レポート◉坂口正臣 (SPO 坂口写真事務所 

広告写真やTV-CMから、プロモーション映像やドキュメンタリーなど幅広いジャンルで活動、 撮影だけではなく演出もこなす。YouTubeチャンネル SPO を運営、レンズやボディーの作例 や、その他機材レビュー動画も公開している。

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目次


■ SIGMA 28-105mm DG DN | Art の概要
■ レンズの詳細をみる
■ 使用感と画質
■ フォーカスブリージング
■ テレ端150mmの描写力
■ Lマウントアライアンス3社のカメラボディと組み合わせた時のバランス
■まとめ 

SIGMA 28-105mm F2.8 DG DN | Art の概要 

SIGMAのArtシリーズは、光学性能とビルドクオリティの高さに定評があり、SIGMAのフラッグシップと呼ぶに相応しい最高級ラインである。Artシリーズにはプライムレンズとズームレンズがあり、今回レビューするのは前回の28-45mm F1.8 DG DN | Art に続き、新たにラインナップに加わったArtラインズームレンズの最新作となる28-105mm F2.8 DG DN | Art である。

マウントはソニーEマウントとLマウントの2種類が準備されている。

このレンズは、広角から中望遠までをカバーする便利な大口径ズームレンズであり、その中でも特に使用頻度の高い中望遠105mmまで撮影可能としている。レンズ自体は数あるSIGAMレンズの中において、高画質と操作性を追求したSIGMA Artシリーズにラインナップされるので、いわゆるフラッグシップということである。28mmから105mmという画角は、風景やポートレートなど幅広いシーンで活躍することを想定したレンズであり、本レビューでは、ビルドクオリティー・性能・使用感を実際の撮影サンプルを交えて紹介していこうと思う。 


【開放F2.8通しで105mmまで撮影できるズームレンズ】
このレンズの特徴は大きく分けて2つ、28-105mmというズーム域であることと、絞りがF2.8通しであるということ。これだけで説明不要なほど魅力的なスペックである。28-45mm F1.8 DG DN | Art に続き、ズームレンズ新時代の到来を感じさせるスペックである。

105mmまでカバーするズームレンズと言えば、SIGMAはもちろん各社から発売されている24-105mm F4というスペックが真っ先に頭に浮かぶ。現在進行形で主力レンズとして使っているユーザーも多い人気のレンズである。

その便利なズームレンズが28mmスタートではあるがF2.8通しになったことは驚きである。最もポピュラーな標準ズームレンズ 24-70mm F2.8の場合、テレ端が70mmであり、ポートレートや商品撮影ではわずかに足りないので、単焦点レンズや望遠ズームレンズを追加で持っていく必要があった。高額な望遠ズームを所有していない場合や、機材を減らしたい場合に、少し妥協して70mmで撮影をすることも実際のところよくある話である。これらの事情を一本のレンズで解決できるのはユーザーにとって嬉しい。 

レンズの詳細を見る:デザインとビルドクオリティ 

【サイズ感】
実際の撮影において、まず気になるのは筐体の大きさと重さである。下記にサイズを記載する。

最大径87.8mm・長さ157.9mm・質量995g(Lマウント)

実際に手にした感じは、同社の 28-45mm F1.8 DG DN | Art に近い大きさと重さである。とはいえこのレンズは繰り出し式ズームを採用しているので、収納時と広角側使用時は比較的コンパクトである。しかし、レンズスペックを考慮するととても小さい。ビルドクオリティについては、前回の 28-45mm F1.8 DG DN | Art のレビューでも述べたが、SIGMAレンズの工作精度の高さを存分に感じる。

高強度なエンジニアプラスティックと金属を組み合わせているにも関わらず、ごくわずかなクリアランスで緻密。異素材の熱収縮を加味しながら、ここまで密に設計できるのは職人の高い技術力があってこそだと感じる。それもそのはず、SIGMAの製品は会津工場にて生産されている、数少ない生粋のMade in Japanレンズである。 

レンズ構成は13群18枚とリッチである。低分散ガラス2枚・特殊低分散ガラス1枚・非球面レンズ5枚を使用して効果的に色収差を抑えつつ、解像感のある優れた画質を実現している。広角から中望遠までをカバーする高倍率よりのレンズで、SIGMAのArtを冠するクオリティーを実現しているのは凄い。 

【オートフォーカス】
AFはHLA(High-response Linear Actuator)所謂リニアモーターを採用しているので、精度が高く高速なAFが可能、高速化し続けるカメラ側のAFに対応する性能を持っている。

【操作系と表面仕上げ】
スイッチ類は、SIGMA新型ズームレンズ(24-70mm F2.8 2型/28-45mmF1.8 DG DN | Art)と同様に、絞りリングが採用されている。絞りリングはクリックのオン・オフ切り替えが可能なので、動画撮影にも適している。 AFLボタンは角度違いで2箇所、縦横どちらの撮影でも自然に操作ができる場所に配置されている。その他これまでのSIGMA Artシリーズと同様、ズームロック・絞りリングロックが操作できる。

筐体をよくみると、表面仕上げもこれまでのArtシリーズと違う。Sportsシリーズと同様の梨地仕上げとなっていて、よりタフな印象を受ける。 

【レンズ構成】
13群18枚(FLD2枚、SLD1枚、非球面レンズ5枚)
絞り羽枚数 12枚
最小絞 F22
最短撮影距離 40cm
最大撮影倍率 1:3.1(焦点距離105mm時)
フィルターサイズ 82mm 

使用感と画質 

【使用感】
早速フィールドに出て撮影。このレンズの質量は995g(Lマウント)に抑えられている。スペックを考慮すればとても軽く仕上がっている。しかしながらハンドヘルドは少々きついのではないかと思っていたが、意外にも軽く感じた。重量バランスが良いのだろう。過剰にフロントヘビーになることもなく、ホールドしやすいので、ハンドヘルド撮影も楽しい。

特に写真撮影はストレスもなく余裕があった。フォーカスリングは節度ある粘り気があり、思った位置にピタッと決まる。この辺りの調整はさすがと言うべきか、絶妙である。ズームリングもスムーズな動きで繊細な操作ができる。レンズを最長にしてNDフィルターを取り付けた状態でも、筆者の感覚では重すぎる感じはしない。

【画質】
このレンズで撮影した素材を早速確認して、ファーストルックで感じたのは「解像感」である。とてもシャープで抜けの良さを感じた。良好なコントラストとリッチな発色でありながら、クリアな印象である。車のボディーの艶ややかさと、複雑なプレスラインのシャープさを見事に描写している。 

撮影データ:SIGMA fp L 1/50 f8mm ISO100 105mm 
撮影データ:SIGMA fp L 1/30 f8mm ISO100 105mm 


ランドスケープを撮影してみる。解像感を引き出すために絞り込んで撮影してみたが、ファーストルックで感じた印象通りの緻密な描写である。あえてコントラストが下がる逆光で、描写が難しいロケーションを選んで撮影してみたが、これもまた情報豊かに描写している。この表現力は頼もしい。

撮影データ:SIGMA fp L 1/200 f8mm ISO100 45mm 
撮影データ:SIGMA fp L 1/250 f5.6mm ISO100 28mm 


【レンズコーティング】
気になる逆光耐性も素晴らしいの一言。それもそのはずで、このレンズコーティングは、 通常のマルチレイヤーコートに加えて、一部の高級単焦点レンズなどに採用されている「ナノポーラスコーティング」が施されている。加工難易度が高くコストがかかる贅沢なコーティングにもかかわらず、惜しみなく採用され ているのが、トータル的な画質にも反映されている。同じナノポーラスコーティングを採用した広角ズームレンズ に同社の14-24mm F2.8 DG DN | Art がある。このレンズと組み合わせて使うのも良さそうだ。 

暗い場所で、スローシャッター撮影をしたが、葉や幹のディテールと滑らかな水面の分離は見事。黒つぶれしそうな部分もしっかり描写されている。 

撮影データ:SIGMA fp L 1/3 f8mm ISO200 40mm 
撮影データ:SIGMA fp L 1/15 f2.8mm ISO200 35mm 

フォーカスブリージング

フォーカスブリージング(フォーカス移動による画角変化)もしっかりと制御されている。フォーカス送りなど、演出としてのピント操作において、シネレンズのようにフォーカスブリージングの少ないこのレンズは、見る人の視線を自然に集中させる上質なショットを撮影することが可能である。そのことからも、このレンズが動画撮影もしっかり考慮して作られていることがわかる。この写真は50mm開放F2.8で撮影しているが、ボケがとても滑らかで美しい印象を受けた。

テレ端105mmの描写力  

撮影データ:LUMIX S5M2x ISO640 1/500 f2.8 105mm 

画質が気になるテレ端105mmも同じく解像感のある描写である、開放でも絞り込んでも合焦した部分はシャープな画質。コントラストの低い明け方(写真上)と快晴の日中(写真下)対照的な光の状態でも安定した描写力 を感じる。 

【105mmテレマクロ】
最短撮影距離は全域40cmまで寄れる。105mmで撮影すると、最大撮影倍率1:3.1のテレマクロとしても使えるのは素晴らしい。このレンズの守備範囲の広さが伝わる。 

Lマウントアライアンス3社のカメラボディと組み合わせた時のバランス 

ソニーEマウントとLマウントで発売されるこのレンズ、筆者は現在Lマウントユーザーである。

Lマウントは、アライアンスに参加したメーカーが共通のマウントを使用しているので、レンズとボディの様々な組み合わせが可能である。SIGMA・Panasonic・Leica・DJI に加え、新たにBlackmagic Designが加わったことで、さらに選択肢が広がった。

筆者の手持ち機材から3台のカメラにセットしてみた。購入前の参考になるように、サイズ感やバランスを見てもらえたらと思う。使用したボディーは、SIGMA fp ・LUMIX S5M2x・ Blackmagic Design BMCC6K の3台。全てケージに入れた状態でセットしてみた。 

SIGMA fp は、ボディーが極端にコンパクトなので、当然フロントヘビーになるが、このカメラはそもそもそういうもの。オプションのグリップやサイドハンドルなどを組み合わせると、しっかりホールドでき る。 
LUMIX S5M2x この組み合わせは、バランスがとても良いと感じる。S5M2xはミラーレスカメラで は一般的な大きさと形状なので、ソニーαに組み合わせた感じも同じような印象になると思われる。 
BMCC6K 3台の中では最も大柄なカメラであるが、レンズとのバランスがよい。マニュアルフォーカスが基本となるカメラなので、このバランスは良い印象である。3台のカメラに付けてみての印象としては「大きすぎない適度なサイズ感」といった感想である。 

まとめ 

動画と写真の両方で使った印象をまとめたいと思う。

このレンズは今後「SIGMAの標準ズームレンズと言えば28-105mm F2.8」と、ある意味ブランドを象徴するような製品になるだろうと思う。広角側こそ28mmと一般的な標準ズームより少しだけ画角が狭いが、その分コンパクトに仕上げられている。仮に24mmスタートにしたとすれば、1kgを大きく超える質量になり、三脚座が必要な大柄で重いレンズになると考えれば、最適解だと思う。

様々な条件でテストしたが、開放から全域で解像感のある描写であった。シンプルに高画質なレンズである。全域F2.8のレンズで広角から中望遠までをカバーしつつ高速なAFを実現し、操作系はスイッチの質感や音に至るまで絶妙なチューニングが施されている。最短撮影距離は全域で40cm、寄れるレンズである。

動画撮影においても、フォーカスブリージングが効果的に抑えられていてるので、フォーカス送りも違和感なく撮影できる。HLAの採用によりフォーカスモーターの音も気にすることなく、同録撮影が可能である。サイズと質量を抑えたことにより、ジンバルでも使える。「オールマイティー」という言葉が実によく似合う製品である。価格は実売で24万円台(2024年10月現在)で購入できる。決して安いわけではないが、似たスペックのレンズの価格を考慮すると、コストパフォーマンスに優れている。あれこれ迷うなら、このレンズを1本買えば間違いないと、自信をもっておすすめできるレンズである。