レポート◉栁下隆之
レンズに直接触れることなく自由で繊細なフォーカスワークを可能にする、「Tamron Lens Utility-Mobile」が大幅に進化してリリース。
Ver4.0ダウンロード情報
https://play.google.com/store/apps/details?id=jp.co.tamron.lensutility.mobile&pli=1
一眼カメラを使った動画撮影が広く定着した背景には、そのボケを生かした映画のような表現が高く評価されたことで、それ以前から考えれば画期的な出来事でした。
普及当初は写真機のおまけ的な機能だったこともあり、撮影の技術的ハードルが高い印象がありましたが、ユーザーからのフィードバックとメーカーの開発努力で4K・8Kと解像度向上やスローモーション撮影機能などと並行して、操作性の改善や手ブレ補正の強化などで映像表現の可能性を大きく広げ今日に至ります。
その反面、大胆なボケを生かすためにはシビアなピント合わせが必須で、オートフォーカス(AF)性能の進化で以前よりは楽に撮影することができるようになりましたが、繊細なフォーカスワークが要求される撮影においては、AF任せで使えるという状況はまだまだ少ないように感じています。
演出的な意図を持って、フォーカスをどのタイミングでどこに合わせるか考えた時に、AFだけで撮るということは無理でしょう。また、ピントを合わせる速度ひとつとっても、「速い」か「ゆっくり」のそれだけで視聴者に与える印象が変わってくるということを理解すれば、現状のAFの挙動に限界があるということを理解していただけると思っています。
マニュアルフォーカス(MF)についてはどうでしょうか?
手動でフォーカスリングを操作するという技術的なハードルはありますが、ピーキングや画面拡大機能などで操作性が向上してきた印象があります。最近ではピントリングの回転角度や回転方向をカスタム可能な機種もあり、以前よりもMF操作のハードルは下がっています。しかしながら、カメラに触れて直接操作する必要があるため、操作時のブレやガクつきといった懸念は払拭できません。結果的に、シチュエーションごとに「AFの利便性」と「MFの自由度」を天秤に掛ける必要があるのが現状です。
筆者の場合はMFでの撮影が主となっています。監督から求められる演出に対して適切なフォーカスワークを行うために、AFを使える状況が少ないからです。
MFの補助として機械式やワイヤレスのフォローフォーカスを使うことが多いですが、レンズにギアを取り付け、それをフォローフォーカスで物理的にリングを回すので、マウントやガタやカメラリグの取付ネジの緩みで光軸ズレが発生する場合があります。対策としてロッドベースにレンズサポートを組み合わせるなど対策を取る必要がありますが、レンズサポートが干渉することでレンズ交換やズーム操作に手間取ることが多々あり、操作性と安定性は交換条件になってしまいます。
また、しっかりとレンズを固定していたと思っていたのに、撮影データを見返してみると、ガタ付きで画面がブレていたということもあったりと、完璧とは言えないのが難しいところです。
前置きが長くなりましたが、これまでの経験から筆者が注目しているのが、タムロンのレンズコントロールアプリケーション「Tamron Lens Utility-Mobile」(以下TLU-M)です。
スマートフォンにインストールしたアプリからレンズの各種設定(フォーカスリングの回転方向、回転角度、ファンクションボタンの割り当てなど)に加えて、フォーカスコントロールができるというもので、レンズに直接触れることなくMF操作ができてしまう画期的な製品です。タムロンの近年発売されたレンズにはマウント付近にUSB-Cの端子が備わっていて、そのUSB-C端子にスマートフォンを接続して前述の操作が可能になるというもので、駆動に必要な電源はカメラボデから、操作信号はUSB-Cポートからという大胆な発想に驚かされます。
現時点ではアンドロイドOSの端末に限定されてしまいますが、フォローフォーカスやカメラリグに大きな投資をするくらいなら、むしろこのためにアンドロイド端末を購入しても良いくらいでしょう。仮に高価なフォロフォーカスシステムを導入したとしても、このアプリほど細かくフォーカスコントロールすることはできないので、TLU-Mに軍配が上がるのは間違いありません。
現時点でリリースされているVer4.0で使える主な機能は以下の通り。
●A-Bフォーカス機能:実際にはA-B-Cの3つのフォーカスポイントを設定できて、各点間のフォーカス送り時間と合焦時の挙動(EASE)を設定できる。
●フォーカスストッパー:2点間でフォーカスの可動範囲を制限できる。フォーカス操作は手動だが、近接と無限側の2点の動きを制限することでフォーカスの送り過ぎを防げる
●アイリスコントロール:絞り無断階かつリニアに操作することで、今まで難しかった撮影しながら絞りを調整するなどの操作が簡単にできるようになります。
このように、窓外から室内へと大きく露出が変わる場合に、フォーカスは自動で送り、アイリスを手動で操作することでワンカットで撮影することができます。これにより従来AFレンズでは難しかった表現も簡単に実現可能です。
※しかしながら、Zマウント版のレンズではこの機能が使用できないようになっている。カメラとの通信になんらかの制限があるためらしく、ニコンのカメラも所有している筆者としては非常に残念に感じている。この先メーカー同士の取り組みで改善してくれることを強く望む。
●DFF操作のピンチ IN/OUT:デジタルフォロフォーカス(DFF)の操作画面で、フォーカスリングをピンチ IN/OUTすることで、回転角度を増減できます。これによりMFの操作感を無断階で調整できるようになります。
さて、ここまでで機能の理解が進んだと思いますが、タムロンが他社に先駆けてこの発想に辿り付いたことに感銘を受けました。本来AFレンズには高性能なフォーカスモーターが内蔵されていて瞬時に正確にピント合わせができる性能があります。それを直接操作できる方法がなかったために、カメラの背面液晶でタッチAFの操作したり、ピントリングを回してMF操作をしていました。
このアプリではそのフォーカスモーターを直接操作することで、リニアかつ繊細にフォーカス操作ができてしまうというわけです。また、後付したレンズギアが外れたりするトラブルとも無縁で、確実に繰り返し操作できる点においても、従来にはない画期的な製品と言えます。
これらの機能の中で筆者が特に気に入ったのが、A-Bフォーカス機能をスライダーと組み合わせるカメラワークです。
スライダーでカメラワークする際には、前後にフォーカスを送って奥行き感を演出したい時に、手前から奥へのフォーカスワークとスライダーの操作をワンマンオペレーションするのはかなりハードルが高くなります。横に動くカメラに手を添えてピントリングを回す、それをスライダー操作と同時にやるのだから尚更です。これをビデオ雲台に取り付けたアームにスマホを保持すれば、フォーカスはスマホの画面をタップする操作だけで、任意に設定した時間でフォーカスを送れます。
コツとしてはフォーカス操作はなしで一度スライダのカメラワークを決めてしまいます。この時にアバウトに秒数を数えておいて、TLU-MのA-Bフォーカスの設定する時にフォーカス移動時間にこれを設定します。これでもう一度スライダーのワークをしながらBをタップしてA(手前)からB(奥)へのフォーカスを送りながらスライダーの動きとのバランスを見ます。修正が必要であれば、フォーカス移動時間を微調整してスライダーワークとのバランスを合わせれば、MFでピント合わせに苦労しながら操作の必要はなく、正確無比なフォーカスワークでスライダー操作に集中できるというわけです。
スライダーは定番のLibec ALX-S4に同社のビデオ雲台NH-10を組み合わせました。雲台にアームを取り付けてスマホをカメラ脇に装着します。タムロン純正USB-Cケーブルは1.5mですが、社外品の3mのケーブルでも動作が確認できましたので、モニターレコーダー等と組み合わせて2名で操作する方法も良いと思います。
この組み合わせで9月に公開されたTLU-Mを使った作例動画の撮影を担当させていただきました。以下のリンクからBTSを含めて、作例と実際の撮影の様子を解説していますので参考にしていたければと思います。
●「一眼カメラでショートムービーを撮る・レンズのボケを活かしたフォーカスワークでシネマチックな表現」をしよう!
前編:「構成・演出・フォーカスワーク」について
https://www.tamron.com/jp/consumer/sp/impression/detail/article-cinematic-short-movie-part1.html
●「一眼カメラでショートムービーを撮る・レンズのボケを活かしたフォーカスワークでシネマチックな表現」をしよう!
後編:「フォーカスワーク」について
https://www.tamron.com/jp/consumer/sp/impression/detail/article-cinematic-short-movie-part2.html
筆者が実際に使ってみた感想としては、これまでに得られなかった軽快さで撮影できたことで、 「一眼動画に新しい波が来た」という印象が強く受けました。
●関連情報
この撮影に使ったセットアップをInter BEE2024の会場で触っていただけることになった。11月13日〜15日 幕張メッセ ホール5 小間番号5407 平和精機(Libec)ブースで、ぜひ直接触れて機能を実感してほしい。