「ビデオサロン」と「コマーシャル・フォト」が共催するデジタル一眼ムービーのイベント「Mashup Photo-Video」の第4弾。今回はウェブムービーにテーマを置いて、EOS 5D MarkⅡで撮影されたウェブムービーの2つの事例を取り上げた。また、新機種であるEOS 7Dを使ったムービー撮影の話、さらには先日発表されたばかりのEOS 1D Mark Ⅳの紹介など、盛りだくさんの内容だった。


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「Mashup Photo-Video Vol.4」は10月26日、アップルストア銀座のアップルシアターで開催された。台風が通過中という生憎の天候ながら、多くの来場者が詰め掛けた。今回のテーマは「EOS Movieで撮るウェブムービーが新しい映像文化を生む!」。第1部はファッションブランド「HARE」のウェブサイトで展開された、インタラクティブ性を持ったプロモーション映像の事例を紹介。第2部からは撮影監督の谷川創平さんが登壇しトーキョーチョコレートのキャンペーンサイトで公開されたショートムービー「さよならドミノ」の制作話と、引き続き第3部としてEOS 7Dを用いた動画撮影についてレポート。最後にEOS 1D Mark Ⅳの紹介もあり、まさにてんこ盛り。1時間半があっという間に過ぎた印象だ。
apple10.26_03.jpg「スチルが動く」感覚が面白い
第1部はファッションブランド「HARE(ハレ)」のプロモーションムービーを手がけた4人のクリエイターによるトークセッション。撮影を担当した川口良介さん(上写真左)、照明の岩瀬政克さん(同右)、企画制作を担当したDENBAK-FANO DESIGNの土居誠史さん(下写真左)と松平直之さん(同右)が、それぞれの立場でEOS 5D MarkⅡを使った動機や制作のポイント、感想を述べた。なお、「HARE」の事例については「ビデオサロン」10月号でも記事として取り上げている。
最初は「男」のイメージで発想し、スケッチ的にさまざまなアイデアを並べてみる作業を進めたが、「アイデアが揃うにしたがってだんだんイメージが変わってきた」(松平さん)という。ストーリーよりも「流れ」を重視して見せていきたいというクライアントの意向もあって、いつもよりもかなり綿密に絵コンテを作り、進めていった。
後でトリミングすることを考えて、フルHDの画素がある5D MarkⅡを使うことを決めたが、機材が少なくて済み、機動力も優れていて動きやすいメリットもあった。また画像の一部を拡大してさらに回転させるという表現上の問題からHDであることが必須で、街中の撮影でも周囲から気にされにくいなど、さまざまな要件から実は5D MarkⅡ以外の選択肢はなかったとのことだ。
画角は16:9でも4:3でもなく、画像が回転するというアイデアをいかすために、1920×1080から882×567ピクセルという矩形を切り出して使用している。本番撮影の前に一度テストを行い、このサイズを選んだ。撮影時には5D Mark IIの液晶にマジックで画角を書き込んで撮影したという。今回はクライアントから「映像として面白くなればいい」「アテンション(注意)を引くことが重要」と言われ、ノーマルの色を出さなくてもいいという異例のケースで、その分かなり自由にやれたというが、「通常の撮影ではマスターモニターを持ち込んで確認して調整するところ、5D MarkⅡは光学ファインダーで確認した色がほぼそのまま出てくれるのがありがたい」(川口さん)。その照明は「フィルム撮影のような感覚」(岩瀬さん)だそう。
編集はAfterEffctsのみを使用。全体のトーンを合わせて色を少し直した程度で、重いデータを扱う割に「作業的にはあまりストレスを感じなかった」(土居さん)。注意が必要なのは偽色とモアレで、5D MarkⅡはシーンによっては偽色が出やすいが、これはAfterEffectsでも直すのは困難だ。
EOS MOVIEの可能性については4人とも大いに感じているようで、機動性を活かした最小単位でのロケが可能になるとか、雑誌の1コマが動きだすようなウェブムービーとの連動ができるのではないかといったプランも飛び出した。「スチルが動いている感覚」(川口さん)という話が、この先の発展のカギになるのではないだろうか。
tanigawa_01.jpgイメージがプルンと出てくる
第2部からは撮影監督の谷川創平さんが登場。まずはトーキョーチョコレートのキャンペーン用ウェブムービー「さよならドミノ」の撮影システムについて解説。5D Mark IIからの出力にブラックマジックデザイン社のMini ConverterをかませてSDIの2系統に分け、その1つを監督のもとに送っているが、これはメーカーの想定外の使用法で、12V以上のDCが流れて壊れることがよくあったらしい(現在は対応の電圧コンバーターを入れることで防げる)。カメラの固定が1点留めのためやや不安定になるのを、アクセサリーシューのところで上からも押さえて安定させる工夫もあった。
室内のシーンでシフトレンズを使っている点がユニークで、レンズ交換の自由度が高い5D MarkⅡならではの表現だ。これは狭い部屋の中でドミノ倒し(NHKの「ピタゴラスイッチ」のような仕掛けになっている)が進んでいくシーンで、目線の誘導を狙ったもの。「カットが短いので効果は少し分かりにくいが、いい雰囲気にはなった」と谷川さん。本作はウェブムービーのほかにシネアド用のバージョンも作られていて、「映画を作ることも可能なクオリティは持っている」
フル35ミリの5D MarkⅡは、通常のビデオカメラよりセンサーが大きいため被写界深度が浅く、ピントはぼけやすい上、フォーカス送りが難しい。「おっと、いっちゃった」というピンボケも多く、じゃじゃ馬的なところがある。フォーカス送りがもうワンランクこなれて扱いやすくならないとカメラが動き回るような撮り方はできない、と注文をつけたが、「使って面白いし、新鮮さを感じる」とも。本人曰く、「イメージがプルン!と出てくる感じ」なのだそう。
より汎用性が高い7D
第3部も引き続き谷川さんによる、EOS 7Dを使った映画撮影の事例の紹介。来年公開が予定されるオムニバス形式の作品のうちの1本で7Dをテストした。Zacutoのマットボックスを使用したが、とても使いやすかったそうだ。レンズはキヤノンの単焦点のもので揃えた。キヤノンマウントはフォーカス送りの方向がムービー用と同じで(ニコンマウントは逆方向)使いやすかったが、それでも操作性はまだ完璧ではないと指摘する。一部にフィッシュアイレンズを使用したが、ここだけはフル35ミリでないと周囲がケラレてフィッシュアイの機能を果たさないため5D MarkⅡで撮影した。
7Dはセンサー部がフル35ミリより小さいAPS-Cサイズだが、画質自体は5D MarkⅡとあまり変化を感じないといい、少なくとも大きく劣ることはないようだ。むしろ被写界深度がこれまで使っていたムービーカメラに近い分、汎用性が高く扱いやすいといえる。機材レンタル屋では映画で使用していたPLマウントレンズが使えるセットを用意していて、これは7Dならではのメリットだ(5D Mark IIはケラレが生じるため不可)。「でも、(じゃじゃ馬的要素が減って)僕にとってはつまらなくなったかもしれない」
この撮影は30pで行い、現場ですぐにPCにデータを取り込んで確認し、別にバックアップもとった。編集にはファイナルカットプロを使用。H.264のままだと動きが遅いということでProResのHQに変換、それをHDCAM SRに上げてカラーコレクション(色補正)している。谷川さんは「ただ色を変えるだけでなく、センスを分かち合えるカラリストの存在がこれからは重要だし、Colorを使いこなせる人が欲しい」と話した。
映画製作において5D MarkⅡや7Dが今後どう浸透していくのかまだ分からないとしながらも、「低予算で作るものでは必ず入ってくるだろうし、CMのほうではどんどん広まって行きそう。EOS MovieIで撮った映画が来年あたりはバンバン流れそうですね」と締めくくった。
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EOS Movieでの撮影システムについて解説する谷川さん
「Mashup Photo-Video」次回のイベントが決定。
Vol.5となる次回は「ポストプロダクションから見たEOS MOVIEの実力」と題してお届けする。
日時:11月27日(金) 18:30~20:00
会場:アップルストア銀座 アップルシアター
キヤノンEOSムービーサイト
http://canon.jp/eosmovie