5月末の発表から注目を集めている小型フルサイズミラーレスカメラ・LUMIX S9。普段からLUMIXシリーズを愛用しているというSUMIZOONさんの目にはどう映るのか?作例動画とともに、そのファーストインプレッションを詳しくレビューしてもらった。

テスト・文●SUMIZOON

はじめに

LUMIX S9は2024年5月23日に発表された最新の小型フルサイズミラーレスカメラである。スマートフォンとの組み合わせでSNSで写真や動画をシェアすることに重きをおいたカメラであり、LUMIX S9という名前からLUMIX Sシリーズのエントリーモデルという印象を持つ一方、その製品コンセプトは今までのLUMIX Sシリーズとはかなり異なったものであると筆者は感じている。

エントリーモデルの一言で片付けられないカメラ、それがLUMIX S9なのだ。いっそ別のシリーズ名にしたほうが良かったのでは?と思うくらいにS1/S5の流れとは違うものを感じるのだ。

LUT(ルックアップテーブル)をスマートフォン経由でカメラに転送したり、撮影した動画、写真を高速でスマートフォンに転送し、色味やトーンを調整し簡単に手間をかけることなくシェアする。色味やトーンを調整した情報をベースにLUTを作成しカメラに転送しそのLUTを適用して撮影する。

とにかく写真、動画を撮影する体験の先にあるSNSなどへの共有までを意識したカメラである。

LUMIX Sシリーズはレフ機を彷彿させる大型のサイズからその歴史が始まっている。LUMIX S9はLUMIX Sシリーズ初の小型のカメラ。ちょっとした動画・写真撮影に小さいフルサイズが欲しいと思っていた人にとって待望とも言えるカメラだと思う。

今回は、S9カメラそのものの機能・性能に加え、このスマートフォン連携に関しても使い勝手などを紹介していきたい。

製品概要

まずはLUMIX S9の製品概要について記載する。

・マウント:LEICA Lマウント
・センサーサイズ:フルサイズ
・画素数:2400万画素
・重量:486g
・サイズ:高73.9mmx幅126mmx奥行46.7mm
・静止画記録画素数:6000×4000
・手ブレ補正:B.I.S.5段/Dual I.S.2 6.5段補正効果
・動画記録フォーマット(代表的なもののみ記載)
 MOVコンテナ
  6K:5952×3968 (3:2) 4:2:0 10bit 30p/24p
  6K:5952×3136 (17:9) 4:2:0 10bit 30p/24p
  5.9K:5888×3312 (16:9) 4:2:0 10bit 30p/24p
  C4K:4096×2160(17:9 C4K) 4:2:2 10bit 60p/30p/24p※
  4K:3840×2160(16:9 4K)60p/30p/24p※
  FHD:1920×1080(FHD)120p/60p/48p/30p/24p
 MP4Lite
  3.8K:3840×2560(3.8K)
※60pの場合はAPS-C画角

本記事はS9の動画性能にフォーカスするものだが、その動画撮影機能・性能に関しては上位機種であるS5IIから削ぎ落とされた部分がほとんど見当たらない。XLRユニットが付けられない点や記録時間制限などの制約はあるが、S5IIの6K高解像度動画フォーマットや高フレームレート撮影はひととおりカバーしている。

流石に動画強化版のS5IIXと同等とまではいかないまでも、コンパクトなボディに、これでもかという機能を盛り込んでいる。

メーカーはS9をエントリーモデルの位置付けとしているが、動画性能だけをみるとこれは単なるエントリーモデルでは無い印象だ。

また、各種撮影アシスト機能やアナモフィックデスクイーズ表示など一通りものものが搭載されている。無論10bitのV-Logガンマもプリインストールされている。

動画作例

レビューに先立って街中を散歩しながら撮影した映像を紹介したい。

映像は車載のクリップ以外はすべて手持ち撮影によるもので、6K30pからFHD120pまでを織り交ぜたものになっている。日常の風景をそのまま撮ったもので、自作のLUTを当てた程度で特に凝ったことはせずにタイムラインにただ素材を並べて編集しただけものだ。

筆者は普段からフラッグシップS1H及び動画特化機S5IIXを使用しているため、S9の動画の描写は今さら驚くほどのものはなかったのだが、逆に言ってしまえば、S1HやS5IIXに見劣りしない映像がコンパクトなサイズで撮れてしまうということになる。

手軽に持ち運べて気兼ねなく撮影できるそれがLUMIX S9であり同機種の魅力のひとつであることは言うまでもない。

ファーストインプレッション

ここではLUMIX S9の外観や使い勝手、機能のそれぞれの面から私なり感想を書きたいと思う。

外装・機構に関して

外観

LUMIX S9をはじめて手に取った時の印象は「名機LUMIX GF1に似ている」というもの。筆者はGH2時代からマイクロフォーサーズで動画撮影をしているが、当時スチル撮影ではフルサイズ一眼レフ機をメインとしていながらも、マイクロフォーサーズ機の「GF1」を趣味撮影のサブ機として使っていた。レンズを含めてコンデジ感覚で使用できるサイズ感からすごく気に入っていた製品で、今でもボディは大切に残している。

LUMIX GF1(左)とLUMIX S9(右)
両機種を天面から撮影

GF1に対して一回り大きいが、試用している間は、気軽にスチルを撮り歩いていた当時の体験が蘇った。やはりこういったワンハンドで撮影できる気軽なフルサイズをどこかで求めていたのかもしれない。

バッテリー/メディアに関して

実はLUMIX S9の噂を耳にした時、LUMIX S9には小型のバッテリーが採用されるのではないかと予想していた。だが、実際にはS5/S5IIやGH6などと同じDMW-BLK22が採用されている。よくぞこの大きさのカメラにこのバッテリーが搭載できたものだと感心する。そして、このことからLUMIX S9はかなりのスタミナがある機種であると言える。

なお、メディアに関してはSDのカードスロット一機になっているが、このサイズのカメラとしては致し方ない部分だと思う。

各種ポートに関して

HDMI、USB-Cポート類はグリップ側面に当たる右手側に存在する。これは小型化の観点から少し使いにくいと思う部分である。LUMIX S9のバッテリーライフはかなり持つ方ではあるのだが、いざと言うときに給電しながら撮影するとなった場合は、右手側にUSBケーブルを接続することとなる。ゆえに給電しながらの撮影では使い勝手に差を感じるだろう。

HDMIポートに関してはMicro端子が採用されている。こちらも右手側にポートが存在するため、外部モニターを接続しながら手持ちで撮影・運用するやりにくさは否めない。とはいえ、撮影後にテレビを繋いで画像・動画を見ることはあれど、撮影中にHDMIで外部モニターに繋ぐという撮影スタイルはほぼ想定されていないと思うので、この点はほぼ問題にならないだろう。

なお、写真は掲載していないが、マイク端子はHDMI/USBポートとは逆側の上部に配置されている。これに関しては標準的な位置に存在するがヘッドフォン端子は存在しない。

ボタン・ダイヤル類に関して

物理的なボタン・ダイヤル類は正直多くはない。

まずダイヤルに関してであるが、モードダイヤルを除いて、露出設定で使えるダイヤルは天面(人差し指部)と背面(親指部)のふたつになっている。つまり絞り、シャッタースピード、ISO感度のそれぞれをワンアクションで変更するといったことはできない。デフォルトの状態では絞り、シャッタースピードがダイヤルにアサインされていて、ISO感度はダイヤルの上を一度押した後に背面ダイヤルを回すことで露出の調整を行うこととなる。

天面のダイヤルの操作感は良好である。一方、背面のダイヤルに関しては手(指)が大きい人にとっては少々回しにくいと感じると思うが、逆に考えればこのS9のコンパクトなサイズ感でも2ダイヤルを確保した操作系は、マニュアル露出を多用する人にとって歓迎すべきだろう。

ホールド感

LUMIX S9の右手の中指から小指にかけて引っかかる部分が無い。親指に当たる部分は引っかかる形状があるが、ホールド性は乏しいと言っていい。

このカメラは前述のボタン、ダイヤル周りが右手側の狭いエリアに集中しているため、このホールド性と相まってボタンの誤操作を引き起こしやすい印象なのだ。

カメラの持ち方が悪いと、意図せずWBボタンを押してしまっているケースが発生しやすいのだが、その対策としては少々重量が増えるがグリップを取り付けることだ。

社外製のグリップだがLUMIXとのコラボによって純正品の様な見た目を実現している

このグリップは、当レビューに合わせて急遽海外から購入したSmallRig製のものだ。

LUMIX S9の外観を見た時から魅力的に感じてた製品だが、これを使ってからはホールド感は明らかに改善され、誤操作も格段に減った。

動画性能に関わる性能に関して(ハード、ソフト両面の観点から)

撮影フォーマットに関して

まず、本カメラの記録フォーマットはかなり多岐にわたる。

アナモフィックレンズに最適な6K(3:2)や高解像度6K(17:9)30p撮影、APS-Cクロップとなるが4K60p、FHDのハイフレームレート撮影などは製品概要で述べた通りだ。

スマートフォンからのステップアップユーザーにとっては少々難解なレベルであるとも言えるが、今回新たに追加されているLUMIX初の撮影モードがある。

それがセンサー全域を使って撮影するMP4 Liteだ。

多くのカメラの動画撮影モードは16:9や17:9の画角でしか撮影ができないが、LUMIXは従来から3:2画角を撮れるモードを用意している数少ないブランドだ。だが、そのデータはライトなユーザー層が標準スペックのPCで扱うには負荷が高く、かなり敷居が高かったのだ。

今回のMP4 Liteはセンサー全域の解像度6Kデータをオーバーサンプリングし、美しさをそのままに、動画初心者の人でも扱いやすいフォーマットで記録するというものだと理解している。

このフォーマットであれば、縦方向に9:16で仮に縦動画を切り出したとしても長辺方向の解像度が2560とFHDを大きく超える解像度を保持することができるのだ。もちろん、このフォーマットで3:2の動画としてそのまま使うのも問題ない。

この数年、縦動画を含め動画の制作&視聴環境は大きく変化しているが、この新フォーマットが新たな感覚をもった若い動画制作者に受け入れられるのかどうか非常に興味あるところである。

手ブレ補正

LUMIX S9は強力なボディ内手ブレ補正が搭載されている。フルサイズLUMIXの手ブレ補正は、他社のカメラの追従を許さないほどに進化してきた。特に手持ち動画撮影では、多くのケースで三脚・ジンバルを使わないで済むレベルである。このLUMIX S9は手持ち撮影を意識しているためか、この手ブレ補正の部分に妥協は無い。

まずS9には手ブレ補正としてふたつの仕組みがある。

・センサーシフト式の手ブレ補正機構 B.I.S.(ハードウェア)
・電子手ブレ補正(ソフトウェア)

前者はB.I.S.と呼ばれるもので多くのカメラに搭載されているが、この点だけでも動画撮影時は明らかにLUMIXは他社を圧倒する効きを示す。手ブレ補正効果5.0段(Dual I.S.2で6.5段)という数値だけからは他社と同等と見られるかもしれないが、動画撮影時の自然な挙動は他のLUMIX同様に素晴らしい。

さらにこのセンサーシフト式の手ブレ補正機構には「手ブレ補正ブースト(動画)」のOFF/ONというふたつの動作アルゴリズムを選択でき、後者はパン、チルトをさせないフィックス撮影の場合に有効な設定である。「手ブレ補正ブースト(動画)」をONさせるとあたかも三脚撮影したかのようなビタ止まりの映像を撮ることができる。無論、ハードウェアによる手ブレ補正のため画角変化(クロップ)は発生しない。

あくまでこの機能はパン、チルト操作などカメラワークには向かないが擬似的な三脚固定モードとなる

続いて後者の「電子手ブレ補正」に関して解説したい。

LUMIX S9では電子手ブレ補正(動画)に関してOFF/標準/強の三段階が選択できるようになっている。

特に「電子手ブレ補正:強」はかなりの画角変化を伴うものの、アクションカムのような強烈な手ブレ補正効果となる。その補正効果はジンバルが不要かと思えるほどである。

なお、LUMIXでは過去に広角レンズをつけて手ブレ補正をONさせて撮影した場合、周辺像がぐにゃりと歪むことが多かったのだが、この補正モードではそれらが見られない。これはB.I.S.で行なったブレ補正がレンズ起因の像の歪みとなって現れるものだという理解だが、今回の電子手ブレ補正を使うと像の歪みをキャンセルするアルゴリズムが働くためだ。

ただし、社外製の魚眼レンズをつけた場合においてはこの効果を確認できず、むしろ逆効果だった。魚眼レンズとの相性は良く無いのでご注意いただきたい。

LUMIXには手ブレ補正に関して設定がかなりあるのだが、はじめはどのモードで使ったら良いかわからないという方も多いはずだ。参考までに筆者の想定している使い方と画角変化を表にしたものが下記である。もし設定に困ることがあれば以下を参考にしてその補正効果を試していただけたらと思う。

動画撮影のAF動作に関して

LUMIX S9は最新機種であるため、以前のどのLUMIXよりもAF性能が高いと言える。この最近のLUMIXは新機種が出るごとに大幅なAF進化が体感できる。筆者が普段使用しているS5IIXよりもAF性能が高いと感じるのだ。

S5II/S5IIXはLUMIXとしてはじめて像面位相差画素を搭載したカメラであり、そのAF性能の向上はLUMIXを長年使ってきたユーザーにとっては悲願だったとも言えるものだ。S5IIXではピント合わせが楽になったという印象を持っているが、S9はその性能を上回る印象だ。

LUMIX S5IIX(左)とLUMIX S9(右)

S5IIXでは6K/5.9K/4K以外の一部の撮影条件でAF性能が落ちるという印象があった。S9では筆者の試したモードの多くでそれらが解消されており、初心者でも安心してカメラ任せで動画撮影できるAF性能に仕上がっている。

また、従来のLUMIXと同じようにAFのカスタマイズが可能であり、この点においても上位機種の使い勝手の良さを引き継いでいる。

リアルタイムLUT

本サイトをご覧の方には今更LUT(ルックアップテーブル)の説明は不要かと思うが、簡単に説明すると、LUTは色、トーンを変化させるための数値テーブルである。R/G/Bの輝度データをどう変化させるかをテーブル表記したもので、動画編集時のカラーグレーディングで広く使われている。

そのLUTをカメラ側に取り込んでLUTを適用した状態で映像の記録する、というものがLUMIXのリアルタイムLUTである。

この機能は簡単にクリエイティブなルックを撮って出しできることからリアルタイムLUTはS5II/S5IIXにはじめて搭載されてから多くの反響を呼んでいる機能だ。

業務で撮影する場合はPCでのポスト処理でルックを作り込むことがほとんどのワークフローだと思うが、このLUMIX S9は手軽に撮って出しする場合で言うなれば「映える色味」を実現するものだ。

なお、S9では今までのリアルタイムLUT機能がさらに強化されている。

ひとつはLUTの適用率を10%から100%まで、10%刻みで指定できる点だ。もうひとつはマイフォトスタイルの中でのみ可能な設定だが、ふたつのLUTを掛け合わせることが可能になっている。もちろんそれぞれの比率も10%刻みで設定することができる。

ただし、このリアルタイムLUTの「LUT」の生成方法に関しては普段動画編集やカラーグレーディングを行なっている人には馴染みがあるものの、初心者にはやや敷居が高いものだ。そこで登場したものが次に記載するLUMIX Labである。

スマートフォンアプリLUMIX Lab

LUMIXにはスマートフォンと連携するためのLUMIX Syncというアプリがある。それはスマートフォン側でLUMIXをコントロールし、リモコン的な操作を実現したり、カメラ側で撮影したデータをスマートフォン側にダウンロードするためのものだ。

それとは別に、今回LUMIXのために用意されたアプリがLUMIX Labだ。

LUMIX LabはそのLUMIX Syncとは根本的に異なるアプリだ。LUMIX Labでできることをざっと書くと

・LUMIXと無線接続、画像のダウンロード
・スマートフォンでのダウンロード画像の色/トーンの加工
・加工した画像のSNSへのシェア(トリミングなどの加工も可)
・色/トーンの変更情報をカメラ用LUTとして無線転送
・カメラ内に登録されたLUTの名称変更、追加削除

つまり、撮った写真の色を編集してSNSにシェアしつつ、その編集情報をカメラに転送すれば次回は加工された画像が撮って出しとして使える、というものだ。

好きな色や作風は人によって違うだろうし、自分なりの作風というものがあると思う。InstagramなどのSNSで写真・動画を投稿している人はスマートフォンアプリで都度画像を色調整・各種加工しているケースが多いと思うが、「スマートフォンでの自分なりの加工仕上がりに近い状態をカメラのモニタで確認しながら撮影する」という体験ができるのだ。

LUTに対するハードルをLUMIX Labが下げてきた、と言えるだろう。今まではLUTの扱いに慣れていたのは一部の動画編集者だけだったのに対し、スマートフォンで色編集をしたことがある人なら操作説明が不要なくらいLUTが作れてしまうのだ。

この機能はAndroid/iOS用に公開されるが、LUMIX S9を持たなくてもこのアプリ自体は動作させることができる。カメラへの転送は現在LUMIX S9に限られるが、一般的なJPG画像を使うことで加工/LUTの書き出しそのものは可能だ。一度ご自身のスマートフォンで自身の画像でその機能を試してみてほしい。

なお、LUMIX Syncはスマートフォンとの接続性が悪いことが指摘されていたが、本アプリはそれがかなり改善されている。SDカード内に大量の画像、動画が保存されている場合、一覧表示の時間がかかる点は同じなのだが、筆者の環境では接続からダウンロード、色変更までかなりスムーズに行うことができた。

LUMIX Labを使ったLUTの作成フロー

参考までにLUTの作成フローを説明すると以下の通りである。

①スマートフォンをカメラと接続し、予め撮影した画像を転送する。カメラからの転送はMP4形式の動画も可能なのだが、筆者の世代の古いAndroid環境ではうまく動作しなかった。よって以降はスチル(JPG)を使った手順を説明する。

②各種調整を行う。スマートフォンで画像編集ソフトを使ったことがある方であれば、その操作に迷うことがない程わかりやすい作りになっている。ホワイトバランス、色相、彩度やトーンカーブを使った補正、特定色の色相、彩度の調整も可能だ。

③気に入った画像になったら右上の共有ボタンをタップ。「LUTを作成」を選択する。

④LUTの名前をつけて決定を行う。(スマートフォンに保存される)

⑤あとは作成したLUTがスマートフォンに保存されているので、これをカメラ側に転送する。

LUMIX Labを使ったLUTの作成フローのカラクリ

以下は少々難解ではあるのだが、LUTの作成する側の予備知識を記載したい。

上記画像はL.クラシックネオをベースとして撮影したものであり、スマートフォン上の加工もL.クラシックネオでの撮影データをベースとして加工したことになる。ゆえにここで書き出すLUTはL.クラシックネオのフォトスタイルを適用した際にのみ意図した色味になることになる。

実は④で作成するLUTにはちょっとした仕掛けがあり、LUT作成時において、S9のどのフォトスタイルで撮影したデータなのかをアプリ側が自動認識し、LUTの使用者が意識することなく作成者の意図したフォトスタイルで適用させる仕組みになっている。

作成したLUTの中身をテキストエディタで除くと、下記のようなコメントが埋め込まれていることがわかる。

これは同LUTを使う場合は強制的にL.ClasicNeoのフォトスタイルにLUTが適用されるようにカメラ側に自動認識させるためのコードなのである。

LUMIXのリアルタイムLUTはS5II/S5IIXでの搭載以来多くの反響を呼んだのは、前述の通りだが、メーカーが公開したLUTを、ユーザー側が意図しないフォトスタイルで適用してしまうということが散見されていた。

S9以降の機種はこういったユーザーの混乱を避けるためのカラクリとして、LUT内のコメントにベースフォトスタイルを埋め込むという変更をしているのだ。このコメントを認識し、LUMIX S9はベースのフォトスタイルを選択し、その上でLUTが当たるというカラクリになる。つまりLUTを使う側はフォトスタイルを選択した上でLUTを適用するということが不要になったのだ。

この仕組みは、「なるほど!この方法があったか!」と筆者が一番感心した部分である。

なお、LUMIX Labで作成したLUTは③LUTの作成の箇所で「共有」を選択すれば、DaVinci Resolveなどの編集ソフトでもそのまま使えるLUTが生成される。(その際は、ベースのフォトスタイルのコメント行は当然ながら無視される)

ここからは、筆者の提案になるが、LUTはあくまで色情報のテーブルでありビネットやグレインをLUMIX Labで反映させてもLUTには書き出すことはできない。ところが、前述のコメントによる拡張的なLUT手法であれば、それらを情報として付加し、カメラ側でビネットやグレイン処理することも可能ではないかと思うのだ。つまり拡張されたLUTを使ってLUMIXユーザー間でクリエイティビティの共有がより強化されるということができるのかもしれない。

まだリアルタイムLUTは一年ほど前に生まれたばかりの機能だが、ユーザー側に寄り添った機能として着実に成長している。

今後とも目が離せないし、ユーザーとしてもこれを楽しんでいきたいと思う。

ここまで静止画を使ったLUTの生成を説明してきたが、ここで作成したLUTは当然ながら動画でも使うことができる。

メカシャッターが無いことに関して

動画撮影には直接関係がない話ではあるのだが、このカメラにはメカシャッターが無いことに関して多方面で議論が湧き起こっているのは、カメラ事情に詳しい方であればご存知かと思う。いわゆるローリングシャッターによる像の歪みとフリッカーがスチル撮影において問題になるケースがあるという指摘はごもっともだと思う。

ちなみにスチル撮影の際の幕速を筆者のS5IIXと比較したものが下記である。

S5IIXの単写時の幕速(スキャン速度)はおおむね50msec程度。それに対してS9の幕速は27msecとなっているため、S5IIXの電子シャッター単写の撮影時に比べると幕速はかなり速いようだ。

なお、S5IIXでは連写時ではS9と同じ27msecとなっている。もし手元にS5II/S5IIXがある場合、その幕速が問題になるのか否かを調べたいのであれば、電子シャッターをONにして連写モードでテスト撮影をしてみると良いだろう。

ちなみに、動画撮影においては16:9画角となるため概ね22msecの幕速となっている。

まとめ

LUMIX S9がもたらす新しい写真・動画撮影体験

LUMIX S9の肝のひとつはその大きさ、重量によって気軽な撮影ができるという部分だ。LUMIX S9に小型の単焦点レンズをつけっぱなしにして、いつでもカバンに入れられるようにするのも良いだろう。ちょっとした散歩にも持ち出せる大きさは撮影体験そのものを変化させるものだ。

動画撮影においては連続撮影時間が6K撮影時は10分、4K撮影時15分、FHD撮影時20分なので長尺の映像を撮るのには向かないカメラだが、画質や動画撮影機能に関しては上位機種を超える側面すらある。それがコンパクトなボディに収められていることで、いつでも高画質なスナップシュートができる。

と、ここまでは私がS9を使い始めた時の印象である。そしてそれはハード的なものを考えると容易に想像がつく。だが、試用の終盤になってLUMIX Labをダウンロードし、使い始めてから、S9の魅力はそれだけにおさまらないことに気づいた。

上記以上に今のSNS全盛の現代において、LUMIXが出してきたLUMIX Lab+LUTのアプローチが非常に面白いのだ。

スマートフォンでの色調整・加工は多くのスマホユーザーが行なってきていることだ。むしろ無加工でSNSにアップロードする人のほうが少ないのかもしれない。

スマートフォンの扱いに慣れた世代が、色調整をLUMIX Labで行い、その結果をLUMIX S9に(LUTという形で)フィードバックさせる。つまり撮って加工するという行為を撮影の中に組み込んでしまう、撮影時に自分好みの色を見ながら撮影するという新たな体験をもたらすカメラになるのだ。

おそらくLUMIXが思い描いている未来はそういう文化を築くことなのだろう。

何を隠そう私自身、普段とは違う体験ができるという期待から、予約開始とともに本機種の予約を行ったひとりである。そして今から発売日を非常に楽しみにしている。