2月16日に発売されたLUMIX S5IIをドキュメンタリースタイルでの撮影を好み、日頃からインタビューを含めた撮影や機動性を重視した手持ち撮影を得意とするビデオグラファーの今福さんに実際の現場で使ってもらい、その使用感をレポートしてもらった。
テスト・文●今福彩夏/構成●編集部 萩原
私は普段からパナソニック製品をメインで使っている。LUMIXシリーズはGH5S、GH6。小型シネマカメラのAU-EVA1や放送業務用ハンドヘルドのAJ PX-270などを所有しており、現場によって機材を使い分けている。私自身もフルサイズへの移行を視野に入れて検討したことがあるが、動画機能の充実したS1Hは高価で、レンズの買い替えも考えると現実的ではなく断念。S5は写真機能に特化している印象が強く、結局その後発売されたGH6へのアップグレードに落ち着いていた。
今回は新しく発売になったS5IIの使用感を前モデルのS5やGH6との比較も交えながらレポートしていきたい。パナソニックのミラーレス機は、動画ユーザーにとって嬉しい機能を多く搭載しているため、他社のユーザーの方もぜひ読んで、その魅力を感じていただきたい。
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動画ユーザーにとって痒いところに
手が届く仕様はLUMIXならでは
S5Ⅱの最高画質は16:9の比率で5.9K/29.97p。実際、現場で使うのは4Kまでがほとんどかと思うが、4K納品のコンテンツならば、後から編集でクロップ・ズームができる6K収録も活用するというユーザーも増えてきたのではないだろうか?
また録画形式の選択肢が多いものの、ビットレートなども細かく表記されていて、わかりやすいメニュー画面はパナソニックならではだと思う。ただし、4K/60pでの撮影はAPS-Cにクロップされるため、フルサイズで撮影できるのは4K/30pまで。クロップなしで60pで撮ろうとするとFHDでの運用となる。
また、記録メディアはUHS-Ⅱ対応のSDXCメモリーカード用が2スロット。最近ではCFexpressカードを使う機材も増えており、GH6でも2スロットあるうちのひとつはCFexpressになったためダブルスロット機能を使用するためにはメディアやPC取り込み用のカードリーダーなど追加の出費が発生したのが痛かったが、S5Ⅱは2スロットともSDカードで新規投資が不要なのが、ユーザーにとって嬉しいポイントだ。書き込み中にカードの交換をすることは滅多にないが、ランプもそれぞれに点くようになったため、万が一、REC中に片方のカードを交換しなければならない事態に陥ったときもミスの可能性が低減される。
もちろん、動画ユーザーには欠かせない、細やかな設定も可能、センターマーカーやセーフティゾーンマーカー、アスペクト比に応じたフレームマスク、ゼブラパターン、WFM / ベクトルスコープ、動画記録中の赤枠表示、ピーキングの設定など、LUMIXならではの痒いところに手の届く仕様は引き継がれている。
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LUMIX S5IIとS5、GH6の外観比較
1/S5II(左)とS5(右)正面。2/EVFはサイズは大きくなったものの、約368万ドット(S5は約236万ドット)と解像度が大きくアップ。3/ストラップ取り付け部は三角環から固定に。4/HDMIはmicroHDMIからType Aに変更になった。5/記録メディアはSDカードのデュアルスロット。
1/左がGH6、右がS5II。センサーサイズが大きく違う。2/ボタンやダイヤル配置はGH6と共通。3/GH6みは三脚に取り付けたときにズレないようにサポートの穴があるが、S5IIにはない。4/レンズを取り付けた様子。5/カメラ側面。厚みはS5IIのほうがある。
また、サイズ感や操作ボタンの配置を含めてS5からほぼ変わりはなく、GHシリーズともボタン配置も統一されており違和感なく直感的に操作できた。
細かい点で見ると、親指で操作するジョイスティックが変更されており、操作性が大きく向上した。これは見た目ではわかりづらいが、実際に撮影しながら操作してみると、一発でわかるレベルの差だった。
また、ビューファインダーは吸排気のダクトがついたため少し大きくなっているが、逆を言えば、ここまでサイズ感を変えずにアップデートされているということに開発チームの努力が見受けられる。個人的にはメカらしさが増してかっこいいと思う。
さらに実用的なアップデートとして、HDMI端子がmicroHDMIからTypeAに更新された。外部モニターを付けた撮影や、プレビューモニターとの接続、ライブ配信時のスイッチャーとの接続など動画ユーザーは何かとHDMIを使う機会も多いため、変換なしで使えるのは大変ありがたい。
USB-Cでの給電・充電にも対応しているため、電源接続可能な状況下での長時間記録時や、現場でモバイルバッテリーなどを活用した給電にも対応できる。また、ストラップ部分が三角環から固定に変わったところも動画ユーザーへの配慮が感じられる。
インタビュー撮影で実戦投入
最初に撮影したシチュエーションはインタビュー撮影。この時はS5ⅡとGH6の2カメにて実施した。現場ではカメラマン兼ディレクターとして動いていたため、カメラを固定し、オートフォーカスで撮影。本来であればマニュアルのほうが安心感はあるものの、人物認識のオートフォーカスも安定しており問題なく活用できた。
また、マイクロフォーサーズのGH6ではF1.7の大口径レンズを使用してようやく得られていたボケ感が、フルサイズとなると、F2.8でも余裕で表現でき、より繊細で、センサーサイズの違いを見せつけられた印象だった。約30分の長回し記録を1日で6名実施したが、もちろん一度も熱で落ちることなく安定して撮影できた。バッテリーの持ちについてはきちんと時間は測っていないが、エコモードにしていない状態でもストレスのないレベルだった。
実際に触ってみて感じた
S5Ⅱの良い点・悪い点
この現場で使ってみて感じたことを記しておくと、少し欲を言いたい点もある。特にGHシリーズのユーザーから見ると「惜しい!」と思うのではないだろうか? まず、電源ON時に電源ランプが点かない。GHシリーズには電源ランプがあり、それで電源のON/OFF状態を判断することに慣れているため、電源が入れっぱなしであることに気づかず、無駄に電池を消耗してしまうことが多々発生してしまった。
また、タリーランプもない。シチュエーションによっては被写体が緊張してしまうためタリーがないほうがむしろいいこともあるが、RECしていることがわかったほうが助かる場面も多いため動画機として見ると惜しいポイントのひとつではある。
そして、三脚用のネジ穴部分にはGH6のような固定ピン用の穴がないため、プレートによっては不恰好な位置での装着となる。また、レンズによってはプレートがギリギリの位置にきてしまうため、リグを装着しておかないと操作性が落ちることもありそうだ。
さらに、GHシリーズとの互換性でいうと旧タイプのバッテリー(DMW-BLK19)が使えず、新タイプ(DMW-BLK22)のみの対応となるため、予備バッテリーを含めた買い替えが必要となる。GH6では新旧両タイプのバッテリーが使えるため、完全に油断しており、実際に現場で旧タイプのバッテリーを予備として使おうとしたら入らず、焦る場面もあった。また、ACアダプターとDCカプラーの組み合わせでも給電可能だが、もしGH5シリーズまでのDCカプラー(DMW-DCC12)を使っている場合は、DMW-DCC17への買い替えが必要となる。
逆に良い面は、バッテリーグリップの装着が可能なので、REC中にバッテリー交換できると思われること(GHシリーズもGH5Sまではバッテリーグリップがあったが、GH6からはバッテリーグリップのオプションがなくなってしまった)。
また、XLRのマイクロホンアダプターが共通で使用可能なのが大変ありがたい。私の場合、現場で音声の収録をすることも多く、XLRコネクターのガンマイクを装着できるというのは大きなメリットである。さらに4ch収録も可能なため、RODE Wireless GOなど3.5mmタイプのピンマイクで、人の声をしっかりと録りながら、ガンマイクで環境音を含めた音声を収録するなど撮影環境に応じた音声収録方法のアレンジもできる。
そして、デフォルトでV-Log撮影が可能なため、GH6(GH5SまではV-Log L)やEVA1などのカメラとの2カメ撮影時にも色合わせがしやすいというメリットもある。
動画機としての機能性の高さを追求しているパナソニックの機材だからこそ、期待を込めて欲張ったことを言ってみたが、そもそも写真機としてのミラーレス一眼、ましてやフルサイズの機材が、この価格でここまで動画ユーザーに向けてチューンアップされていると考えると充分すぎる機能と性能であることは間違いない。
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像面位相差AFの性能の高さと人物自動認識AFに感動
さらに、別の現場での取材でも使ってみた。こちらでは手持ちスタイルでの撮影がメインとなり、主にS5Ⅱをメインで使いながら、S5との比較を実施した。
まず最初に試したのが動く被写体に対しての人物自動認識AFの動作である。この現場では複数人が同時に作業をしている中での撮影だったため、どこまで狙った被写体を追うことができるか、その動きを想定できない中での追従性を試してみたので、実際の動画を見てほしい。
撮影中に前を人が横切るシーンもあるが、引っ張られずに最初に狙った被写体にフォーカスを合わせ続けてくれた。同じ画面内でメインの被写体の近くに人が現れると、さすがに迷ってしまうこともあったが、被写体が前後左右に移動しても、フレームアウトしない限りはかなり優秀に追い続けてくれた。この映像でもわかるように、かなりカメラに近づいてもフォーカスを外すことなく追従してくれたのには驚いた。
同じシチュエーションでS5でも試してみたが、そもそも人物を認識するのに迷いがあり時間がかかっため、マニュアルで合わせるか、AFの1点フォーカスで合わせたほうがスムーズだと感じた。
また、工場内の撮影では湯気に囲まれて目視でも被写体が見づらいというシチュエーションもあり、さすがにこれは人物認識できないだろう、と思いながらS5Ⅱを向けてみると、この環境下でもきちんと認識し追従してくれたのには驚いた。これだけの湯気に囲まれ、かつ、白い作業着を着ているという、カメラにとってはかなり判断が難しい状況にも関わらず機能してくれたのは感動的だった。
もちろんさらに湯気が立ち込めて真っ白な状況になると、認識はできなくなったが、そこまでくるとマニュアルでもフォーカスを合わせるのが難しいレベルだ。これだけのAF追従性能があれば、カメラマンが被写体と一緒に歩きながらインタビューをしたり、ジンバルでの撮影時にもかなり重宝するだろう。また、像面位相差AFとなったことでの画質欠損も感じることはなく、これまで実用に向けて調整してきた開発チームのこだわりを感じることができた。
LUMIX S 50mm F1.8の描写に惚れた
余談だが、私の場合、普段はズームレンズを使うことが多く、今回も24-70mm F2.8をメインで使用していたのだが、S5Ⅱのダブルレンズキットにも入っている50mm F1.8をこの現場で使用してみたところ、想像以上の描写力で、途中からはこのレンズばかりを使っていた。
デモ映像で使用しているのも、ほぼ50mmのレンズだ。好みもあると思うが、絞り開放で撮影しても少し重みがあり、本当に最低限の情報が映像内に描かれつつも、被写体がきちんと際立つボケ感が個人的にはとても好きな描写だった。
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物撮りのシチュエーションで強化された
手ブレ補正を試す
そして、アップデートされた手ブレ補正、「アクティブI.S.」についても検証してみた。ボディ内手ブレ補正の機能として3段階の設定があり、上から順に、画角に影響のない物理補正のボディ内手ブレ補正、そして少し画面が少しクロップされる「電子補正」、さらに強力な「手ブレ補正ブースト」の3つがある。実際に物撮り撮影で試してみた。これは撮影した映像を見ていただいたほうがわかりやすいかと思う。
撮影時に使用したレンズには手ブレ補正機能がないため、純粋にボディ側のみの補正での撮影結果である。物理補正だけでも手持ちで充分に手ブレを抑えることができており、少しスライドさせながら撮影しているが、物理補正の場合は違和感なくなめらかに動いてくれている。大きな動きをしなければ、手持ちでも広めのレンズを使ってジンバルやスライダー撮影のような表現ができそうだ。電子補正を入れてカメラを動かすと、揺り戻しで不自然なカクつきが目立ってしまうが、FIXであればかなり強力にブレを補正してくれるため、三脚がないシチュエーションでも役立ってくれる。
さらに手ブレ補正の進化を検証するために、別途屋外で歩きながら撮影した。これも実際の映像でご覧いただきたい。
こちらはS5とS5IIで比較してみたが、物理補正で縦方向の揺れ方が明らかに異なるのがわかる。また、カメラを振ったときの不自然な歪みもなくなっており、急にカメラを振っても違和感なく見ることができる。さらに走った場合も検証しているが、さすがに走ると揺れの大きさやスピード的にも補正が追いついておらず、使える映像にはならなかった。手持ちで走りながら撮影することは滅多にないかもしれないが、この場合は手ブレ補正が逆効果となっているためOFFのほうがいいのかもしれない。
手ブレ補正が効き過ぎるとアクションカメラのような映像になってしまうが、自然な縦揺れが残っていることで、歩いている際の臨場感や空気感も適度に残しつつも、視聴者が見やすい映像に仕上げることができると感じた。
リアルタイムLUT
リアルタイムLUT機能という新機能も加わり、.cubeや.vltの形式で作ったオリジナルLUTを読み込んで録画することができるようになった。フルサイズ機ながらもライトユーザー向けの手軽さもあり、動画機としても幅広い層に支持されるのではないかと思う。
実際に私もLUMIXの公式サイトからLUTをダウンロードしてリアルタイムLUTを使ってみたが、編集時のグレーディングをせずに好きなルックで手軽に収録できるのは楽しいと感じた。欲を言えば、ダブルRECでLUTありとなしの両方が同時記録できたら完璧だと思う。
▲「S-Teal & Orange」というLUTを下記サイトよりダウンロードして撮影。
クリエイターのLUTをダウンロードできるLUMIX Color Lab
まとめ
今回、S5IIを実際に現場で使ってみて元々S5に抱いていた、パナソニックのミラーレスの中でもスチル寄りのカメラであるという考えは完全に払拭された。「そこまでできるならもう少し!」と欲張りたくなる点もあるが、あくまでもスチル機の進化系、そして、メーカーを心配してしまうレベルの価格設定のことを踏まえると、動画ユーザーから見ても充分すぎるカメラだと思う。
今回はスチル機としての使用感は細かく試していないが、動画制作をしていると誰もが「写真もお願いできる?」と聞かれた経験があるのではないだろうか。この価格のフルサイズミラーレスで動画機としての機能を存分に搭載している上、スチル性能も高いとなると、もはやS5Ⅱだけで現場が完結してしまうのではないかとも思ってしまった。
綺麗な映像が撮れるのは当たり前となってきた現在、これから各メーカーがそれぞれの個性をどのように表現していくのか、機材性能はどこまで追求されていくのか、そして私たち映像クリエイターの世界はどこまで広がっていくのか、今後が楽しみだ。
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