AVCHDの28Mbpsをえるビットレートでハイビジョン撮影する効果は確かにある。そこでATOMOS(アトモス)のProRes(プロレズ)レコーダーNINJA STAR(ニンジャ・スター)を使い、手持ちのカメラでハイビットレート記録すると画質が改善されるのかをテストした。
テストのポイント
●カメラからのHDMI出力をアップルのProResコーデックで録画する機器が注目されたのにはいくつか理由があった。まず、プロレズ変換してから編集するくらいなら、最初からプロレズ圧縮を使ったクイックタイム形式で録画したほうが効率的だろうということ。そして色情報が10ビット、4:2:2と芳醇だったため、画像合成が必要な現場で「抜きやすい」と重宝されたことなど。
いろいろなメーカーから様々な製品が発売されてきたが、この分野では老舗のアトモスから価格も大きさも手頃な「NINJA STAR」が発売され(35,000円)、これなら業務だけでなくホームユースでも使えるのではないかとテストしてみた。ポイントは「ハイビットレート記録が、手持ちのビデオカメラにメリットをもたらすのか?」ということになる。
NINJA STARの特徴
ProResレコーダーNINJA STARの概要
●まずはNINJA STARについて説明しておこう。これはHDMI入力をProRes形式で録画する外部レコーダーで、3つの録画設定を選択できる。充分なビットレートで情報をしっかり残す設定だ。基本的にカメラから出力されるビデオ形式のまま録画するが、1080/60pには対応していない。面白いのは60iとして出力された24p映像を、不要なコマを捨てて24pとして記録できること。
使用するメディアは「CFast(シーファースト)」という新しい規格で、コンパクトフラッシュの高速記録版。登場したばかりで高価だが、exFATでフォーマットされ、長時間記録においてもファイル分割されることもない。
カメラ操作とは別にNINJA STAR側の録画操作を行えるので、ずっと録画しておけばバックアップ目的でも使用できる。128GBのカードを使って最高画質でテストしてみたが、約81分録画し続け、メディアがいっぱいになると自動で録画を停止し、ファイルを閉じてくれた。本体の放熱部分がかなり熱くなるが、今回のテストでは途中で止まることも、記録したファイルに異常もなかった。
対応するカメラと組み合わせれば、カメラのレックON/OFFに合わせて録画操作を同期させることもできる(*キヤノンEOS 5D Mark III、EOS C100、ソニーFS700、α7Sなど/対応機種修正しました。ソニーFS100、NX70、NX30、NX3では同期できません)。
接続するカメラにはHDMI出力端子が必要になるが、フル解像度で出力されることと、「スタンバイ」や「録画中」などのオンスクリーン情報を載せないで出力できることが最低条件となる。これらはカメラの設定によって可能になるものと、そもそも不可能なものがあるので、手持ちのカメラをテレビにつないで事前に確認しておく必要がある。
NINJA STARは従来のNINJAシリーズと異なり、液晶モニターを省略することで、小型・軽量化を果たしている。動作状況はランプの点灯パターンで確認する仕様。理解してしまえば悩むことなく使用できたが、日中屋外では視認性が落ちるので注意。
テスト結果
▲ソニーHVR-Z7J
●さて、NINJA STARがどんな製品か分かったところで、テスト結果報告といこう。テストに使ったカメラは業務用HDVカメラのソニーHVR-Z7Jと、家庭用AVCHDカメラのキヤノンHF G10の2機種。選定理由は、どちらも人気機種で、現在も使っているユーザーが多いだろうと予想したからだ。
まずZ7Jだが、これはHDV規格のカメラであるため、フルHDDでの記録ができない(1440×1080になる)。それに対し、フルHD(1920×1080)で記録できるNINJA STARを使うと確かな画質メリットを感じることができた。シーンを選ぶので驚くほど画質が向上するというものではないが、引きの画に不満を感じていたユーザーなら導入するメリットはあるだろう。
しかしそれ以上に、テープからファイル記録に移行したいと考えているなら、迷う要素は少ない。メモリーレコーディングユニットHVR-MRC1Kの販売も終了している上に、カメラ本体だけでは実現できない高画質化も果たせるので選択肢としては悪くない(液晶モニターが必要なら上位のNINJA BLADEがおすすめ)。
▲HVR-Z7J【HDV1440×1080/60i】クリックして拡大
▲Z7J+NINJA STAR【ProRes 422(HQ) 1920×1080/60i】クリックして拡大
▲HVR-Z7J【HDV1440×1080/60i】クリックして拡大
▲Z7J+NINJA STAR【ProRes 422(HQ) 1920×1080/60i】クリックして拡大
▲花の作例では花と葉の描写がキリッとしているのが分かる。木の作例では幹の再現性が高く立体感が出ている。葉っぱの描き分けも優位。
G10とではその差は微妙だが「水」の表現では優位に
▲キヤノンiVIS HF G10
●そしてHF G10はどうだったか。こちらはかなり微妙だ。動画から書き出した静止画では伝わりにくいが、作例のような水の流れの表現ではその自然さで一歩も二歩も上を行く。こういった映像では記録時のビットレートの違いがものを言う。しかしそれ以外では、その差はわずか。通常用途では10ビットや4:2:2記録は差が出にくいのだ。ネイチャー撮影派で、海や川の再現に不満を抱いているようなユーザーならメリットは高いだろう。
画質の話ではないが、HF G10ユーザーなら編集時の快適さは無視できないかもしれない。AVCHD素材の扱いは軽くなったとは言え、逆方向のスクラブ再生など、まだまだスムーズとは言えない部分がある。それがNINJA STARで記録したMOVファイルなら、スクラブ操作が楽しくなるほどコマの拾いが圧倒的に良くなる。PremiereやEDIUSでのAVCHD編集に不満を感じているなら、注目に値するだろう。
▲iVIS HF G10【AVCHD 1920×1080/60i】クリックして拡大
▲iVIS HF G10+NINJA STAR【ProRes 422(HQ) 1920×1080/60i】クリックして拡大
▲iVIS HF G10【AVCHD 1920×1080/60i】クリックして拡大
▲iVIS HF G10+NINJA STAR【ProRes 422(HQ) 1920×1080/60i】クリックして拡大
▲動画から静止画保存したものなので誌面では分かりにくいが、物質としての水はNINJAを使ったほうが再現できていた。
まとめ
●いずれの場合も、画質に関しては最新カメラを購入すれば解決する問題でもあるのだが、気に入っているカメラなら買い換えれば済むという話ではないはず。そんな拘り派で、少しでも長く今のカメラを使い続けたい人なら、導入する意味はある。