取材・文●takumifone

デヴィッド・リンチ監督作の『ストレイト・ストーリー』が4Kリマスターになって上映されます。リンチ監督作の中でも「異色」と呼ばれるこの作品。とは言っても内容は「時速8kmのトラクターにまたがった老人が、500km先の兄に会いに行く」というシンプルなロードムービー。製作、脚本、編集はメアリー・スウィーニー氏。『ブルーベルベット』、『ワイルド・アット・ハート』、『ツイン・ピークス』、『マルホランド・ドライブ』など、デヴィッド・リンチ監督作の編集を手がけられてきました。今回は、メアリー・スウィーニー氏にこの作品の制作当時のお話や映画編集という仕事について伺いました。



© 1999 – STUDIOCANAL / PICTURE FACTORY – Tous Droits Réservés

製作・脚本・編集:メアリー・スウィーニー

デヴィッド・リンチの公私にわたるパートナーとして多くのリンチ作品を支えていた。映画では『ブルーベルベット』(86)『ワイルド・アット・ハート』(90)『ツイン・ピークス ローラ・パーマー最期の7日間』(92)『ロスト・ハイウェイ』(96)『マルホランド・ドライブ』(01)に編集として、『ロスト・ハイウェイ』『マルホランド・ドライブ』『インランド・エンパイア』(06)はプロデューサーとして作品を手掛けた。また、TVシリーズでは「ツイン・ピークス」(91)「オン・ジ・エア」(92)、「ホテル・ルーム」(93)の編集をしている。

本作で初めてジョン・ローチとともに脚本を執筆し、製作、編集も兼ねている。



4年越しの想いが、一本の静かな旅路に

――まず、『ストレイト・ストーリー』という作品についての想いを教えてください?

この映画をとても愛しています。デヴィッド・リンチの他の作品とは多くの点で異なりますが、『エレファント・マン』や『ツイン・ピークス』に見られる小さな町の風変わりな要素や感情的な力強さ、そしてユーモアなど、デヴィッドの作品らしさが一貫して表れています。原作の映画化権利取得に4年かかりましたが、その後はすべてが迅速に進みました。共同脚本家のジョン・ローチと一緒にアイオワ州のアルヴィン(主人公のモデルの人物)の子供たちに会い、彼についての話を聞き、実際のルートをドライブしました。1998年4月から6月にかけて脚本を執筆し、6月にデヴィッドに渡したところ、彼は感動的な反応を示し、映画化を決意しました。そして8月には撮影を開始し、すべての過程が楽しかったですね。


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――この映画の脚本製作のために地元の人々にインタビューをされたんですか?

映画化の権利を取得した時点で、実在のアルヴィン・ストレイトはすでに亡くなっていました。それでアイオワ州に行き、彼の7人の子供たち全員にインタビューしました。彼らは皆成人しており、それぞれ家族を持っていました。一日を彼らと過ごし、父親についての多くの話を聞きました。最年長の人の話と最年少の人の話が非常に異なっていましたよ。すべての人の話を聞き、例えば彼が馬のディーラーだったことなどを学びました。これは農村地域の初期の時代において、やや詐欺師的な仕事で、馬を装飾し、実際よりも健康で強く若く見せかけて売るというものでしたね。



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恋に落ちた、編集という仕事

――そもそもなぜ映画編集を始めたのですか?

ウィスコンシン州の大学を卒業後、ニューヨークで2年間働き、その後パリで1年間過ごしました。パリではクリスチャン・メッツのもとで映画記号学を学び、非常に理論的な内容に魅了されました。その後、ニューヨーク大学大学院の映画学科に入学し、映画研究の学術的な側面を学びました。そこで初心者向けの映画制作クラスを受講した際に編集と出会いました。編集については全く知りませんでしたが、すぐに恋に落ちましたね。パズルを解くような感覚と想像的な側面が結びついたんです。編集では素材と向き合い、直感に従う必要があり、それが私にぴったりでした。ニューヨークで編集を始め、ウォーレン・ベイティの『レッズ』、ジョージ・ロイ・ヒルの『リトル・ドラマー・ガール』、そして『プレイス・イン・ザ・ハート』など、多くのスタジオ映画に携わりました。

――映画編集が最も好きですか?

はい、映画編集に出会ったとき、20代半ばだったと思いますが、自分が全く知らなかった分野で、完璧に自分に適していると感じられるものを見つけたことに驚きました。編集の職業は非常に階層化されており、組合化された職種です。最初は見習い、次にアシスタント、そしてアソシエイトと、7〜8年間は実際の編集ではなく、基礎から学ぶ期間でした。ニューヨークで多くを学び、1983年にベイエリアに移りました。そして幸運にも『ブルーベルベット』でデュウェイン・ダンハムのアシスタントエディターとして雇われました。その後20年間、デヴィッド・リンチの作品のみを手がけました。実際にエディターとして働き始めたのは、『ツイン・ピークス』の第1シーズンで3人のメインエディターのスイングエディターとして雇われたときでした。


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巨匠、デヴィッド・リンチとの出会い

――デヴィッド・リンチ監督とは『ブルーベルベット』で出会ったんですね。

はい。『ブルーベルベット』でアシスタントエディターとしてデヴィッドと出会いました。カリフォルニア州バークレーのポストプロダクション施設でです。『ブルーベルベット』の後、デヴィッドはロサンゼルスに移り、私はワシントンD.C.に移りました。その後、『ワイルド・アット・ハート』でドゥエインのアシスタントエディターとして再びロサンゼルスに戻りました。『ワイルド・アット・ハート』と同時期に『ツイン・ピークス』も制作されていたため、『ワイルド・アット・ハート』が終了した後、『ツイン・ピークス』のスイングエディターとして雇われました。これはアシスタントからエディターへの完璧な移行でしたね。テレビのスピードで作業していたので、3人のエディターが基本的なシーンや2人の対話シーンなどを私に任せてくれました。シーズン2のエピソード7まで多くの編集作業を行い、このエピソードでローラ・パーマーの殺人犯が明らかになります。デュウェインが『ツイン・ピークス』で監督を始めたため、デヴィッドのエピソード7を編集できなくなり、デヴィッドが私に編集の依頼をしました。これが私が編集した最初期の作品でした。


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デヴィッド・リンチ作品における編集

――デヴィッド・リンチ監督作品の編集における特定の方法はありますか?

彼の撮影方法がテンポを確立するんです。常に1000フィートのフィルムリール、つまり10分間のマスターショットを撮影し、複数のマスターを撮影していました。マスターは非常にゆっくりとした動きで、彼の多くの映画に見られるテンポを確立しました。もちろん『マルホランド・ドライブ』の車の衝突シーンなど、異なるテンポのシーンもありますが、全体的には緩やかなものでした。彼の撮影方法からそれを理解し、そのペースで作業しました。彼は私、撮影監督、俳優、誰ともあまり議論しませんでした。メッセージを説明したり、どのようにやってほしいかを伝えたりすることはありませんでしたね。特に俳優に対しては、感情やムードを呼び起こすような非常に抽象的な言葉で話しました。彼は詩的で、個性的な言葉の使い方をする人でした。


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――『ストレイト・ストーリー』はAvidで編集をされたとのことですが、Avidと、フラットベットを始めとするフィルム編集の違いはありますか?‎

大きな違いがあります。すでに当時はコマーシャル作品をAvidで作業していたため、ソフトウェアの使用には準備ができていました。コンピュータにも慣れていましたしね。またAvidを設計していた人々は、フィルム編集者が理解できるように作っていました。フォルダの代わりにビンを使うなど、フィルムからAvidへの移行を支援してくれていたんです。フィルム編集について懐かしく思うことは多くあります。フィルムに触れた時の質感などです。しかし、このAvidの存在は、例えばデイリーを編集する際は、肩の荷を大きく下ろしてくれました。時間の短縮だけでなく、初めてシーンをまとめる際の複雑さが軽減されましたから。もうひとつ、Avidで気に入ったのは、編集中にすべてのオプティカルを実際に作成できることでした。デヴィッドの美しい映像を使って、信じられないほど美しいトランジションや夢のようなビジュアルを作成でき、これが私の編集スタイルの一部となりました。


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――ありがとうございます。最後に、このインタビューを読んでいる若い映像制作者へのメッセージをぜひお願いします‎。

感覚的知性と自然な知性を大切にし、人生や友情、好奇心を、デバイスだけを通じて経験しないようにしてくださいね。


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『ストレイト・ストーリー 4Kリマスター版』

1月9日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町他 全国ロードショー

配給::鈴正、weber CINEMA CLUB

監督:デヴィッド・リンチ 製作:アラン・サルド メアリー・スウィーニー ニール・エデルスタイン 製作総指揮:マイケル・ポレア ピエール・エデルマン 脚本:ジョン・ローチ メアリー・スウィーニー 撮影:フレディ・フランシス 美術:ジャック・フィスク 編集:メアリー・スウィーニー 衣裳:パトリシア・ノリス 音楽:アンジェロ・バタラメンティ

出演:リチャード・ファーンズワース、シシー・スペイセク、ハリー・ディーン・スタントン

(1999年/アメリカ/111分/スコープサイズ/カラー/DCP/原題:The Straight Story/G)

公式HP:straightstory.jp

公式X:https://x.com/weber_cinema

公式インスタグラム:@weber_cinema_club