3月に発売されたフルサイズミラーレス一眼カメラ『LUMIX S1RII』に『LUMIX S1Ⅱ』と『LUMIX S1Ⅱ E』が加わり、“S1シリーズ” として3モデルがラインナップ。
なかでも『LUMIX S1Ⅱ』は、 LUMIX初となる新開発の約 2410万画素フルサイズ部分積層型 CMOSイメージセンサーと新世代ヴィーナスエンジンを搭載したことでも注目されている。今回は、ビデオグラファーの岩本あきらさんにこの話題の機種を試してもらった。

レポート●岩本あきら

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LUMIXの技術とこだわりが詰まったカメラ

パナソニックからLUMIX初のフルサイズセンサーを搭載したカメラが発売されたのは、2019年3月23日。LUMIX S1R / S1を同時に発売し、当時話題を呼びました。

私もLUMIX G8、GH5Sを使っていたので、その時の衝撃を覚えている。そのLUMIX S1Rの後継機LUMIX S1RIIが3月27日に発売され、次はどんなカメラが登場するのか?様々な噂が飛び交う中、今回ご紹介するLUMIX S1IIと廉価モデルのS1IIEが国内5月14日に発表されました。

同時に発表されたLUMIX S 24-60mm F2.8も軽量、コンパクトに仕上がっており、LUMIXの技術と拘りの詰まったレンズかと思います。

部分積層型センサーにすることでのメリット

これまでフルサイズの2400万画素クラスのセンサーは、4K/60pがAPS-Cクロップされるカメラが中心でした。そこで注目されたのが、先に発売されているニコンZ6IIIで部分積層型のセンサーが採用され、4K/60pノンクロップが実現されてきました。

今回、LUMIX S1IIで採用されているセンサーも同様に部分積層型CMOSイメージセンサーを採用し、パナソニック独自にこれまでの技術や拘り、さらに新しい機能を取り入れ、魅力的カメラに仕上げてきました。




部分積層型約2410万画素CMOSイメージセンサーを搭載することにより、センサー全域記録 5.1K/60pに対応。LUMIX Sシリーズで初搭載のダイナミックレンジブーストをONにすることでダイナミックレンジが15ストップ、OFFの場合は14+ストップと広いダイナミックレンジで記録できるようになっています。

また連写速度も、秒間70コマと驚きの数字を叩き出し、AFの面でも合焦速度が対S5IIと比べ約1.6倍に向上し、写真、動画とハイブリット機としても使いやすいモデルとなった。

外観からLUMIX S1IIを読み解く

初代モデルと比べ、マグネシウム合金フレームを採用し、小型、軽量化に加えて堅牢性も実現。サイズ的にはS5IIとほぼ同じ大きさになっています。大きな変更点は、S1RIIと同様のチルトフリーアングルモニター採用により、光軸に沿って上下にチルトし、ローアアングル、ハイアングルの撮影もしやすい。

ローアングル



ハイアングル




また端子に接続したケーブルも干渉することなくモニターを回転させることができ、非常に便利で使いやすくなっています。




より深くて持ちやすくなったグリップ、フロント、リアのタリーランプ、ロック機能も付いており、プロの撮影現場でも失敗が起きにくい。


メディアに関しては、CFexpress Type B、UHS-II対応SDカード、また外部SSDへの保存も可能で、ファイルの移動もカメラ内でできるところも非常によくできている。

新しく採用された追加機能

あっと驚く動画記録モード

カメラ本体でのRAW現像時、AIによるAI-AWB(AIオートホワイトバランス調整)、HDR写真が記録できるHEIF記録形式、被写体認識にアーバンスポーツモード、私一押しのクロップレス電子手ブレ補正、フォルスカラー表示、LUMIX Flow、Bluetooth経由のタイムコード同期、電源OFF時シャッター閉幕機能と盛りだくさんの内容になっています。

記録ファイル形式がMP4、MOV、Apple ProResから選べ、例えばMOVを選ぶと、なんと19ページもの記録サイズがあります。

MOVの記録モード選択画面


実際にS1IIの製品ページ、仕様のところに記録モード一覧のPDFがありますが、本当にとんでもない数があります。また部分積層センサーをフルに使って様々なサイズ、フレームレートで撮影することが可能になっています。

手ブレ補正にクロップレスモードが搭載

LUMIXと言えば、手ブレ補正が強力なのが有名ですが、5軸中央:8.0段、周辺:7.0段のボディ内手ブレ補正(B.I.S)、5軸7.0段のDual I.S. 2。さらにユーザーが泣いて喜ぶクロップレスで手ブレ補正や広角レンズ使用時の周辺歪みを抑えたクロップレスモードが搭載されました。実際に各モードでLUMIX S9と手ブレ補正の比較検証を行なってみたところ、全てのモードでS9の手ブレ補正よりも強力になっていました。


最も手持ち、歩きで安定していたのが、クロップレスモードになります。クロップされていないのに何故手ブレ補正が掛かるのかが不思議に思いますが、イメージサークルに多少の余裕を持っており、実際に記録する画角の範囲内で強力な補正をかけているようです。


詳しい手ブレ補正の検証は、岩本さんのYouTubeチャンネルで公開中



LUMIX S9 のボディ内手ブレ補正、電子手ブレ補正標準との比較では、その差は歴然! 基本的に手持ちで動画撮影を行う場合は、ボディ内手ブレ補正+クロップレスを使えば問題ないかと思います。とは言っても、ソフトウェアで補正をかけているので、超広角でNDフィルターをつけて、ジンバルで大きく旋回した時、角に影(ケラレ)が出る場合もあるので注意が必要です。


極端にカメラを振らなければ出ないので、そこまで心配はないとは思いますが、NDフィルターのサイズ、種類によっては影(ケラレ)が出る恐れがあることを知っておいてください。



Dual Native ISO、ダイナミックレンジブースト

LUMIX S1II にはフォトスタイルによって、ベース感度が異なります。一覧はこんな感じになります。


 Dual Native ISOダイナミックレンジブースト
モード低感度高感度OFFON
通常10080050* 100-51200 102400* 204800*50* 100-25600
シネライク2001600
V-Log6405000320* 640-51200500* 1000-25600




明るい場所での動画撮影では、特に気にする必要はありませんが、夜間や暗い場所での撮影をする場合にノイズを抑えた撮影をするためにDual Native ISOが採用され、更にLUMIXのフルサイズミラーレスで初のダイナミックレンジブーストが搭載され、ダイナミックレンジブーストをONにすることで、広ダイナミックレンジ・広⾊域の V-Log/V-Gamut動画記録が可能になりました。

ここで、Dual Native ISO、ダイナミックレンジブーストの効果をご紹介します。全ての画像は動画からの切り抜きで、250%のサイズに拡大しています。

まずは、フォトスタイル V-LogのダイナミックレンジブーストOFFの状態のノイズ感がこちら。




V-Logのベース感度が、低感度でISO 640、高感度でISO 5000となっており、高感度のベース感度に切り替わる一段手前のISO 4000にするとかなりノイズが多いですが、ベース感度 ISO 5000になると劇的にノイズが減ります。上記のベース感度一覧を参考に露出の調整を行うようにしてください。

続いて、ISOを1000以上に上げる場合は、ダイナミックレンジブーストをONにすることをおすすめします。V-Logの場合はISO 1000-25400の範囲でブースト効果が得られ、ノイズ感もダイナミックレンジブーストOFFの状態よりもONにしたほうが明らかにノイズが減るのでおすすめです。


ISO 1000未満の場合は、ダイナミックレンジブーストをOFFにし、必要に応じてDual Native ISOのベース感度をベースに露出の調整をするとノイズ感の少ない映像を撮ることができるかと思います。

Bluetooth経由のタイムコード同期

この機能を待っていた方も多いと思いますが、LUMIXにもようやくBluetoothを使ったタイムコード同期が可能になりました。複数のカメラ、マイクをタイムコードで同期させ、編集のタイムラインに一発で並べてくれる、プロの現場ではなくてはならない便利機能です。


ATOMOS UltraSync Blueから発行されたタイムコードをBluetoothを経由して、LUMIX S1II、私が使っているタイムコードジェネレーターに対応しているTASCAMのFR-AV2、そこから更にDJI OSMO ACTION 5 Proに接続、ピンマイクのDR-10L Pro、またiPhoneにも接続ができ、様々な機材と連携することができるようになりました。



SSDを使って効率化




本体での記録メディアとして、CFexpress Type B、UHS-II Video Speed Class 90 対応のSDカード、更に外部SSDへの記録も可能で、実際に私も試してみました。SSDに直接記録はもちろん、CFexpress Type B、SDカードとのデータの行き来がカメラでできるところもとても便利です。

メニュー→再生→画像コピー



コピー方向



コピー先を選ぶ




OWC Atlas Ultra CFexpress 4.0 Type B 2TB / SSD : OWC Envoy Pro Elektron




今回使用したOWCのCFexpress Type BからSSDへのコピーもスムーズで、そのままSSDをPCに接続を行い編集作業に入れるところも作業の効率化につながりました。

外部SSDを付けるために必要なアクセサリー

外部SSDを付けるためには、やっぱりケージが必要になります。基本、LUMIX S5II / S5IIX、G9 ProII、S1RII、そして今回のS1II / S1IIE についてはほぼサイズは同じですが、バッテリーの取り出し口が少し形状が変わっており、S1RII対応前のケージは、バッテリーが抜けない可能性があるので、S1RII対応のケージを購入する必要があります。





私が購入したのは、SmallRig製のS1R II用ケージ(型番4902)を導入しました。トップハンドル、ケーブルクランプ付きのタイプ(型番4903)もあります。まずはケージをカメラに取り付け、続いて今回使用したSSD OWC Envoy Pro Elektronを固定するために選んだのが、NEEWERのSSDホルダーを購入し、取り付けました。

まとめ

全体として、動画機としてのまとまりもよく、プロの撮影現場でもしっかり安心して使えるカメラに仕上がっています。特に私の場合は、イベント、ライブ、学校行事といった長回しを必要とする現場も多いことから熱耐性も必要ですし、Bluetoothを使ったタイムコード同期も使えますし、高感度耐性も群を抜いて良いので、動画ユーザーにお勧めできるカメラかと思います。

またLUMIXでは当たり前かもしれませんが、CFexpress Type B、SDカードでのバックアップ記録も可能になっていて、メディアトラブルでのデータ破損の心配も減るので助かります。

欠点らしい部分もほとんどなく、チルトフリーアングルモニター、フロント、リアのタリーランプ、動画機としての拘りの詰まったカメラかと思います。写真性能についても秒間70コマの連写やAF性能も非常によくなっているので、写真と動画のハイブリット機としても使える一台に仕上がっていると思いました。