テスター●SHINYA SATO

診断のポイント

●スチル機能をα7RIII、α7S IIIと比較
●ハイブリッド機としての使い勝手は
●解像感、AFの追従性をα7SIIIと比較
●高感度耐性とカラーをα7SIIIと比較

はじめまして、SHINYA SATOです。普段は会社員の傍ら週末ビデオグラファー&フォトグラファーとして活動しており、現在の自身の作品制作としてはポートレートを中心とした動画と写真を現場で同時に撮影しながらひとつのムービーとして見せていくようなスタイルが中心になっています。

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α7Ⅳを導入した理由

もともと写真でスナップやポートレート撮影をしていた流れで2019年に動画制作を始めた時はα7RⅢを使用していました。当時のα7RⅢはスチル機としての優秀な画質に加え、動画ユーザーにも広く使用されていたα7Ⅲと同世代の動画性能を備えていたため、ジンバルを導入して一台でムービー撮影も行なっていたのですが、「ポートレート撮影の一日の思い出をVlog風に残す」といった撮影の現場で、モデルさんとのリズムを崩すことなく動画収録と写真撮影を両立させるために、2020年に動画用のメイン機としてα7SⅢを追加しています。

その後は、α7RⅢをストラップで常に携えつつ、ジンバルに載せたα7SⅢとの二台持ちで、流れに応じて動画と写真を並行して撮るスタイルに落ち着いたのですが、α7SⅢのスチル性能が高かったことと、イベント撮影やMV制作などの案件で4:2:2 10bitでの複数台収録が必要になるケースも増えてきたことから、メインのスチル機+動画のサブ機として相互補完的に運用できる使い勝手の良いカメラを、ということでα7RⅢと入れ替える形でα7Ⅳを導入しました。

 

スチル機としても確実に進化したα7

昨年12月に発売されたα7Ⅳは、ベーシックを超えた次世代機としてα1やα7SⅢと同等の画像処理エンジンを備え、高いAF精度や動画性能を実現したハイブリッドモデルとしての「ミニα1」的な位置づけともいえます。

今回スチルメイン機として導入したα7Ⅳは、結論からするとその期待に充分に応えるものでした。現在の制作活動はポートレートが中心で、さらに動画が7〜8割程度となってきており、撮影する写真も動画に組み込むものやWEB/SNSに掲載するものが多いため、 3300万画素のセンサーは写真として必要充分なものです。それ以上にα7SⅢと同世代機として搭載された最大759点の測距点や顔/瞳認識におけるAF性能、新エンジンによる操作レスポンス/メニュー構成、クリエイティブルックなどの最新スペックが、α7RⅢとの二台持ちをしていた際の細かな差異を解消してくれるため、自分にとっては手にしたその日からしっくりときて手放せない、「ちょうど良さ」を感じるカメラに仕上がっています。

またα1/7/9シリーズはグレードや世代が異なってもほぼ同様なサイズ感を貫いていて、複数台のαを持ち替えてもボディとレンズのバランスやボタン系の操作位置が変わらないという点もメリットです。特にα7RⅣ以降のグリップはとても握りやすく、リグなどは組まずに手持ちで写真と動画を行き来する撮影の際の安心感も向上しました。

実際のポートレート撮影での感触や出てくる写真も期待を裏切らないものです。自分はスチルでも相手と一緒に歩いたり会話しながらスナップ的に撮影することが多いのですが、被写体の大きな動きにも自然にAFが追従し続けるため構図とタイミングに集中してシャッターを切ることができます。また最近世代のモデルらしい軽めで衝撃感の少ないシャッターフィーリングや、(人により好みはありますが)全身縦位置でのローアングルを取りやすいバリアングルモニターの採用、センサーダスト対策として電源OFF時にシャッター幕を閉じておける機能など、スチル機としても、しっかりα7Ⅲから改善されている印象です。

しかしα7RⅢからの乗り換えやα7SⅢとの併用では使い勝手の点で目につくところもあります。細かいところでは赤外線リモコンが使えなかったり(集合写真で使うといった日常用途だけでなく複数台のαのタイムコードを一括リセットできたりして便利でした)、スタジオで撮影で使用頻度の高かったストロボとの接続用リモートレリーズ端子は搭載されていません。また、やはりEVFに関してはα7SⅢに搭載された943万ドットの高精細で視野角の広い見え味に慣れてしまうと、α7Ⅳの369万ドットのファインダーは覗いてシャッターを切る時の感動はありませんが、スチル機として使ってきたα7RⅢと同等ではあるためフォーカスを追い込む際に不自由というほどではない、といったところでしょうか。

このあたりはαシリーズのスタンダート機としての位置づけとして納得できるところではありますが、最近は上位/派生モデルも増えスペックの相関性も複雑になってきているので、使い心地や現場の生産性のためにも、特にハイブリッド機としての導入を検討されている方は自分がこだわる部分を事前に充分確認しておいたほうが良いかもしれません(今後のα7Rシリーズ後継機で動画機能が強化されるとまた少し悩ましいことにはなりそうです)。

スチルでの作例

レンズ:FE 24mm F1.4 GM
モデル:sheee  https://www.instagram.com/sheeee_mc/

 

ハイブリッド機として改良された使い勝手

一方で今回の導入で最も注目していたのがα7Ⅳで初めて導入された「静止画/動画/S&Q切り替えダイヤル」の搭載と、ボディ右上端に設置された「後ダイヤルR」が露出補正専用からカスタマイズ可能となった点です。切り替えダイヤルでの動画/静止画のモード変更は非常に便利で実践的。この機能が今回導入の決め手のひとつにもなりました。

これまでのハイブリッド撮影での不安要素だったピクチャープロファイルの切り忘れを防止できるのが個人的に最も重要な点ですが、シャッタースピード/絞り/ISO/WB等を動画と写真で完全に独立して設定しておき瞬時に切り替えできるため、時間的ロスや設定ミスをなくすと同時に現場で自信を持って撮り分けができるようになりました。

▲モードダイヤルの下に静止画/動画/S&Q切り替えダイヤルが搭載された。今回導入理由のひとつだが普段使用しないS&Qが含まれるため操作ミスがやや心配。またこれまで露出補正専用だった後ダイヤルRがついにカスタマイズ可能となり、例えばマニュアル撮影時にISOを設定しておくと非常に便利。

 

静止画/動画独立設定


▲スチル/ムービーのハイブリッド機としてそれぞれの撮影に関する項目が多岐にわたり完全に独立して設定できるようになった。特に動画から写真撮影に移行した際のピクチャープロファイルの切り忘れがなくなることが個人的に大きなポイント。

これらのハイブリッド機としての使い勝手を活かし、ポートレートムービーの撮影ではジンバルに載せたα7SⅢに24mm等の広角レンズ、スチル用のα7Ⅳには35〜85mmくらいの標準/中望遠レンズを付けておくことが多くなりました。ジンバルでの動きのある映像収録に加えて、表情への寄りからふと目にした風景や小物などのBロール、移動中やお店でのオフショットなどをα7Ⅳのモードを一瞬で変更して手持ちでサッと撮影することができるようになり、映像のクオリティを保ったままモデルとのコミュニケーションやテンポを乱さずに撮り逃しを減らすことに役立っています。

 

 

ポートレートムービーのサブ機としてα7S Ⅲと比較

では動画のメインで使用しているα7SⅢと一緒に使用するサブ機としてのα7Ⅳの実力や、この2台で撮影した素材の違いがどこに出るのかといった点を確認していきましょう。今回はポートレートムービー撮影での使用感を想定し、モデルさんに協力してもらいα7Ⅳとα7SⅢで同時に撮影しながら検証を進めました。

まずはジンバル撮影などで最も気になるAF-C動作における追従性の比較です。αシリーズの瞳/顔認識AFには定評があり世代を重ねることに信頼性がさらに向上していますが、最新のエンジンであるBIONZ XRを搭載したこの2台を比較してみたところ、モデルが正面を向いた状態での動きについては前後移動を含めどちらも非常によく追従し、その粘りも素晴らしいものです。

しかしモデルが振り向いたり横顔になった瞬間を細かく比較すると、α7Ⅳのほうがわずかにではありますが一瞬早い段階で瞳認識から顔認識へ切り替わってしまうようです。実際の撮影中に体感できるほどの差ではありませんでしたが、暗所での撮影やより速い動きの被写体に対してはこの違いが顕著に出てくる可能性はあると感じました。

液晶パネルの見え方比較

▲左がα7SⅢ、右がα7Ⅳ。比べると背面ディスプレイの縦横比や表示に微妙な違いがあり、α7Ⅳの方が画面上の線画やフォントがやや細く、瞳/顔認識のAF枠がやや見づらい場合がある。AFの追従はほぼ同等だが、α7Ⅳのほうがわずかに一瞬早い段階で瞳認識から顔認識へ切り替わる傾向があった。

●α7SⅢ(144万ドット)

●α7Ⅳ(103万ドット)

解像感比較

次にセンサー画素数から生じる解像感の違いについて。3300万画素のセンサーを搭載するα7 Ⅳでは4K撮影時の仕様として、30p/24pでは7Kオーバーサンプリングによるフルサイズ記録が可能ですが60pでは4.8KからのオーバーサンプリングとなりSuper 35mmに画角がクロップされてしまうため、α7Ⅳを動画機としてみた場合に評価が分かれるポイントにもなっています。

しかし1200万画素に抑えたセンサーで24p/30p/60p/120p(約10%クロップ)のフルサイズ記録を実現しているα7SⅢと等倍での解像感を比較すると、いずれもα7Ⅳのほうがやや高い解像感で記録されていました。編集段階では適切なシャープネス調整でどちらも精細な4K品質を得られますが、実際にオーバーサンプリングの効果を体感できる結果となりました。

▲等倍で比較してみるとα7SⅢのほうがややソフトな印象。α7Ⅳの4K/60pではクロップされるため約1.5倍に拡大されている。

カラー比較

続いてカラーの違いを見てみましょう。α7SⅢ以降のBIONZ XR搭載機はFXシリーズ等のシネマカメラに近いカラーサイエンスを実現し、S-Cinetoneの採用も話題となりました。両機の違いとしてα7SⅢには人工光源化でのオートホワイトバランスを改善する可視光+IRセンサーが搭載されていますが、今回は条件を揃えるため屋外日中でWBを固定しS-Log3(PP8)とS-Cinetone(PP11)のふたつのピクチャープロファイルで比較しました。結果としてはいずれのプロファイルでも違いはわずかですが、α7SⅢがややマゼンタ寄りであることが確認できたため、カラー特性の差としてカラコレ時に留意しておきたいポイントです。

▲NDフィルターを外しホワイトバランスは太陽光で撮影。S-Log3収録素材は収録素材にメーカー配布LUTのみ適用。

フォーカスブリージング補正

α7IVからの新機能であるにフォーカスブリージング補正についても検証してみました。補正のためにクロップされてしまうことを許容できればその効果は確実にあり、モデルの前後の動きに対しても画角に全く影響を与えることなく常に安定した結果を得られます。ジンバルでの撮影も多い自分には非常に有効な機能だと感じましたが、現状では純正のGレンズ/G Masterレンズのみの対応ということなので、日頃から使用しているソニー製のツァイスレンズやシグマのレンズでは活用できない点が悩ましいところでもあります。

[AF追従、ブリージング、解像感、カラー比較の動画]

 

高感度時のノイズ耐性

高感度域でのノイズ耐性については、センサー画素数の違いに関わらずムービーではいずれも同じ解像度で記録される点がポイントです。今回4K/24pS-Log3収録で比較したところ、α7SⅢは一般的にデュアルネイティブISOと呼ばれるところの二段目のベース感度に相当するISO12800(S-Log3時)でノイズレベルが明らかに低減するのに対し、α7ⅣについてはISO感度に比例してリニアにノイズが増えていきます。しかしISO6400までで比較した場合、見た目ではα7Ⅳのノイズもよく抑えられている印象となり、7Kからのオーバーサンプリング4K記録によって相対的にノイズ成分が目立たなくなっているものと思われます。S-Log3でのムービー収録で12800を超えない範囲であれば、実撮影では両機のノイズ耐性の違いをそれほど意識しなくても良さそうなことが分かりました。

 一方でスチルにおいてはRAWで撮影する場合、各センサーの画素数に応じた解像度で記録されるため、ディスプレイで見た際の縮小率の違いがノイズ感にも影響します。スチルではα7SⅢもISO感度に比例してノイズが増えることに加え、さらにセンサー画素数の多いα7Ⅳの方がより縮小されて表示されるため一見するとどちらも同等に見えますが、等倍での比較ではやはりα7SⅢの方がノイズが抑えられています。ノイズ耐性という観点からは充分な光量のある環境では引き続きα7Ⅳをメインのスチル機として使用することになりますが、絶対的なピクセル数を必要としないケースでの暗所撮影ではα7SⅢがスチル機としても活用意義がある点を再認識しました。

ローリングシャッター歪み比較

 センサーの読み出し速度が影響するローリングシャッター歪みについては、ムービー/メカシャッターでのスチル/電子シャッターでのスチル(サイレントモード)の三者で比較しました(いずれのテストもフリッカーレス撮影関連は全てオフで撮影)。
まずスチルについては、特に電子シャッター使用時の違いが明らかです。画素数を抑えて高速な読み出し速度を実現しているα7SⅢに対してα7Ⅳのセンサー読出し速度はそれほど高速ではないとされており、メカシャッターでは問題ないものの電子シャッターでの動体歪みはかなり大きく、フリッカーもかなり目立つ結果となりました。自分はスチルで高速な動体撮影をする機会は多くありませんが、ライブステージや室内スポーツ等でシャッター音を消すためにサイレントモードを使用する際の留意点になりそうです。

 ムービーでの比較ではα7Ⅳの方で収録条件による違いがありました。フルサイズ収録となる4K /24pでは動体歪みやフリッカーも多く現れますが、Super 35mmとなる4K/60pではクロップによる有効画素数の減少が読み出し速度の向上にもつながるため動体歪みが減少しています。一方α7SⅢでは24p/60pのいずれにおいても 1/2000秒までシャッタースピードを上げても極端に映像が破綻することがなく、ここでもセンサー読み出し性能の高さが伺えます。ポートレートムービーの制作では通常4Kの60pか120pで収録しているため、動画サブ機としてクロップ前提で使用するα7Ⅳ側も1/250程度までのシャッタースピードで使用するぶんには大きな影響はなさそうです。

[高感度耐性、ローリングシャッター歪み比較の動画]

 

アクティブ手ブレ補正

スチル撮影との併用を前提に動画サブ機として導入したα7IVには、広角レンズ+ジンバル搭載で運用することの多いα7SIIIとの素材バリエーションをつけるべく、モデルのヨリやBロールなどを手持ちで気軽に撮影するための役割を期待しています。今回はアクティブ手ぶれ補正の比較のため、普段ポートレートムービーをジンバルで撮影している時に近いカメラワークで、少々無理やりではありましたがステーで二台を固定したまま同時に 手持ちで撮ってみました。結果としては両機の補正効果自体に大きな違いはありませんでしたが、約10%のクロップを必 要とするアクティブ手ぶれ補正に加え、α7IVの4K 60p撮影ではさらにsuper 35mmにクロップ されるため、スチル撮影との併用で運用する場合のレンズ焦点距離選びは重要です。本機のアクティブ手ぶれ補正はジンバルやアクションカムほど強力なものではありませんが、純正の手ブレ補正機能(OSS)付きレンズを使用すれば安定性はさらに向上しますし、少々のブレ感が残っていてもジンバルや三脚での映像にアクセントつける意味で積極的に活用できるのではないかと思いました。

Vlog風サンプル

▲24mmのレンズを付けた両機を手持ちで4K 60pで同時収録し短いVLOG風の映像を作成(写真は全てα7Ⅳ収録素材)。α7SⅢ側の液晶モニターを見ながら普段の距離感で撮影したがα7Ⅳの映像は約36mm相当にクロップされるため、より親密な印象を感じる映像となった。

 

組み合わせを選ぶ楽しみ

今回のレビューで導入したばかりのα7Ⅳをα7SⅢとの比較も含めて改めて検証してみたことで、自分の撮影スタイルにおけるこのカメラの位置づけや動画機として使用する際のポイント/留意点などが明確となり、今後の制作に活かせる知見を得られました。

“Beyond Basic”として期待とともに市場に送り出されたα7Ⅳはαシリーズの最新スペックをバランス良く搭載してきた一方で、大ヒットしたα7Ⅲより価格帯もひとつ格上げとなったため、ユーザーがどのような目的や位置づけで導入したいかによって評価が分かれる機種ともいえそうです。しかし今やミラーレス機の用途がスチル/ムービーで等価であると理解すれば、ソニーがα1に続いて投入したα7Ⅳに込めたメッセージは明確です。写真/動画のどちらから始めた人にとっても、他方のフィールドにチャレンジしたい時にしっかりと応えてくれる最適なファーストカメラであることは間違いないですし、すでに明確なメイン機が運用されている方にも写真/動画の双方で広範囲に使える必要充分なサブ機としての立ち位置も備えています。

α1/7/9シリーズは基本的な操作感や撮影体験をできるだけ統一しつつ、ユーザーがそのカメラを使う目的や重視するスペック、予算との兼ね合いで幅広いラインナップから自由に選べるようになっています。AF性能やUIなど最新であるほど最良な部分はありますが、それは世代を重ねるごとに確実に他モデルにも同じコンセプトで採用されていきます。

もちろん究極的に一台で済ませたい方にはα1がありますし、失敗の許されないシーンには明確な撮影目的に特化したモデルを2台導入するのがセオリーかもしれません。しかし自分のように写真/動画のハイブリッドで作品制作を行う方や、現場によって道具としてのカメラを複数使い分けるプロの方にとっても、シリーズの中から自分にとっての最適なαの組み合わせを考えるのもまた楽しいことですし、バランス重視型のα7Ⅳも現実的な選択肢のひとつとして充分候補に入ってくるのではないでしょうか。

VIDEO SALON2022年3月号より転載