8人組ボーイズグループONE OR EIGHTがリリースした『Young & Reckless』のMVは、“Like a kid”(あの頃のように)をコンセプトとした楽曲のイメージを、OSRIN監督(PERIMETRON)独自の表現により映像化されたことで話題を呼んだ。本作において、VFXスーパーバイザー兼オンラインエディターを務めた堀江友則さん、VFXを担当したThisManの石野 雄さん、齊藤 篤さんに監督とのやり取りやMV制作の裏側について語ってもらった。



『Young & Reckless』MV




VFXのワークフロー

——まず、MV制作において、担当した部分とワークフローについて教えていただけますか?

堀江 XORの堀江です。本件では、オンライン編集やフィニッシングを含むVFX全般を担当しました。例えば、アーティストのお肌直しからCGを馴染ませるコンポジットなど、とにかく最終的な形にしていくポジションになります。

齊藤 ThisManの齊藤と申します。基本的にはCG周りを担当していて、デザインやモデリング、画作り的な部分をメインでやっています。

石野 ThisManの石野と言います。同じくCG周りで、特にアニメーションやマッチムーブを担当していました。

齊藤 ちなみに、今回は僕たちThisManともう1社別のCG会社が入っていたため、そちらと分担しての作業でした。

堀江 そうですね。それらのCGを最後に私のところへ集約するというフローになります。CGというのはジェネレーティブではありますが、写実的な表現になってくるとどうしても追い切れない部分があるため、馴染ませや素材足しなど、ディレクターと一緒にセッションしながらやっていくのがフィニッシングやオンライン編集の作業になります。クリエイティブの方々とは協力しつつ、フォアグラウンドとバックグラウンドでお話しをしながら、最後の最後までともに画作りをしていきました。

——今回のように、別のCGチームと分担して制作することは多くあるんでしょうか?

堀江 バジェットや仕事の規模でどのくらいのチームが参加するかが変わるのですが、比較的CGの分量が少ない場合はCG会社1社でやることが多いです。

本件の場合はボリュームがかなり多く、制作期間も1カ月程度しかなかったこともあり、根幹のガッツリと詰めたい部分はThisManが担当して、蝿や炎などの細かいCG部分は別のCG会社が担当するという振り分けでした。規模が大きい案件の場合は、このようなワークフローになりがちかなと思います。



監督のイメージをVFXで表現する

——普段どのようなソフトを使用して制作をされていますか。

石野 ThisManでは基本的に3ds MAXを使って制作しています。我々が使いやすいという理由からですが、プラグインが豊富にあるので割とどんな案件でも新しくシステムを組まずに作れるのがMAXの強みです。

堀江 VFXのフィニッシングマシンとしては、基本的にAutodesk Flameを使用しています。安定性が極めて高く、工数のかかるコンポジットでも難なくこなせるので、国内のMVや、特にCMではAutodesk Flame以外には考えられないという状況なんじゃないかなと。また、内容によってはPremiere、After Effectsはもちろん、DaVinci ResolveやBlenderなども使います。最近だと、煙や炎などの素材を持ち合わせていないときや、簡易的なモデリングにAIを使用することもあります。

——OSRIN監督とはどのようなコミュニケーションを取りましたか?

齊藤 監督とは付き合いも長いので、間に人を介さず直接連絡を取り合いながら「こういうのがいい」といったやり取りを重ねていきました。

堀江 私も別件でOSRIN監督と常に一緒に動いている状況だったので、作業の合間合間で「こういうものを撮りたい」「こういうのはできるかな?」と言った話を彼が持ってきてくれて。ただ、コンテを描くまでは具体的な話はしたくなかったようで、あえて抽象的な話に留めることで、イメージを変に固めてしまわないようにしている印象でした。だから、ざっくりとしたイメージは持ちつつ、撮影に向けて少しずつ解像度が上がっていき、撮る直前くらいに完全なイメージができあがるという流れでした。

CGの場合はそこからさらに考えるのりしろがあるので、本来であれば撮影前にCGが全て決まっているのがセオリーなんです。ただ、このチームの場合は撮ってからも形を変えていくという極めて特殊な形なんですよ。ライティングなども環境や背景が決まっていれば事前に照明を作れるケースもあるんですが、我々の考え方としては馴染ませるだけというわけにはいかないので、より特異的になってしまうんです。セオリーではない形を常に意識しているし、誰も見たことのないものを目指したいというマインドがあります。そういった意味では良くも悪くも最後まで迷うし、ギリギリまで悩み苦しみました。



MVの最初と最後のシーンに出てくる金魚鉢の金魚。「実はこの金魚鉢のカット以外の、最後のシーンにも飛び出た金魚が写っているんです。かなり細かいこだわりなので、もしかしたら、初見では分からないかもしれません」(石野)




Flameを使用したCGのフィニシング

FlameにてオブジェクトごとCG作成を行なったと語る堀江さん。ひとつのアプリでワンストップ作業する事により、クオリティアップと時間の削減を実現している。OSRIN監督のイメージを聞きつつ、質感を与えつつシンメトリーに敢えてしない処理をほどこしている。




完成した虹色の眼球がぐるぐると回るシーン




モチーフとルックについて

——本作でOSRIN監督が目指していたものやモチーフなどはありましたか?

齊藤 OSRIN監督は最初から「大人が考える子どもらしさではなく、子どもが考える格好良さを出したい」と何度も言っていました。「子どもってこういうの好きだよね」という押し付けではなく、あくまで子どもたちが想像する格好良さを表現したいと。ただ、いざ作り始めるとこれがなかなか難しくて。

堀江 本当に難しい仕事ではありました。だから、最初にThisManが出してくれた案からもかなり変更があったんですよね。撮影後に出したCGイメージをOSRIN監督に見せたら「ちょっと、こっちじゃないかもな」という話になって、大幅なトーンチェンジをしたんです。ただ、元々明確に目指していた形があったわけではなく、「この状況の中のベストな空間を作ろう」という朧げなテーマではあったので、そこから紆余曲折を経て最終的な本作のルックになっていきました。なので、ThisManも今回はかなり苦労したんじゃないですか?

齊藤 胃に穴が開きまくりました(笑)。

——本作のルックにおいて、特に意識した点はありますか?

堀江 昔の映像をシミュレート的に試みたり、色の滲みを甘くしたりなど、フィルムでは難しいビデオ特有の硬さを再現するというのが、OSRIN監督とやる際の毎回のテーマです。フィルムルックにしたいというよりはいいとこ取りをしていて、独特の匂いになるよう意識しています。もちろん、RGBの数値やエッジの出方といったマニアックな部分は必ず詰めているし、ロジックはいくらでも語れるんですが、結局のところ視聴者が見て「いいね」と思えることが大事なので、毎回そこに辿り着ければいいなと思いながら作っています。

あとは、直感的に“いい違和感がある”ところを狙っています。例えば、「フィルムっぽくしたい」「VHSっぽくしたい」という際に、プラグインを使うとどうしても限界があるというか、プリセット感が出てしまうんですよね。皆が使っているからこそ見たことのあるルックにしかならないので、あまり好きじゃなくて。だったら、自分でアーキテクチャを理解して最初から組むほうが好きなんです。そうすることでノードで自分らしさを表現できるし、既視感も薄れるので、独特なルックにも繋がっていくのかなと信じてやっています。



子どもが考えるかっこいいものとしてMVに登場したアートワーク




自由な遊びと細かな調整から生まれる最高のMV

——制作にあたり、特にこだわった点、苦労した点があれば教えてください。

石野 細かい部分はいろいろと作り込んでいて、具体的に「これを作ってほしい」という希望がなかったので、指定された部分以外はかなり自由に遊べるというのもやりがいでした。元々、ThisManのアドリブじみたところをOSRIN監督が気に入ってくれて仕事をしているので、逆に監督の中にすでにあるものを出してもOKは出ないんです。

齊藤 OSRIN監督の作品は、届けたい先が身内や業界ではなく、100%ファンに向けているものだと感じているので、CGがどうこうというよりは作品を見たファンの人たちが喜んでくれるならそれで100点というか。技術的なこだわりよりも、ファンの方々が「このMV最高!」とコメントで書いてくれるのが一番うれしいですね。

堀江 苦労した点で言うと、先の大幅な変更によって背景が明るめから暗めにシフトしたときですかね。残り2週間ほどしか期間がない中、ThisManともう1社のパートを合わせて数十ショットに及ぶ調整が必要だったので、時間的な部分も含めてかなり苦戦しました。

その他にも節目節目のシーンチェンジで没入感を増すようなエフェクトを入れたり、監督の提案によって偶発的にできたものもあったりと、本当に納品直前まで粘って作った映像になっています。

CGはどうしても硬くなりがちなので、各キャラクターのエッジにちょっとした色やフリンジを乗せたり、写実的なものとどこまで馴染ませられるかなどを常に意識しています。限られた時間の中でルールを決めて、細かな調整を全ショットに反映させているからこそ、感情が動かされるような作品が生まれるし、ONE OR EIGHTが持つ普通のアイドルではない、独特なテンション感が滲み出ている作品に仕上がったと思っています。



MVの世界観をつくるトーン

OSRIN監督と共に、今回に向けたルックを時間をかけて詰めて行いました。単純に画をボカしてもトーンとして良くならないので、様々な処理を積み重ねています。プラグインや自動処理的なものは、他の作品との類似感の第一歩と考えており、極力使わないように心掛けています。特にCGは画が無機質になりがちなので、写実的になるように情報量が増えて見える様に処理して行きます。独特のルックを作るために、一旦叩き台を私が作りつつ、その上で監督の目指したい方向を更に詳細に聞きながら、念入りにカット毎、シーン毎に調整を重ねて行き、CG、実写両者が共存しても違和感がなくかつ個性を持たせられるところを、数日かけながら納品ギリギリの時間まで共に模索しました。(堀江)



Before

After




Before

After