ソニーから発売されている誰でも手軽にモーションキャプチャーができる『mocopi』。VTuberやVRChat界隈ではその手軽さから多くのユーザーの支持を集めている。このmocopi、実はUnityやUnreal Engineなどのゲームエンジン、Mayaなどの3DCGソフトとも連携しており映像制作にも活用することができる。今回は、mocopiと無料のアニメ制作ソフト「ケヤキスタジオ」を駆使して、CGアニメ作品を精力的に制作している中央大学アナウンス研究会所属の小椋悠也さんを取材し、mocopiでのアニメ制作のワークフローや使ってみて実感した魅力について語ってもらった。
構成・文●永渕雄一郎 取材●編集部 萩原 協力●ソニーマーケティング株式会社
『中央大学アナウンス研究会』とは?
ー小椋さんの所属する中央大学アナウンス研究会とは、どんな活動をするサークルなんでしょうか?
小椋 中央大学アナウンス研究会は様々な活動を行う60名ほどが所属するサークルで、最も力を入れている活動としてはボイスドラマとVTRの制作になります。ボイスドラマとは、朗読劇の演技にさらに力を入れた声劇のようなもので、その延長線上で映像に声を当てたりといった創作活動も行なっております。
VTRに関しては、いわゆるテレビ番組やYouTube企画のような映像コンテンツを作って、アナウンス研究会のYouTubeアカウントにアップロードしています。アナウンス系の活動は専門家や放送部出身の方に指導をしてもらったり、YouTubeチャンネルでは本記事で紹介するアニメ作品など多岐に渡る映像もアップロードしています。
ー小椋さんがアナウンス研究会に入った経緯を教えてください。
小椋 元々、声や言葉を使うことが楽しかったのに加えて、小説も好きだったので、脚本を書いて皆に読んでもらえるといった部分に興味がありました。というのも、声優のようなことをやっている方が多いサークルだと感じていたので、ここなら自分で書いた脚本を皆が演じてくれるんじゃないかなと。なので、ディレクターがやりたくて入った形ですね。ただ、演じる側も気になってはいました。
ーそんな中、アニメ作りを始めたきっかけは何かあったんでしょうか?
小椋 声のみの演技で伝えきれる部分が限られると思ったのがひとつの理由です。僕の場合、推理やアクションが元々好きで、もちろん声劇でそういった表現も可能ではあるんですが、 そこに映像をつけることでトリックをより分かりやすくしたり、アクションシーンをダイナミックに見せられるなど、視覚的な表現を加えてみたかったんです。また、皆の声を映像にのせてみたいという想いもあり、アニメーションを作ろうと考えるようになりました。現在、最新作の『GiGGly Card|ギグリーカード』を含め4作品のCGアニメーションを制作しています。
mocopiとの出会いは「楽しそう」という軽い気持ちから始まった
ーアナウンス研究会のCGアニメーション作品では、ソニーのモバイルモーションキャプチャー『mocopi』を使用されていますが、mocopiを知った経緯を教えてください。
小椋 mocopiを知った経緯は、たしかYouTubeか何かで拝見してすごく楽しそうだなと思って、そこからの衝動買いだったと思います。まだ世間的にはほとんど知られていない頃に買ったので、「これ、面白そうじゃない?」と本当に軽い気持ちで使い始めました。特に、フルトラッキングのできるモーションキャプチャーは学生の僕にはなかなか手が出せない代物だったので、5万円で購入できるのはすごいことだと思って。
だから、「CGアニメを作るからmocopiを使おう」と順当に考えていったわけではなく、 mocopiが楽しそうだから使ってみて、触っていくうちに映像に組み合わせられるんじゃないかと思ったんですよね。それでできた映像に声を当てれば、もうCGアニメーションになるじゃないかと。実際に使ってみたところ、mocopiを身体に装着してiPadに専用アプリを入れるだけですぐに自分でも楽しめました。
CGアニメーション作品『GiGGly Card|ギグリーカード』のワークフロー
ーまずは、本作におけるキャラクターモデリングについて詳しく教えてください。
小椋 キャラクターモデリングについては、VRoidをベースに使わせていただいています。VRoidにはプリセットが多くあるので、髪の毛の色や目の形を変えたりしながら制作していきました。時間はかかりましたが、いろんな人とコミュニケーションを取りながら意見をもらったり、共同で活動できたので楽しみながら作れました。
ー背景はどのように制作しているんでしょうか?
小椋 Unityで使える背景データを配布している専門のサイトから無料のステージを引っ張ってきています。また、Skybox AIというボックスの内側に背景を生成するサービスがあるんですが、それで作った立体背景をUnity上に書き出すような形で、AIも併用して3D背景を作っています
ーモーションキャプチャーはどのタイミングで行うんでしょうか?
小椋 モーションキャプチャーのタイミングはまちまちです。VRoidでキャラクターモデリングをした後にmocopiを使って撮ることもあれば、映像制作の途中で「続きはこうかな?」という感じで作りながらモーションをつけるときもあります。というのも、全てが脚本通りにいくわけではないのでその都度シチュエーションに合わせて臨機応変に対応できるようにしていますね。
ーmocopiを使ったモーション撮影には何の機材を使用していますか?
小椋 モーション自体はiPadで撮影しています。どんな場所でもあらかじめモーションさえ撮っておけば、その場で自分が変な動きをする必要もなく、いつでも動きを再現できるというのが撮影者に優しいですよね。その後は、撮影したモーションデータをmocopiと連携できる『ケヤキスタジオ』というアプリに読み込ませるだけなので、簡単にモーションを作ることができます。mocopiをつけたまま作業して、動きの足りないところはまた動いて撮影して、ケヤキスタジオに入れて…といった繰り返しなので、モーションアクターに関しては全て自分がやっていました。本当にひとりでできてしまうので、この方法を知ったら皆mocopiを使うと思います(笑)
mocopiに足りない部分は、全てケヤキスタジオで補える
ー本作はmocopiを使う上での技術がふんだんに詰め込まれた作品だと感じました。どうすれば、ここまで使いこなせるんでしょうか?
小椋 僕の場合、最初にARから入ってそこから慣れたという経緯を辿ってはいるんですが、特別な勉強をしたわけでもなく触っていたらできてしまったという感覚が強かったですね。もちろん、mocopiの動きの癖みたいなものはあるんですが、そこも自分で修正していきながらやっていきました。
例えば、mocopiを使うとキャラクターの手が若干上がりにくかったりするんですが、そういうときはケヤキスタジオを使って手首を微調整したり、キャラクターの頭の角度がもう少し上を向いてほしいというときにも、ケヤキスタジオでボーンを微調整したりと、ケヤキスタジオと連携させることで補完しています。基本的にmocopiとケヤキスタジオを組み合わせれば何でもできると思っています。
また、本作がケヤキスタジオと提携していることもあり、足りないと感じた機能を開発者の方に伝えることで、機能を追加していただいたりもしました。
ーmocopiを使用する上で、何か使いづらい点はありましたか?
小椋 正直なところ、本当にないんですよね。5万円程度ではありえないほど十分な動きが再現できてしまうので。あえて言うとすれば、先ほども言ったように「手首の動きが硬いので、自然になるようにちょっと動きを加えたい」などの細かな部分をクリエイターは求めるので、そういった部分においてはケヤキスタジオなどの他ソフトと併用して使うことになるかなとは思います。ただ、併用すれば補完できてしまうのであまり弱点だとは思っていないですね。
ーケヤキスタジオで特に気に入っている機能はありますか?
小椋 個人的にケヤキスタジオで1番気に入っている機能はAR撮影機能です。UnityなどでCGアニメーションを作るとき、本来ならカメラワークをある程度決めてからプログラムを組む必要がありますが、この機能を使えば直感的な操作でカメラマンになれるのがとても気に入っていますね。また、限りなくキャラクターに寄って撮影できるのもケヤキスタジオの強みです。画面のリアルな揺れなどに関しても、キャラクターやステージを現実世界の背景に配置した上で、実際に手ブレさせたカメラワークでのAR撮影を行なっています。
ー声を吹き込む作業は一連の映像が全て完成した後に行うんでしょうか?
小椋 いえ、基本的には映像を作る前に声は全て録っちゃいますね。なので、その声に合うように映像を作っています。理想としては映像を作った後に声を当ててもらうのが夢なんですが、それはまだ難しいので。ただ、ギグリーカードに限っては未完成の映像を先に演者に見てもらうことで、「この空間ではもっと叫ぶべきだと思う」とか「こんなに近くにいるなら声を張らなくてもいいな」といった感覚を掴むための指標にしてもらいました。
ー動画編集には何のソフトを使用していますか?
小椋 サークル内では少数派なんですが、PowerDirectorという編集ソフトを使っています。PowerDirectorで撮影した各シーンを繋げ、楽曲やSEなどを外部サイトから借用し、編集して映像の完成となります。ちなみに、本作におけるOP・EDに使われている楽曲も僕が自作しています。
ーその他、制作した作品の中で特に思い出深い作品はありますか?
小椋 ひとつ挙げるなら『星屑のエデン』という舞台声劇作品ですね。星屑のエデンは舞台上で演技をして、スクリーンにmocopiで撮った映像を挿入するという手法を取っています。舞台なので全部で40名弱が参加しており、いろんな人を集結させて作り上げたので思い入れがありますね。mocopiを使った作品としては『星屑のエデン』が3作品目です。
この作品以前までは順当にARを使用していたんですが、星屑のエデン以降、ARで撮ってはいるものの背景はSkybox AIを使ってCGで囲んでいます。なので、現実世界の背景が見えないような状態にしてARで撮っているので、一見フルCGだけど実際にはARといった撮り方をしていました。それを経て、最新作の『ギグリーカード』ではCGをより多く使用しています。mocopiに関しては、現実世界の背景でもCG背景でも、どちらでもとてもいい感じに溶け込んでくれました。
mocopiを通じて生まれた新たなコミュニケーションや人との繋がり
ーmocopiの魅力について、改めて教えてください。
小椋 元々、本作は中学時代の妄想がスタートだったんですが、大学生になってこうして自分の手でアニメ化できるようになるとは思ってもいなかったので、mocopiを使うことでそれが実現できてとても嬉しかったです。先にも言いましたが、僕は推理やアクションが好きな人間なので、それをダイナミックに表現できる手法のひとつにmocopiが入ってきたことが自分の人生の中では本当に大きな転換点になりました。
もちろん、ひとりでアニメ作品を作れてしまう点や、室内で完結できる点、誰でも簡単に扱える点なども素晴らしいんですが、複数人での映像制作においても今後大きく期待できるツールだと感じています。少し前に『cluster』というバーチャル上のプラットフォームで本作の上映会をする機会があったんですが、その際に作品に登場するキャラクターに登壇してもらい舞台挨拶をしてもらったんですね。そのとき、「キャラクターとして舞台挨拶ができるんだ」「バーチャルの中でもこんなに楽しめるんだ」と、mocopiを通じて映像からバーチャルの世界に溶け込める架け橋になる映像作品を作れたと感じたんです。
また、サークルの新入生体験会などでも、「mocopiを使ってアニメーションを撮ろう」といった新たな体験を共有できたりと、mocopiを通じて新たなコミュニケーションや人との繋がりがどんどん生まれているので、先進的で使っていて本当に楽しいツールだなと思います。
ー小椋さんが今後チャレンジしたいことや、将来的な夢などはありますか?
小椋 今までは長編作品の制作が多かったので、短編作品も作りたいなと考えています。また、それこそ皆がmocopiを使って作れるようなハウツー動画なんかも、いろんな仲間たちと輪を広げながら作っていきたいですね。学生の作品としては全体的なクオリティもかなり頑張ったと思っているんですが、CGアニメ作品についてはアバター感をもう少し消していきたいです。VRoidらしさのあるアバターも可愛らしくて好きですが、フルスクラッチというかセルルックなキャラクター造形を意識して制作できればと考えています。
個人的な将来の夢としては、XR関連の技術者になりたいですね。もしくは、技術者でなくともXRに関連したビジネスを考えられたら楽しいなと。新しいコンテンツを通して人と繋がっていく体験自体が自分の中では大きな財産なので、そういうことを今後も続けていければいいなと思っています。
●mocopiの製品情報