 29.97 fps、4K 59.94 fps、FHD119.88 fps(FHD)


手ぶれ補正

5軸手ブレ補正機構(IBIS)が通常の手持ち撮影には十分な性能を発揮するが、歩きながらの撮影や急な動きでは若干のカクつきが生じることがある。また、画像の周辺部に歪みが発生する現象も見られる。そのため、撮影時は安定した姿勢であまり早く動かさずに撮影すると良いだろう。

オートフォーカス

AFs、AFc、インテリジェントAF(iAF)の3種類のフォーカスモードから選択できる。被写体認識も可能だが、複数の動く被写体(今回は猫)が存在する場面では、頻繁にフォーカスが迷うことがあった。もう少し設定の追い込みか慣れが必要だったかもしれない。ただし、一人のモデルを撮影するような場合には問題はないだろう。

動画モード(カラー)

標準、ビビッド、ナチュラル、モノクロ、モノクロHCから選べる。通常、標準モードではコントラストが強めでハイライトが飛びやすいため、ナチュラルモードを使用することが多い。

後述するが今回の撮影では最終的にはライカのLog L-Logを使って撮影を行なった。

外付けモニターへの映像出力

外部モニターへの出力はFHD解像度となる。オーディオ出力のオン/オフの切り替え以外に特別な設定はできない。また、カメラ情報などのオーバーレイ表示なしでクリーンな映像のみを出力する。

その他の映像機能

Cineモードを選択すると、表示される情報が変更される。絞りはT値に、シャッター速度は開度に、ISOはASA表示に変わる。また、録画中は画面の枠と時間表示が赤くなるため、逆RECも減らすことができそうだ。またタイムコード記録にも対応している。


バッテリーの撮影可能時間

付属のBP-SCL6バッテリーを使用した場合、C8K解像度で29.97 fpsの設定において、約50分間の連続撮影が可能だった。USB Type Cの端子から充電はできるが、給電にはDCカプラー DC-SCL6を使う必要がある。

バッテリーの取り外しは銀色のレバーをひねると、バッテリーが半分程度飛び出す。その状態でバッテリーを軽く押し戻すことで、取り外すことができる。また、このバッテリーには蓋がない設計が採用されており、非常にユニークだ。

熱停止

4Kや8Kと言った高解像度の映像を撮影できるカメラは発熱との戦いである。SL3はC8K 29.97 fpsの撮影の場合、約38分で熱が原因と思われる停止があった。

高感度耐性

カメラのノイズ性能と画像品質が高ISO設定でどの程度維持されるかを試した。手元にカラーチャートがなかった為正確なテストではないが参考にはなると思う。今回はC8K、L-Logで撮影したクリップでノイズ、色、ディテールの変化を確認した。

ISO3200を超えたあたりから暗部にノイズが発生するが、ほとんど気になる範囲ではない。ISO8000でもまだ実用の範囲内だ。

試しにDaVinci Resolveでノイズリダクションを掛けたところISO10000でも実用に耐える程度にノイズを抑えることができた。

色の変化はISO40000まではあまりなく良好、それ以降ノイズの影響もありマゼンダに転ぶ。

ディティールに関してはISO100000まで維持している。実際ポストプロダクションの手間などを考えると実用的なISO感度は6400、もしくは8000程度だと感じた。SL3は暗所でも美しさを保てる事を確認した。

ディテール

SL3は8Kでの撮影が可能なカメラだが、最終的な出力が4Kとなる場合が多い。8Kで撮影し、ダウンサンプリングして4Kにした映像と、ネイティブで4Kで撮影した映像では、解像感にどのような違いがあるのか? 以下の条件で撮影したC8KとC4Kの映像を4Kタイムラインで並べ、解像感を比較してみた。

C8K (MOV 29.97 fps 4:2:0 / 10 bit h.265 L-GOP 300 Mbps)
C4K (MOV 59.94 fps 4:2:2 / 10 bit h.264 ALL-I 600 Mbps)

比較した結果はC8Kの方が解像感が高かった。もしかしたらビットレートの高い4Kの方が解像感は高いかとも思ったのだが8KはH265、4KはH.264での記録になる点が解像感の差に現れたのかもしれない。解像感を活かしたい場合はC8Kで撮影する方が良いだろう。

気になるライカの色は映像でも出せるのか?

今回のレビューにあたって撮影した作例動画

SL3にはL-LogというLogがあるのだが、当初はLogを使用せずカメラの内部処理(オリジナルのカラープロファイルとLeica Lookアプリのカラー)だけでライカ色が撮ろうとしていたのだが(桜、猫のシーン)写真に比べどうしてもコントラストが強くなってしまうため、SL3の広いダイナミックレンジと色域を活かすにはL-Logを使う方が良いという結論に達した。また色味についてはSL2用の純正LUTが配布されているのでそちらを使うことにした。

Leica Lookを使用して撮影。コントラストが強くハイライトが飛びやすい。静止画では広いダイナミックレンジでカバーできていたが、動画の場合はそのまま使うことが難しく、以降L-Logで撮影することとした。

撮影時の設定とカラーグレーディングの指針

桜のシーンはカラープロファイル「Standard」「Natural」、猫のシーンはLeica Lookアプリから「Classic」をカメラにインストールして使用。自然のシーンはL-Logを使って撮影をした。

カラーグレーディング時は、自分の好きな色にはせず、Leica純正のSL2用のLUTが配布されているのでダウンロードして当ててみた。桜と猫のシーンは主にNatural、自然のシーンはClassicのLUTを当てた。それ以外は基本的にコントラスト、色温度、ティントを調整するのみに抑える。

公式LUTリンク:Leica Look Up Tables (LUT)ーライカ公式サイト


SL2用のLUTを使いライカらしいコッテリさも再現できる。

広いダイナミックレンジと豊かな階調を記録できるL-Log

資料の中から数字は見つけられなかったのだが、L-Logはとても広いダイナミックレンジと豊かな階調を持ち合わせている。特に暗部の破綻しづらさには感動すら覚える。暗部を持ち上げてもほとんどノイズも増えず、暗い中にもしっかりと階調が残っており、静止画の現像に近い感覚を得た。

暗部(左下の木々)だけでなく明部(中央の雪)も白飛びせず広いダイナミックレンジを感じた。

まとめ

今回ライカSL3を使ってみて感じたことは、その堅牢なボディと精密なデザインからライカの哲学を強く感じ取ることができた。静止画撮影では、シャッターを押すたびにその瞬間の記憶が鮮明に焼き付けられ、深い満足感を得られる。

動画機能に関しては、他社のカメラと比べて特別な機能が突出しているわけではないが、8K解像度による高い解像感、ノイズの少ない高感度耐性、そしてL-Logを使用した広いダイナミックレンジと豊かな階調表現が、映像制作においてもライカ特有の世界を作り出す可能性を感じさせる。写真とともにライカで映像も撮りたいと考える人にとって、このカメラは格別な一台となるだろう。