2025年3月8日(土)、東京・原宿 LIFORK HARAJUKUで、本誌主催、富士フイルム協賛のイベント「X CREATIVE CAMP Ⅲ」が開催されました。このイベントは、フルサイズを超えるラージフォーマットセンサーを搭載するGFX100 IIや、積層型センサー搭載のAPS-CモデルX-H2Sを用いてクリエイターが作品を撮り下ろしし、その制作時に感じた各製品の魅力や使いこなすためのテクニックを解説するものです。3回目となる今回は、GFX100 IIでショートドキュメンタリーを制作した岸 健太朗さん&カラリスト/DIT・星子駿光さん、X-H2Sでウェディングムービーを制作した榎本 駿さん(シネマティックデイズ)とモデレーターを務めた映像ディレクター・曽根隼人さんが登壇しました。この記事では榎本 駿さんのセミナーの模様をレポートします。
取材・文●NUMAKURA Arihito
構成●編集部 萩原
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榎本 駿(えのもと しゅん)※写真(右)
1993年4月6日東京生まれ。駿河台大学メディア情報学部を卒業後ビデオグラファー/ディレクターとしてシネマティックデイズへ入社。ベトナム・ダナンにて映像制作講師も担当。シネマティックデイズWEB
曽根隼人(そねはやと)※写真(左)
BABEL LABEL所属 ディレクター / 株式会社Vook顧問 TVドラマ「憑きそい 」「インフォーマ」「封刃師」「乃木坂シネマズ〜STORY of 46〜」を監督。 無印良品のパリでのプロモーション映像”TOKYO PEN PIXEL”では世界三大広告祭の一つ「ONE SHOW」や、アジア最大の広告祭「ADFEST」、「SPIKES ASIA」をはじめ多くの賞を受賞。大村市のPR動画”大村市なんて大嫌い”では、「福岡広告協会賞」「ぐろ~かるCM大賞2019」で受賞した。 全国にクリエイティブな映像を伝える番組、NHK Eテレ「テクネ 映像の教室」「うたテクネ」では、プロデューサーとして参加。 X / WEB
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榎本 駿さんがX-H2Sで制作したウエディング撮って出しエンドロール
結婚式の支度からから撮影・編集を行い、閉会の間際にエンドロールとして会場で上映する「撮って出しエンドロール」。新郎新婦の一生の思い出となる大切な時間になるため、失敗は許されません。映画のような美しい映像で定評のあるウエディングムービー制作会社Cinematic Daysの榎本 駿さんにX-H2Sでフィルムシミュレーション(主にクラシックネガ・メイクシーンのみクラシッククローム+ブラックミスト)を使用して制作いただいた作品です。
使用カメラ:富士フイルムX-H2S 使用レンズ:XF8-16mmF2.8 R LM WR 、XF16-55mmF2.8mm R LM WR II、XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR その他使用機材:Zhiyun Weebill 3S、ケンコーBlackMist 0.5
監督・撮影・編集:榎本 駿
「ブライダル撮って出しエンドロール」とは
榎本:僕は大学で映像を学んでいたので、それを仕事にしたいと今も所属しているCinematic Daysにビデオグラファー/ディレクターとして入社しました。1993年4月生まれなので、ちょうど10年経ったところですね。会社の事業として、ベトナム・ダナンで映像制作の講師をしていたりもしますが、今でも結婚式の現場で映像を作り続けています。
曽根:これまでに何本ぐらいブライダル映像を作りましたか?
榎本:毎週土日祝は撮っているので、10年間で1,000本ぐらい作ったと思います。
曽根:すごい! 今日、紹介してくれる「ブライダル撮って出しエンドロール」とはどのようなものですか?
榎本:名前の通り、結婚式の当日に会場へお伺いして、式と披露宴の様子を撮影・編集して、披露宴の最後に上映する映像を制作するというものです。撮影/ディレクション/編集を全てひとりで行います。スライドには「編集時間は約90分」と書きましたが、並行して撮影を行うため、移動時間などを考慮すると1時間を切ることもあります。

曽根:ここで、実際にX-H2Sで撮影したブライダル撮って出しエンドロールを観ましょう。(上映後)後半のキスシーンで引きの画と別アングルでカットを割ってますが、ワンマンでどうやって撮りましたか? キスを2回もやってもらえないと思うので。
榎本:やってもらえませんね(笑)。撮影機材については後ほど詳しく紹介しますが、寄りと引きなど、異なる画が撮れるようにセッティングしたカメラを2台常に持ちながら撮影しています。キスシーンの場合は、チャペルの入口側に1台のカメラを置きっぱなしにして、僕自身は動きながら撮影することで2アングルを押さえました。


曽根:カメラ固定で撮られた引き画の方はじわりとズームバックもしていますね。
榎本:4K/60pで撮って、Premiere Proによる編集作業で動きを付けました。最終的な上映はHDなので、4K収録しておいて編集ソフトでズームをつけるということもよくやります。X-H2Sは最大4K/120pでの撮影が可能ですが、4K/100pのフレームレートにも対応しているのが素晴らしいと思いました。スロー撮影ではフリッカーに悩まされることもあるのですが、100pでシャッタースピード1/50や1/100などで撮影すればフリッカー対策もできるというのもすばらしいと思いました。
撮影ブライダル映像の撮影は基本的に一発勝負なので失敗が許されません。限られた時間の中で撮影とディレクション、そして編集のことを同時並行で考えながら作っていくということをやり続けることで自分自身の成長につなげることができたと思います。プレッシャーもありますが、撮って出しなので、お客さんが喜んでいる様子を直接見られることがやりがいになっています。あとは僕の性格として、反省することがあっても一度すぐその場で(区切りを)つけちゃうので、次の日は気持ちを切り替えて成長につなげていくことができています。自分に合っていて、すごく楽しいです。

曽根:今回の撮影機材を教えてください。
榎本:カメラは、富士フイルムさんからお借りしたX-H2Sを2台使いました。レンズはいわゆる大三元として、広角の「XF8-16mmF2.8 R LM WR」、標準の「XF16-55mmF2.8mm R LM WR II」、そして望遠の「XF50-140mmF2.8 R LM OIS WR」の3つを使いました。ジンバルは「WEEBILL 3S」を。そして、後ほど詳しく紹介するケンコー・トキナーさんのソフトフィルター「BlackMist No.05」になります。

榎本:ジンバルには小型の三脚を接続してあります。だから、置きっぱなしでも撮れるし、通常は写真(※スライド・右下)のように一脚の要領でお腹に当てた状態で撮っています。この状態で撮る時は、息を止めています(笑)。
曽根:レンズの使い分けについて教えてください。
榎本:基本的には広角レンズを付けています。広角の画は思いきった動きがないと、つまらない画になりがちなのでWEEBILL 3S(ジンバル)を利用して動き回るようにしています。可能なかぎり8mm寄りを使って、ダイナミックさを出すことを心がけています。
曽根:フラワーシャワーを撮る時などはワイドの画角が良さそうですね。
榎本:そうですね。撮影する際の工夫としては、先ほど失敗が許されないと話しましたが、リハーサル時も撮影しています。例えば、指輪交換のリハーサルでは手元のアップを撮っておいて、本番では万が一ミスしてもなんとかなるという状況を作り出すことで、積極的に動けるようにしています。
フィルムシミュレーションモードを利用することで、シネマルックを撮って出しで実現
榎本:今回の撮影に利用したX-H2Sの「フィルムシミュレーションモード」について紹介します。色々なモードがありますが、「クラシックネガ」と「クラシッククローム」のふたつを使いました。基本的にはクラシックネガを使い、新婦さんがメイクをするシーンだけ、クラシッククロームを使い、さらにケンコー・トキナーさんの「BlackMist No.05」を併用しました。

榎本:クラシックネガを選んだ理由は、僕が好きなルックだったからです(笑)。
曽根:すごく大事。
榎本:これが一番カッコいいと思ったので、全体的にはこれでいこうと決めました。ですが、やはり花嫁さんは綺麗に撮ってあげたい。そこで、メイクのシーンだけはクラシッククロームで、さらにBlackMistも利用することにしました。

榎本:フィルムシミュレーションモードで気に入ったのは、画質設定でさらにカスタマイズできることです。今回は確か、カラーをマイナス2、トーンカーブもマイナス1に変更しました。

曽根:撮って出しの現場だとカラーグレーディングする時間もないし、編集作業でLUTを当て直すとレンダリング時間が増えてしまいますよね。
榎本:その通りです。すごく時間がないし、失敗も許されません。手早くカッコいいルックが再現できるフィルムシミュレーションモードは、ブライダル映像にすごく合っていると思いました。僕はそれほど入り込めていませんが、WEBには色々なレシピが公開されているので、それらを参考にして自分好みをさらに追求することもできると思います。

榎本:今回チャレンジしたことがもうひとつあります。Frame.ioの「Camera to Cloud」機能を使ってみました。X-H2Sは、この機能に対応しているのでWi-Fi環境下であれば、Camera to Cloudを有効にするだけで、撮り終えるとすぐにクラウド上に素材がアップされるようになります。

榎本:実演しますね。X-H2Sの設定から「Camera to Cloud」を有効にすると接続コードが表示されます。このコードをPremiere Pro側のFrame.io側で入力するだけで利用できます。




榎本:ネットワーク回線はどんどん高速になっていくはずです。今日、僕の話を聞いて無茶な仕事をしていると思われたかもしれませんが(笑)、Camera to Cloudを利用することで僕は撮影とディレクションに専念して、編集作業は別のスタッフがリモートワークで担当するといった未来が来るかもしれないと思いました。

榎本:今回使ってみて、XF16-55mmF2.8 R LM WR IIはすごく良いレンズだと思いました。小さくて軽いのに、すごく表情豊かな画が撮れました。僕はカメラ機材を2セット持ち歩くので、X-H2Sのコンパクトなボディサイズもすごく便利でした。
●X-H2Sの製品情報