第3回上映 まるやまもえる監督作品 『nuance』


 第3回上映は、まるやまもえる監督作品の『nuance(ニュアンス)』。まるやま監督はビデオディレクターとして長い経歴を持つ傍ら、デジタル一眼ムービー登場後は「bluesniff 」の名前でYouTubeで作品を発表。その独特な映像美に魅了された、たくさんのファンを獲得。現在は「moerumaruyama」名義のチャンネルも開設し、新たな挑戦を続けている。
 今回、まるやま監督が挑戦したのは朗読ムービー。詩人・中原中也の代表作「汚れつちまつた悲しみに……」を題材に映像化。もちろん詩を朗読するのは藤沢玲花。制作スタイルはプロモーションビデオと同様の手順を踏み、朗読音声だけを先に録音。リップシンクをとるところでは、先撮りした朗読音声を現場で流し、口の動きを合わせながらの撮影となった。
 監督の強いこだわりで、屋外にグリーンバックを持ち込み、二人の玲花の合成にチャレンジ。自然の光源の中でどんな合成が可能なのか? そよ風になびく髪は大丈夫か? 不安はあったのものの見事に成功。その出来栄えは、実際に作品を観て確認してほしい。上映時間になりました!


『nuance』



あらすじ
詩人・中原中也の作品「汚れつちまつた悲しみに……」の朗読ムービー。「汚れつちまつた悲しみに/今日も小雪の降りかかる/汚れちつまつた悲しみに/今日も風さへ吹きすぎる」まるやまルックが独自の世界へ誘う。●カメラ:キヤノンEOS 5D Mark II / ●編集:Final Cut Pro 7 / ●上映時間:5分08秒
監督/撮影/編集●まるやまもえる
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▲ビデオディレクター。独自の映像美を確立。早朝や夕方、曇天など低照度下の撮影を好む。今回のロケでは「曇り待ち」でかなり中断。
主演●藤沢玲花
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▲今回は朗読にも挑戦。有名な作品だけに、難しい役どころだ。珍しく前髪を上げた髪型は監督の衣装イメージに合わせるため。注目!
藤沢玲花さんの公式HP(ジェイライブ)

制作後記 / まるやまもえる


 映像作品が表現できるものには大きく分けて「情報」と「印象」の2つの要素があると思う。大雑把にいえば報道モノは前者の占める割合が高いし、PVなどは後者が強い。
 ぼくは、個人的な感想として、デジタル一眼ムービーは「印象」の表現に適性があると感じている。いつ、どこで、誰が……といった情報伝達よりも、「こんな雰囲気」を表すための道具。ある感情を共有するための手段。つまりは詩的な表現に向いている。
 そこで今回は、いっそのこと「詩」そのものをモチーフにしたショートムービーをつくってみることにした。作品の中心には、藤沢玲花の朗読による「汚れつちまつた悲しみに……」を据えた。詩的世界を描くのに有名な詩をもってくるというのはいかにも安易と思われそうだが、藤沢玲花という若い女優の声を通して味わう中原中也には独特の味わいがあり、魅力的だ。
 撮影地は、東京の多摩川べり。多摩川というと東京の人はグラウンドやサイクリングコースなど整地された河川敷というイメージを持っていると思うが、丹念に探してみると所々に不思議な自然の風景がいくつもある。撮りあがった映像を観ていただければ、多摩川の景色が、まるでどこか異国の水辺のように感じていただけることだろう。このように海辺、川辺、沼のほとりといった水際の、なるべくひっそりとしたマイナーな場所には、往々にして魅力的な撮影スポットが隠れているものだ。
 なにか強烈なメッセージがあるわけではない。ある風景を前にしたときの感情の揺らぎ、色彩から漂う空気感、聞こえてくる声の微かな震え。そうした様々な質感を通して、観る人と微妙な「印象」を分かち合いたい。その意味で、タイトルを「nuance =ニュアンス」とした。こうした表現方法は、映画などより写真集に近いと思う。
 デジタル一眼ムービーの登場は、映像の世界にこれまでと比べて格段に幅の広い表現のフィールドを与えてくれた。