レポート◉湯越慶太(OND°)

TILTAのNUCLEUSといえば、ワイヤレスフォローフォーカスという、シネマアクセサリーの中でもARRIやC-forceなど本当のプロ向け機材しかないような「高嶺の花」だったジャンルに低価格で参入し、WEBムービーや低価格のドラマ撮影でも使えるようになったことでこのジャンルの普及と低価格化に大きく貢献したシリーズでした。
今回、その最新版であるNUCLEUS-MIIをお借りしてテストすることができたので、レポートさせていただきたいと思います。ただし、発売前のテスト機であるため、製品版において記事内容と若干変わっている可能性があることをあらかじめお伝えさせていただきます。

今回お借りしたのは、ハンドユニット、ハンドグリップx2、モーターx2の構成に各種アクセサリーが付属した「オールインワンセット」で、堅牢なケースに全て収納できるようになっています。バッテリーは付属しないため別途用意する必要があります。またモーターは2つ付属していますが、FIZ(Focus、Iris、Zoomの3チャンネル)で運用するならモーターをもう一つ別途購入する必要があります。

基本的なデザインの印象は初代のNUCLEUS-Mを引き継いでいますが、初代がブラウンの強い木目調のカラーリングだったのに対してよりダークでメタリックな印象になっています。フォーカスノブ、ズームレバー、アイリススライダーの3つの操作に加えて下部に小さなノブダイヤルがあり、これも使って4チャンネルでの操作を実現しているのが大きな特徴。TILTAのマットボックスMirageのバリアブルNDのモーターを組み合わせれば、露出を変えることなく絞りを開けるような、より自由度の高い表現も可能になるようです。

また、フォーカスノブを取り外して左右どちらにも取り付け可能になるのが大きなトピック。右利き左利きへの対応という意味だけでなく、フォーカスとズーム、フォーカスとアイリスをメインに操作するような、状況の変化にも柔軟に対応できるシステムになっていると感じました。取り外しのロックも非常に堅牢でがたつきはなく安心感があります。ノブは調整ダイヤルで回転の重さを調整することができます。


また、電子式のマーキングディスクというのも非常に斬新な試みと感じました。指標の倍率を変えることでより繊細な操作にも対応することができるのは既存のマーキングディスクにペンで書き込むスタイルとは一線を画しています。液晶の回転方向がノブの回転方向と逆になっている(ノブを手前に回転させると、液晶は奥に向かって動く)のと、液晶の表示範囲が狭く、一目で全体を見渡せる既存のマーキングディスクに比べて視界に入れておける範囲が狭いのが残念といえば残念。もちろんレガシーなプラ製マーキングディスクも用意されています。

自分がお借りした個体ではフォーカスノブは初期状態だとインフと至近が近接しているせいかたまに誤作動(インフに回しきった所を至近と認識してしまい、ギアが暴れる)が発生しました。これはメニューからノブのキャリブレーションを行うことで簡単に修正することができるので、最初に使用するときはノブのキャリブレーションは必ず行うべきだと思います。
正面には明るく見やすい液晶モニターがあり、初代から大きな進歩を感じる部分です。タッチ機能もあるためメニューの操作をより直感的に行うことができます。
最大128本のレンズデータを保存することができるのが非常に面白い部分で、フォーカス、アイリス、ズームを設定して保存することで、ハンドグリップ単体でレンズの状態を把握することが可能となっています。
レンズのマッピングを手動で行なってみましたが、最初はやや戸惑うものの、慣れれば結構スムーズに作業できる印象。そりゃあプラのマーキングディスクにマジックで書き込む方が早いといえばそうなのですが、フォーカス、アイリス、ズームといった基本の項目を一元管理できるシステムはなかなか便利だと感じます。マッピングしたレンズデータは名前をつけて保存することができるのですが、レンズ登録の際に焦点距離の項目が単焦点しか対応していない(単一の焦点距離しか登録できない)のはちょっと残念なポイントで、ズームレンズにも対応した設定になればいいと思いました。
完全電子式でのレンズマッピングの精度については、正直「かなり高い」と言って良いと感じました。マッピングデータを作成したのちに再起動、再キャリブレーションを行なったところ、レンズの基線の太さ程度の誤差が発生する場合がありましたが、かなり優秀と言えるのではないかと思います(それでも不満ならより高価なフォローフォーカスをお勧めします)。

バッテリーは今回からNP-F550に変更されました。大元のソニー製は生産終了して久しいのですが、豊富に互換バッテリーがあるので現場での取り回しが良くなって好印象です。TILTA でも今後この製品用のバッテリーを開発する予定だそうです。
メイン液晶の他に、グリップの前後に小さな液晶があり、常にレンズの状態をモニターすることができます。RECボタンは電源ボタンを兼ねています。Bluetoothでカメラと接続することができ、自分の環境でブラックマジックデザインのURSA Mini Pro G2に接続したところハンドユニットからRECのコントロール、シャッタースピードの制御など基本的な操作を行うことができました。底面にバッテリー収納、上面には各種コネクタ、側面はノブを取り付けない場合、モニターブラケットを取り付けることができ、モニタリングしながらのフォーカスにも対応しています。
全体デザインを俯瞰してみて感じたのは、はるかに高価なARRI Hi-5や近い価格帯のDJIのFocusProと比較しても相当にコンパクトだなと。反面あまりに機能を詰め込みすぎたことで本体にネジ穴などのアクセスポイントがないため、モニターブラケットやベビーピンアダプターをうまく活用することが求められます。


ワンマンオペレーションに用意されたハンドグリップは左右両利きに対応できる、全く同じ構成で反転したグリップがふたつ用意されています。こちらもバッテリーはNP-F550対応。人差し指のノブと親指のレバーがあり、それぞれ初期状態ではノブはフォーカス、親指レバーはズームに対応しています。また親指レバーはパーツごと取り外すことが可能で、左右好きな方のハンドグリップに取り付けることができます。
側面には小さな液晶があり、設定などはここで確認することができます。液晶下部にボタンが2つありますが、ボタン2つでメニューを探索するのがやや面倒。スペースはあるのでもう一個ボタンが欲しかったところです。上面には電源を兼ねたRECボタン、ケーブルのコネクタ、USB-Cの端子、およびARRI 3/8インチネジ穴に対応したネジ穴が用意されており、付属のロゼッタアダプタでカメラに直接、あるいはブルーモジュラー等ショルダーハンドグリップなどに取り付けることができます。

グリップはシンプルな直線のフォルムながら、ラバーの質感もよく握り心地は非常に良いと感じます。
フォーカスのノブは硬すぎず軽すぎずでスムーズにフォーカスをコントロールすることができます。ちなみにダメ元でハンドグリップのUSB端子からカメラに給電できないか試してみましたが、筆者所有のブラックマジックデザインのBlackmagi Cinema Camera 6KおよびキヤノンEOS R5 Mark IIでは対応していないようでした(現状でのメーカー仕様とのことです)。
なおこちらのノブも初期状態ではインフと至近がジャムることがありました。キャリブレーションは必須だと思います。

初代から軽量化、小型化を果たし、また0.02秒の高速レスポンスを実現したとのこと。本体は非常に薄くて軽量ながら、LEDモニターがあるのでトルクなどの設定にも簡単にアクセスすることができます。モーターキャリブレーションはコントローラー経由、もしくは一度ケーブルを抜き差しするか、モーターの下矢印キーを長押しすることで可能とのことです。モーターの精度、レスポンスともに必要十分な水準を確保できていると感じます。遠方から至近に一気に持ってくるようなワークではややモーターのスピードに不満を感じることがありました。

電源ケーブルは上下に端子が用意されており、デイジーチェーン接続が可能。電源はD-tapの他、ハンドグリップやハンドユニットとケーブル接続することで直接電源供給することもできます。この場合モーターのコントロールも有線で行なっているようです。またキットには7pin to 7pinかD-tapのケーブルしか付属しておりませんが、RS 3pin等カメラから直接電源供給可能なケーブルもオプションで欲しいところです。
シネマトグラファー湯越慶太から見たNUCLEUS-MIIの評価
評価項目 | 評価 | コメント |
信頼性 | ★★★★☆ | 全体として旧世代機より安定した動作がみられた。 |
操作性 | ★★★★☆ | 電子式UIは便利だが慣れが必要。使いこなすと自由度が増す。 |
拡張性 | ★★★☆☆ | モニターブラケットなどアクセスポイントに工夫が必要。 |
コストパフォーマンス | ★★★★★ | 安価でありながら、ハイエンド機と比べても遜色ない。 |
2種類のセットアップ
今回、キットの特性を活かして大型のスタジオセッティングと小規模なワンマンセッティングの2種類の構成をテストしてみました。

Blackmagic URSA Mini Pro G2にARRI Alura Lightwaight 30-80mmを装着した、フォーカスプラーが使用する現場を想定したセッティングです。モーターはフォーカスとズームの2モーターでセットアップしています。電源はD-tapでカメラ本体バッテリーから取り、2基のモーターをデイジーチェーンで接続しています。

ロッドは19mmを使用しているのですが、モーターが小型だったことでロッドクランプは通常の装着形態ではレンズにギアが届かず、底面に装着するスタイルになっています。

また、レンズの登録を行なった後で適当な位置(写真ではピンクのクサビを打っています)を指定し、電子マーキングディスクでマーキングしてみましたが、再起動してもほぼ同じ位置に復帰させることができました。また、Bluetoothでカメラと接続することで、RECをはじめシャッタースピードやISO感度、ホワイトバランスなど基本的な設定をフォーカスユニット経由で操作することができます。総じて信頼性の高い挙動でセットアップにも難しいところはなく、安心して使うことができた印象です。ただしレンズの登録には多少の慣れが必要だと思いました。



続いて、別の日に実際にテスト撮影でワンマンオペレーションする機会があり、ミラーレス一眼のキヤノンEOS R5 Mark IIを使ったセットアップを試してみました。
リグにARRIロゼッタを追加してハンドグリップを取り付けられるようにし、モーターとハンドグリップを直接ケーブルで接続してモーターを駆動しています。レンズはスチルレンズに追加ギアをつけたものですが問題なく駆動することができ、キャリブレーションも問題なく使えました。ハンドグリップからメニューを経由してBluetoothにアクセスする手段がわからず、カメラとの接続は断念。REC等はカメラで直接行なっています。
重心も悪くなく、持ち心地も良かったのですが、実は本番直前にモーターのキャリブレーションとハンドグリップの接続がまったく動作しなくなるトラブルが発生しました。これはTILTA製品に限ったことではなく、ワイヤレスの機器が現場で不機嫌になってしまうというのは稀によくあるため、この製品特有の症状ではないと思いますが、製品版ではより安定した接続ができることを希望します。
※後日別のテストでは問題なくハンドグリップとモーターは接続できました。
まとめ
近年さらに活況を見せる動画制作市場において、TILTAのNUCLEUSシリーズはかなり初期からワイヤレスフォローフォーカスの入門機として業界を牽引してきた歴史があります。最後にチラッと触れた動作の不安定さなどは過去にも現場で悩まされたことがあるのですが、総合的な感想としては安定性については過去のものに比べるとずっと改善されていると感じました。
また、モーターのトルクやレスポンスの繊細さといった、ワイヤレスフォローフォーカスとして最も重要と言える、基本的な動作の信頼性についても充分な水準が確保されていると思います。モーターの最高速度などには若干及ばない部分がありますが、より高価なメーカーのものと比べても基本性能は遜色ないと感じました。
フォーカスノブの左右取り付けを選べたり、レンズデータを保存しておけるといった機能面の独自性は非常に面白く掘り甲斐のあるガジェット的魅力があるので、レンタルで使うよりはやはり購入して使い込むのが一番NUCLEUS-MIIの良さを活かすことができると思います。もちろん、キャリブレーションしてフォーカスを取るというベーシックな使い方だけでも充分使える機材に仕上がっていますから、まずはレンタルして様子見をしても充分良さは伝わると思います。
この機材を最もお勧めしたいのは一眼から動画制作を踏み出した若手のシネマトグラファー、あるいはワンマンディレクターがオートフォーカスからのステップアップとしての「ファーストFIZ」として最適だと思いました。しかしそれだけではなくすでに一線でARRIやCforceに慣れ親しんだ中堅のフォーカスプラーが「手持ち機材」として手元に持っておく機材としても悪くないと思います。どちらにしてもより高価なハイエンド機と比較しても遜色ない、骨太で信頼性の高いワイヤレスフォローフォーカスだと感じました。
◉TILTA NUCLEUS-M2
https://tilta.shop/items/67eb071259d7980c70f17afa