レポート●宏哉

⚫︎第1弾
Deity Microphonesのワイヤレス・タイムコードジェネレーター TC-1と
ステレオポケットレコーダー PR-2を現場で使ってみる

https://videosalon.jp/report/deity1/


THEOS(テオス)「はラベリアマイクで使用するデジタルワイヤレスマイクロフォンステムだ。2波受信可能な“D2RX”が1式と、送信機の“DBTX”が2式とがセットとなっている。

このモデルはInter BEE 2023で展示され、すでに世界では販売が開始されていたが、日本においては電波法令で定めている技術基準に適合し最適化されたB帯(806.125~809.750MHz)専用モデルとしてシステムファイブより発売が開始される。またA帯/B帯を切り替えて使用できるA/B帯対応モデルも今後発売が予定されているという。

ラインナップは以下のとおり

THEOS デジタルワイヤレス(B帯)2ch送受信機セット DBTX ×2式 + D2RX 希望小売価格:179,850円(税込)

THEOSデジタルワイヤレス(B帯)1ch送受信機セット DXTX + D2RX 希望小売価格:116,930円(税込)

THEOS デジタルワイヤレス(B帯)2ch対応受信機 D2RX 希望小売価格:51,040円(税込)

THEOS デジタルワイヤレス(B帯)ボディパック送信機 DBTX 希望小売価格:67,980円(税込)

かなり多機能な製品になっているため、特徴的な機能をいくつか紹介したい。

THEOSとPanasonic GH6


マルチバンド対応

THEOS最大の特徴は、マルチバンド対応であること。ワイヤレスマイクで使われる電波の周波数帯はいくつかあり、また国によっても使用できる周波数帯や免許の有無などが変わってくる。THEOSでは 2.4GHz帯の他に 550~960 MHzの範囲で使用周波数を設定でき、使用する国によって周波数を変更できる。(THEOSは2.4GHz帯はアプリとの接続でのみ使用されるため、音声通信では地域に合わせたUHF帯域550-960MHzの周波数を使用する)

当然その国の法律によって許可されている周波数帯を使う必要があるのだが、その設定は簡単。TC-1 の際にも紹介したスマホアプリの Sidus Audio を使うことで、スマホの GPS測定機能で使用する国・地域を特定。あとはアプリの確認画面に従って進めていくことで、その国で使用できる周波数や電波出力に固定される。つまり日本だと、B帯の800MHz帯の出力 10mW に設定される。

Canon XF605にTHEOSとTC-1を設置
TC-1とTHEOSの送受信機が登録されている
THEOSでの国別周波数帯の設定(現在日本国内で選択できる周波数は806.2-809.7)


日本国内だけでの使用だと、マルチバンド対応はあまり恩恵を受けないかもしれないが、筆者のように海外ロケが多い場合は、ありがたい機能だ。従来であれば、現地でワイヤレスマイクをレンタルしたり、2.4GHz帯使用のマイクを使用するなどしていたのだが、THEOSであれば、国内外問わず利用できるからだ。

なお、周波数によって必要なアンテナの長さは変化するため、アプリでの設定以外に物理的に適切な長さのアンテナを取り付ける必要がある。InterBEE 2023 の展示会場では、アンテナ長ガイドをもとに自分でアンテナを切断して適切な長さを作るよう案内されていた。今回の日本販売にあたっては、アンテナは予め日本国内向け(B帯)の長さに調整されたアンテナが付属する。

チャンネルスキャン

使用チャンネルの設定はマニュアルでの設定のほか、使用空間での他の無線電波の有無をスキャンし、そこから良好な空き周波数を選択できる SPARE 機能などがある。

送信機の“DBTX”と受信機の“D2RX”は Bluetoothによりペアリングされているため、受信機側でチャンネル設定をするだけで、2台の送信機のチャンネル設定も完了する。

スキャンモードでは使用周波数帯の電波の混み具合を確認できる


録音機能

送信機の“DBTX”には録音機能が搭載されており、音声を送信機本体で収録可能だ。距離が離れすぎてしまったり、電波干渉などで電波が途切れるような事があっても送信機で録音しておくことで、差し替え編集などに対応できる。録音は microSDカードにされる。

録音のサンプリング周波数は 48kHzで、収録ビットは 24bit/32bit Float が選択できる。

録音は送信機本体を手動操作をするほか、電源をオンにすると自動的に録音が始めるモードなどが搭載されている。またアプリの Sidus Audioからも操作可能だ。

アプリ Sidus Audioから送信機“DBTX”を制御できる


THEOSのRECモードは計3種類あり、電源を入れた際にREC開始されるALWAYSモード、アプリでTC同期を行なった際にRECされるSYNC RECモード、送信機本体手動またはアプリから収録開始可能なMANUALモードが用意されている(デフォルトはMANUAL)。

受信機“D2RX”から、送信機2台分の電波状況や録画状態などを確認できる


タイムコード同期

もしかすると、THEOS最大の特徴はタイムコードの同期機能かもしれない。録音機能が搭載されたことで、THOES“DBTX”には独立した音声ファイルが生成されることになるが、映像編集で利用する場合は、映像ファイルと“DBTX”で個別に生成された音声ファイルの同期が必要になる。もちろんタイムコードがなくても、今のノンリニア編集ソフトなら音声波形を基準にして同期をとることも可能だが、タイムコードを使って確実に同期させられる安心感は大きい。

タイムコードの同期には、外部機器(カメラなど)から送信機にアナログでタイムコードを入力(JAM)させるほか、先ほど紹介した TC-1 を使った同期方法がある。TC-1 を使えば、複数の録画・録音機材を使った現場でも全カメラ・レコーダー・THEOSなどのタイムコードが同期した状態を作り出せる。

ここでも一点残念だと思うことは、受信機の“D2RX”にはタイムコードの機能が搭載されていないことだ。D2RX はカメラやミキサーレコーダなどと一緒に運用することになると思うが、その際カメラやレコーダーには別途 TC-1 を用意する必要がある。ミラーレス一眼カメラならカメラに D2RX と TC-1 の両方が乗っかる状態になり、設置や結線が煩雑になる。D2RX に TC同期/出力の機能があれば、よりスマートな同期環境を作れただろうと思ってしまう。

その他、ラベリアマイクはかなり小型のマイクロフォンカプセルを使用しており、SONYで例えるならば、ECM-77 よりも ECM-88 に近いサイズ感だ。音質もクリアで業務でも問題なく使えそうだ。

左:THEOS付属マイク/右:SONY ECM-77


不安点は、その小ささ。検証した時点では、付属するスポンジ風防は、そのヘッドに被せるだけであり、特にストッパーとなる機構もないため簡単に抜けてしまう懸念があった。またマイククリップはマイクヘッドではなくケーブルに取り付けるタイプのため、ケーブル被膜などの耐久性がやや心配だった。しかし、ユーザーからのご指摘を受け、現在はヘッドから抜けにくいようにストッパーの役割を果たすスポンジ風防となっているという。

THEOSは大変に魅力的なワイヤレスマイクシステムだ。送信機、受信機とも筐体はアルミでできており、強度とともに製品の品位の高さも感じられる。アンテナが脱着式なのもアンテナ破損時の交換などが容易になったり、受信機に高感度アンテナを取り付けたりできるメリットもある。またバッテリには単3電池を利用し、送信機で12時間以上、受信機で8時間以上の稼働時間となっている。USB Type-Cで外部給電にも対応する。さらに専用の収納用ハードケースも付属となっている。

操作ボタンはフタの中に隠されている
THEOSには立派なハードケースも付属する


まとめ

DEITYから TC-1が登場したとき「どうしてオーディオ機器メーカーがタイムコードジェネレータを出すのだろう?」と疑問に思ったのだが、今回 THEOS や PR-2 を試用することで DEITY の思い描くエコシステムが明確になった。

制作物のクオリティを上げるために様々な収録機材を投入。結果、収録素材が増えて、しかし同期を取るのが面倒……となっては本末転倒である。

タイムコード同期は素材管理や編集工程の事まで考えて搭載されたソリューションであり、THEOS や PR-2 の先鋭的な機能をスマートに遺憾なく活用することが適う。

また、アプリ Sidus Audio ひとつで様々な DEITY製品を制御・設定できるのも大変に便利に感じた。

タイムコードと Sidus Audio を機軸にした DEITYの今後の製品も楽しみである。