マルミ光機から発売されたワンタッチで着脱できるマグネットスリムフィルター。今年2月にNDフィルターのラインナップも拡充し、動画ユーザーの間でも注目を集めている。実際にこのフィルターの使い勝手はどうなのか? カメラマンの早見紀章さんに実際の現場で試してもらい使用感を中心にレポートしてもらった。
テスト・文●早見紀章
日本大学芸術学部写真学科卒業後、風景写真家林明輝氏に師事。写真集・広告・雑誌・出版・映像など幅広い分野で活動。2017年に映像業界に転向し、数々のCM、VPの撮影に従事している。
Instagram:https://www.instagram.com/kishohayami/
今回制作した作品
「Red Vivo」
Director:Ami Shimasaki
Camera:Kisho Hayami
Hair&make:Junko Yamazaki
SpecialThanks:Ayumi ozaki、Maya Moriya
SoundCreator:Koji Miyagawa
熊本県出身。専門学校を卒業後、映像制作会社に3年半勤め、
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動画でNDフィルターは必須だがスクリューインタイプはなにかとトラブルも…
映像制作においてビデオカメラからデジタル一眼、そしてミラーレスカメラに移行するとそれと併せてNDフィルターの使用頻度は急激に増えてきた。スチルと異なりムービーはフレームレートに合わせてシャッタースピードを固定するのが一般的といえる。そのため、光量が大幅に増減するような屋外を中心とした環境下ではNDフィルターを使用する機会がスチルよりも格段に多くなる。
レンズ前に装着する形式のNDフィルターはミラーレス一眼を使用する現場では頻繁に濃度を変更するが、そういう現場はワンマンオペレーションの現場が多いだろう。
大規模な現場であればアシスタントが数名おり、NDやPL、エフェクトなどのフィルター交換をしてくれるが小規模でスピード感の求められる現場においてはNDフィルターをスクリューインで交換する手間すらおしいといえる場面が多々ある。
しかもこのスクリューインで交換するタイプのNDフィルターはねじ込みを急ぐあまり、脱着時の落下や、ねじ込む角度を間違えて外れなくなることもしばしばある。何度撮影現場でそういう瞬間を目撃したことか汗をかきながら必死にフィルター交換をしているカメラマンの姿は容易に想像できるだろう。
筆者は本製品に出会う前までは、通常のフィルター枠にマグネット式のアダプターを介して使用していた。この方式の場合、今回ご紹介する製品とは異なり、レンズの先端からフィルターまで厚さがでてしまうので、ワイドレンズでは使用できないという欠点があった。
マグネットタイプでワンタッチ装着が可能なマグネットスリムフィルター
しかし、従来の欠点を補い、スクリューインがあたりまえなNDフィルターに待望のワンタッチ式ということで登場した。
本製品はマルミ光機からCP+2022の目玉製品として先日発表された。2021年にマグネットスリムのサーキュラーPLやND16といった商品は既に発表されていたが、ND2/4/8/32/1000もラインナップに加わった。ビデオグラファーに向けたキットは今回初めてとなる。
▲今回使用したレンズはLEICA DG VARIO-SUMMILUX 10-25mm / F1.7 ASPH.、LEICA DG VARIO-SUMMILUX 25-50mm / F1.7 ASPH.、LEICA DG NOCTICRON 42.5mm / F1.2 ASPH. / POWER O.I.S.の3本
作例撮影に使用するレンズの先端はすべて77mmに統一しておいた。これにより現場で違う口径のフィルターを使用することなくオペレートが可能となる。なお、マグネットスリムアダプターを使用すると通常のレンズキャップの装着が難しくなるのでキットに同梱されているマグネット式のキャップを使用する。
製品の特徴としてはレンズへのフィルターの脱着が瞬時に行えるマグネット式を採用しており、低濃度のND2/ND4/ND8/ND16の4枚とレンズアダプターをセットにしているため濃度の細かい調整が可能。またND32/ND64も別売で用意されている。付属のポーチもスリムな本製品を使用するうえで使いやすいように考慮されている。
▲レンズの先端にマグネットスリムレンズアダプターを装着することでマグネット式フィルターを使用することができる。
スリムなので2枚重ねで使うこともできる
またとてもスリムなので2枚重ねすることにより、さらに上の濃度も実現でき、撥水・防汚コーティングも施しているので現場でのクリーニングも容易に行える。
冒頭でも書いた通り、デジタル一眼・ミラーレスカメラでの動画撮影にはNDフィルターが必須であり、明るさの変化や被写界深度の調整のためにND濃度を瞬時に交換したい場面があり、スピーディーな現場に本製品は最適といえる。
ND2があることによって、濃度を細かに調整することが可能になる。またひとめで濃度が確認できるようにフィルター枠の側面に度数を示すマークがついているのも使い勝手を向上させている。
実際の現場での使い勝手は?
今回、マグネットスリムムービーキットを活用した作品制作を行なった。作品はキャストのプロモーションを前提としている。基本、外ロケを中心として構成を組み現場での使い勝手を徹底的に検証してみた。スタッフはカメラマン、ディレクター、ヘアメイクという最小人数で行った。カメラ周りは当然一人となるので、レンズ交換やフィルター交換などの機材に関するオペレーションは基本ワンオペで行なった。
環境は石切場や海岸などになる。いわゆる機材には優しくない現場になる。当日は朝に雨が降り、午後は風が強く吹いていた。そのためレンズ前には水滴や砂が付着しやすい環境となったが、付着物は柔らかい布でさっと拭うだけで綺麗になり、ストレスを感じることはなかった。また、NDの装着に関しては内蔵NDほどではないが、スクリューインのフィルターと比較すると想像を超えるつかいやすさだった。マグネット式フィルターとNDフィルターの相性は予想以上に良かったと感じる。
GH6のダイナミックレンジブーストではNDフィルターワークが必須
作例制作にあたり、カメラはGH6をセレクト。理由としては小型でありながら単焦点にも肉薄するズームレンズがラインナップされており、ダイナミックレンジをブーストする機能もあるからだ。今回、逆光中心の撮影が当初から予想されたので小型でありながらダイナミックレンジブースト機能を新たに追加されたGH6は作品制作の構成時から決まっていた。ただ、この機能はV-LOGにて収録する場合、ISO感度がベース2000以上に設定される。つまり、マイクロフォーサーズ機として最大となる13+ストップのダイナミックレンジを自在に操るにはNDフィルターワークが必須となる。
さて、実際のダイナミックレンジブーストの効果は作例にてご覧いただきたい。また、実際に開放付近で撮影するにあたり石切場のような暗い環境でもNDフィルターは多用することになったのはいうまでもない。
まとめ
さて、ワンオペに近い環境で今回撮影することになったが、マグネットスリムムービーキットは結果としては充分な機動力を現場にもらたしてくれた。晩秋から春ごろまでは日も短くロケ時間をとることは充分とはいえない。当然、撮影できなければ別日にて追加撮影となるが、昨今の映像制作現場において2日間のロケ日はみかけることはなく、どうしても1日で撮影を終わらせる必要が出てくる。そんな今の時世をマルミ光機は汲み取って今回の商品を発売してくれたことに私は感謝せずにはいられない。いちクリエイターとして、今後も様々な現場で最高のNDフィルターを相棒と出かけようと思う。